籠の中(その6)

208 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/28(月) 19:47:15 ID:Ck9zC67l
早朝。
僕は妹の部屋で目を覚ます。
傍に理理の姿は無い。おそらく台所にいるのだろう。
身体はまだ少しだるい。
終日意識無く妹を攻め立てていたせいだろう。酷く体力を消耗している。
“あんなこと”があったというのに、眠りこけていたのは僕自身の疲弊のためだ。
普段、理理は僕の部屋で一緒に寝たがる。
『お兄ちゃん』の匂いのする部屋で寝たいのだと云って。
けれど今の僕の部屋は、掃除が完了していない。
そうでなくとも、“あんなこと”があった場所だ。出来るなら――近づきたくはなかった。
それで、この部屋で同衾したのだ。
兄――
僕はもう、その資格すら失った。
護るべき、愛すべき妹の人生を、この手で奪い穢したのだ。
自らのおぞましさに吐き気と殺意を覚える。
いっそ・・・。
いっそ今すぐに死ねたら、どんなに楽だろうか。
不安も責任も放棄して、永遠の無の中に逃げ込めれば、どんなに良いだろうか。
けれど、それは出来ない。
「お兄ちゃん」
僕をそう呼んで、穏やかに笑っていた妹を、独りに出来るわけが無い。
理理は――
妹は怒っているだろうか。
悲しんでいるだろうか。
それとも蔑んでいるだろうか。
そのどれでも良い。
妹がどう思おうと、“傍で償え”と望む以上、僕のすべきことは唯一つだ。
月ヶ瀬真理の人生は総て。
月ヶ瀬理理の支えとして、贖罪を続けなければならないのだから。
悔恨と慙愧。
それだけが僕の中身になった。
けれど、妹を思えばそれがどうだというのだ。
最も懐いていた親族に穢された痛みは、僕などとは比べ物にならないだろう。
僕の罪は、果てしなく重い。

キッチンに入った。
支度をしていた妹はすぐに僕に気づいて、傍まで遣ってくる。
「おはよう、お兄ちゃん。今日は早いね」
ぎゅうっと。
理理は僕を抱きしめる。
「理理・・・」
なんと云えば良いだろうか。
かけるべき言葉が見つからない。
「お兄ちゃん、キスして?」
「え」
「キス。おはようの挨拶」
「でも・・・・」
「なにも考えちゃ駄目よ?これはお兄ちゃんに与えられた罰なの。私がそうしてって望むんだから、
お兄ちゃんがすべきことはひとつでしょう?」
「・・・・・・・」
兄妹どうしでキスをする。
そんなことはまともではない。
いや、それ以前に、乱暴を働かれた相手にそんなことをされて、満足なのだろうか?
見おろす小さな妹は、すでに瞳を閉じ、顔を上げていた。
(これは理理が望むこと・・・・)
仕方なく、妹の可憐な唇にキスをする。
「んぅ・・・」
吸い付くような感触。温かで柔らかい触覚。
妹の唇はこんなにも気持ちの良いものなのか。

209 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/28(月) 19:49:05 ID:Ck9zC67l
考えていると、
「ちゅっ・・・。ちゅぱ・・・」
理理は僕の首に腕を絡め、舌を口内に這わせ始める」
「ん・・・!!んん・・・」
慌てて離れようとすると、妹の腕に力が篭った。
逃げるな。
理理からはそんな気配が伝わってきた。
僕は力を抜き、されるがままなる。妹は僕の唾液をごくりごくりと嚥下し、その交換と云わん
ばかりに自らの唾液を兄に流し込んだ。
(気持ち悪い・・・・)
しかし吐き出すわけにもいかない。
口内にたまった妹の唾を体内に取り込んだ。
5分もそうしていただろうか。
妹が漸く唇を離す。と、
つう、と舌と舌の間に唾液の糸がかかった。
「あは。口のまわり、べたべたになっちゃたね」
理理は口端から銀糸を垂らしながら笑い、
「私が綺麗にしてあげるね」
僕の口まわりを丁寧に舐めあげた。
「お兄ちゃん、“これ”が、これからの朝の挨拶だよ。憶えておいてね?」
そう云って理理は笑う。
そこにあった笑顔は、もう僕の知るそれではなかった。

