籠の中(その5)

687 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 04:07:41 ID:R3FFDg1O
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

部屋の中は暗い。
まるで、籠の中のようだ。
ここは理理の部屋。
まるで飾り気の無い、気配のみが女の子の私室であると知らせる閉鎖空間。
ベッドの上では一人の少女が眠っている。
月ヶ瀬理理。
僕の――最愛の妹。
僕はその傍らに座り、その様子を眺めていた。
「お兄ちゃん・・・・」
妹の寝顔は悲哀に満ちたものだった。
お兄ちゃん、お兄ちゃんと何度も何度も呟いて魘される。
さっきからその繰り返しだ。

「俺、家を出ようと思うんだ」

つい先ほど、僕は妹にそう告げた。
その時の妹は、まるで世界そのものに絶望したかのような、呆けた顔をした。
「おにぃ・・・・ちゃん・・・・い、いま、なんて、云ったの・・・・?」
問い返す妹は、崩壊した笑顔。
莫迦なことを聞いた。そう信じようとして、失敗したような。
「ねえ、うそ・・・・だよね?聞き間違いだよね?お兄ちゃんが・・・・この家を・・・る、なんて。
何かの間違いだよね?おにぃちゃんが、私の許からいなくなるなんて・・・・」
よろよろと後ずさり、
「ねぇ・・・・?そうだよね、お兄ちゃん・・・・」
よたよたと僕の前に来る。
悲壮な。
どこまでも悲壮な表情。
慰めてやりたい。抱きしめてやりたかった。
でも、それは出来ない。
それをしてしまえば、妹はまた僕から離れなくなるだろう。
そんなことは駄目だ。
僕は理理を愛している。
だから、誰よりも幸せになって欲しい。
そのためには、兄離れさせなければいけない。
月ヶ瀬真理と云う籠の中から、巣立たせなければいけないのだ。
だから僕は首を振る。
精一杯の拒絶をつき付ける。
「理理。俺は家を出る。まだ父さんたちには云ってないけど、多分賛成してくれると思うんだ。
そしたら、可能な限り早く、この家を出るつもりだ」
「うそ・・・・」
「本当だ」
「どう・・・して・・・・?どうして、出て・・・・ぃく、なんて・・・」
「お前は俺に懐きすぎている。俺達はもっと距離をとるべきだ」
「いや・・・」
妹は耳を塞ぐ。
けれど僕はその腕を引き剥がした。
「や、・・・・・やぁ!!」
「聞くんだ理理。このままでは、多分俺達は駄目になる。だから、これが最良だ。辛いだろうけど、
我慢するんだ。お前ならきっと、それが出来る」
「やぁ、いやぁ!いやだよ!!そんなの出来ないよ!!!知ってるでしょう、お兄ちゃん!!!
理理、昔から一回だってお兄ちゃんのことで我慢できたことなんて無いよ!?お兄ちゃんが傍に
いても、我慢なんて出来なかったんだから!!!だから、だからもしお兄ちゃんがいなくなったら、
私、きっと『壊れ』ちゃおうよぉ!!!ねえ!ねえ、お兄ちゃん!いかないで!いかないでよ!!
この家から・・・・・理理のもとから出て行かないで!!!いなくならないで!!ね?ねぇ?
御願い、お兄ちゃん・・・・!!!!なんでもする、何でもするからぁ!!!!何でも云うこと
聞くから・・・・良い子に、する、からぁ・・・・お、おね・・おね、が、い・・・・っ」
最後の声は掠れていた。

688 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 04:09:26 ID:R3FFDg1O
すでに自力で立つ気力も無いのか、萎えた足は膝を着き、縋るように僕にしがみついた。
「理理、頼むから聞き分けてくれ。お前がそんなんじゃ、俺も安心できない」
「~~~~~っ」
声にならない声をあげて、泣きながら首を振る。
「ぁ・・・!ぃゃぁ!!そん、なの、・・・ぃゃぁあああぁ・・・」
妹は痙攣しながら首を振った。そこにはいつもの穏やかな笑顔も。優しい面影もなかった。
「理理・・・・」
そこまで僕に依存しているのか。
だから。
だから駄目なんだ。
僕は拳を握る。
「理理」
僕はポケットに手を入れた。小さな硬い感触を掴む。
「これは、お前に返す」
縋りつく妹に差し出した。

