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私は貴方に相応しい? 第2話 1/5 sage New! 2009/10/14(水) 15:13:50 ID:3aN78j+x
「先輩、今日はどうもありがとうございました」
「いやいや。それにしても、あの糞野郎に、こんないい妹さんが居たとはね」
「私もあの愚兄には心底参っています。で、先ほどの件、考えていただけますか?」
「ああ、君と付き合う、って奴?」
「はい。今一度考え直していただけたら、と」
「ゴメン。僕はやっぱり吹雪ちゃんの方が…」
「…そうですか」
「悪いね」
「いえ、相手が吹雪なら仕方ありません。ですが先輩、今後も私と付き合っていただけますか? 友人として」
「まあ、友人としてならいいよ? 君のお兄さんは大嫌いだけどね」
「愚兄の事ならどうぞお好きに」
「そうさせてもらうよ」
「…では、私はこれで失礼いたします。今日は楽しかったです、先輩」
「ああ。俺も楽しかったよ」
「さようなら、先輩」
「また明日な」
先輩と別れ、ホームを後にする。
「…何が楽しかった、だ。こちらは一日中不快な思いをさせられたというのに」
兄に手を上げた人間の側に居ることが、これほど苦痛だとは思わなかった。
ましてや、本気でなかったとはいえ、私の告白を受けて尚、『吹雪の方が好き』と抜け抜けと言い放つ男である。
「…まあいい。奴の命も、もうすぐ終る。せいぜいあの世で悔いるがいい」
兄に相応しいのは吹雪であり、貴様の割り込む隙などない。
「先輩、さようなら」
キキーッ!!
キャーーーーーー!!
ヒトガ トビコンダゾ!
ケイサツ ヨベ!
キュウキュウシャ モダ!
「永遠に」
115 私は貴方に相応しい? 第2話 2/5 sage New! 2009/10/14(水) 15:14:35 ID:3aN78j+x
「起立! 礼!」
「「「「ありがとうございました!!」」」」
号令が終わり、今から放課後になる。
「んーーーーーーっ!! 終った終った。さて、今日はどうするかな?」
「おい御影、今日も来てるぞ」
「へ?」
クラスメイトの声に目を向けてみると、教室の入り口に可憐と吹雪ちゃんが立っていた。
「いいなぁお前は。あんな可愛い子が二人もお迎えか?」
「片方は妹だ」
「じゃあもう片方は正真正銘の彼女か。どっちか紹介しやがれコノヤロウ!」
「彼女じゃねえよ。後そういう台詞は学園一の誑し野郎に言ってくれ」
友人の軽口を華麗にスルーし、俺は二人の元へ移動する。
「や、待たせちゃったかな?」
「い、いえ、とんでもない…」
「私達が来ているにも関わらず、友人と談笑するとはいい度胸だな。そんなに後輩を焦らせるのが好きか? このドSめ」
「誰がドSだ!」
「貴様だ貴様」
「まあまあ可憐さん。とし…先輩、今日もご一緒に帰りませんか?」
「え? あ、うん。俺はいいけど…」
「何を見ている。そんなに私が邪魔か? 安心しろ。二人の仲を引き裂くような野暮はせんよ。先日死んだKYな男と違ってな」
「可憐!」
「可憐さん言い過ぎです。亡くなった方を悪く言うものではありません」
「…すまん。失言だった」
「お前は吹雪ちゃんに対しては素直だな…」
「フッ。将来義姉となる女性だからな。嫁小姑関係を円満にするためだ」
「誰が将来の義姉だ!着々と既成事実を作るな!」
「だが貴様も嫌がってはいまい?」
「うっ、そ、それは…」
「ましてや我が学園で五指に入る美女だ。これで迷惑だ、とか抜かしようものなら沈めるぞ。東京湾に」
「まあ、吹雪ちゃんが絶世の美少女ってことは認めるけど…」
「それはなによりだ。彼女の友人として鼻が高い。しかし愚兄よ、貴様は今一番大事な事を忘れているぞ。この場に吹雪がいることをな」
「あ」
「////////」
可憐の言葉に我に返ってみると、頬を染めるどころかまるでトマトのように真っ赤になっている吹雪ちゃんが立ち尽くしていた。
116 私は貴方に相応しい? 第2話 3/5 sage New! 2009/10/14(水) 15:15:05 ID:3aN78j+x
「あ、吹雪ちゃん、これは、だね、その…」
「////////」
「ぁぅ…」
「フッ、青春だな…」
「って! 元はと言えばお前のせいだろうが!」
「奥手の二人にテコ入れしてやったのだ。感謝されてしかるべきだと思うが?」
「ぐぅ…」
確かに俺も吹雪ちゃんも奥手どころか初心なことは認めざるを得ない。
「さて、まだまだからかい足りぬところではあるが、我らは良いとして吹雪の家には門限がある。とっとと行くぞ」
俺と吹雪ちゃんを引っ張る可憐。
(そういや、可憐と手をつなぐなんて何年ぶりだろう?)