「往こう、お兄ちゃん」
家を出るなり、理理は腕を組む。
僕に寄り添うような腕のからめかた。
笑顔と同様、以前とはどこか違う密着のしかた。
まるで囚われたかのような。
そんな錯覚さえ受ける、妹の抱擁。
「理理・・・・流石に、まずくないか、これは・・・・」
「お兄ちゃん、“これ”は私が望むことだよ?まずいとか、まずくないとか、そんなことは考えなくて
良いの。お兄ちゃんが大切なのは誰?償うべきは、誰?まわりなんて気にしなくて良いんだよ?」
「・・・・・・」
そう云い切られると、もう僕は何も云えない。
黙って受け入れるしかない。
腕に頭を寄せる妹をそのままに、道を歩く。
突き刺さるのは、視線。
周囲は僕らをどう見ているのだろう。
兄と妹。
そう知っている人も多いのに。
学園が近づき、見知った顔が増える度に、皆は奇妙な顔をする。
それはそうだろう。僕らは兄妹。
こんなことをして歩く存在ではないのだ。
しかも互いの手には銀色のリングが嵌っている。
ヒソヒソと囁かれる声。
信じられないものを見るような視線。
穢されたはずなのに幸せそうな妹。
沈黙するだけの僕。
なにかが狂っているようだった。
いや。
狂っているのは――僕だ。
大切にしていた実の妹に襲い掛かったのだ。まともな人間ではない。
畜生。
そう呼ぶほうが相応しいだろう。
案の定、学校では腕を組んでの登校と、ペアのリングが話題になった。
僕は何も答えない。
何を云えるというのだ。
対して理理はそのことを尋ねられると、「愛しているから当然だ」と答えたらしい。
どういうことだろうか。
あんなことをされてもなお、僕を兄と思ってくれているのだろうか。

210 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/28(月) 19:51:07 ID:Ck9zC67l
休み時間に遣ってきた理理は、人目もはばからずに僕に抱きついた。
クラスメイトの視線など気にも留めない。
僕も振り払わない。
こんなことは妹のためにはならないだろう。
たとえ本人が望んでいても、よからぬ噂がたつようでは、将来は暗い。
だから兄として、叱ってやる必要がある。
けれど僕はもう兄ではない。
その資格を失った。
苦々しくても、理理の望むままにあるしかないのだ。
学校にいる間中、僕は涙をこらえて過ごした。

放課後。
校門前で理理を待つ。
今まで下校時間が異なるときは別々に帰宅していたが、今日からはそれも変わるらしい。
「お兄ちゃんは私の傍にいるべきなの。一緒に帰るのが当然だよ?」
理理にそう云われたのだ。従うしかない。
僕はなるべく指輪を見えないように気を使う。
テーピングは絶対に許さない。
妹はそう命じた。
勿論、外すことも儘ならない。
“これ”は僕が負った罪の証。
背負うべき十字架なのだ。
だから外せない。隠せない。
けれど――
僕は思う。
このままで良いのだろうか。
自立。
それが今までの僕の望みだった。
今はそんなことを口にする資格はないし、一生かけて償いをする覚悟はある。
妹を不幸にした莫迦者が云って良いことではないのだろうが。
このままでは、理理はもっと駄目になる気がする。
なんとかしてあげられないだろうか。
懊悩だけが時を持ち去ってゆく。
暫くそうしていると、門の外からざわめきが聞こえた。
僕は気にも留めない。
そんな余裕は無い。
だが、聞き取れた言葉に顔を上げた。

「迎えに来たよ、にいさん」

ざわめきの正体。
凄まじい美少女。
名門私立校の制服を着た、一人の少女。
心奪われるほどに綺麗な声をもった従妹がそこにいた。
「聖理・・・」
僕は左手で鞄を握る。指輪を不可視にするために。
「お前、どうしてここに?」
「どうして?やだなにいさん、今聖理が云ったでしょう?にいさんを迎えに来たんだって」
従妹は猫のように大きくて綺麗な瞳を細める。
笑顔・・・・そう呼んで良いものなのだろうか。
「む、迎え・・・?」
「うん。迎えに来たんだよ。にいさん、コトリを捨てて聖理のお家に来てくれるんでしょう?」
「・・・・それは無理だって、一昨日云ったろう?」
そして今はもっと無理だ。
理理から離れることは許されない。
「にいさん、まだコトリに縛られてるんだね。まあ、そのことはいいや。とにかく聖理のお家に来て」
従妹は僕の右腕にぎゅうっと抱きつく。引っ張るように腕を組むので、身体が傾いた。
「来てくれれば、多分総てが上手くいくよ」