銀色の円環。

約束の――集大成。
「――ひ・・・!」
理理はびくりと震えた。
声をあげたのではなく、空気がこぼれたのだろう。
「あ・・・・ぁ、ぁ、ああ・・・」
理理は蠕動する。
僕を見ているようで見えていないような。
幽かに首を左右に振って。
大きな瞳からぽろぽろと涙をこぼし、口からは唾液が垂れ下がっていた。
「俺はもう、お前とはいられない」
そして決別。
その言葉を口にする。
「ひ・・・・・ぁ・・・・・」
パクパクと妹は口を動かし、
「あああああああああァァァァァァぁぁあああああぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!!!!!!」
獣じみた咆哮をあげた。
瞬間、僕の足に暖かい感触。
理理が縋りついている部位が、何かで濡れていた。
「理理、お前・・・」
驚いて目を遣る。
妹は――
理理は、失禁していたのだ。
糸の切れた人形のように弛緩する身体。
どさり、という肉の落ちる音。
妹はそのまま気を失っていた。

「・・・・ぉにぃちゃん・・・・ぉにいちゃん・・・・」
泣きながら眠る妹の頭を撫でる。
セミロングの髪はさらさらと腕を掠めた。
「お前は莫迦だ・・・・こんな兄貴に、依存する必要なんてないんだよ」
「ぃかなぃで・・・・いかないで・・・・理理、もっと良い子にするから・・・・良い子になる・・・
から・・・・」
「もっと早く、お前に分からせてあげてたら良かったんだな・・・・」
一番の莫迦者は――僕だ。
もっとずっと前から、理理を自立させてあげるべきだったのだ。
厳しいことを云ってでも、嫌われてでも、巣立ちを応援すべきだった。
僕にはそれが出来なかった。
理理と過ごす何気ない日常。
何も無くて、でも穏やかな繰り返しの日々。
それが暖かすぎて。

689 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 04:12:35 ID:R3FFDg1O
それが楽しすぎて。
甘えてくる妹を。
世話焼きな妹を。
兄想いの妹を。
僕自身が――駄目にした。
「理理」
頭を撫でる。
「ごめんな・・・」
云える事は、唯それだけ。
恨まれても良い。
憎まれても良い。
こんなに兄想いの良い子なんだから、幸せにしてあげなければ。
僕は天を仰ぐ。
窓からのぞく月白は、柔らかな光を注いでいる。
もしも神様がいるならば、ひとつだけ願いを聞いて欲しい。
僕はこの先どれほど不幸になっても良いから、その分、この娘に幸せを与えてください。
こんな風に泣かなくて済むように。
僕といた時よりも、もっと笑顔でいられるように。
穏やかなはにかんだ笑顔。
理理に似合うのは、いつだってその顔なんだから。

どれ程そうしていたろうか。
長くもあり、短くもある時間。
魘されながら眠る理理の頭を撫で続けていると、ポケットがぶるぶると震えた。
こんな状況ゆえか、それがケータイの着信であることに気づくのに、暫くかかった。
四角い液晶の中には、よく知った文字。

