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上原くんの一日 安全な日編 sage 2009/03/24(火) 20:51:28 ID:JEHRDZH9
「あ~つっかれた~」
授業も半分終わり、昼休みに入る。半日勉強でフル活用した脳みそをリフレッシュだ!
ってのは一般人のすることだ。俺の場合は…
「兄さん!お弁当持って来ましたよ!一緒に食べましょう!」
クラスメイトが…というよりクラスの男子が一斉に教室の入口へと視線を移す。
そこには我が妹が…昼休みのコイツの扱いは授業より疲れるぜ。授業寝てるし。
「毎日毎日ご苦労なこって…朝俺に渡してくれればいいのに」
「いえいえ、兄さんが持たなくてもいいような荷物は私が持ちますよ」
毎日こんな感じだ。普通自分の弁当位自分で持つもんだろjk。
「まぁいいや、とっとと場所を移すぞ」
「ハイ、そうですね」
前に食堂へ行ったヤツの机を無断で借りて教室で食ってたらクラスの連中から質問攻めに会うわ、夏海を紹介してくれとか言ってくる鬱陶しい連中が沸いてきたのでいつも屋上で食ってる。
雨が降ってる日はテキトーに空いてる教室を無断拝借だがな。
っとまぁ屋上に来たわけだ。今日は雲ひとつ出てない見事な快晴ため、屋上で弁当を食べるのにはもってこいの日和である。
難点といえば少々風が強いってのがあるが、さほど気にはならない程度のものだ。
目を正面にやると先客が一人。
わざわざカラフルなビニールシートを広げて俺たちを待っていた。
「ヤッホー!和君~もう待ちくたびれたよ~」
まぁ言わずもがなメグである。
「じゃあクラスの友達と食えよ友達と…」
「そうですよ。でないと友達いなくなってしまいますよ?」
そう思うならお前もクラスで食えよ。俺のツレがいなくなるだろうが。
「え~だって和君が一番私と仲いいもん!もう恋人以上夫婦未満の関係?」
「何時から俺たちはそんな関係になった!まだつきあってもねーだろうが!」
「ふ~ん…"まだ"ね~じゃあいつかは付き合ってくれるのかな?かな?」
「"まだ"もなにも言葉のあやって奴ですよ巡さん。お勉強だけ出来てもそんな簡単なことも解らないようじゃダメダメですよ」
妹がくろ~い笑顔を振り向きながら何やらドキツイ事をメグに向けて言い放った。
そしてお互い笑顔のまま向き合ってる。勿論のこと眼は笑っていない。
「ったく…夏海、お前もこのくらいの冗談くらい解らないとダメダメだぞ?」
「ッ!?…そうですね」
そういうと夏海はようやく普通の笑顔を見せた。
「とっとと飯にするぞ。馬鹿なこと話してて次の授業に遅刻とかいったらカッコ悪いからな」
「んっ!?兄さんはいつでもかっこいいですよ」
「いいからとっとと弁当をよこせ」
「ハイ!」
そういうと夏海は鞄から大きめのビニールシートを取り出し、床に敷いた。
俺たちはそこに腰を下ろし、俺は夏海から弁当を受け取った。
「……さっきの事、別に冗談じゃないんだけどなー」
メグがなにかを言った気がしたが、ちょうど吹いてきた風にかき消され、なにを言ったのかよく聞き取れなかった。
19 上原くんの一日 安全な日編 sage 2009/03/24(火) 20:52:42 ID:JEHRDZH9
スパーン!パ――ン!!!
キャッチャーミットから気持ちのいい乾いた音が鳴る。今は放課後。俺のような健全なスポーツマン、スポーツウーマンは部活動に励む時間だ。
そんな俺は野球部。1年生の時からベンチに入り、2年になってエースも任されたりしてる。
公式戦で結構いい成績を残したことがあり、球速が調子が良ければ150キロを超える事があるせいか、たまにプロのスカウトの方が訪ねてきたりすることだってある。
っとここまでくれば普通に考えれば俺ってモテモテって感じがするじゃん?64時代の某野球ゲーム的に考えて。
でも俺は女の子にモテたとかそういうのが全くない。しいて言うならウチの部活のマネージャーに言い寄られるとかいうのがあるが、そのマネージャーってのはメグなのでそんなモンはノーカンだ。
「ふぅ…」
「ん?ちょっと休憩入れるか?」
「そーする」
っとまぁさっきから50球程度投げ込んでいる。ためちょいと疲労が来た。
たくさん投げて練習するってのもいいが、適度に休憩を取りながら練習するほうが効率が良い。
そんな感じでベンチに戻ろうとすると俺に二人の女の子が駆け寄ってくる。
「ハイ!和君、タオル」
「兄さん!こっちのタオルをどうぞ!」
うん、メグだけじゃなくて夏海もマネージャーやってんだ…。
で、毎回練習が終わるたびに二人が俺のほうへ駆けてくる。
「ありがと、でもキムにもタオル持ってきてやれよな」
「「キムくん(さん)はどーでもいいよ(です)」」
毎回これである。キム、涙拭けよ。
俺とコンビを組んでるキムとは昔夏海をいじめていた金と同一人物。小学校でばったり再会して以来の付き合いだ。
因みに初めて会った時、全てを忘れていた俺に対していきなり喧嘩を売ってきたが、余裕で返り討ちにした記憶がある。…あん時は5人くらいで襲いかかってきたっけ?
