戦場に至る

400 戦場に至る 2 sage 2009/04/23(木) 00:42:56 ID:4iRNRoU6

 私は秘密を知ってしまった。
 
 いつも教室の片隅で本を読んでいるあの子。
 なんでも悲劇的な事故で身寄りを失ってしまい、地元の有名な財閥に養子として引き取られてこの学園に転入することになったとい
う。
 転入してきた当時は、閉鎖的な女学園ということも相まって周囲に人垣を作っていたものだが、見た目通りの大人しさにすぐに人気
は下火になり、今では話題に上ることも少ない地味な子として周囲に馴染んでいる。
 綺麗な黒髪、細い体つき、小さな身長の彼女が窓際で本を読む姿はまさに文学少女といった様子で、優しげな垂れ目を矯めつ眇めつ
本を捲る仕草には妙に愛嬌がある。
 注視しなければわからない程度のその変化を観察するのが、彼女が転校してきて以来の私の楽しみだ。
 しかし少々、内気に過ぎるのではないかと個人的に思う。
 自分から誰かに話しかけているのはあまり見かけず、こちらから話しかけても如才ない態度ですぐに話の流れを切られてしまう。陰
気、ではなく地味と周囲に認識されるのもそのためだろう。
 たしかに転入生というのは色々と難しい立場だ。おまけにお嬢様方の通う学園とあっては目を付けられないよう注意しなくてはなら
ないのかもしれないが……私としてはもっと親しくなりたい。仲良くなりたい。
 
 というのも、私には友人と呼べるような知り合いがこの学園にはいないからだ。
 歴史と風格、実績までもを兼ね備えたこの学園には高いプライドと相応の家柄を兼ね備えた子女達が多く存在するわけだが、他の学
校、中学などと比べてもいい、そんな学園でもご他聞に漏れず派閥というものが存在する。
 私はその派閥に馴染めないタイプというか、違った方向にプライドが高いと言うべきか。どの派閥にも属さない、属せない人間なの
だ。
 私も名家を継ぐ者として、来るべき卒業、女子大進学、社交界での人脈作りの基礎とすべき縁作りを行っているのだが、入学当初、
利害より心情を重視した人間関係を作るのも悪くないのではと思い派閥……ようするに仲良しグループが催すお茶会とやらに参加して
みたことがある。
 しかしそこにいたのは空虚な自慢と他人を貶めることで自分を高い位置に置こうという、プライドだけが成長したお嬢様ばかり。
 その態度に頭に血が上り、ついつい品の無い言葉で一同を罵って会場を後にして以来、もちろん未練なんてないが、行こうとも思っ
ていない。。
 なにしろヤツらときたら、日がな一日、誰某が喧嘩していた、あの子の行動は家柄が知れている、あの教師が気に食わないから辞め
させるだとか、そんな陰険な話しかしていないのだ。
 周囲に愛想笑いを浮かべるばかりの子を侍らせてそんな会話を日々繰り返すのはバカらしい。
 私がほしいのは家柄と自分の評価も区別できない人間ではなく、権力に媚びへつらいご機嫌取りに忙しい形ばかりの友人でもない。
 だが幸いだったのは、入学して間もないころに、良い悪いは別にして目立ったために、そういったくだらない輩からの誘いがなくな
ったことか。
 もちろん、陰湿な嫌がらせもないではないが、程度が知れている。馴れ合い関係に否定的な人脈を作りたい、利害を重視した人間に
は好意的に受け止められたため、感謝してもいいぐらいだ。

 だが、まあ、そうはいっても私は花も恥らう女子学生。親しい友人関係となると、村八分に近い状態からの開始ではうまく行く筈も
ない。
 しかも、どうやら私が暴言を吐いた相手の中に結構な家柄の娘がいたらしい。
 多くの生徒が寮で暮らすこの学園では、多かれ少なかれ家の期待や再興を強く言いつけられて入学してくる。御家の事業に有利な人
間関係の構築然り、傾きかけた家を支える人柱としてのステータスを得ようとする人間然り、関係強化のため、将来仕える人間の付き
添いなんてのもある。
 必要の無い被害を受けまいとすれば当然、私と関わろうという人間も居なくなるのだ。
 私が名家の者として権威を振りかざせばあるいは、だが、それも今回は意味が無いし、私がそんなことしたくない。
 結果として、私は孤立してしまった。最近は、将来の仕事仲間になりそうな、つまり利害関係を結んだ相手との堅苦しい会話がわず
かに心安らぐ一時だ。
 顔には出さないが、もう少し、こう、普通の会話があってもいいのではないかと思う。
 そんなこと言い出せばたちまち切って捨てられる事がわかっているので言わないが。



401 戦場に至る 2 sage 2009/04/23(木) 00:43:34 ID:4iRNRoU6

 つまり、彼女……本を読み終えたらしく、ふうと可愛らしく肩を上下させて立ち上がった彼女は、私の友人を作るとう目的において
 最適の人物なのだ。
 家柄という点でも、無論私と釣り合うなどという下種な意味ではなく、地元を拠点にしているという点で申し分ない。私を敵視する
連中が害を及ぼす心配も無いからだ。
 彼女の家はこの学園を含む広大な土地の所有者であり、実利主義で知られる学園の経営方針に深く関わっているという背景がある。
 ブランドネームを目的に強引な権力や圧力で入学させようという輩を次々と切り捨て、優秀な人材を多く輩出した実績を後ろ盾に、
実に様々な方面に顔が利く。半端に圧力や陰湿な攻撃を掛ければ、どこから反撃がくるかわからないのだ。
 遠方の中流階級であった家庭から養子に引き取られたという彼女がそのことを理解しているのかは怪しいが、周りはそのことを理解
しているらしく、件のお茶会やグループへの誘いは、あっても控えめなものだ。
 家柄や話題性という意味では強引にでも彼女を派閥に引き込みたいのだろうが、当の本人があまり係わり合いになりたくないらしく
、かといって強硬に勧めるわけにもいかず、手付かずの物件として今に至っている。

 数冊の本を抱えて教室を出て行く彼女は、おそらく図書室に向かうのだろう。
 私の知る限り彼女は一日を授業と読書で過ごし、放課後にはいつも図書室で本を返却、新しい本を借りて帰る、というサイクルで過
ごしている。
 借りる本は二冊か三冊で、学園で一冊を読みきっていることからして、家でも読書に励んでいるのだろう。家で読み切れなかった分
を学校で読んでいる、という印象だ。
 私も素早く帰り支度を整えて席を立ち、彼女の後を追う。
 ……私なりに気を使って彼女のことを色々と調べはしたが、まだ親しくなれてはいない。というより、私が一方的に彼女のことを知
っているといった程度でしかない。
 無論、クラスメイトとして当たり障りの無い会話や挨拶は交わすのだが、いかんせん私自身がそういった方面い疎いことと彼女の消
極的な受け答えもあって、距離は一向に縮まらないのだ。
 彼女が放課後の多くを図書室で過ごすことを知り、これで周囲の目も気にせずに話すことができると喜んでいたのだが、なかなか機
会に恵まれなかった。
 あと数ヶ月で現三年生が卒業するため、根回しやらなんやらで最近は特に忙しかったせいもある。
 しかし今日の私には何の予定も無い、まさに絶好の機会というわけだ。

 今日こそは親しくなる、と心に決めて前を歩く小柄な少女の、腰の辺りで揺れる黒髪を眺めながらなんと声を掛けるかを模索する。
 どんな本を読むのか。
 どうして本ばかり読んでいるのか。
 今の家の人は親切にしてくれるか。これはさすがに馴れ馴れしいか。
 以前からのシミュレートどうり、これだという考えが浮かばないまま、あれこれと考えている内に図書室に到着してしまった。
 汗ばんだ手のひらから鞄を逆の腕に持ち替える。扉を静かに開けた彼女の後を追い、その時ふと振り返った彼女の瞳が私を捉えた。
 その目にわずかに驚きが混じっただろうかと思う暇も無く、廊下で見知らぬ他人がすれ違うようにフイと視線をはずして扉の向こう
に消えてしまう。
 いまは、これが彼女と私の距離だ。一時はねた心臓を落ち着かせ、彼女に続いて開けられたままの扉をくぐる。
 古い紙の匂いと完全ではない静寂が妙に心地よい。私自身はあまり利用していないが、寮生活をする身としては試験前によくお世話
になっている。今日も長机には参考書を片手に熱心に机に向かう生徒の姿があった。
 向上心を擽られる光景だが、今日の目的にはあまり関係ないが、彼女と親しくなったらここで一緒に勉強するのも悪くないだろう。
 是が非でも彼女と親しくなりたい。私の熱い視線にはまったく気づかず、彼女は脇に抱えていた本をカウンターに差し出し、図書委
員と一言二言交わすと早々に本棚の隙間に消えてしまった。
 その後を追いながら、再び汗ばんできた手のひらをスカートに押し付ける。とにかく声を掛けよう。まずはそこからだ。
 さっそく腕を伸ばして本を取り出している彼女に歩み寄る。
 目当ての本ではなかったか、単に気が変わったのか、抜きかけた本を戻し、棚の上段の本に手を伸ばす。
 ピンと閃いた。



