117 わたぬきのひ、あざむかれて (1/4) ◆6AvI.Mne7c sage 2009/04/01(水) 00:47:04 ID:5NrxqyhD
「ねえ弟。私はあんたのことが、大っ嫌いなのよ」
突然こんなことを言われたら、俺はどうすればいいのだろうか。
時計の針が3本とも頂点に達した瞬間、俺の目の前にいた姉貴がそう言った。
自慢じゃないが、俺の姉貴は結構な美人で、豊かな才能の持ち主だ。
だがなぜだか、姉貴はいつも俺に冷たく当たる。俺が何をした?
そのくせ、いつも俺の部屋に入り浸るんだから、納得いかねぇ。
結論、俺の姉貴はツンデレ(但しツン9割)だ。そう思っていた。
そう思っていた――その結果がこれだよ!
「あんたはだらしないから、面倒を見ることが面倒くさい」
「あんたを見てたって、私はなんにも感じないのよ」
「あんたがいなくなると、私はなんでもできそうだわ」
何も返せずに黙っていると、なにやら酷いことばっかり言われている。
だから俺が何をしたよ。ああもうイライラしてきた。
一言ぐらい言い返さないと、俺の立場がなくなるっての。
「俺だって、姉貴のことは、大っ嫌いだよ!
いつも俺の部屋に来るのは、うっとうしいし!
俺の視界に入ってこられると、迷惑だしさあ!
姉貴がいないほうが、恋人も作れるだろうしな!?」
一息に捲くし立てる。ああ、顔が赤い。
あんまりこんなことを、姉貴に向かって言ったことないしな。
まあ恋人に関しては、姉貴がいないほうが、ってのは合っている。
姉貴が美人なせいか、俺はいまいち女子に近づいて来てもらえない。
むしろこっちが近づくと、なんでかみんな少し引き気味になる。
………言っとくけど、俺が極端に不細工とか、ウザイという訳ではない。
どちらかというと、俺は顔だけは姉貴似だ。そう信じている。
「そう……そっかぁ……」
俺が叫んだあと、姉貴が急に黙りこくる。
少々言い過ぎの感があったかな。謝らないと。
そう思って、口を開こうとした瞬間。
俺の身体は宙を舞い、なぜかベッドの上に仰向けに倒れこんだ。
「アレ? なんで俺、ベッドに倒れ――」
ベッドの発条に跳ね返された勢いで、身体を起こす――ことに失敗。
俺の身体に、なにやら温かい重みが加わり、その場に押さえつけられる。
何事かと、顔をその方向に向けてみようとして――
「ん、んむぅ……」
姉貴の顔が目の前に――いつの間にか、キスされていた。
118 わたぬきのひ、あざむかれて (2/4) ◆6AvI.Mne7c sage 2009/04/01(水) 00:49:40 ID:5NrxqyhD
ああ、姉貴の顔って、近くで見るとこんなに綺麗なんだな。
女の子の香りがするし、髪の毛はサラサラだし、唇も柔らかい。
俺の舌に絡まってくる姉貴の舌も、くすぐったくて気持ちよくて――
「って待てえええええ!? 何しとるか姉貴いぃぃぃぃ!?」
正気に戻って、両腕で姉貴を押しのける。
突き飛ばすのではなく、30センチ程度持ち上げたのは、俺の優しさだ。
実のところ、姉貴を含めて女性を怪我させるのは、いただけないし。
「もう……オアズケだなんて♪ どこで覚えてきたのかしら?」
言いながら唇を舐める姉貴。顔立ちがいいためか、とても艶っぽいです。
「ああ、その……、なんだ。なんで、こんなことしたん?」
対してこちらは、どもってしまってとにかくみっともない。
「んふふ。アンタってばもう、ホントにもう……ねっ♪」
いやいや意味がわからんよ姉貴。説明になってないってば。
「あらあら、なんでキスされたか、理解していないって顔ね。
教えて欲しいのなら、そこのカレンダーを見たらいいわ」
言われて振り向くと、3月と4月の日程が書かれたカレンダーがある。
そして、いつの間にか「4月1日」のところに、赤丸で印がつけてあった。