211 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/28(月) 19:53:05 ID:Ck9zC67l
どこか自信に溢れた様子で聖理は笑う。
ぐいぐい。
むにむに。
気のせいか。
いつもよりも柔らかなものが腕に当たる気がする。
「本当は昨日迎えに来ようと思ってたんだけど、色々準備してたから・・・」
「準備?」
「にいさんをもてなす準備。来ればわかるよ。さ、いこ?」
聖理は僕を引っ張る。
刹那。

「どこにいくのかな、お兄ちゃん?」

背後から響くコントラルト。
僕と従妹は門の中に振り返る。
「なんだ、いたの?」
聖理はつまらないものを見たかのように呟き、
「いこ、にいさん」
僕を引っ張ろうとする。
「お兄ちゃん」
傾いた体を凍結させる妹の声。
僕の体が動かなくなる。
もともと小柄な聖理には、僕を引っ張るだけの力は無い。従兄が移動をやめると、聖理は再び門の中に
振り返る。
「コトリ、にいさんは私と帰るの。邪魔しないで」
「私、さとりちゃんになんて話しかけてないよ?帰るなら独りでどうぞ」
理理は薄笑いを浮かべて歩き、僕の腕を取った。
「私のにいさんに馴れ馴れしく触らないで」
「私のにいさん?何云ってるのかな?さとりちゃんには“お兄ちゃん”はいないじゃない。この人は
“私の”お兄ちゃんだよ?」
理理は嘲笑する。
聖理は僕を掴む腕に力を込めて妹を睨め上げる。
「コトリ、貴女、私に喧嘩を売ってるの?」
「そんなつもりはないよ?私、争いごと嫌いだもの。さとりちゃんにはお兄ちゃんなんかいない。
唯、その事実を述べているだけ。外様に外様。他人に他人。偽者に偽者って云って、何が悪いの?」
「――!!」
聖理の表情が憤怒に塗り変わる。
それに気づいた僕は、従妹が飛び掛るより早く妹を窘めた。
「理理!そういう云い方をするんじゃない。聖理も大事な妹だ。他人じゃないだろう」
「お兄ちゃん・・・」
理理は僕を見上げる。
「私、そんな云い方されると、“また傷ついちゃう”よ?」
「・・・・」
傷つく。
その言葉に僕は沈黙する。
(そうだ、俺は――)
この妹を、傷つけたのだ。
「ねえ、お兄ちゃん。どうするの?私を叱るの?」
「・・・・・・」
「出来ないよね、そんなこと。お兄ちゃんは私を傷つけるわけにはいかないもんね。癒し続けるんだ
もんね。一生かけて」
押し黙る僕を見て、妹は「ふふっ」と笑った。
「・・・コトリ」
「なぁに?さとりちゃん」
「貴女が私をどう見てようと、そんなことは関係ないの。にいさんは私を愛してる。私の許に
来たがってるの。それだけが事実なの」
「寝言は寝て語ってね。それとも、黄色い救急車を呼んでほしいの?」
やれやれと肩をすくめる妹。対して従妹は鋭い目つきで理理を見ている。
「寝言じゃない。だってにいさんは、家を出て往こうとしてたでしょう?」