402 戦場に至る 3 sage 2009/04/23(木) 00:44:44 ID:4iRNRoU6

 無駄に高い身長を生かし、彼女が抜き取ろうとしていた本に後ろから手を伸ばす。
 古くから親しまれ、今なお多くのファンを魅了するハイ・ファンタジー作品の第三部だ。すでに装丁は薄くなっているが、それほど
に読まれ続けている小説である。
「あ、あ……すいません」
 こんな本も読むのかと感心してると、胸の辺りから聞こえた少女の言葉に我に返る。
 いけない、これでは本を横取りしてしまった嫌な人だ。抜き出した本を差し出して、震えそうになる声をなんとか誤魔化しながら
言葉を選ぶ。
「いえ、取り辛そうにしていたから……迷惑だったかしら」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
 本を受け取り、俯いてしまう。端から見れば可愛らしいのだろうが、その前に立っているとなっては頬を緩ませるわけにも行かない。
 早計だったか。いや、こうなっては逃げることもできない。むしろ好都合だ。
「そういう本も読むのね」
「え、ええ、はい。本を読むのが好きなんです」
「そうでしょうね。いつも本を読んでいるものね」
「……はい」
 緊張からか、なぜか高圧的になってしまった。
 胸に文庫本を抱えてうつむく少女の旋毛を見下ろしながら、なんと言っていいものか、言葉を探る。
 こういうときは相手の持ち札と手持の札を見比べて冷静に、といつもの相手には腹の探りあいをするのだが、と迷っている間に少女
は体を小さくして脇を通り抜けようとする。
 その進路を反射的に足を踏み出して遮った。
 え、と驚いた様子で顔を上げる少女と目が会う。いけない。なにも考えずに行動してしてドツボに嵌っている気がする。
「あ、あー、ちょっと、お話しない?」
 目をそらさず、頬が熱くなるのを感じながらも提案する。まるで恐喝しているようではないか。
 垂れ目がちな大きな瞳が戸惑うように揺れ、もう一度うつむく。手入れの行き届いた黒髪にキューティクルが浮かび上がり、ほのか
に香る花の香りに視界が揺れた。
 
 この少女は、魅力的だ。
 容姿や家柄などではない、一つ一つの仕草や行動が、妙に私の琴線に触れる。
 その心も、外見に相応しく可憐といっても良いくらいだ。様々な権謀術数が渦巻く学園で過ごすには似つかわしくない、それ故に引
き寄せられる純粋さ。
 花壇が荒れていれば丁寧に手入れをし、教室などの掃除にも手を抜かず、人が転べば心配して駆け寄る。誰が見ていなくとも、見て
いたとしても打算や飾り気の無い行動をする。
 そのことを誇るでもなく、恩に着せることも無い。むしろなるべく関わらないよう、しかし放ってはおけないという行動に私は尊敬
の念さえ抱いてしまう。
 朴訥と言うには少々垢抜けないが、人間として敬うに値する少女。
 私や、この学園に通う子女にはない魅力を持つこの子と、ぜひ友人になりたい。




403 戦場に至る 4 sage 2009/04/23(木) 00:45:15 ID:4iRNRoU6


 ……以前からそう思い続けていたのだが、どうやらこの子の魅力というのは、私を想像以上に捕らえていたらしい。
 私はこの子と友人になりたい。心の底からそう思う。だが、私の中にはどうやらもっと強い感情があったのだ。
 事故で失われてしまったという彼女の以前の家族、周囲の人間関係、現在の状況、はては生活パターンまで調べ上げた行動力に、当
時は私自身が驚いたものだ。
 そんなにまでして友人がほしいのか、自分はそんな人間だったのかといぶかしんだが、その疑問も今となっては意味をなさない。
 俯いたままの華奢な少女がぽつりと呟く。
「すぐ、帰りますから」
 つれない。だが、予想していた。この少女は、こちらから関わろうとすると妙に逃げるのだ。
 進路を塞ぐ私の足を避けて、歩き出そうとした少女の腕を掴む。驚くほどの細さに怯みかけるが、ここで引くわけにはいかない。
「いつも、本を読んでから帰るじゃない」
「き……今日は、すぐ、帰るんです」
 以前ならこのまま素直に引くところだが、私にも、今日こそはとの意気込みがある。
 明日からはまた忙しくなる。この行き場の無い感情を何とかしなければ、睡眠不足の日々は解消されないだろう。
「そんなこと言わずに、ね。貴女と仲良くしたいのよ」
 なるべく穏便に事を運びたい。腕を引き寄せて向かい合う。内心の羞恥心が顔にでないよう注意を払いつつ腰に腕を回して抱き寄せ
た。
 我ながら大胆な行動だが、嫌悪感は微塵も無い。あるいは少し前の私なら、それを感じたかもしれないのだけど。
「な、何をっ」
「静かにね。ここは図書室よ」
 測るまでもなく私より細い腰に若干の嫉妬と、得体の知れない魅力を感じながら体を押し付ける。
 身長差から、私の胸が彼女の顎下に触れる。彼女にもその感触は十分に伝わっているのだろう。戸惑いと混乱を浮かべた顔に見る見
る血が上り、気の毒なほどに赤くなる。
「は、放してください!」
「静かに。少しだけ、少しだけ私と話をしてくれればいいの」
 少女を混乱させまいとするも、まるで変質者のような台詞に内心で頭を抱えた。
 無茶苦茶な言い方だが、私も冷静ではないのだろう。腰を抱いた腕と、密着した腰に異様な熱を感じる。
「ほ、本当に今日は用事があるんです」
 そうなのか、そうでないのか。
 平静を装うのも限界だ。私も彼女と同様に顔は赤くなっているだろう。少女が身を捩るたびに伝わる体の精細さと髪から立ち上る芳
香が冷静でいようとする私を急速に溶かす。
 意識せず、両腕に力がこもる。胸を押し付けて、小さな耳に唇を寄せる。清楚な髪の香りの中に汗の匂いを微かに嗅ぎ取り、その生
々しさに喉がなった。
「どうしても、私とは仲良くしてくれない?」
「だ、だから、今日は、その、用事があるから
 少女の言葉を聴きつつも、その意味にまで頭が回らない。
 ずっと思い続けていた感情だけしか考えられなくなる。
 今日、関係を進めよう。名前を知っているだけのクラスメイトではなく、名前を呼び合う親しい間柄になるのだ。
 ある程度親しくなるまで使うまいと思っていたカードを切ろう。
 彼女の秘密。つい数週間前、廊下の角でぶつかって図らずも押し倒してしまったときに生じた疑問から生まれた、幸運のカード。
 疑問は、彼女の以前の家族を調べていくうちに確信へと変わり、私の欲求を加速させた。彼女との関係を深めるための切り札にする
つもりだったが、こうなっては仕方ない。
 ここまでして何もなしでは、気まずさから以前より距離が遠のくのは明らかだ。強引にでも、彼女との繋がりを作っておかなければ
ならない。
 なにより私がもう我慢できそうにない。この子との距離を縮めたい。
 それほどにこの少女は、魅力的だ。
 ……白状しよう。
 私はこの子に恋をしている。
 そしてこの子は、少女ではない。
 
「あなた、男でしょ」





404 戦場に至る 5 sage 2009/04/23(木) 00:46:28 ID:4iRNRoU6



 真っ赤になっていた顔色が一転、見る見る血の気を失った。
 私を押しのけようと抵抗していた腕がぴたりと止まり、大きな瞳をさらに大きく見開いて見つめ返してくる。
「な、そ、そんなわけ」
「そんなわけ、ないと思っていたわ、私も」
 体重を掛けて、小さな体を書架に押し付ける。足をスカートの間に滑り込ませ、太ももを股間に押し付けた。
「ひっ」
 女ならありえない感触と太ももから伝わってくる熱に、悦びとも恥じらいともとれる感情が湧き上がった。
 陰部への感触に少女の……少女そのものの顔立ちをした少年が呻き声をあげて、可憐な表情を歪ませる。乾いた唇を舐め、その顔を
間近で覗き込んだ。
「本当に、外見だけは女の子ね。私も、あの時ぶつからなかったら、今でも気づいていないと思うわ」
「あ、あの時って……?」
 男にあるまじきソプラノボイスに首筋に疼きが走る。あまり声を聞く機会が無いので気づかなかった、というより注意することすら
なかったが、とても耳障りの良い声だ。
「前にね、廊下の角でぶつかったでしょ。あの時に、こうやって……」
「あ、や、やめッ」
「こうやって、足にね、なんか暖かいものがあたってるなーって思ったのよ」
「ぅあ、あ、ん」
 言いながら、ぐりぐりと足を押し付けてやる。図書室に来たときには冷静に事を運ぶつもりだったのだが、もうそんな考えは微塵も
無かった。
 本人は抵抗しているつもりなのだろう、細い足がか弱い力で私の足を挟みこむ。スカートが捲れ上がり、足に直接伝わってくる素肌
のなめらかな感触と、厚手の布越しに感じる柔らかな熱に陶然となる。
 腰を抱いていた腕を滑らせてスカートの中にもぐりこませ、薄い尻たぶを手のひらで揉みつぶす。想像していた通り、彼がスカート
の下に着用しているのは学園指定の短パンのようだ。
 さらに指をすべらせ、逃さないように体を強く押し付けながら短パンの中に進入する。
「さすがに、下着まで女ものをはいている訳ではないのね」
「そ、そんな、や、やめて、ください」
 短パンの下にスパッツをはいている念の入れようとは恐れ入る。だがそれも、こうして強く触れて確認してしまえば、性差は明らか
だ。
 ナイロンの滑らかさと加虐欲をそそる柔らかさを楽しみながら、再び赤く染まりだした頬に手を添えた。
「別に、あなたを脅迫したいとか、この学園から追い出したいとか考えているわけじゃないのよ」
「はう、あ、うぅ、は、離して、くださいっ」
「ただ、私と仲良くなってくれればいいだけ。できれば……そう。彼氏彼女の関係になれると、最高ね」
 それが、日々睡眠不足に悩み、彼に上品とは言い難い感情を抱えて過ごす私の願いだ。
 彼が男であることを確信したときの私の喜びは、きっと彼にも理解できないだろう。