月ヶ瀬聖理

そう記されていた。
僕は理理の布団をかけなおすと、自室のベランダに移動した。
「にいさん」
綺麗な。
本当に綺麗な声。
聞きなれて、でも飽きることの無いメゾソプラノ。
その声に、僕は「どうした?」と返した。
「どうしたじゃないよ。にいさん、コトリにはもう云ったの?」
問う声は弾んでいる。
「云った?」
「家を出るって話。ねえ、もう云ったんでしょう?云ってくれたよね、にいさん?」
「・・・・・・」
僕は宙に目を馳せる。月白はここからは見えない。
理理は。
妹は今も魘されているんだろうか?泣いているんだろうか?
考えると、自然、声が重くなる。
「――ああ、云ったよ・・・」
「そう・・・!!」
機械の向こう側から、笑い声が漏れてきた。
「云ったの。云ってくれたのね、にいさん。で、どうだった?コトリはどんな顔してた?呆けてた
かな?泣いてたかな?それとも怒ったかな?――ううん、あの女のことなんてどうでも良いか。
        • ねえ、にいさん。いつ?いつ聖理の所に来てくれるの?」
「お前の所・・・・・?」
「そう。聖理の所。さっき云ったでしょう?あの家を出て、ここに住めば良いって。そうすることが
コトリの為だって。ねえ、いつ来てくれる?お部屋ならいくらでも空いてるよ?あ、それとも、
聖理のお部屋で一緒に暮らしてくれる?うん。それが良いよね!そうしよう?にいさん。聖理の部屋で
一緒に寝ようよ!ね。決まり。にいさん何時ごろこっちに着く?聖理、寝ないで待ってるよ?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ、聖理。俺はお前のところには往かないよ」
「――え?」

690 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 04:14:25 ID:R3FFDg1O
「確かに俺は家を出ることになるだろう。でも、それは今すぐじゃないよ。父さんたちに話して、
準備をしてからだ。それに、出来ることなら、理理にも納得して貰ってから家を出たい。
家を出るにしても、お前のとこに厄介になるわけにはいかないよ。多分、一人暮らしになるんじゃ
ないかな」
「・・・・・・・」
「あれ?おい聖理?聞こえてるか?」
突然の沈黙。
故障でもしたんだろうか。
僕は耳を澄ます。
会話をしているであろう従妹の周囲の空気の流れが伝わってくる。
壊れてはいないようだが――
「――なに、それ」
低いメゾソプラノ。
先ほどの・・・・。
従妹の家にいたときの。
指輪を見られたときの。
あの声。
「にいさん、なにふざけたこと云ってるの?にいさんは聖理の傍にいなければ駄目なんだよ?
折角聖理がコトリの呪縛から解き放ってあげようとしてるのに、“来ない”?ふざけないで。
そんなの許せるわけ無いでしょう?にいさんのすべきことは唯2つ!コトリと決別することと、
聖理を満足させること。そうでしょう?どうしてそんな簡単なことがわからないの?ねえ、
にいさん、聖理は今も待ってるの。だから早く来て!にいさんがここに来れば総てが丸く収まるの。
聖理たちは愛し合っているんだから、傍にいなきゃ駄目なのよ!?」
憤怒。
澄んだメゾソプラノから伝わる感情は、唯、それだけ。
(おかしい・・・・)
どうしたというのだろう。
僕が従妹の所へ往くと勘違いするのはまだ良いとしても、この口ぶりはなんだろう。
いつもの聖理なら、「ねえ、来てよ、にいさん」と、『お願い』してくると思うのだが。
今の聖理はもっとこう、何かが違う。
僕が往くのが当然で、そうならないことを怒っている。
聖理といい、理理といい、なにか最近は様子が変だ。
僕は機械の向こう側にいる従妹に「おちつけよ」と促した。
「落ち着く?何云ってるの、にいさん。にいさんが聖理の傍にいないからこうなってるのに!
にいさん云ってることがおかしいよ。ねえ、はやく・・・・早く来てよ。コトリなんかと決別してよ」
「聖理」
僕はケータイを強く握る。
「お前どうしたんだ?どこか変だぞ?大体、理理と決別なんて出来るわけ無いだろう?俺はあいつに
自立して貰いたいだけで、縁を切りたいわけでも何でもないんだから。兄妹って、そんなものだろう?
離れていても、支えあえる。それが正しいあり方だと思う。お前とだって離れていても、上手くやって
いけたじゃないか」
「違うよ!!」