そんでもって小学校の時からずっとバッテリーを組んでるため皆からはまんまゴールデンバッテリーとか言われている。
「まぁいいや、夏海ドリンクある?」
「ハイ!ちゃんと持ってきてますよ!」
そういうと夏海は持ってきたタオルの中からペットボトルをとりだし、俺に渡した。
「サンキュ!」
ペットボトルを受け取るとキャップを開けてチビチビ飲みだす。
ここで一気飲みのほうが漢らしいとか言うやつもたまにいるが、少しずつ飲むほうが体に吸収されやすいのだ。
因みにこのスポーツドリンクは夏海手作りの特別製。とにかく美味い。甘すぎず、でも味が薄いわけでもない最高の一品だが、原料を聞いてもさっぱり教えてくれない。
まぁうまいしいいや。
それと涙眼でベンチに戻ったキムはスポーツドリンクを一気飲み。因みに市販のスポーツドリンクをそのまま飲むのはあまりオススメしない。
美味しさを重視しているせいか、甘くしすぎているため、そのままだと糖分が多すぎるのだ。だから半分くらい水で薄めて飲むのがベストだ。…まぁ全部夏海の受け入りなんだけど。
「ねぇねぇ和君。いつも夏海ちゃんが作ったの飲んでるけどおいしいの?」
休憩してたらそんな事をメグが聞いてきた。
「ん。飲んでみ?」
そういって俺はメグにペットボトルを差し出した。
手に持ってすぐに飲み始める…そんなに焦らなくてもいいのに…。
「ダメーーーーーーーー!!!!!」
そんな事を考えてたら耳元から甲高い声が聞こえた。…どう考えても夏海だ。
なんか怒ってるけどどないしたねん。
「ケチんなよ…いいだろ?少しくらい」
「よくありません!それにスポーツドリンクを飲まれた事なんかどうでもいいですよ」
「よく解らんが落ち着け…な?」
そう言って俺は夏海をなだめる。ったくいつもは冷静だってのにメグといる時だけは感情の突起が激しいんだよな。
「ん。夏海ちゃん怒ってるし、返すね」
そう言って俺にペットボトルを返す。
「どうよ?」
「おいしかったよ。それより……これって間接キスだよね?和君」
「ハイハイ、そんな中学生みたいなこと言わないでいいから」
やれやれ、どっかで見た漫画かなんかに影響でもされてんのかねぇ?
今更間接キス気にするとかねーよ。
「んじゃそろそろ練習に戻るわ」
「うん!頑張ってね和君。」
そう言って見送るメグを尻目に俺はグラウンドへと向かって行った。
20 上原くんの一日 安全な日編 sage 2009/03/24(火) 20:53:18 ID:JEHRDZH9
さて、部活も終わり、帰る時間だ。
今の時間は6時半くらい。正直他校と比べて練習時間は短いと思う。
とまぁそんな事情は置いといて帰宅。
メンツは俺と夏海とメグの三人だ。
大昔にキムが仲間に入れて欲しそうにこっちを見ていたが夏海とメグに睨まれてた。どこまでも可哀そうな奴め。
で、帰るのはいいが…
「なぁ、いい加減機嫌直せよ夏海」
っとまぁさっきからそんな感じで機嫌が悪い。
そんなにメグにスポーツドリンクを飲まれたくなかったか。
コイツらほんと仲悪すぎだろ。
「ったく…いつも大人びてるクセに変なトコだけ子供だな」
「しょうがないよ。夏海ちゃんは私の"大人の魅力"ってのに嫉妬してるんだから」
スポーツドリンク飲んだだけなのに大人の魅力はまったくカンケーないだろjk。
つか年も一個しか変わらん。
ったく仕方がない。
「よっと…」
俺は左手で夏海の腰を持ち、倒れかかった背中を右手で支えて夏海を持ち上げた。
いわゆるお姫様だっこである。
両手が完璧に空くのはスポーツバッグ最大のメリットだ。
これには流石の夏海さんも驚いたようだ。
「ほ~ら恥ずかしいだろ?早く機嫌を直さねーとおろさねーぞ」
ニカニカしながら夏海に告げる。普通の女子高生ならこんな事を自分の兄貴にやられたら恥ずかしさで死にたくなるはずだ。
ほ~ら顔が赤くなってきた。
「あ~いいなぁ夏海ちゃん。ねぇカ~ズくぅ~ん私もお姫様だっこしてよ」
己は黙ってろ。因みにメグはかなり男子から人気がある。
幼馴染だってこと抜きにしても顔は十分可愛い。というか可愛いと美人を足して2で割ったような大人と子供の中間って感じだ。
大人の魅力を出しつつ子供のようなあどけなさも残ってるってやつだ。
んで性格はこのように明るく、誰とでも話すから人受けもよい。
まぁさすがに男子に俺と同じような態度は取らないけどな。
そんなため、俺はコイツとの仲を持つようにと言われることも多々ある。
そんなヤツに俺がお姫様だっことか明日からいじめの対象になるがな。
とまぁそんなアイドルは放置して妹の反応を待った。
「…じゃあ家に帰るまで機嫌直しません。」
なんでやねん。
しかし、俺も男の子。言ってしまったからには意地ってもんがある。
「ったく、明日クラスの連中に何言われても知らねーからな」
不機嫌を演技してるのだろうか返事はなかったが、俺の腕の中の夏海はどこか幸せそうな顔をしていた。
「ねーねー和君。明日は私の番ね。」
「思いからヤダ」
「んな!レディに向かって失礼な!」
俺らは陽が今にも沈むかと言うような帰り道を笑いながら帰って行った。
21 上原くんの一日 安全な日編 sage 2009/03/24(火) 20:55:17 ID:JEHRDZH9
家に帰ってきてから30分くらいたった。
今はリビングで晩御飯のハンバーグを食べてる。
テーブルの上には大きなハンバーグの横に副菜で厚切りポテトとニンジンが。
それとどんぶりに山盛りになった御飯に、キャベツなどをベースに色々な野菜の入ったサラダがある。
俺が食べたい物+栄養素 という食のコンボを高校1年生にて実現させる夏海は凄すぎる。
つかこれを帰ってきて30分で作り上げるとか魔法使いじゃねーのか?