212 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/28(月) 19:55:06 ID:Ck9zC67l
「!!」
「にいさんは貴女から離れたがってるの。いい歳をして、いつまでも付きまとう、キモチワルイ妹に
迷惑してるのよ!」
「――そう」
理理の顔から、笑みが消える。
「お兄ちゃんが出て往こうとしたのって、やっぱりさとり・・・ちゃんのせいだったんだ」
「半分はそうよ。でももう半分はコトリがウザイからよ?だからにいさんは私の許に来るの。
“本物のくせに”離れようとしない、コトリが嫌だから、愛する私の許に来るの」
「離れようとしない?」
へら、と理理は笑う。
「私から離れたくないのは、お兄ちゃんのほうだよ?私、お兄ちゃんが距離をとるなら、応援するって
云ったもの。でもお兄ちゃんは“永遠に”私の傍にいるって誓ったの。だから私はそれを受け入れた。
それだけのことだよ。ね。お兄ちゃん?」
「・・・・・・」
見上げる妹から目をそらすように僕は俯いた。
「なに云ってるの?にいさんはコトリが兄離れしなくて困るって云ってたのよ?永遠に傍にいるなんて
そんな莫迦なこと、云うわけ無いでしょう?」
「ふふ・・・」
理理は仕方ないなぁ、と呟いた。
「お兄ちゃん、見せてあげて?私達の“永遠”を」
歪み。
理理はまた、僕の知らない歪んだ笑みをみせる。
僕は逆らえない。
逆らえずに、隠していた左手を持ち上げた。
「――嘘・・・」
きらきらと陽光に反射する銀円。
永遠の咎がそこにある。
「にいさん、どうして・・・・この間、外してあげたのに・・・・叩きつけてあげたのに・・・・」
よろよろと従妹はあとずさった。
「ふぅん。指輪を外したのもさとりちゃんの仕業だったんだ。本当にろくなことしないんだね、さとり
ちゃんは。でもまあ、良いかな。もうこれは外せないから。お兄ちゃんが望んだ永遠だから。
私達本物の兄妹の約束なの。さとりちゃんの入れない、二人だけの世界なんだよ?」
理理も左手を上げる。
まったく同じデザインの円環が、銀色に光る。
「これ、お兄ちゃんが嵌めてくれたんだ。お兄ちゃんのは、私が嵌めたんだよ。わかったでしょう?
お兄ちゃんは家を出ない。永遠に私の傍にいるの。永遠に私だけを愛でて、私だけを甘やかすの。
そうだよね、お兄ちゃん?」
「・・・・・」
僕はなにも喋れない。
その資格が無い。
唯黙って頷くだけだ。
罪。
永遠の罪。
一生をかけての償い。
それだけが事実。
「にい、さん・・・」
聖理は震える瞳で僕を見上げる。
「家を出るって、云ったでしょう?聖理のこと、愛してるって云ったじゃない・・・。なのに、
なん、で?」
「・・・・・・」
沈黙。
どちらにも。
どちらの妹にも、語るべき言葉が無い。
「そっか・・・・」
聖理はポツリと呟く。
「籠だ。――にいさんは、籠の中にいるんだね」
「聖理?」
「わかったよ。にいさんは必ず、聖理が助けてあげる」
哀れむような瞳。

213 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/28(月) 19:57:12 ID:Ck9zC67l
おおきなツリ目が僕を見て。
「コトリ。必ず後悔させてあげる」
踵を返して立ち去った。
「お、おい。聖理」
「お兄ちゃん。駄目だよ」
ぎゅうっと妹は僕を抱きしめる。
「さとりちゃんなんかに構っちゃ駄目。お兄ちゃんが見るべき相手は、私一人でしょう?」
「・・・・・・」
従妹の背中に伸ばした手をおろし、ギュッと握る。
理理も。
聖理も。
そして僕も。
どこか『狂った』。
そう感じ、その予感に何か――とても嫌なものを覚えた。

深夜――否、早朝の四時。
僕はいまだ眠れずにいた。
自室。
その布団の中に、兄と妹はある。
理理はすやすやと寝息を立てている。
『この場所』で眠るのは嫌だ。
僕はそう云った。
罪を犯したその場で、罪に犯された妹と眠るなんて、考えるだけでもおぞましい。
けれど理理は云う。
『この場所』だから良いのだと。
「お兄ちゃんが理理のものだって自覚できるこの部屋だから良いんだよ。ねえ、思い出して、
お兄ちゃん。あの日のこと。私を無理やり“女”に変えた昨日のこと。こんな思い出の場所だから、
私達二人が眠るのには丁度良いんだよ」
罪を自覚しろと云うことか。
それならば断れるはずもない。
受け入れるしかない。
そして、ここで眠る。