691 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 04:15:54 ID:R3FFDg1O
怒声。
電話越しにメゾソプラノがびりびりと震える。
「聖理とにいさんは愛し合ってる。重要なのは、そこだけでしょう!?大切だから傍にいて、愛して
いるから、共にあるの。だからにいさんはここに来なきゃ駄目なの。“離れていても”?離れていたら
寂しいだけじゃない。おかしいじゃない。愛し合う男女は近くにいる。それが自然でしょう?」
違う。
僕と聖理の会話には、なにか決定的な齟齬がある。
まるっきりズレている。
そんな感じがした。
「聖理」
「・・・・・・」
「なんにせよ、お前の望む結果にはならないと思う。家をで、」
「――そう」
静かな。
先ほどの怒声とはうって変わって静かなメゾソプラノが言葉を遮る。
「そうなんだ。わかったよ、にいさん。にいさんはまだ、コトリに縛られているんだね」
「聖理・・・・?」
「それならそれでも良いよ。・・・・聖理にも、考えがあるから」
切れた。
一方的な決断。
一方通行な会話。
僕は沈黙したケータイを見つめた。
「怒らせちゃったのかな・・・・・?」
明日にでもフォローを入れておこう。
そう呟いて天を仰いだ。
掛け違えたボタンは、どこまで影響するものだろう。
かけがえの無い妹二人を想起して、唯ちいさく吐息した。


698 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 06:03:00 ID:R3FFDg1O

目を覚ます。
6時半。
いつも通りの起床時間。
僕は身支度を整えてキッチンに入る。
妹は、そこにいるだろうか。
一瞬躊躇するが、意を決して入室する。
すると。
「あ、お兄ちゃん、おはよう」
出迎えるのは、妹の笑顔。
いつも通りの風景。
何百。
何千と繰り返された朝のやり取り。
「・・・・ああ、おはよう」
挨拶をして、席に着く。
よかった。
どうやら落ち着いてくれたようだ。
僕は妹を見る。
いつもと変わらない、今まで通りの――

否。

僕の動きが止まった。
理理はいつもどおり。
それはかわらない。
『まったく変わらず』、『その手には』、『銀色の指輪が』、『嵌っていた』。
「理理・・・・」
「待っててね、お兄ちゃん。今日は腕によりをかけてつくるからね」
理理は腕をまくる。
その言葉の通り、並べられた食材は朝食と呼ぶには妙に豪華であった。
妹の手には小瓶がひとつ。
見たことのない『小瓶』。
いつもいれる『隠し味』のそれとは、違う瓶。
理理は瓶のふたを開け、傾けて、そこで動きを止める。
「・・・・ねえ、お兄ちゃん」
「・・・・なんだ?」
僕の目には指輪。
唯それだけが映る。
「私、昨日とても嫌な夢をみたの」
瓶を傾け、止まったままの理理が云う。
ここからは表情が読めない。
「・・・夢?」
「うん。夢――ううん、悪夢、かな?」
アルトボイスは昏い。幽かに瓶を持つ手が震えているように見える。
どんな夢だ?僕はそう問おうとして、やめた。
昨日の――
あのことに類する内容だろうから。
「あのね」
「・・・・・」
「その悪夢って、お兄ちゃんがこの家を出て行こうとする夢なんだよ?おかしいよね、そんなこと、
あるはずないのに。一緒にいようって、お兄ちゃん云ってくれた筈なのに。夢の中のお兄ちゃん、
そんな変なこと云うんだよ?その中でね、私は云うの。『お兄ちゃん、往かないで』って。なのに、
なのにね、夢の中のお兄ちゃんは『出て往く』って云ってきいてくれないんだよ?酷いよね、
お兄ちゃんは、理理のお願いなら何でも聞いてくれてたはずなのに、理理が泣いていれば、必ず
慰めてくれていたのに。なのに、そのお兄ちゃんは理理を傷つけることばかり云うんだよ?
おかしいでしょう?」
「・・・・・・・」
妹の声には抑揚が無い。
淡々と、感情も無いように“悪夢”を語った。