405 戦場に至る 6 sage 2009/04/23(木) 00:49:02 ID:4iRNRoU6

 転入してきた少女が自分と友人関係に慣れるかもしれないと思い、周辺を様々な形で調べた。
 迷惑がかからない家柄であること、それを笠に着てくだらないプライドを振りかざす人間ではないこと、そして、何より大切な人間性。
 彼女は魅力的だった。保護欲を刺激する容姿が私の見知らぬ部分を刺激したせいもあるだろう、気がつけばいつも目で追うようになっていた。
 授業中、休憩時間、食事中、そのコケティッシュな魅力を眺めては一人悦に浸っていた。
 もしや私はレズなのかと悩み始め、こんな有様では友人として過ごすことなどできるはずがないと思い始めた矢先に、例の件が起きたのだ。
 廊下の角で出会いがしらにぶつかった。体重に劣る彼女を押し倒し、故意ではなく太ももを少女の足の間に強く押し付けてしまった。
 そして彼女が男かもしれないという、常ならば一笑に付す疑問が生まれたのだ。
 しかし私はそれに縋った。いや、その時は縋ったという意識はなかった。ただ、彼女が女ではないかもしれないという疑問を解消したかった。
 ツテを頼り、頼りたくは無かった家の力も多少使って、彼女が転校してくる前の事を調べた。初めは期待していた成果も無く、その
ことにひどく落ち込んで、初めて自分があの少女を恋しく思っていたのだと自覚した。
 この学園は女学園だ。私はそれまで見向きもしなかったが、そういった、同姓で交際関係になっている生徒というのは居ないわけではない。
 ならば私も彼女とそういった関係に、というわけにもいかない。
 どう足掻いたところでそれは異常だ。よしんば私の思いを打ち明けたとしても、彼女が拒否することは明らかだった。
 悩みながら過ごす日々に辟易とし始めたころ、件の彼女の身辺調査が完了した旨を伝える報告書が届いた。
 まるでストーカーのようだと思いながらも、解消の仕方がわからない疲労にかすむ目でまとめられた資料をめくった私は、驚きと安
堵に胸を撫で下ろした。
 やはり彼女は男だった。事故で両親を失い、遠縁にあたる財閥に引き取られ、どういった経緯でか名門女学園に籍を置いているが、
彼女は確かに女性ではない。
 簡潔に彼の性別と、その周囲の人間の事が綴られた資料を一晩中読み、私はその日、初めて彼女…彼に犯され、愛し合う様を想像して自慰をした。
 私の思いは、何も間違っていない。ただの恋心だった。
 そうと決まれば話は簡単だ。彼と仲良くなり、もっと親しい仲になる。
 なぜ男の身で女学園に、とか、異性には見せたくない様々な行為を見られていた事に羞恥を感じはしたが、なぜか嫌悪の感情はまったく沸かなかった。
 彼がこの学園に存在することを感謝こそすれ、それを排斥したいなどと思うはずが無い
「う、あっ、そん、そんな、の」
「無理……かしら?」
 並みの少女よりよほどきめ細かいのではないかという頬をなで、額を合わせて瞳を覗き込む。
 こちらにその気がなくとも。彼からしてみれば脅迫以外の何者でもないだろう。なぜ女装しまでこの学園にいるのか、その正確な理
由までは私も知らないが、他の学生に知られてしまえば少なくともこの学園には居られなくなる。
 悪くすれば、いや、そうでなくとも学園の経営にまで関わる一族の不祥事だ。本人が学園を追放されるだけに留まらず、様々な方面
で混乱を招くだろう。
 そんなものは私も望んでいない。彼もそうだろう。
 ぐっと足を押し付け、お尻を強く握って持ち上げた。彼の体は軽い。すでに爪先立ちでいるのだろう、強張った足からは震えが伝わ
ってくる。それがまた、なんとも心を擽る。
 太ももから伝わってくる熱が腰のあたりに伝染して、はしたない雫となってあふれてしまいそうだ。
 誘うように瞳を閉じて、唇を引き結ぶ少女のような少年。このまま唇を奪ってしまおうかと思ったが、それはさすがに、と思いとどまる。
 私は彼と良い仲になりたいだけだ。勢いで暴漢まがいの行為に走ってしまっているが、本来なら軽く会話を交わして親交を深める程度に済ませるつもりだったのだ。
 このままこの少年を組み敷いて、欲求の赴くままに淫らな行為に及べば、私と彼との間に残るのは肉体の繋がりだけになってしまうだろう。
 手のひらに吸い付く肌の心地よさに、それも悪くないと囁く声が私の内側から聞こえる。
 頬に添えた手を滑らせて、耳の裏を撫でる。肌が敏感なのか、切なげな声を漏らす見目麗しい少年の姿に引き込まれ、理性を働かせる暇もなく唇を近づけた。
 その瞬間、彼の手から文庫本がバサリと音を立てて床に落ちた。




406 戦場に至る 7 sage 2009/04/23(木) 00:49:38 ID:4iRNRoU6

 甘い吐息を唇で感じ取れるほど近づいていた顔を、理性を振り絞って遠ざける。目を瞑り、短パンの中から手を引き抜き、
耳たぶを摘んでいた指先をすべらせて肩を掴む。
 危なかった。理性の壁を次々と切り崩す少年の魅力と私の弱さには恐れ入る。
 熱を帯びた太ももから力を抜き、小さな体を開放する。足に触れる空気の冷たさが罪悪感と羞恥心を呼び起こした。
 掴んだ肩には男らしさの欠片もないが、信じられないくらい柔らかい肌の下、細い骨格を生々しく感じ取ることができる。
 その気になれば簡単に手折れそうな感触に、子供のころ、ウサギを抱いた際に感じた頼りなさと愛らしさを思い出した。
 ……心が平静を取り戻す。
 顔を赤く染め、表情に羞恥と恐怖…そして嫌悪を滲ませるクラスメイトの顔を、もう一度正面から見据える。
「私、友達がいないのよ」
「っ……はぁ……そうなんですか」
 私に押さえつけらたことで様々な感情を揺さぶられたのだろう。潤んだ瞳をしかめ、胸のリボンを両手で押さえる。
 その仕草がいちいち色っぽいと思ってしまうのは、やはりこの子が男であるからなのか、それとも単純にそういう部分に秀でている
からなのか。
 私は今まで異性や恋愛に特別な感情を抱いたことが無いので彼が初恋の相手ということになるのだが、彼の容姿に一目惚れしたわけ
ではなく、同性愛に興味を持てないことを鑑みるに、やはり彼の個性が私を引き付けるのだろう。
「だから、私とお友達になってくれないかしら」
「えっと……その……」
「だめかしら。あ、いえ、本当にイヤなら、イヤと言ってくれて良いわ」
 私と親交を深めるのはごめんだ、近づきたくも無い、と彼が思うのなら私は潔く身を引こうと思う。彼の素性を知っているとはいえ
、それは私にとって正常な交際の免罪符でしかない。
 脅迫手段として使うつもりも無いではなかったが、あくまで話題づくりの一環に留めておくつもりだった。脅迫から始まる関係が、
私の望む関係に発展するとは思えないからだ。
 とはいえ、破廉恥な行為に及んだ直後にそんなことを言っても信じてもらえるはずが無い。
「さっきも言ったけれど、貴方を脅迫したいわけじゃないの。ただ仲良くなりたいだけで……」
 いきなり体を押し付けて、貞淑であるべき子女にあるまじき狼藉を働いたことにいまさら後悔の念が湧き上がる。
 仮に立場が逆であったなら、いや、たぶん私は相手を殴り飛ばすだろうけど、きっと相手と友好関係を築こうなどとは思わないはず
だ。
 すでに私の計画は失敗しているという事実を、しかし受け入れがたい。
 潔く身を引くと言ったのは嘘ではない。親しくなったその先、彼が男だと知っていると打ち明け、私の魅力及ばず男女としての交際
を断られた後にはそうすることを決めていた。
 得がたい友としてお互いを頼りにするような、そんな関係を維持できればとの思いからだったし、もとより彼が男だと知る前はそん
な関係を望んでいたのだ。
「本当に貴方と、その、友達になりたいだけなのよ。それだけは信じてほしい」
 薄汚れた情欲と勢いにまかせた浅はかな行為は、本来なら簡単だったはずの友人関係を結ぶことさえ難しくしてしまった。
 彼は孤独を好むわけではなく、明かすことのできない秘密をより強固に守るために親密な人間関係の構築を拒んでいるのだろう。
 一言二言の言葉を交わし、少しずつでもお互いのことを知り合っていけば自然と友人関係になれるのではないかという私の思いは、
私自身さえ理解していなかった彼への激しい欲求によって難になってしまった。



407 戦場に至る 8 sage 2009/04/23(木) 00:50:14 ID:4iRNRoU6

 ほんの少し前、恋する彼と友達になるために意気揚々と図書室に入ったのが遠い過去のことのようにさえ思える。
 自分を罵ってやりたくなることは数あれど、こんなにまで自分の至らなさを憎んだのは初めてだ。
 奥歯を静かにかみ締め、眉間にこもった力を抜く。気がつけば握りつぶさんばかりに掴んでいた少年の細肩から力を抜き、しかしす
ぐに逃げられてしまうかもと思うと手は離せない。
「……ご、ごめん、なさい」
 次になんと言葉をかければ良いのか、どうすればこの状況を好転させることができるのか。
 今までに無い経験に、出るはずの無い案を模索し続ける私に、目を伏せ、顔を俯けた少女が呟くような小声で謝る。
 それは、問いただすまでも無い答えだった。そう理解しつつも、理解したくは無い。
「わ、私とは、友人には、なりたくない?」
「……はい」
 顔を俯けたまま、しかし今度こそ間違えようの無い意味で、彼女が肯定の意志を示す。
 ぶるりと足が震えた。いや、落胆が視界を振るわせたのだ。
 俯いたままの少年の髪を眺める。
 