「あ~っと、そういや今日は、エイプリルフ」
言葉の途中でまた、唇を塞がれる。今度はいきなり舌がもつれ込んできた。
柔らかくて激しくて、もう頭がフットーしちゃいそうだよぉ――
「じゃなくて!! だからキスをする理由はなんだよオイ!?」
もう1回姉貴を引き離し、問いただす。だから唇舐めるな。
「ふぅ……、キスする前の会話を、ちゃんと思い出しなさい。
そこに答えがあるから。じゃあ続きを………それっ♪」
言うと同時に、俺の両手を封じる姉貴。って足も封じられてるし。
それを確認して、3度目のキスに突入してくれやがる姉貴。
そりゃあ姉貴は美人だ。ときどき俺もオカズにしてたりするさ。
だけど、それとこれとは別問題だ。そうだ別問題だ。
大事なコトなので2回考えました。じゃないと姉貴に――
「んちゅ……むぅ………んうぅ…………」
ああもう駄目だ。姉貴に欲情して、勃ててしまった。
しかも姉貴に気づかれた。オマケに姉貴の瞳が、淫靡に輝いた。
「実の姉に興奮するなんてねぇ…………」
そう言って、俺の服を器用に剥がす姉貴。両手足は封じられたままだ。
「じゃあ…………はじめよっか♪」
「あ、あわ、わわ…………やめてえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
――その夜、哀れにも1人の青少年が、1匹の雌豹にいただかれましたとさ。
119 わたぬきのひ、あざむかれて (3/4) ◆6AvI.Mne7c sage 2009/04/01(水) 00:53:31 ID:5NrxqyhD
4月1日の朝。俺は布団の中で、1人目を覚ました。
同時に、とんでもない快感の記憶と、後悔の渦が頭を駆け巡った。
「まあ待て俺。アレは夢だったんだ。そうに違いない……」
そう考えて布団をめくり……もう1度絶望する俺。
布団の中で俺は全裸で、全身が汗や体液でベタベタしている。
オマケに、布団はなにやら湿っていて、所々に白い液と、赤い斑点がある。
「おはようございます、現実。おやすみなさい、淡い希望。
ああああああああああ……もう俺、死にてぇ~~」
向こうから襲ってきたとはいえ、俺は姉貴と繋がっちまった。
しかも向こうは一切悪びれず、限度なしにぶつかってくる始末。
最後はもう、俺から積極的にいってたような気がするからなぁ……。
「姉貴は……大学に行ったのか? たしか授業登録の日だったか。
まあいいか。正直今は、顔合わせらんねぇし……」
いかん、マジで気分が沈んできた。しかも全裸。こんな時に誰かが――
「1人で何をブツブツ喚いてんのよ、そこの馬鹿兄貴。
それよりホラ、コーヒー用意してやったわよ?」
「ってうわぁっ!? なんでオマエがここにいるんだよ!?
つうか何でオマエがモーニングコーヒー用意してんだよ!?」
悩む俺の横に現れたのは、県外の高校に通っているハズの妹だった。
コイツは確か、今年の春は帰省しないって言ってたハズなのだが?
「なあ、なんでオマエが帰って来てんだよ。連絡くらい――」
「別にいいでしょそんなこと。それよりさっさと飲んでよコレ。
冷めたら不味いし、片付かないでしょうが。ホラ早くして」
やっぱりかわいくねぇ。帰省の度にいつもコレだ。
俺のこと嫌いなのか知らないが、いちいち突っかかって来んな。
いくら外見が姉貴みたく綺麗だっつっても、ちっともかわいくねぇよ。
「わかったよもう。わかったからそのコーヒーくれよ。
それと、あまりこの部屋でゆっくりすんなよ。早く――」
「ふぅん。それはこの部屋が性的な意味で臭いから、ってコトなの?
それだったら別にいいよ。もう姉貴から全部聞いてるしさ♪」
「あ、あ、あんのアホ姉貴ィィィィィ!!」
なんつーことをサラリとバラしてやがる! 信じらんねぇ!?