僕が罪を犯してから、理理の様子は更に変わった。
今日の夕食は、僕は『手』を出していない。
「はい、お兄ちゃん。あ~ん」
食べる順番も。
「お水。私の口から飲んで?」
水分をとる時も。
「咀嚼もしてあげたほうが良いかな?」
決定権は妹にあった。
「二日続けてあの『隠し味』は危険だから、今日は我慢しなきゃ。私の身体もまだ痛いし」
そうしてお休みのキスをねだる。
朝よりも更にねちっこい接吻。
永遠。
これからもずっと、こんなことが続くのだろうか。
心が痛い。
傷つけたのは僕のほうなのに。
自分のほうが先に潰れてしまうのではないか。
無責任にも、そう考えてしまう。
朝からずっと胃が痛い。
安らかな寝息を立てる理理とその横で苦悶する己。
(一日目でこれか)
一生なんて、もつのだろうか。
そう悩んでいると、
「あれ?」
チカチカと机の上が明滅していた。
「ケータイ?」
着信だ。

214 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/28(月) 19:59:51 ID:Ck9zC67l
こんな時間に?
僕はそろそろと布団から這い出て、空き部屋のベランダに出た。
「・・・・にいさん・・・・」
メゾソプラノ。
聞き覚えのある美声がした。
「聖理?どうしたんだ、こんな時間に」
「助けて、にいさん・・・・苦しいの・・・・」
「苦しい?どうした?何かあったのか!?」
いつもとは違う、弱弱しい声。
「助けて、にいさん・・・。聖理を、助けに来て・・・・」
「聖理、しっかりしろ?どうしたんだ!?」
「来て・・・・聖理の・・・お家に。にいさん・・・早く・・・」
電話はそこで切れた。
「聖理っ」
僕は部屋に駆け込む。
理理に出掛ける旨を伝えなければ。
(いや)
そこで動きを止める。
昼間。
聖理が去った後、理理はこう云ったのだ。
「お兄ちゃん。さとりちゃんとはもう逢わないで。それがどんな理由であっても、絶対に逢わないで。
命に係わるような理由でも、絶対に逢っちゃ駄目」
理理は聖理に逢いに往くといって、それを許可するだろうか。
電話での聖理の様子はただ事ではなかった。
けれど僕が向こうへ往くことを認めるだろうか。
暗い予想が頭をよぎる。
「・・・・・・」
妹はいまだ寝息を立てている。ならば今のうちに様子を見に行ったら良いのではないか。
大したことが無いならすぐに帰ってくれば良い。重大事なら、そこで説明しよう。理理ならきっと
わかってくれるはずだ。
そう決断し、妹を起こさないように着替え、財布とケータイだけ持って家を出た。
念のため書置きをしておく。
「急がないと」
タクシーを呼び出し、僕はそれに飛び乗った。

215 名前:籠の中 ◆UHh3YBA8aM [sage] 投稿日:2007/05/28(月) 20:01:08 ID:Ck9zC67l

道路が空いていたこと。運転手に急いで貰ったこと。
そんな理由で、思ったよりも早く聖理の家に着く。あれから着信は無い。
「聖理」
大きな玄関の呼び鈴を鳴らす。
すると、その瞬間に扉は開いた。
「にいさん」
小柄な身体が僕に抱きつく。
「聖理」
良かった。とりあえず無事のようだ。
「やっぱり来てくれたんだね、にいさん。嬉しいよぉ」
「当たり前だろう、そんなこと。それで、一体どうしたんだ?」
「うん・・・」
従妹は頷く。
「聖理のお部屋に来て?大変なの・・・・」
「お前の、部屋?」
首を傾げつつも、引っ張られるままに後をついて往く。
「入って」
導かれて入った部屋は、酷く薄暗い。
ぼんやりと見える室内に、いつもとの差異は見出せない。
「聖理、電気をつけてくれないか?暗くてよくわからない」
「電気?電気をつければ良いんだね?」
僕は頷きながら振り向く。
――刹那、

バチバチバチバチ、と云う音が聞こえた。

そして、激痛。
「なっ・・・・?」
何だ?
ショックで意識が遠くなる。
「――これも“電気”だよ。にいさん」
「ス、タン・・・ガン・・・・?」
笑う聖理。

崩れていく身体。

僕の意識はそこで途切れた。

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最終更新:2007年11月01日 00:41
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