 私は失敗したのだ。
 乾燥した日々を過ごす私の前に現れた麗しの転入生、その魅力を好ましく思い、事務的な会話しかできない己を呪い、少年だと知っ
た日からは経験したことの無い眠れぬ日々を過ごした。
 良き友人、良き交際相手を得られるはずだった私は、そのどちらも失ってしまったばかりか、蔑みと嫌悪の対象になってしまったのか。
「どうしても、だめなの?」
「わたしは……あまり、人と関わりたくありません」
 彼がそう言うのは当然だろう。秘密が露見することを思えば、容易に人と付き合うべきではないのだ。
 だが彼は優しい人だ。見ていればわかる。周囲にそれとなく気を使い、校外清掃のボランティアや教師がちょっとした手伝いを募る
際、誰もが消極的であればそれとなく役を買って出たりする。
 その仕草はあくまでも自然で、クラスメイトに注目されることもない。だけど、私はいつもそんな彼を見ていた。
 彼の秘密を知ってる私ならば、仲良くなれるはず。彼の秘密を暴こうとせず、少しずつ距離を詰めていけば仲良くなれるはず。そん
なふうに考えていた。
「どうして。私は、あなたが男だって知っているのよ?」
「…………」
「違う、脅迫とかではないの。あなたが人と付き合いたくないのはわかるわ。でも私はもうあなたが男だって知ってるのだから、仲良
くなってくれてもいいでしょう?」
「それは……」
 肩を強く掴む。今度は意識して、私の強い意志が伝わることを願って指先に力をこめる。
 だが顔を上げてさえくれない。私の目を見ることを恐れるように俯いたままだ。
「そういうことじゃ、ないんです。わたしは確かに男ですけど、だから人と関わりたくないって言っているわけではないんです」
「なら、せめて理由を教えてほしいわ。性別を隠している事と別に理由があるなら、教えてほしい」



408 戦場に至る 9 sage 2009/04/23(木) 00:50:46 ID:4iRNRoU6

 力をこめた腕が震える。痛みに顔をしかめる少女のような面に、俄かに気持ちが高ぶりはじめた。
 言葉に熱が入り、ここが図書室で、すぐそばには他の生徒だっているということを忘れたくなる。
「…………言えません」
 薄く小さな唇が震えて言葉を紡ぐ。
 男の身でありながら女学園に在籍している事より重大な秘密があるのか、私では測れない心の底から希薄な人間関係のみを望んでい
るのか。
 あるいは、そう思いたくは無いが私という個人が彼にとって疎ましいのか。
 だとしたら、どちらにしても、もはや私にできることは無い。
 心から望んだ友人関係も、その先に見据えた恋人関係も、もしかしたらさらにその先までもが、私には届かない領域に行ってしまった。
 じっと俯く少年の小さな体を眺める。
 お嬢様然とした美しい黒髪、見るものを安心させるような垂れ目に小さな鼻と薄い唇。芸術的なフェイスラインを支える細い首、薄
い肩と同じ厚みの胸、男らしさより女らしさを兼ね備えた腰付き、プリーツスカートからの伸びる足は子供のように細く、黒いハイソ
ックスが少女的な脹脛のラインを浮かび上がらせている。
 私の視線が全身を嘗め回していることに、少年は気づかない。
 女なら、こういった視線に敏感なものなのだろうが、彼は女ではない。
 細い首筋に顔を埋めたくなる衝動をこらえながら、少年に最後の質問をする。
「本当に、誰かと友人になるつもりはない?」
「はい。この学校……学園に入るときに、そう決めました」
 ここで引き下がるべきだ。もうなにもかも遅い。脳裏でか細い理性が警鐘を鳴らす。
 しかし腕は彼の肩を掴んだまま、足は一歩を大きく踏み出した。
 彼も私の行動の意味を察したのか、素早く身をよじって逃れようとする。だが遅い。
 細い肩を再び書架に押し付け、胸を押し付け、足を押し付ける。
 抱きしめた少年の感触と体温に体の内側から抑えがたい歓喜が湧き上がった。
「あ、や、やめっ……!」
 声を上げようとした口を手で塞ぐ。
 もう彼の声を聞く意味は無い。私は、私のやりたいことをしよう。
 体をそのままに、腰に腕を回して力をこめる。今度は足ではなく腰の下に、小さくは無い肉の感触が伝わった。
 はじめに足で触れた感じより、僅かに大きくなっている。
 私の体の感触に、彼の男は欲情したのだろう。こんな外見でも彼は立派な男というわけだ。
 そして、私は女だ。



409 戦場に至る 10 sage 2009/04/23(木) 00:51:31 ID:4iRNRoU6

 この子を犯す。
 これ以上、利害と御家に尽くすことだけを求める乾いた生活を送ることになど耐えられない。
 もともと才能に恵まれているわけでも秀でた部分があるわけでもない私には、今の日々は辛すぎるのだ。
 小賢しい理屈を並べ立てて誤魔化してきたが、綻びはじめている事は私自身がよくわかっている。
 拠り所が必要なのだ。ガス抜きをする場所と言い換えてもいい。腹の探りあいをするばかりの日々を癒す手段を、求めているのだ。
 生まれて十数年、探し続けていたことさえ自覚していなかったその思いは、彼の登場によって日の目を浴びた。
 彼が、こんな女学園に入学してきた可愛らしい少年が、この都合のよすぎる存在が私には必要なのだ。
 だから私は、彼にとっての友人にも恋人にもなれないのなら、脅迫者になるしかない。
 潔く身を引くなんて嘘っぱちだ。いつも寝る前には彼のことを思い悩んで、火照る体を慰めた。そういった行為を見越して、性の勉
強もした。
 このまま何事も無かったかのように立ち去ることなどできるはずもない。
「んぅっ、ぐうぅ!」
「静かにして。男だってこと、知られてもいいわけじゃないのでしょう?」
 このまま何も無かったことにされてしまうのなら、淫らで哀れな女として認識されるくらいなら。
「貴方を、犯すわ。私のものにならないのなら、体だけでも、私のものにする」
「ぃっ、ぁん、……!」
 おかしな女だと思えば良い。いきなり話しかけて、脅迫しないと言った直後に乱暴を働いているのだ。今はそう思ってくれれば良い。
「私のこと、忘れられなくしてあげる。毎日抱いてあげる。だから、私のものにならなくていいから、私の傍にいて」
 手を離し、顎を持ち上げる。恐怖と羞恥を浮かべる、たまらなく魅力的な瞳を見つめ返しながら、その唇を唇で塞ぐ。

「無理よ。その子はもう私のものになっているの」

 不意に聞こえた声に背筋が伸びた。
 誰なのか、いや、この場面をなんと言い訳するか、欲情に支配された頭が急速に冷え、触れかけた唇を離して振り返る。
 視界を白いものが埋めて、私は何か疑問に思う暇さえなく意識を失った。



410 戦場に至る 11 sage 2009/04/23(木) 00:52:04 ID:4iRNRoU6

「友達、ね」
 友人になれないとわかったとたんに脅迫し、強姦に及ぼうとするような輩では、それは友達がいなくて当然だろう。
 眠らせた二人の生徒を、なるべく音を立てないように引きずって棚と棚の奥、古ぼけた扉の前まで運ぶ。
 忘れられた書庫だ。以前から密かに改造を進め、貴重な、あるいは廃棄することが決まった書物が並べられた空間は防音と機密性に
優れた部屋へと変貌している。
 もともと弟が図書室に入り浸っていることもあり、いずれはとの思いから人目につかないよう改築を進めていたのだが、まさかこん
なに早く使用する機会が訪れるとは思わなかった。
 見た目どうりの重厚な扉を、鍵を使って押し開いて入り込む。気を使わずとも音も無く閉まる様子に満足しつつ内鍵を落とした。
 壁際に設置された大きなソファベッドに弟を、それと対面に位置する床に無礼な女を寝かせて、そのスカーフを抜き取る。
 ついで自分のスカーフも抜き取ってよじり合わせて女の両手を縛り、弟の制服からも同じくスカーフを抜き取って足を縛った。
 よい素材を使っているのが関係するのか知らないが、存外に頑丈に縛り上げることができた。
 何度か力をこめて解けないことを確認すし、二人の意識を瞬時に奪った薬品を染み込ませた布巾を、部屋の改造の際に設置させた流
しで丁寧に洗い流す。
 この薬品は効果が高いかわりに揮発性が高く、放っておいては私にまで薬品の効果が現れてしまうためだ。
 無論、口元をハンカチで多い、呼吸も浅くしているが、ここで倒れては元も子もない。丁寧に水洗いしたハンカチを軽く絞って流し
にかける。
 これでひと段落、といったところか。
 これも新たに設置させた小型の冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し、一口含んだ。
「それにしても、まったく……」
 この子……いまは私の妹としてこの女学園に在籍する弟の隣に腰掛け、その頬を撫でた。
 可愛い私の弟。だけど少し魅力的すぎるのが、悩みといえば悩みか。
 目の届く場所に置いておくために学園に入れたが、私の監視も完璧ではない。鼻の聴く牝というのは本当にどこにでもいるものだ。
 それぞれのパーツが小さくまとまって配置された、丸みを帯びた華奢な面にはうっすらと汗が滲んでいる。
 さきほどそこの女に迫られていた際に滲んだのだろう。それを袖でぬぐいつつ、懐からいつもの薬を取り出して口に含む。
 とても男とは思えない弟の細い顎を掴んで口を開けさせ、唇を合わせた。薄い皮膜に包まれた薬をその口に押し込み、舌で喉の奥に
押し込んだ。
 意識を失っているためか、従順に従うその様子に嗜虐心をそそらせながらも一度唇を離し、水を口に含んで再度口付ける。
 いつもなら多かれ少なかれ抵抗を見せ、その様子を楽しむのだが、まったく意識のない弟の口腔粘膜を貪ることに普段とはまた別の
興奮を抱きつつ、水を流し込んだ。
「な、何をしている!」
 いつのまにか閉じていた目を開き、目を覚ましたらしい女のほうを見た。
 それなりに大きな権力を持つ家柄の長女として入学当初に話題になり、私と同じ学年の、家柄が自分の価値だと吹聴して回る下等生
物に暴言を吐いたという、なかなか骨のある下級生だ。
 その身長は並みの男より高く、発育も年齢にしては著しい。私もそれなりであると自負してはいるが、豊満、という意味では敗北を
認めざるを得ないだろう。
 美少女、あるいは美女と呼んでもいいかもしれないが、今はただ、私の弟を強姦しようとした不埒ものとして処罰するとしよう。