よりにもよってコイツにバラすか普通? 釈明の余地さえねぇぞ!?
「言い訳はしなくていいよ、それだけ時間の無駄だから。
それよりコレ、姉貴から預かってた手紙よ。目が覚めたらって。
そんで、内容は私と一緒に読みなさい、って言ってたわ」
正直なところ、嫌な予感しかしない。
だが、ここでコレを読んでおかないと、また後が怖いし。
「悩まないでよ、私も読めって言われてんだし。
ホラもう開けたよ。そんでさっさと兄貴が読んでよ?」
まったくためらわずに便箋を開いて、手紙を見せてくる妹。
こっちの心の準備くらいさせやがれ、この馬鹿妹が。
120 わたぬきのひ、あざむかれて (4/4) ◆6AvI.Mne7c sage 2009/04/01(水) 00:57:48 ID:5NrxqyhD
『ああ、わが愛しの弟よ。
この手紙を読んでいるということは、もう私は大学に(以下略)
単刀直入に言います。私はあんたを愛しています。
だけど、あんたに面と向かってそれを言えないわ。恥ずかしいもの。
そういうわけで、このエイプリルフールを利用されてもらったわ。
簡単なことよ。いつもあんたに冷たく当たってるように、悪口を言うだけ。
それで怒ったあんたが反撃して、私に「嫌い」とか言ってくるのを待つ。
でもそれはエイプリルフールってことで、今日に限り『嘘』扱いになるの。
つまり、私もあんたもお互いに「好き」と言ったことになる。
まあ、照れ隠しみたいなものね。許してとは言わないわ。
とにかく、私はあんたが好き。大好き。心から愛してる。
この手紙の内容は、『嘘』なんかじゃないから、安心しなさい。
ふふっ♪ 今夜は楽しみにしてて。さっきの2倍は楽しくなるからね♪
あんたを愛する姉貴より』
「……………………読むんじゃなかった」
「ふぅん。姉貴ってば、あんな性格の癖して、いじらしいじゃないの。
こんな乙女心全開の手紙なんて、いまどき誰も書かないのにねえ」
「いやちょっと待て! そんな判断でいいのかこの手紙!?」
つまりこの手紙によると、姉貴が昨日言ったことは、全て逆だったらしい。
「何でもできる」は「何もできなくなる」って感じの変換か……。
どこが乙女だっつーの。紛らわしくてわかりにくいだけじゃないか。
というかさ、最初っから手紙で――書いたら、読んだ俺が逃げてたもんな。
「ああもう馬鹿馬鹿しいなホントに。もう不貞寝したい気分だ。
というわけで、出てってくれよ馬鹿妹。オマエがいると寝られないし」
「いいよ、出てってあげる。兄貴、私はあんたのことが大っ嫌いだからね」
「あっそう。俺だってオマエのことは大っ嫌いだし、別に構わん――」
あれ? ちょっと待て。このパターンはどこかで――
というか、目の前の馬鹿妹の瞳の色が、変わってやがるんですけどコレ。
「兄貴。いつも言ってたけどさ、兄貴ってば本当に、アレだよね♪」
アレとか言うな。というか鼻息荒くして俺に近づくな、怖いから。
「なあ、もしかしなくても、オマエも俺のコト、好きだとか言うのか?」
「ふ、ふふふ、うふふふふふ……女の子の口から、それを言わせるの?
それにあの手紙の『2倍は楽しくなる』の部分に気づかないと、ね♪」
なんてこった。つい数時間前に姉貴に騙されたというのに!
たった今読んだ手紙に種明かしが書いてあったというのに!
また引っかかってしまったのか? あのアホな『嘘トラップ』に!?
「さあ兄貴、覚悟はできてる? もちろん私は…………えいっ♪」
「あ、あわ、わわ…………やめてえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
――その朝、哀れにも1人の青少年が、またも1匹の雌豹にいただかれましたとさ。
― Is a deceived person bad? ―
最終更新:2009年04月05日 21:19