俺はふと、そんなことを考えていた。
「こちら妹姫。聖母、応答せよ」
『こちら聖母。二人の状況を述べよ』
「目標は十六夜通りを北上中。肩を並べて歩いている。何というか、見ていてむず痒い」
『聖母より妹姫へ。解っているな?今日のミッションは…』
「解っている。吹雪に告白させること。最低でも手をつなぐところまではいかせたい」
『解っているならいい。私はこれから予備校だ。休み時間になったらまた連絡する』
「妹姫了解。監視と尾行を続ける」
真理亜との電話を切り、愚兄と友人の後姿に目を向ける。
二人は談笑しながら歩いているようだ。時々吹雪が笑顔を兄に向けている。
「ふむ…」
しかし、視線を下に向けてみれば、触れようと伸ばしているものの、あと少しというところで引っ込めてしまう吹雪の手があった。
「吹雪も意外と臆病だな。いや、それ以前に」
我が愚兄は、あんな美少女と歩いていながら、邪な思いの一片も抱かないというのか?
これでは、学校に忘れ物をした振りをして、二人きりにさせた意味がないではないか。
117 私は貴方に相応しい? 第2話 4/5 sage New! 2009/10/14(水) 15:15:28 ID:3aN78j+x
「…あのへタレめ」
さてどうしてくれよう…む!
「きゃっ!」
「おっと」
「す、すみませんとし…先輩」
「いやいや、気にしなくていいよ?」
「…………」
「どうしたの?吹雪ちゃ…あ」
「////」
子供にぶつかられ、よろめいた吹雪を兄が抱きとめた。
しかも、二人とも今の状況が解ったのか、道行く人のど真ん中で、真っ赤になって立ち尽くしている。
「…ナイスだ少年!」
思わず右手を握りこんでしまった。
今日は手を繋ぐ所まで行けば上々だと思っていたが、これは予定外、嬉しい誤算だ。
「あ、あの、吹雪ちゃん?」
「へ?」
「その…あ、当たってるんだけど…」
「当たってる?…きゃっ!」
と、喜んだのも束の間、馬鹿の余計な一言によって、二人は再び離れてしまった。
「…チッ! あのボンクラが!」
普通そういう場合は、気付かない振りをして女性の胸の感触を楽しむものではないのか?
吹雪も吹雪だ。『当ててるの』くらい言えんのか。
「えっと、その、俺も男だから嬉しい…じゃなくて、そういうことは彼氏とか恋人にやるべきだと思うんだ、うん」
「か、彼氏…こ、恋人…」
「吹雪ちゃんにもいるんだろ? 好きな人」
「えっと…はい…」
「だったらその人にやってあげるべきだと思うんだ、うん」
「…………」
118 私は貴方に相応しい? 第2話 5/5 sage New! 2009/10/14(水) 15:15:50 ID:3aN78j+x
あの朴念仁は一体何を言っているんだ? 吹雪が貴様をどう思っているかなど一目瞭然ではないか。これだから童貞野郎は。
「と、とりあえず行こうか?」
「は、はい…」
ギクシャクしながら歩き出す二人。だが先ほどの件で何かが吹っ切れたのか、手を繋ぐ所までは進展したようだ。
ピリリリリ!
電話? ああ、真理亜からか。
「…こちら妹姫」
『こちら聖母。二人の状況に進展は?』
前回の報告から今までの状況を一通り説明する。多少私見が入っているのは、まあ許されたい。
「以上だ」
『…ねえ可憐ちゃん。やっぱり聡明君私刑していい?』
「気が合うな真理亜。そろそろ私の堪忍袋も限界だ。とりあえず、デートの何たるかが載っている雑誌を、あの木偶の坊に与えてみる。それで変化がなかったら簀巻きにしよう。割と本気で」
『その時は手伝うわ』
「感謝する」
電話を切って美女と野獣に目を向ける。
二人は手を繋いだまま、会話に花を咲かせているらしい。
「ふぅ…これでは吹雪と結ばれるのは何時になることやら…」
(あなたはその時どうなるの?)
む?
周囲を覗ってみるが、(私以外に)特に怪しい人影はなかった。
「幻聴か?」
最終更新:2009年10月17日 22:06