411 戦場に至る 12 sage 2009/04/23(木) 00:52:42 ID:4iRNRoU6

「お早いお目覚めね、強姦魔さん」
「な、なにを。いや、それよりも、あなたこそ何をやっているんですか!」
 この状況で相手に敬語を使うとは、なかなか躾の行き届いた娘のようだ。
 さきほど彼女がそうしていたように、まだ意識を取り戻さない弟の腰を抱き寄せてその下半身に手を伸ばす。
「見てわからないかしら。あなたがやろうとしていたことよ」
「な、ま、まさか。あなた方は姉弟でしょう!」
 やはり私のことを知っていたようだ。
 この女学園に弟を無理やり入学させたその日から、様々な方法で私の家や、今は亡き弟の家族の事を調べる輩が周囲に現れだした。
 弟が言い付け通り大人しく学園生活を過ごしてくれていたため、大半は弟の詳しい素性を調べようとするにとどまる輩であり、あら
かじめ用意しておいた経歴を渡してやれば素直に引き下がってくれる連中ばかりだった。
 しかしそれが油断を生んだのだろう。すでに弟の経歴を調べ終えているはずの調査団体が、それに付随して弟の行動にまで目を配る
ようになり、数週間前、ついに私の妹が弟であるということを突き止められてしまったのだ。
 無論、こちらとてその調査団体に圧力をかけてそれなりの対処をほどこしたのだが、調査結果がこの女に渡ることは防げなかった。
この町に根ざす権力の大半は従えたが、どこにでも反発する集団というのは現れるものなのだ。
「この子は養子よ。血の繋がらない、こんなに素敵な異性がそばにいたら恋をするのも仕方がないのではなくて?」
 誰が見ても男とは信じないだろう、女性的な可愛らしさを備えた弟に頬ずりをしつつ、腰を抱いた腕を服の中に差し入れる。
 人肌の温もりの心地よさと、赤ん坊のような肌の手触りを楽しみながら、逆の手でスカートの股間部分を撫でる。わずかに硬さを増
しているその部分に、嫉妬の心がくすぐられる。
 弟には、この学園に入学させるにあたり、いっそ調教とも呼べる徹底した教育を施したのだが、ここは相変わらず男のまま、女に触
れられれば反応してしまうようだ。
 女としての振る舞いや言葉遣いはすでに完璧に躾けたと思っていたが、さすがに本能を従えるまでには至らなかったらしい。あるい
は私のせいかも知れないが。
「それでも、そんな、そんなのは、倫理に反します!」
「あら、倫理なんて関係ないわ。それに。さっき言ったでしょ、私はあなたと同じ事をしているだけよ」
「……ま、まさか!」
 なかなか人格者なのか、彼女の言うことは実にまともだ。
 きつく吊りあがったまなじりで流し目でもしてやれば、いずれできる下級生にたちまち黄色い声を上げさせるだろう。
 おそらく異分子である弟が彼女の前に現れなければ、評判どうりの、まるで武芸者のような凛々しい少女としていまも学園生活を送
っていただろうに。
「まさか、そんな事を、あなたは何時も…?」
 おまけに頭の回転も悪くない。
 スカートの下、柔らかさと危ういまでの細さを併せ持つ太ももを撫で回し、指先を短パンの裾から潜り込ませて陰嚢に触れる。
 女装した美しい少年を、意識の無いまま弄ぶ事にたまらない興奮を覚えながら、目を見開いて怒気を露にした少女を見る。
「ええ。この子はね、私の弟になるほんの少し前から、私が慰み者にしているわ」
 ぎり、と歯軋りの音がここまで聞こえた。やはり彼女は、弟に恋をしていたようだ。



412 戦場に至る 13 sage 2009/04/23(木) 00:53:14 ID:4iRNRoU6

 目の前で強姦したいほど好きな異性が、その姉に弄ばれるどころか、すでに何度も汚されたと知らされたのだ。私なら発狂していた
だろう。
 だが怒るのは筋違いだ。
 弟の制服と、胸部に少し厚みのある布を仕込んだサポーターをずらし、私以外の目には触れぬように静かな手つきで乳首に指を這わ
せる。小さな突起の感触が、他ならぬ私の手で硬くなっていくのを感じ、腰の辺りが妖しく疼いた。
 指先で軽く引っかいていたスパッツ越しの陰嚢がわずかに硬度をます。
「そんな、そんなことが許されると思っているのですか!」
 顔を真っ赤に染めた女が声を震わせながら叫び声を上げる。おそらくここが、防音処理の行き届いた場所だとは認識していないだろ
うが、そうでなくとも彼女は声を荒げていただろう。
 その凛々しい顔立ちがぎりりと歯を食いしばる様子にはなかなか迫力がある。
「許されないのかしら?」
 膝頭で弟の足を撫であげる様にしてスカートをめくり上げた。
 狼狽と羞恥にか彼女が目を大きく見開いたのもつかの間、その腰部を守る短パンの中に指先が潜り込んでいるのを目の当たりにして
目を見開く。
 その様を鼻で笑いながら、弟の顔に唇を寄せた。
「……あ、やめろ!」
 制止の声を聞くはずも無く、見せ付けるように舌を唇に這わせ、しどけなく開かれた口にむしゃぶりつくいた。
 感じるはずも無い蜜のような甘さを弟の唾液の中に感じながら、意識がなくとも胸や股間からの刺激のせいか、わずかに乱れた呼気
を吸い込む。
 前歯の表面に這わせた舌を犬歯に滑らせ、そのまま唇を合わせつつ奥歯の複雑な隆起を舌先で感じ取る。歯茎の柔らかさ、なすがま
まの舌を舐り、頬の裏側に私の唾液を塗りたくる。
「んぁ、あ……ぁん」
 少女のようなあえぎ声に耳をくすぐられ、その愛らしさにじわりと下腹部が液体を滲ませるのを感じた。
 それを、本人も自覚していないのだろう、実に羨ましそうに眺める彼女を横目に眺める。もっと見せ付けてやろう。
 めくり上げたスカートをそのままに、片手で短パンをずりおろす。片手が弟の薄い乳房を弄ぶのに忙しいために、少しずつずらしな
がら倒錯的な快感に心を振るわせた。
 太ももの半ばを過ぎた辺りでストンと抵抗無く弟の足首にまで落ちた短パンをそのままに、陰茎の形が浮かび上がった黒いスパッツ
に指を這わせる。
 不埒にも女に欲情した際に勃起を隠すためのスパッツだが、こんな状態ではその役目を果たせるはずも無い。私の与えた刺激に反応
した陰茎は大きく勃起し、少女のように華奢で白い太ももと相まってとてつもなくいやらしく感じられた。
 見せ付けられているはずの彼女も、先ほどまでの怒気はどこにいったのか、食い入るように弟の股間部分を凝視する。
「……ねぇ、さん?」
 与えられた刺激からか、ようやく弟が目を覚ました。
 しかしその目は焦点を結ばず、わずかに身じろぎしたきり、体を起こすことも胸と腰を撫でる私の腕に抵抗もしない。



413 戦場に至る 14 sage 2009/04/23(木) 00:53:44 ID:4iRNRoU6

「ぁっ、ぃ、ぁ…っ」
 目に涙を浮かべて、初めて自分の状態を理解したのだろう、抵抗するそぶりを見せるものの、その悩ましい姿が欲情に火を注ぐ。
 この子に飲ませた薬は、この子がまだ私の弟になって間もないころに何度も服用させたものだ。
 意識の覚醒レベルを低下させ、全身の自由を奪いつつ神経は過敏にする、弟を篭絡するために私が直々に調合した逸品である。
「大丈夫なの、目が覚めたなら、今すぐこれを……」
 拘束を解いてくれと言おうとしたのだろう、しかし彼女も弟の様子がおかしいことに気づいたようだ。
「なにを、まさか薬か。本当にただの強姦ではないか!」
「私は強姦する意思があってこうしているし、この子は私に強姦されることを望んでいるのよ」
「だったら、なぜ薬を使ってまで!」
「こうしたほうが気持ち良いからよ。言ったでしょ。私はこの子を慰み者にしているの」
 無論、私の弟への愛情は本物だ。幼少のころ、私の弟への並々ならぬ感情を過敏に察した父母が、弟に記憶操作を施して他所の家に
預けてなお、ずっと育み続けいていた感情だ。
 その美しくも可愛らしい体に欲情することを禁じえないとしても、それは愛情あればこそ、数十年の月日を一人で慰めることしかで
きなかった反動でしかない。
 私はこの実弟を愛している。
 スパッツの内側に指を潜り込ませ、すっかり硬くなった陰茎を握りこむ。
 家族の不幸な事故に心理障害を負ってしまった、当時はまだ髪が短かった弟に薬を盛って犯し、その後の生活の面倒を見ることを条
件にその体を差し出させた。
 しばらくは家族として暮らし、そうする上で私に心を向けさせる腹積もりだったのが、久方ぶりに目にしたその姿に矢も立ても無く
、気がつけば薬を用意して犯していたのだ。
 まだ一年とたっていないが、家では毎晩その細腰にまたがって逞しさを確かめている陰茎の熱に、漏れた雫が足を伝って流れ落ちる
のを感じた。
「や、ぇさん、やめ……」
「見ろ、嫌がっているじゃないか!」
 それはそうだろう。
 この子にすれば、いきなり目の前に現れた人間に犯され、家族の死を悼む間もなく体を差し出すことを要求されたのだ。
 私が彼の実の姉であると明かせばまた反応は違っただろうが、私から長く離れ、一般の家庭でごく普通に暮らしていた彼にそれを打
ち明けたとて恋の障害を増やすことにしかならないだろう。
 こんな外見でも立派な男だし、私が犯したときにはすでに自慰の経験はあったというが、いかんせん貞操観念がしっかりしている。
 私は彼にとって、少なくとも今は、ただの脅迫者なのだ。そんな相手に身を弄ばれるのをよしとするには、この子は潔癖すぎる。
 もっともその潔癖さが私の欲情を煽り、いつまでたっても優しい姉として振舞えないジレンマとなってもいるのだが。
「まあ、そこで見ていなさいな、強姦未遂の犯罪者さん」
「なっ……!」
 体を起こそうとした弟の薄い胸をソファに押し付け、抵抗の薄い腕を掴んで頭の上で一まとめに掴む。薬に力を奪われた弟の体はこ
の程度で拘束が可能なのだ。
 身をよじろうとする弟の腹の上に腰を落とし、健気にも先端で尾てい骨をつつく逸物の熱に目を細める。
 口紅を引いたわけでもないのに艶やかな唇に舌を這わせ、腰をずり下げて陰茎に性器を押し付けた。
 弟の潤んだ瞳から涙が一筋零れ落ちる。屈辱か羞恥か、ぞくりとこみ上げてきた感情に、私はこの子の姉なのだなと強く実感した。
 散々に弄繰り回したせいで胸元にまで捲れあがった制服ごしに胸を押し付け、涙の跡に舌を這わせながらその耳元で囁いた。
「抵抗しちゃだめよ。お姉ちゃんが、全部やってあげるからね」