700 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 06:04:52 ID:R3FFDg1O
「理理」
僕は立ち上がる。
「理理、それは夢じゃない。そんなこと、お前だって判っている筈だろう?」
「――そう」
理理の身体の揺れが大きくなる。
これは――笑い?
妹は笑っているのだろうか。
「そうなんだ、本気なんだね、お兄ちゃん」
ぶるぶる。
ふるふる。
傾いた『小瓶』が揺れる。
「ああ、本気だ」
僕は云った。
それが最良だと信じて。
「――そっか」
妹は振り返る。
そこにあったのは、笑顔。
少し困ったかのような、穏やかな笑み。
「それじゃあしょうがないよね」
いつもの、妹の微笑だった。
「ごめんね、お兄ちゃん。私、今までお兄ちゃんの迷惑かけてたんだね。私はお兄ちゃんが大好き
だから、重荷になるほど甘えすぎてたんだね」
深々と頭を下げた。
「あ、いや・・・」
違う。
昨日とは違って、聞き分けの良い妹。
いつもの、穏やかで理解ある妹の姿。
「本当にごめんなさい。私、これからはもっと良い子になるね。お兄ちゃんに負担をかけないように、
距離をとるよ。お兄ちゃんがおうちから出て行くなら――寂しいけど、我慢する。それでお兄ちゃんの
心配事がなくなるなら、全力で応援するから」
「理理・・・」
不覚にも涙が出そうになった。
漸く。
漸く理解してくれた。
これできっと、僕達は以前のように戻れるはずだ。
妹が距離を取るのは少し寂しいけれど、それで良いんだ。
仲の良い、いつもの兄妹に戻れるんだ。
(理理が聞き分けてくれるなら、無理に家を出る必要も無いのかもしれない)
妹は微笑み、そして指輪をはずす。
「これは、もういらないね。だって、これは“永遠に傍にいる”って云う約束だもの。“永遠”を
誓った二人だけがつけるものだもんね」
にこにこと、何かを吹っ切たかのような笑顔。
憑き物が落ちたみたいに、理理の顔は晴れやかだ。
「それじゃあ、朝ごはん作ろうかな、お兄ちゃん、いっぱい食べてね?」
「ああ、そうするよ」
頷くと、理理も微笑み返して調理を再開した。
先ほどの『小瓶』。
いつもとは違う『小瓶』を混ぜて往く。
その姿を見て、僕は漸く安堵の息を吐いた。

身支度を整えに部屋に戻る。
いつもならブラシをかけるのも、ネクタイを結ぶのも、理理がやってくれていた。
けれど今日からはそれがない。
でも、それで良い。
寂しさと嬉しさが混じった、複雑な感情だ。
「よかった、本当によかった」
妹の自立。
それが僕の願いだった。

701 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 06:07:00 ID:R3FFDg1O
しっかりしているはずなのに、どこか危なげな理理。
その理理が自分の力で歩いて往けるようになるまで、傍にいてやるつもりだった。
だから恋人も作らなかったし、一緒にいてやることも多かった。
(でも、それは間違いだったんだな)
大切なのは、妹に自覚して貰うことだったんだ。
僕はホントに莫迦だ。
ずいぶんと回り道をした。
でも、これからはきっと上手く往く。
あいつがどんな人生を歩んでも、全力でそれを応援してやろう。
それが兄、貴・・・・と・・・し・・・・
「あ、れ?」
へんだな。
僕は支度する手を止める。
        • 熱い。
なんだか、身体が熱い。
妙に火照る。
「これ、は・・・」
僕は荒い息を吐き始める。
これは、男としての、生理現象、の、ときの、火、照りか・ただ。
「なんで、きゅぅに・・・」
はぁはぁと息を吐く。
(やばい・・・・)
身体の一点に血液が集中する感覚。
異常に脈打った心臓が、ココロを揺さ振って往く。
「はぁ・・・はっ・・・なんで・・・・・」
急に、こんな・・・・。
(まずい、まずい、ぞ)
シタイ・・・・。
この欲望を開放したい。
その事しか考えられなくなる。
「くそ、こ、んな・じか・・・・んに・・・」
だめだ!
とにかく“これ”をなんとかしなければ!
(それにしたって・・・・)
「はんぱじゃ・・・・・な、ぞ、これ・・・は・・・」
無い。
今までに無いほどの、強烈な性欲。
シタイ・・・・。
シタイ・・・・・。
それだけが、頭に響く。
僕はその場にへたり込んだ。
ハヤク、早く、ださないと。
きっと僕は、気が狂ってしまう・・・・!!
引きちぎるようにズボンを下ろし、男のものに触れる。
「うっ・・・あ・・・・!!」
それだけで。
それだけでイキソウナくらいの快感。
敏感になり過ぎた身体。
とけて往く理性・・・。
(どうしたんだろう・・・?)
いや、どうでも良い・・・・!
とにかく。
とにかくこの欲望を――
「お兄ちゃん」
コンコン。
扉を、叩くおと・・・・。
「理、理・・・」
妹の声。
雌の、声。

