21歳のキモウト~祭り変~

295 21歳のキモウト~祭り変~ sage New! 2009/08/10(月) 04:45:57 ID:gyERArXh
「ただいま」
「お帰り、兄さん」

玄関を開けると、浴衣姿の舞がいた。
本来ならここで突っ込みを入れるところだが、今回はあえてスルーをする。
というか、彼女のその姿にはれっきとした意味があるからだ。

「もう着替えていたのか?随分早いな」
「だって待ちきれなかったんだもん!」
「とりあえず落ち着け」

今にも飛び出して行きそうな勢いの舞を宥め、俺も私服に着替えることにする。

「兄さん!早く早く!」
「そんなに急がなくても祭りは逃げんぞ」

昨日から3日間、俺のアパートの近くの神社で祭りをやっている。
一人暮らしの時はボイコットしてしまったっが、舞が来てからは毎年参加している。
というか、舞に参加させられているのだ。強制的に。

「逃げなくても減るの!主に兄さんとイチャイチャする時間が!」
「そんな時間は無くなってしまえ。そして走るな、転ぶぞ」

素足に下駄という格好にも関わらず、まるで少女のようにはしゃいでいる舞。お前今年で21だろ?少し年を考え

「何か失礼なことを考えてない?兄 さ ん」
「滅相も無い」

そ知らぬ振りで殺人的な視線をスルーする。さて、そろそろ付く頃だな。



「浴衣のゆ~は、遊郭のゆ~♪ お兄ちゃんを暗がりに引きずりこ~んで~♪ 朝までズッコンバッコン♪ や~んぜ~つり~ん♪ 虫除け対策は忘れずに~♪」

酷い歌だ。

「おい舞。なんだその人聞きの悪い歌は」
「七志野・舞作詞作曲、『浴衣で誘おう、お兄ちゃん(性的に)』。現在JA○RAC申請中」
「即刻取り下げろ。後二度と歌うな」
「えー」

何が楽しいのか、家を出るなりハイテンションで、道中こんな感じだった。

「うわぁ~!」
「ふむ。相変わらずにぎやかだな」

歩くこと10分強。件の神社にたどり着く。
そこかしこから笛や太鼓の音が聞こえ、ソースの焼けるいい匂いがする。
祭りだけあって人も多い。親子連れや友達。恋人連れも多くいるようだ。


296 21歳のキモウト~祭り変~ sage New! 2009/08/10(月) 04:46:17 ID:gyERArXh
「さて、何から手をつける?俺としては腹ごしらえから始めたいんだが?」
「あむ?」
「…………」
「ああこれ?りんご飴。祭りの定番でしょ?」
「いつの間に…」

舞の方に顔を向けてみると、いかにも体に悪そうな赤い物体を口に頬張っていた。
とりあえず、同じことをしては能が無いので、俺はたこ焼きなどを買ってみた。

「ふむ。まあまあだな」
「兄さん、一個頂戴!」
「ん」
「あ~ん!おいしい!」
「甘いものを食べてる途中なのに味わかるのか?」
「細かいことは気にしない!はい兄さん、あ~ん!」
「だが断る」
「えー」
「舌が真っ赤になるのは御免だ」
「大丈夫!私が舐めて直してあげるから!」
「断固辞退する」

そもそも、俺はりんご飴が嫌いだ。
林檎は丸齧りするに限る。ウサギリンゴまでなら許すが、飴でコーティングするなど邪道!

「どうしたの?兄さん」
「いや、何でもない」

その後も舞と見物がてら、出店を回った。
しかし…

「はむ…ちゅっ…ぺろぺろ…ぴちゃっ…」
「…………」
「ぷはぁ…はぁっ…熱くて…硬くて…おっきぃ…」
「…たかがフランクフルトを嘗め回してどうする。とっとと喰え」

「あはっ、真っ白♪こんなにいっぱい…うれしい♪」
「…………」
「はむっ…んぅっ…や~ん、べとべとするぅ~」
「さっきから綿菓子片手に何をブツブツ言っている」

「はぁっ…兄さぁん…私の、もうびちゃびちゃ…あっ♪そんなに乱暴にしたら壊れちゃうぅぅぅっ!」
「金魚掬いすら黙って出来んのかお前は」

いつからこいつは寒いギャグを飛ばすようになったのだろうか?

「おい舞」
「何?兄さん」
「…いや、なんでもない」
「そう?」


297 21歳のキモウト~祭り変~ sage New! 2009/08/10(月) 04:46:34 ID:gyERArXh
両手いっぱいに食べ物を抱えている妹を見ていると、起こる気も文句を言う気も失せる。

「とりあえず、そんなに食うと太るぞ」
「う゛っ!」

逆襲成功。半分ほど押し付けられそうになったが、全て自分で食べさせた。せいぜい体重計の前で絶望するがいい。

「兄さん!次はあっち!」
「解った解った」

小さな子供のように動き回る舞。はしゃいでいる彼女を見ていると、自分がどれだけ年を喰ったかを思い知らされる。
若いっていいなぁ…



「はぁ~!楽しかったぁ!」
「そうか…」

あれから随分と遊び倒し、気が付けば夜の10時。神社に到着したのが6時過ぎくらいだったから、4時間近く遊んでいたことになる。

「今日はご馳走様、兄さん!」
「喜んでもらえた様で何よりだ」

小遣いとして2万ほど渡しておいたのだが、全て使い切ったらしい。まあ、祭りの食料等は割高だからな。

「…………」
「どうした?」
「ううん。ちょっと昔のことを思い出して」
「昔?」
「うん。うちの町のお祭り。毎年参加してたよね」
「そうだな」

小学生の頃、毎年故郷の町の祭りに参加していた。

「兄さん、覚えてる?昔神社の裏側で、花火を見ながらした約束のこと」
「約束?」
「いつか、私と結婚してくれるって約束」
「…また懐かしいものを持ち出してきたな」

俺達は兄妹は、昔は仲がよかった。何をするにも一緒で、片時も離れたことは無い。
だが、俺達は所詮家族。兄妹だ。血の繋がりは永遠だが、ずっと一緒に暮らせるわけではない。

「兄さん。私ね…」
「言うな」

言葉を遮る。舞が何と続けようとしたのかはわからないが、何となく、先を聞くのが怖かったのだ。

「兄さん」
「ん?」
「また、来年も参加しようね?」
「…そうだな」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年08月10日 21:34
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。