414 戦場に至る 15 sage 2009/04/23(木) 00:54:15 ID:4iRNRoU6

 我ながら、見方を変えれば微笑ましい台詞だ。できれば弟の成長を見守りながら言いたい台詞だったが、こんな時に言うのも悪くない。
「んふっ、ぅっ、ふぁぅ」
 唇を奪う。
 薬を押し込んだときより念入りに、歪み無く並んだ小さな歯の一つ一つをつつき、敏感な上あごの粘膜を舌先でなでる。
 くすぐったさに跳ねる腰の動きが下肢に伝わり、すでに潤んでいた下腹部がくちゅりとなった。
 甘い唇に後ろ髪を惹かれつつ、限界まで吸い上げて離し、その顔を覗き込みながら体に手を這わせる。
 かわいい弟。私と血のつながった家族。この子は私を狂わせる。
 首筋を舌先でなで、愛らしい乳首に吸い付き、ヘソのくぼみに涎を落とす。
 倒錯的な、しかし似合いすぎるスカートの下、スパッツに浮き出した怒張の先端に鼻先を埋めて大きく息を吸い込んだ。
 中毒というのはこういう状態のことを言うのだろう。隠しようのないオスの匂いに脳髄が痺れ、弟の腰を這う腕がぶるぶると震えた。
 私の体に興奮し、心では否定しつつも体は姉の体を犯すことを望んでいるのだ。早く素直になればいいものを、だからこそ、嫌がる
弟を無理やり犯すというのも悪くないのだけど。
 スパッツをずらし、その少女的な体には似合わない立派な牡器官を露出させる。
 薄布一枚をむいただけで、おもわず意識を手放したくなるほどの性臭が再び脳髄を痺れさせた。
 愛しい弟のものを赤の他人に見せたくはないので、スカートで隠しつつ事を運ぶつもりだったが、私が我慢できない。
 視界の端で息を呑んだ女が、汚らしくも太ももを僅かにこすり合せたのが見えてしまったが、いまは、弟の愛らしさに免じて見逃し
てやろう。
「ひゃ、ねぇ、や……あっ、ああ!」
 真っ赤に膨れ上がった艶やかな亀頭にべったりと舌を押し付け、そのまま一息に根元まで飲み込んだ。
 弟を犯すとき、まず初めに欠かさずに行う口淫だ。
「んあぁ、やっ!」
 僅かに生えそろった陰毛に鼻先を埋める。
 そのまま食べ物を飲み込むようにぐびりと咽喉を動かして咽喉を埋める亀頭を粘膜で揉みしだく。愛おしい熱に、表現しきれない愛
情が湧き上がった。
 唇をすぼめ、蠢かせた咽喉のさらにおくまで弟の肉柱を迎え入れる。
 視界が涙でにじみ、幸せな圧迫感に意識が飛びそうになる寸前、咽喉奥に慣れ親しんだ粘液の感触を感じた。同時に、はしたなく緩
んだ下の口から淫液が飛び散り、足を伝っていく。
 鼻を抜ける生臭さと味蕾を刺激する愛しい苦味、そして唇から咽喉までを占領する肉の熱さに目の前が白くなる。
「んぐっ、うぐっ、ごぐっ、こくっ……っ……ふはっ」
「ぅっ、はぅ、あ……はぁ」
 いつもとは順序が違ったが私が弟を犯すときはいつもこうだ。
 脅迫者らしく高圧的な態度で体を要求し、抵抗する弟を優しく、あるいは厳しく説き伏せて、勃起した陰茎を限界まで口に含んであ
げて、一緒に絶頂を迎える。
 当然、愛しい弟の子種汁をこぼすなどというはしたない真似はしない。咽喉から食道へと続く経路で亀頭をしごき、弟の細い腰をが
っちりとつかんで射精させる。こうすることで空気にさえ触れさせること無く弟の精液は私の体内に収まるのだ。
 他でもない私の唾液で濡れ光る弟の陰棒を指先で撫でる。初めのころは無理やり刺激して勃起を維持させていたものだが、最近では
触れるまでも無くさらなる欲望を求めるようになった。
 まさに、体は正直というやつだ。



415 戦場に至る 16 sage 2009/04/23(木) 00:54:56 ID:4iRNRoU6

「はぁ、はぁ……ふふっ、今日もおいしいわよ」
「……っ……っ……ぐずっ……」
 悔しいのだろうが、弟である以上、姉に愛されれば射精を我慢することなどできるはずも無い。
 毎回、ストロークするまでもなく口内に導かれただけで射精してしまうのは弟も男である以上悔しいのだろうが、それは薬の作用で
もある。
 少し前まで、弟の食事にはかならず媚薬やそれに類するものを含ませていた。元々の体質もあったのだろうが、弟の肌は異常なまで
に敏感になっているのだ。
 加えて、毎日かかさず私の肉体で射精しているのだ。弟の体は、私が愛撫してやればたちまち絶頂に至るよう改造されてしまっている。
 本人は抵抗していても、体はとっくに姉の肉体に溺れてしまっているというわけだ。
 もっとも、私も弟を愛しすぎたせいか、口内に精液を注ぎ込まれただけで頭が真っ白になってしまうのだが。
「し、しない、って……」
「ん?」
 このまま弟を飲み込みこんで快楽にふけるか、先に女のほうを処分してしまうか考えていると、弟の涙交じりの声が聞こえた。
「が、学校、では、……っ、なに、ぃも…ひない……」
「ああ、そんな約束もしたわね」
 弟が言っているのは、私が弟を脅迫した際の条件のことだろう。
 初めて弟を押し倒し、さんざんに犯し犯され、愛し合ったあとのことだ。
 弟を開放した例の事故だが、実は生き残ったのは弟だけではない。弟とは血の繋がりの無い、もちろん私とも無関係な妹が一人、生
き残っているのだ。
 まだ男と女の違いも区別できないような年齢の娘なのだが、事故で弟と同様に、あるいはそれ以上に心に深い傷を負い………そうい
えば、今日が退院の日だったか。
 弟が私の脅迫に涙を飲んで頷いたのもその妹があってのことなのだろう。まだ幼い妹と、学生の弟はとうぜん二人で生きていけるは
ずも無く、弟が私に体を差し出す代わりに生活の面倒を見てあげる、という条件が私と弟の間にはある。
「でもあれは、もう無効でしょ」
 そして、それとは別に私は弟にある条件を飲ませた。
 私と一緒にこの学園に通うことだ。
 私は弟と少しでも長く一緒にいたいから、また当時弟の周りに蔓延っていたクズ女から弟を守るためにこの学園に入れる。
 純真な弟は、周囲の牝が自分を薄汚い目で見ているなどと気づくわけも無く、あと当然の理由として弟は男なので、それを拒否した。
 そこで、先ほどの言葉である。
 女であることを隠して学園に通う代わりに、学園では性的な接触はしない、というものだ。
 おそらく自分が女として学園に通うことが私の弱みにもなると踏んでの条件提示だったのだろう。
「そこの犯罪者さんに、少しだけ感謝しなくちゃね」
「な、なにを!」
「あなたがこの子を男だって見破ってくれたから、わざわざ用意したこの部屋も無駄にならずにすんだってことよ」