703 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 06:08:55 ID:R3FFDg1O
(オンナだ・・・)
あの扉の向こうに、オンナがいる・・・。
「あ、う・・・こと、り・・・・」
「お兄ちゃん、入っても良いかな?」
ハイッテコイ・・・。
「駄目だ!!」
「――え?」
ハヤクハイッテコイ・・・。
「お兄ちゃん?どうかしたの?」
心配そうな妹(メス)の声・・・・。
(駄目だ・・・・!!いま、今入ってこられたら・・・・)
「お兄ちゃん、入るよ?」
「だ、駄目だっ!!」
くるな・・・・。
オンナ。
来ちゃ駄目だ・・・。
オンナ。
オンナ。
ホシイ。
「お兄ちゃん、もしかして、まだ怒ってるの?昨日のことは、謝るから、だから、だから・・・」
ちガゥ・・!そうじゃ・ない!
今は、(オンナ)まずいんだ。
「とに、かく・・・・あ・ちへ、いけ・・・・!」
はぁはぁと、僕の獣じみた息遣いが・・・・(オンナ)・・・。
「お兄ちゃん、もしかして、どこか悪いの!?」
「ヤメロ・・・」
そして、扉は開かれた。
「お、おにい、ちゃん?」
ハイッテキタめすは驚いている。
そレハソぅダロう。
ズボンを下ろしたまま、苦しんでいル兄貴をまのあたりにすれば。
「お、お兄ちゃん!?」
駆け寄って、僕の肩に手を添える。
良い匂いがした。
メスのにおいだ・・・・。
(柔らかい・・・・)
妹(メス)の手の感触。
「お兄ちゃん、どうしたの?しっかりして?」
さわったら(壊したら)、きっと、(キモチイイ――)
「ぁ・・・・うあ・・・」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん・・・!!」
シタイ。
このメスと。
理理とシたい!!!
肩に乗った小さな妹(メス)のうでをつか、む。
「お、お兄ちゃん?」
(駄目だ・・・!)
僕は理理を突き飛ばす。
「きゃっ・・・!」
非力で軽い妹は簡単にしりもちをついた。
その刹那、スカートのなかの下着が目に映った。
ホシイ。
欲しい・・・・。
シタイ。
したい・・・。
「お、おにいちゃん・・・」
「で、出て往ってくれ・・・!」
力一杯叫んだ。
けれど、掠れた声は呻きの様に聞こえた。

705 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 06:11:15 ID:R3FFDg1O
「お兄ちゃん・・・・」
理理は立ち上がる。
そして、出口ではなく、僕のところへ遣ってくる。
「お兄ちゃん、苦しいんだね?」
ふわりと。
妹(メス)は僕を抱きしめる。
「ぅ・・・あ・・・ヤメ・・・・っ」
「良いんだよ、お兄ちゃん、無理しないで?」
天使のように囁いて、メス(妹)は僕をなぜる。
「苦しいよね?辛いよね?でも安心して?理理は、“お兄ちゃんの理理は”ここにいるんだよ?」
ふぅっと、メス(妹)は僕の耳に息を吹きかける。
「はぁ・・・・っ、はぁ・・・・」
おんな、オンナ。
女。
おんな。
女。
女。
「やめ・・・・・・てくれぇ・・・っ」
僕は(オンナ)泣いていた(シタイ)。
オンナ、オンナ、おんながここにいる。
「良いよ?お兄ちゃん・・・」
理理はそうして、僕の頬に口付ける。
「ぁ・・・・ぁあぁ・・・」
オンナ、おんな。女。
オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、
オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、
オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、
オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、
オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、
オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、
オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、オンナ、
理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。
理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。
理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。
理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。
理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。
理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。
理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。
理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。理理。
「ァ。あぁああぁぁぁああぁああっぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁ!!!!!」
叫んでいた。
僕は力任せにメスを押し倒し、制服を引きちぎった。
「お、おにいちゃん?」
「アアアアアアアアァアアアッぁああああ!!!理理!ことりぃぃぃぃい!!」
「い、いやぁぁあぁ!やめて!お兄ちゃん、やめてぇぇ!!!」
妹が――理理が泣き叫んでいる。
(泣き叫んでいる?)
泣き叫ぶって、こんなにウレシソウナかおをす・ルものだロウカ?
意識が性欲で塗り替えられる間際。
僕には理理が笑っていたように見えた――。