「スミマセン、遅くなってしまって」
「寧ろ早すぎるわ。いつも思うんだけどお前スゲーよな。」
「そんなに褒めないで下さいよ。…それに仕込だって昨日の晩のうちにやってしまっててあんまりすることもありませんですから」
「それでも十分スゲーよ。お前を嫁にした奴はよほどの事がない限り幸せになるよ。」
飯はうまいし、量は多いしすぐ出来るしで最高だ。
「お嫁さんには行きませんよ」
「え?」
なんかずいぶんはっきりした声が聞こえてきた。
「私、ずっと兄さんと一緒にいますからお嫁さんには行きません。」
はっきりと、そして、俺に訴えかけるように強く。
「ずっと俺とって…まっそのうちわかるか…」
まぁ今は好きな人がいないってだけだろう。
俺に仲介役を頼んだ連中なんて悪いが夏海と釣り合うとか思わなかったし、実際ロクに相手にもされなかったらしい。
きっと本気の恋ってやつをすれば変わるはずだ。…まぁ俺もまだそういう恋はしたことないけど。
そんなこんなで飯を食い終わった。特に見たいテレビはなかったため、いつも通りナイターをつけてる。
最近の番組はクイズ番組ばっかりで正直面白くない。
とある番組でおバカキャラが流行り、ブームを巻き起こしたが、そのブームの流れに飛び込もうと別の番組でもおバカを売りにしている俳優を呼び出して似たようなクイズを展開しているのは見苦しかった。オリジナリティに欠けすぎ。
ポケモンが大ブレークしたからって似たようなコンセプトのゲームが出まくった小学校の時を思い出した。でも、メダロットは好きだったよ。
「兄さん。お風呂わきましたよー」
っと兎さんチームが虎さんチーム相手にホームランをうった所で夏海が俺に言った。
「あいよー。すぐに入るわ」
「お背中流しますね」
「高校生にもなってそんな冗談は笑えないぞ」
この間、風呂に入ってたら普通にタオルも巻かずに入ってきたから困る。
釘をさしておかないとまた入って来そうだ。
「別に冗談じゃないんですけど…」
聞こえないふりをして俺は風呂場へと向かった。
「風呂あいたぞー」
俺は黒いTシャツにジャージというラフな格好で夏海の部屋へと向かった。
軽くノックをし、ドアノブを開ける。
「あっ兄さん。今から入りますね。」
「うん。まぁ今日は眠いから先寝るな」
「あっちょっと待ってください!じゃあ疲れを残さないためにマッサージしてあげますよ」
「マジで?じゃあお願い」
「じゃあ兄さんの部屋へ行きましょう」
そう言って俺の部屋へ向かった自分の妹の事だが夏海は本当によくできた妹だと思う。
俺もなんか恩返ししてやらないとバチがあたりそうだ。つかいい加減妹離れしないと将来やばい気が…。
「じゃあベットにうつ伏せで寝転がってくださいね」
「あぁ」
そう言って俺は夏海に背中を向けるように寝ころんだ。
夏海のマッサージはうちの部員の誰と比べても一番うまい。力は無いのだが、要所要所の力加減がうまい。
スポーツドリンクといい、飯の栄養バランスといい、このマッサージといい、夏海は俺のためにスポーツ医学を勉強してくれてるんだろうな。
「ここ気持ちいいですか?」
「うん、最高~きもちい~」
「あっ眠たかったらそのまま寝ちゃっていいですよ。」
「うん。そうする。」
夏海のマッサージを受けながら俺の意識はだんだんと無くなって行った。
こうして俺の一日が終わる。
最終更新:2009年03月29日 21:37