416 戦場に至る 17 sage 2009/04/23(木) 00:55:41 ID:4iRNRoU6

 件の妹が退院するころにあわせてこの部屋を改造し、適当な文句でいずれは学園でも弟を犯す算段はつけていたのだが、手間が省け
たという意味ではこの女に感謝してもいい。
 あえぎ声をあげながらも気丈に条件を提示する弟が愛らしくてついつい条件を飲んでしまったのだが、弟は学園ではあからさまに私
を避けるのでやきもきしていたのだ。
「なんだと……!」
「っ、くぅ、……ぁ、ぅ」
 私を求めて震える肉棒に深く指を絡め、逞しい反り返りにあわせて上下に扱く。唾液と先走りの混ざった液体が卑猥な音を立て、芳
しい性の臭いが立ち上った。
「実はね、前にもいたのよ、この子が男だって気づいた生徒」
「な、なに?」
 一度精を放ったというのに張り詰めた陰嚢を揉み解してやりながら、間抜けな女の方を見た。
 もっとも、以前、そのことに気づいた女は、こいつよりもさらに間抜けで救いようのない雌猿だった。
 スキャンダルがどうの、経営権がどうのとわめき散らした挙句、私の弟を自分のものにして飼い殺すなんてことを言い出したものだ
から、思いつく限りの方法で苦しめてやろうと思っていたのだが。
「もうこの学園にはいないけどね」
「なにをしたんだ……」
「あら怖い顔。別に殺したりはしてないわ。そうしてもよかったんだけど、私の弟は優しい子でね」
 意識がなくなるまで椅子で殴りつけた程度なのだが、あんまりにも汚らしい悲鳴をあげたものだから弟が同情してしまったのだ。
 まあ、そのときは弟に愛してるって言わせることを条件に開放したのだが、さて、いまごろあの女はどうしていることやら。
「薬で発情させて浮浪者に売ってあげたわ。業者にまわされて、今では立派な女優になっているみたいよ」
「なっ、まさか、そんなことが!」
 もちろん嘘なわけもなく、少し前には弟と愛し合いながら、獣のような悲鳴と嬌声を上げる少女を撮影したアダルトビデオを鑑賞し
たりもした。
 弟には見せたくなかったが、女のその後の様子が気になっていたようだったので、汚い女の本性を教える意味で一緒に見たのだ。
 もっとも、その後にあの女は発狂したらしく、その手のものを取り扱う業者の間をたらい回しにされたあげく、私ですら手の届かな
い闇に飲まれたらしいが、自業自得というものだ。
「貴方はどうなりたいかしら。犯罪者だから、刑務所に慰安婦として行ってみる。それとも、警察のお偉いさんに性欲処理道具として
使われてみる?」
「……ぐっ、そんなことをすれば、あなたも唯では済まないぞ」
「そんなことないわよ。発情した牝が自分から腰振って牡を誘うんだもの。私は弟を守るために、牝にふさわしい牡を探してあげるだけ」
「は、発情などしていない!」
 本人も意識していないのか、さっきから腰をもぞもぞと蠢かせていてはどんな言葉も滑稽だ。
 私の弟に目をつけたのは、女としては賛同するが、愛する弟を奪おうとするなら容赦する気にもなれない。
 とりあえず弟に処方したものを濃度を高めて注射し、縄で縛って繁華街の路地裏にでも放置するか、と考えていると弟が私の手を取
った。
 ビクビクとけなげに震える肉茎の先端に口付ける。あまり焦らしては可愛そうだ。汚らしい女の目に、愛らしい射精シーンを拝ませ
てやるのもシャクなので、もう一度くわえ込んであげようかと口をあける。
「ね、さん、……やめ、……」
「……?」
「やめ、て、くだ……なんでも、……だから……」



417 戦場に至る 18 sage 2009/04/23(木) 00:56:19 ID:4iRNRoU6

 なんでもするから、この女に手を出すのはやめてください、か?
 判断するに、そういうことだろう。やさしさは美徳だが、姉の独占欲を満たすという意味では失格だ。押さえつけていた加虐心をほ
んの少しだけ表に出した。
 手のひらで転がしていた陰嚢を強く握り締め、小指の爪で鈴口を抉る。陰棒の幹を唇でやさしくなぞり上げつつ、犬歯でちくちくと
刺激した。
「ひっ、ぁ、ぉ、…ぃしま、す。……も、やめぇ」
 ふん、まあ、骨があると思って、今回は諦めよう。あの女には、私の弟に触れた償いと強姦未遂の罪がある。それを弟が償うという
のもおかしな話だが。
 さて、何をさせるかと、再び弟の肉柱を優しく攻めながら頭を回転させる。このまま弟を犯すのでは面白みが無いが、私もさきほど
からずっと弟と愛し合いたくてうずうずしているのだ。
 と、閃いた。
「じゃあ、これからは学校でも私の慰み者になってちょうだい」
「き、貴様!」
「前の時はすぐに制裁しちゃって、男だってばれる心配はなくなってしまったものね」
「…………」
「私の妹が男って事がばれたら、貴方はもちろん、私も困るのよ。もしかすると妹ちゃんも、ね」
 本人は悔しげに顔をゆがめているつもりなのか、まるで陵辱された少女のような可愛いらしい表情でにらみつけてくる弟に微笑みか
ける。
「もちろん、積極的に私とセックスするのよ。いままでみたいに逃げ回ってたら、変わりにそこの女が浮浪者の子供でも孕んじゃうか
もね」
 私としてはそれはそれで構わないのだが、私の手をつかむ弟の手に若干の力がこもる。
「わ、わかり……し、た」
「だ、だめだ、そんな女の言う事を聞くな!」
「ふふ、交渉成立ね。あともう一つ、お姉ちゃんのお願いを聞いてほしいんだけどな」
 騒ぐ女はこの際無視だ。利用価値ができたことを感謝するがいい。
 弟の性器から手を離す。絡み付いてくる先走りの液体に愛しさを覚えつつ、膝立ちで弟にまたがる。
 私ももう我慢できそうに無いが、せっかく弟が私の言う事を聞いてくれるというのだ。つい先ほどの自分の言葉で思いついた台詞を
、弟に言ってもらおう。
 スカートの中に手を差し入れて、下着を太ももの半ばまでずらす。股布がぴったりと股間に張り付いている事にかすかに羞恥心わき
 あがった。
 それを誤魔化すように、期待に震える弟の肉茎に手を添えて膣口に導いた。あふれる愛液を亀頭に塗りつけ、鈴口の窪みをクリトリ
スで刺激する。
 腰を支えるのに苦労しつつかがみこみ、弟の耳元で、囁く。
「……そ、そん、な」
「言って、くれるだけ、で、いいんだけどな。嫌、なら、いいのよ。そこの女が……」
「わ、わかり、まひた。ぃい、ます」
 人質として効果がある程度には弟の心を占める女に激しい嫉妬が掻き立てられた。だがそれも、私の劣情をあおるスパイスになる。
 はしたなく腰をくねらせて弟を飲む込む瞬間を今か今かと待ち受ける。



418 戦場に至る 19 sage 2009/04/23(木) 00:56:59 ID:4iRNRoU6

「お、ねえ、おねえ、ちゃん」
「んぁ、はぁい」
「お、男、として、お姉、ひゃん、を、愛してます……」
「っぐ、う、うん」
「おねえちゃん、……わた、しの、子供、産んで、ください」
 羞恥と屈辱と快楽で真っ赤に染まった弟の言葉に、頭の中が真っ白になった。不覚にも言葉だけで絶頂に押し上げられた体から力が
抜け、腰が落ちる。
 ずぶりと体の柔らかな部分を愛しい人の剛直が突き上げ、膣壁を押し広げながら最奥に到達する。自重をそのまま子宮で受け止め、
私はあまりの快楽に意識を飛ばしそうになった。
「あお、っあ、うぁぁあ!」
「は、いぎっあ、っはぁ!」
 毎晩繰り返した上下運動を脊椎反射で行う。蜜壷を実の弟の男性器の形に押し広げられる。
 あまりにも幸せな快楽は私から言葉を奪い、意識せず仰け反らせた咽喉からは呼気と快楽の呻き声しか出なくなる。
 頂に押し上げられたままの痙攣する膣を抉られる暴力的な快楽と、愛する弟が私を孕ませるために必死になって腰を突き上げている
という事実に、とてつもない快楽が湧き上がった。
「や、やめろ!」
「あひっ、あっはぁ!」
「っ、ぁう、ね、さん、はぁ、ねえ、さんっ」
 ここ最近ではそうであるように、弟もすでに快楽の虜なのだろう。薬と実の姉の肉体を知った弟の体は、ついに高潔な精神を、一時
的とはいえ犯すことに成功していた。
 このまま私の虜にして、本当に、心の底から私を愛するように調教するのが、私の目下の目標である。
「やめ、やめてくれ……頼む、お願いだ……」
「あ、でる、のねっ、お姉ちゃんの、子宮に、精液、いっぱい流し込むのね!」
「はっ、あっ、ぅあ、も、だめッ……!」
 粘膜を激しく擦りあげる弟の肉柱が、ぶくりと膨れ上がるのを感じた。射精の前兆を感じ取った私は、引きつった背筋を強引に縮め
、涙と涎でくしゃくしゃになった弟の顔を覗き込む。
 もう一つ、弟が頑として譲らなかった一線を越えさせる。
「今日ね、お姉ちゃん、危険日なんだぁ」
 その瞬間、熱に浮かされたようだった弟は、潤んだ瞳を目いっぱい見開き、ガツンとひときわ激しく腰を打ち上げたまま硬直した。
 私の太ももをつかんでいた腕に力がこもったのは、私を押しのけるためか、それとも姉を孕ませようとする弟の本能なのか。
「ぁ、だ、だめ、ダメ、だめぇ、だめだぁあ!」
「ぁひっ、ひゃ、き、きたぁ!」
 子宮口頚部にがっちりとはまった亀頭が、凄まじい勢いで射精を開始した。子宮内で弟の子種を今か今かと待ち望んでいたわたしの
卵が、ついに犯されるのだ。
 実の弟の精子を子宮で受け止める喜び。弟にだけ許された、姉を孕ませる権利を行使されている。
 熱湯を注がれているような熱を下腹部に感じつつ、私は愛する男の子供を孕む、圧倒的な喜びに意識を失った。