「う・・・あ?」
気だるさの中で目を覚ます。
身体に力が入らない。
(なんでこんなに疲れてんだ?)
部屋の中は暗い。
今は、夜だろうか。
僕は体を起こした。
「うわ!」

707 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 06:13:15 ID:R3FFDg1O
自分の姿に驚く。
服を何一つ纏っていない。
(な、なんでこんな)
状況を思い出そうとして――
「あ・・・あああ・・・・」
僕は眩暈に襲われた。
部屋の中は饐えた匂いが立ち込めていた。
そこかしこには粘ついた液体がへばりついている。
月明かりの中で目に入る床には、ちぎられた衣服。
「あ・・・あ・・・・・」
それで。
それで僕は嫌でも思い出してしまった。
「こ・・・・理理・・・!!!」
僕は――
僕はなんてことを――!!!
(いや、そんなことより・・・・!!!!!)
記憶を失う瞬間に、泣き叫んでいた妹の姿を思い出す。
「ことりっ!理理!」
いない。
この部屋に、妹の姿は無い。
「う・・・あ・・・」
よろめきながら電気をつける。
「――ひ・・・!!」
そして、絶望した。
白濁した液体の中に。
真っ赤な――
真っ赤な純潔の証があった。
「あ・・・・・・」
僕はよろめく。
背中が壁にぶつかり、しりもちをついた。
ここで――
ここで妹は、実の兄に犯されたのか・・・!!
頭が真っ白になる。
視界がぼやけて、思考が狂う。
なんという――
なんという精液の量だろう。
いったいここで何時間・・・・どれほどあの娘は穢されたのだろうか?
「――うっ」
胃から何かがこみ上げてくる。
僕は慌ててベランダに出て、
「う゛ぇぇぇええええええ!!」
吐いた。
泣きながら何度も、胃の中のものを逆流させた。
はぁはぁと荒い息遣いで振り返る。
喉がひりひりと痛い。
見れば見るほど、この部屋の悲惨さがわかる。
胃はもう空っぽなのに、僕はまた嘔吐いた。
「こ・・・理理・・・・」
あの娘は。
妹はどこにいるのだろう・・・・。
実の兄に穢されて。
この汚物の中から、どこへ往ったのだろう。
乱暴に服を着て、よろよろと歩き出す。
一歩。
二歩。
歩くことは、こんなにも大変なのか。
部屋を出る。
すぐ傍には、妹の部屋が在る。
扉から光は漏れていない。

708 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 06:14:55 ID:R3FFDg1O
電気がついていないのだ。ここにはいないのだろうか?
僕はそれでも恐る恐るノブを捻った。
「――あ・・・・」
「来てくれたんだね、お兄ちゃん」
僕は呆ける。
妹は。
理理はそこにいた。
月明かりに照らされながら、椅子に腰掛ける妹は、純白のドレスに身を包んでいた。
いつだったか、余所行きのために両親が買ったドレス。
まるで花嫁衣裳のように繊細で、綺麗な白の装飾。
レースのヴェールを頭に乗せて、白いコサージュで飾りをつけて。
薄く化粧をして、微笑して。
あんなことのあとなのに。
理理があまりにも綺麗だったから、その姿に見蕩れた。
「こと・・り・・・」
僕はよろよろと妹の前まで歩き、がくりと膝をついた。
「理理・・・お、俺は、俺は、お前に・・・・」
思い出すと、吐き気と共に涙が出てくる。
理理は「うん」と微笑んで、僕の頭を抱いた。
「そうだよ、お兄ちゃん」
柔らかくて、とても良い匂いがする。
「私はね、お兄ちゃんに犯されたの」
「――っ!!」
身を竦ませる。
そうなのだ。
僕は妹を、この手で――
「初めてだったのに。止めてって泣いたのに。それでもお兄ちゃんは止めてくれなかったんだよ?
ねえ、今が何時かわかる?もう、9時だよ?お兄ちゃん、朝から晩まで、理理のことを攻め立てたの。
どれだけ苦しかったかわかる?どれだけ痛かったかわかる?一番大好きで、一番信じていたひとに
裏切られ、穢されたの。その意味がわかる?」
「あ・・・あああ・・・あああああぁ・・・」
僕は泣いた。
聞こえてくる妹の声はどこまでも柔らかい。
「一杯――いっぱい“だして”くれたよね。理理のなかに。朝からずっと注がれ続けたんだもの。
きっと、妊娠しちゃうよね」
妹はそう云って下腹部を撫でる。
「ねえ、お兄ちゃん。なにか云う事はないの?」
「あ・・・・お、俺、は――」
がっくりと手を床につけた。
慟哭ばかりが胸の中を渦巻く。
「お、俺は、お前にどう償えば・・・・・」
「償う?」
妹は呟く。
「ねえ、お兄ちゃん、わかってる?“償い”なんて出来ないんだよ?お兄ちゃん、自分がどんなこと
したのかわかっているの?」
「う、あ・・・」
理理は再び僕を抱きしめる。
「私、もうお嫁にいけないんだよ?そういう身体にされたの。お兄ちゃんが奪ったのは、純潔だけじゃ
ない。理理の未来も!幸福な人生も!なにもかも!全部駄目にされたんだよ!?」
「あ・・・・」
絶望する。
涙で総てが真っ暗になった。
「ことり・・・理理っ・・・。ごめん・・・ごめんよ・・・・。あ、謝って済むことじゃないって、
わかってる。お、俺は、お、お前に・・・お前に・・・」
一番幸せになって欲しかった肉親の人生を、僕自身が破壊したんだ・・・・!
「ゆ、許してくれ・・・。お、俺は、どうしたらお前のことを癒せる・・・?なんでも、なんでも
する・・・。今すぐ死ねっていうなら、そうする・・・。だ、だから・・・・」
「癒す?」
理理は僕をじっと見つめる。

709 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/20(日) 06:16:21 ID:R3FFDg1O
「そうだね。理理は傷ついたの。一生癒えない傷をつけられたの。だったら、お兄ちゃんは責任を
とってくれなきゃ。癒えることの無い私の傷を、永遠に傍で舐め続けなきゃいけないの。それが
贖罪。それが断罪だよ?私はもう、結婚することも出来ないんだから、お兄ちゃんがかわりに
ならなきゃいけないの。“永遠に”“私の傍で”罪を償うのよ?」
僕は頷いた。
それ以外の選択肢はなかった。
「ふふっ。じゃあお兄ちゃん、これ」
妹の白い小さな掌の上には、二つのリング。
総ての発端となった、あの指輪があった。
「これ、は・・・」
「云ったでしょう?“永遠を誓う”“約束”だって。なら、その証をつけないと」
理理はひとつ。
指輪を僕に手渡した。
「お兄ちゃんには理理が嵌めてあげる。だからお兄ちゃんも理理に嵌めて?」
悠然と微笑んで、左手を差し出した。
僕もそれにならう。それ以外に無い。

「汝、月ヶ瀬真理は月ヶ瀬理理を生涯の伴侶とし

良しにつけ悪しきにつけ

富めるときも貧しきときも

病めるときも健やかなるときも

死が二人を分かってもなお

愛し慈しみ

貞節をまもることを誓いますか?」

「・・・・・・・誓い、ます」
妹の指にリングを絡める。
「私も、誓います」
僕の指にリングが絡まる。
「これでお兄ちゃんは“私のもの”だね」
理理は笑って僕に口付ける。
僕はたぶん、泣いていた。
泣きながら、それを受け入れた。

こうして、僕と理理の間には『永遠の約束』が結ばれたのだった。

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最終更新:2007年11月01日 00:40
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