419 戦場に至る 20 sage 2009/04/23(木) 00:57:49 ID:4iRNRoU6


「ごめんなさいね、ほったらかしにしてしまって」
「…………」
 意識を失っていたのはほんの僅かな時間だったのだろう。
 本来なら今頃は退院した妹に教育を施していたのだろうけど、その妹は、一向に来ない兄のお迎えに首をかしげているだろうか。
 幼いながらも賢しい子なので、弟が女学園に通っている事や、私のツガイとして将来を添い遂げる事になっている事を早く教えてお
きたかったのだけど、次の機会に持ち越すとしよう。
 化学準備室に密かに保管していた教育用の薬物は、偶然にも弟を救い、私を孕ませることになったのだ。手間はかかるが、妹に使う
分はまた調合しておくとしよう。
 気丈に睨み返してくる女生徒は、頬を伝う涙のせいか、先ほどよりも可憐に見えた。
「さて、本題よ」
「……本題、だと?」
「ええ。残念ながら、あなたを守るナイトは、私を愛するあまり気を失ってしまったようだから」
 弟は、私と同じく絶頂と同時に気を失ってしまったようなのだ。もっとも、失神したのが同時ではないのは、胎内に感じる幸せな重
みから明らかだ。
 私が弟の種付けに早々に意識を失ってしまったあとも、劣情を抑えることができなかったのだろう、薬で力が入らない体に鞭打って
まで姉の肉体をむさぼり、排卵日を迎えた子宮に精液を注ぎ込み続けたのだ。
 何度かの射精でタガが外れて素直になるのが、ここ最近の弟の可愛いところだ。いつもなら私が主導権を握り、弟が失神したあとも
その体に念入りに愛撫を施して反応を楽しむのだが、今日は立場が逆転してしまったようだ。
 力を失った弟のモノが膣から抜け落ちる前に目が覚めなかったのが残念でならない。愛しい人の子種汁は、膝まで下ろしたままの私
のショーツと弟のスパッツにべったりと付着し、異臭を放っている。
「聞いてたでしょ、さっきこの子が言ったこと。わたしを好きにしていいからあなたに手を出さないでください、ですって」
「……これほど、人間が憎いと思ったことはない」
「心配しなくても、私の方が憎しみは深いと思うわよ。危うく、愛する人が強姦されかかったんですからね」
「…………」
「しかもその愛する人が強姦魔をかばうのよ。いまは、少し落ち着いているけどね」
 精液をたっぷりと注ぎ込まれた下腹部を、見せ付けるようにして撫でる。今頃、私の卵子は愛する弟の数億匹の精子に囲まれて幸せ
の最中だろう。
 ま、これもこの女のおかげといえなくも無いのだ。無論こんな出来事がなくても、いずれ弟は実姉たる私を孕ませる喜びを見出し、
私たちは心と体で結ばれただろうが。
 ひとまず肉体の繋がりは強固なものになったわけだ。膨らんでいく私の腹を見れば、弟も考えを改め、私を心の底から愛するように
なってくれるだろう。
 ……それには、私がまず弟に欲情しすぎないようにしなければな。



420 戦場に至る 20 sage 2009/04/23(木) 00:58:27 ID:4iRNRoU6

 精液が付着したままのショーツを引き上げる。冷たい感触はお世辞にも気持ち良いとはいえないが、弟のものと思えば、何度でも情
欲を呼び起こすことができそうだ。
 これからは学園でいつでも弟と交わることができるのだ。あるいは、心の繋がりを強固にしていくには、私は弟の魅力にハマりすぎ
ているのが、問題といえば問題かもしれない。
「というわけだから、あなたには消えてほしいの」
「……私を殺すのか」
「嫌ね、そんな面倒なことをするつもりはないわ」
「…………」
 なんなら今ここで裸にひん剥いて、きっと濡れているであろう女陰に足でも突っ込んで悶死させるのも悪くないが、それは弟との約
束に反してしまう。
 自身だけでなく妹の生活がかかっている以上、私に逆らうことはできないだろうが、以前、例の女を始末したときはかなり自分を責
めていたようだ。あまり心労をかけるのも可愛そうだし、約束は守るとしよう。
 だがもちろん、このまま返すわけにも行かない。
 この女が自棄になって弟のことを吹聴して回れば、弟との学園生活は終わってしまう。あと数ヶ月で卒業する身としては、学園生活
の思い出は少しでも多い方がいい。
 弟の優しさに漬け込んでいらないことをしないとも限らないし、ここは一つ、得意の薬にでも頼るとしよう。
 指先で弟の陰部に付着した精液をぬぐいとって唇に含む。名残惜しさをこらえてスパッツと短パンを履かせてやった。
 そういえば、この短パンを着用し始めたのは、女とばれないかぎり弟と学校ではセックスしないという約束を結んだからだったか。
 可愛い弟だ。この女さえ現れなければ……まあ、男だとばれていなくとも、妹をダシにしてどうこうしてやるつもりだったので、関
係ないか。
 気を失った弟の額に口付けてソファに寝かせる。冷蔵庫に入れていたビンから、これは手製のものではないスタンダードな薬品をい
くつか取り出した。
「これ、飲んでちょうだい。催眠薬よ」
「催眠薬?」
「そ、あなたの記憶をちょっといじらせてもらうわ。弟が男だって事、忘れてもらうの」
「…………」
「弟に近づいてほしくないから他にも条件付けを施すけど、かまわないわよね」
「断れば、私を辱めるのだろう」
「もちろん。弟にもあなたと今後一切、関係を持たないように言いつけておくわ」
「……好きにしろ」
 コップに少量の水を注いで振り返る。
「……あら、解けていたの」
「ついさっきだがな。もっと早くに解けていれば……」
「そ。でも薬は飲んでね。弟の献身を無駄にしてくれるんなら、私としても手間が省けるのだけど」
 掴み掛かって私をくびり殺すくらいのことはしてのけどうだが、そうなればいよいよ弟は破滅だ。
 相手の冷静さに期待しつつ、それでも警戒しながらシンクにコップと数錠の薬を置いた。
 余裕のある足取りでシンクを離れ、弟の眠るソファに腰掛けて、手入れの行き届いた髪に手を這わせた。
 入れ替わるようにして、しっかりとした足取りでシンクまで歩み寄った女が、いっそ男らしいほどに勢いよく薬とコップをあおる。
「……飲んだぞ」
「じゃあ、効果が現れるまで20分くらいだから待ってて。私と弟の愛の営みでもみながら、ね」
 今日何度目かの弟との口付けを交わす。
 この女にとっては弟との最後の記憶になるだろう。せいぜい、弟が私の指先に悶える様でも脳裏に焼き付けておくがいい。
 その嫌悪だけはそのままに、弟への思慕は抉り取ってやる。





421 戦場に至る 22 sage 2009/04/23(木) 00:59:19 ID:4iRNRoU6



 気がつくと、椅子に座っていた。目の前には、見覚えのある木目調のテーブルがある。
 利用いている生徒のいない図書室は、必要以上に閑散としていた。
 ひどい頭痛がする。吐き気もだ。ふらつく足に無理やり力を入れて立ち上がる。
 トイレ、は、間に合いそうにない。倒れこむようにして窓際にたどり着くと、引っかくようにして鍵をはずした。落下防止柵を超えるのも
、間に合わないだろう。
「うっ、ぶっ、げぇ、うぇ……」
 吐いた。あの女が気を失っていた時間、飲めるだけ飲んだ水が咽喉を逆流する不快感に涙が滲んだ。
 腕を縛っていたスカーフは、あの女が弟を強姦してる間になんとか外れたのだ。機会をうかがって飛び掛るつもりでいたのだが、彼
は体を差し出すことであの女が私に危害を加えるのを防ごうとしてくれた。
 なら私がするべきは、その場限りの特攻ではなく、彼を永続的に悪女の魔手から守ることだ。
「げふっ、けほっ、……はぁ、ふぅ」
 図書室の明かりに照らされた、飛び散った吐瀉物の中、あの女が飲むように指示した薬のいくつかが、白い粒のようになって浮かび
上がっていた。
 その数を朦朧とする頭で数える。いくつかの薬は完全に吸収されてしまったようだが、水溶性の低いいくつかの薬はなんとか吸収さ
れずにすんだようだ。
 昼食を食べなかったせいか、口の中に胃液の味がほとんど無い。今日こそは彼と、と悩みに悩んでいたのがこんな結果を生むとは。
「はぁ、はぁ、お、覚えてる」
 私は忘れていない。
 いつも教室の隅にいる女の子が、男の子であること。
 彼に嫌悪を持ち、接触を自分から遠ざけるようにという悪魔のような暗示にも、きっとかかっていない。
 覚えている。あの毒婦めが、逆らえないのをいいことに少年を組み敷いて、私が意識を失うその瞬間にも汚らしく腰を振りたくっつ
いた姿を。
 望まぬ子供を生み出してしまうかもしれない恐怖と、それでも自分の体を差し出さなければならない理不尽に涙を流して悲鳴を上げ
る彼の姿も、瞼に焼き付いている。
「く、そっ……」
 許さない。彼の優しさと境遇に漬け込んでその身を弄ぶ義理の姉。
 彼を救い出してみせる。
 無味乾燥だった日々は癒されることはないが、その苦しい日々が、いつか身を結ぶだろう。
 口元をハンカチでぬぐって、スカートのポケットから三枚のスカーフを取り出した。
 私のものと、彼のものと、その姉のもの。
 私と彼のスカーフを結び合わせ、三年生のスカーフを、私の吐瀉物の上に落とした。
 見る間に汚らしく変貌していくスカーフ。あの女も、いずれはこうしてやろう。



422 戦場に至る 23 sage 2009/04/23(木) 00:59:50 ID:4iRNRoU6

 あの女は、あと一月たらずで卒業する。おそらく大学に進むだろうが、それまでは涙を呑んで彼との接触も控えよう。
 油断に漬け込み、力を蓄える。乾いた日々大いに結構。その先に待っているのが彼の救済であるならば、喜んでこの身を投じよう。
 友達になるだとか、告白だとかはその後でいい。女と力を磨き上げ、彼への思いはそのままに、権謀渦巻く日々に飛び込もうではな
いか。
「やってやる……」
 スカーフを握り締めた。窓枠に手を突いて体を起こし、痛む頭を叩く。
 義理とはいえ弟を慰み者にする女。少女のような少年を脅迫して己の快楽を押し付ける卑劣漢と同類のクズ。気持ち悪い。排除する
べきだ。
 ふらつく足で図書室を出る。カウンターの奥には、見覚えの無い教師がこちらに背を向けてなにかしらの作業にいそしんでいる。
 あの人は、書庫で陵辱劇が行われていたことを知っているのだろうか。毎日のように図書室を利用している生徒が、汚らしい情欲に
組み敷かれた泣いている事を知っているのだろうか。
 まずは、あの女がどれだけの力と影響力を持っているのか、そこから調べなければならないだろう。
 確実に上回る力と権力で、彼を奪う。
 日々に潤いは戻らない。しかし闘志が湧き上がる。

 私は秘密を知ってしまった。
 秘めなければならない魅力を持った少女のこと。
 その清らかな少女がおぞましい毒婦に蹂躙されていること。
 
 きっと助けてみせる。きっと打ち砕いてみせる。
 秘密は心の奥に、暴発しそうな怒気に拳を固めて、私は決意を新たにした。
 
 願わくば、今しばらくあの子が姉の毒肉に耐えてくれますように。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年04月27日 18:51
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。