お姉ちゃんと明人(その1)

188 名前:お姉ちゃんと明人 ◆YzvJ/ioMNk [sage] 投稿日:2007/04/23(月) 21:55:18 ID:qW0zynBz
俺の名前は中山明人。皆からはアキヒトと呼ばれている。
妙なあだ名を付けられなかったのはむしろラッキーかもしれないが、友達の間だと有名な事がある。
シスコンと呼ばれているのだ。元凶は、言わずもがなの俺のお姉ちゃん。
佐久間泉美。旧姓中山。何故か俺にばっかり甘える。
顔が全く似ていないので、街中を歩くと普通のカップルに見られることが多々。
でも、そんな変わり者の姉だが、結構愛すべき人柄なのである。
その辺りのことを、今回は書く。

自分とお姉ちゃんとの年の差は五歳。
二人姉弟なので、昔から二人で遊んでいた。
今思えば、俺への世話の焼き方はあの頃から変わっていないような気がする。
自分がまだ小学生だった頃、お姉ちゃんを起こすのは自分の役目だった。
その頃の自分は夜九時に寝て朝五時半に起き、軽くストレッチの後ランニングをするのが日課で、忙しい両親に代わってお姉ちゃんを起こしていた。
「アキヒト…もう朝なのぉ?」
「お姉ちゃん、しっかりしなよ。朝練遅れるよ?」
「うー…今日はサボりでよろしくぅ…。」
「バカ言ってないで、さっさと起きなよ。朝ごはん冷めちゃうよ。」
「…わかったよぉ。眠いからエスコートしてぇ…。」
当時姉弟で使っていた部屋は二階にあり、リビングは一階だった。
本当に眠そうなので、毎朝リビングまでエスコートするのが日課。
何度か階段を踏み外しそうになったこともあり、面倒だとは思っていてもやらない日はなかった。

189 名前:お姉ちゃんと明人 ◆YzvJ/ioMNk [sage] 投稿日:2007/04/23(月) 21:56:29 ID:qW0zynBz
そんなこんなで小学校の6年間を過ごし、自分はエスカレーター式の私立中学に入った。
ここには給食がなく、昼ごはんは弁当を持参するか学食しかなかった。
一年のときは何事もなかったが、二年からは辛かった。
お姉ちゃんが大学に入り、時間的な余裕が出来たため、自分の弁当と一緒に俺の弁当を作るようになった。
傍から見れば「何が辛いの?」って事なんだが、俺の場合は、お姉ちゃんが作った弁当を食べるのは嫌だった。
何せ、御飯には卵と肉のそぼろで大きなハートマークが描かれていたのだから…。
これを友達に見せるのは恥ずかしいからいつも隠して食っていたが、もちろんすぐにバレてしまい、
「姉貴とラブラブな男」としてシスコン認定を受けてしまったのである。

「…とまぁ、こんな事があったから、お願いだからあの弁当はやめてくれ、お姉ちゃん。」
「あっはっは!ずいぶんマセてるんだね、半分やっかみだろうし気にしないでよ、アキヒト。」
「お姉ちゃんが気にするな、と言っても俺は気にすんだよぉ…。」
「デカいナリして何言ってるのよ。何なら毎日学食にすればぁ?」
「…俺の財布が持たないって…。」
「作ってやってるだけでもありがたく思いなさい、アキヒト。」
「…俺をからかうのって、そんなに楽しい?」
「あんたほど飽きないオモチャはないよw」
…この調子である。姉貴が大学を卒業した後もこれは続き、高校卒業までの5年間、俺は昼飯の度に突っ込みを受けつつ過ごしたのであった…。

190 名前:お姉ちゃんと明人 ◆YzvJ/ioMNk [sage] 投稿日:2007/04/23(月) 21:57:10 ID:qW0zynBz
ちょうどその頃は、お姉ちゃんが車を買った時期でもあった。
俺が住んでる辺りは公共交通機関が絶望的な状況で、車が欲しいといえば買い与えることも多々ある。
これまた何が困るのだ、と傍から見てる人は思うんだろう。
けど俺が通っている学校は国道をちょっと入ったところにあり、お姉ちゃんの学校へと向かう道から十分もかからないのだ。
つまり、必然的にお姉ちゃんが俺の送り迎えをする事になった。
当たり前っちゃ当たり前だが、俺の交通費はかなり安くなるため、親は何も言わなかった。
結果として、「姉貴と超ラブラブな男」という評価になり、シスコン疑惑にさらなる拍車がかかることになった…。

そんなお姉ちゃんにも転機が訪れる。結婚である。
俺が二十歳のときに、姉は付き合っていた恋人と結婚した。
俺はやっとお姉ちゃんの呪縛から解き放たれると思い、狂喜乱舞。
だが、人生はそんなに甘いもんではなかった。
義兄は24時間働いて、24時間休むというような仕事をしており、義兄が朝から晩までいない日は、必ずと言っていいほど俺の家に遊びにきていた。
お姉ちゃんが我が家に来ると、まず俺が相手をさせられる。
お姉ちゃんはオヤジに似て酒豪であり、朝から飲むなんてザラにあった。
それに対して、俺は酒が好きなくせに弱いというある意味特殊な体質。
お姉ちゃんは酒が入ると、笑い上戸のキス魔になる。

191 名前:お姉ちゃんと明人 ◆YzvJ/ioMNk [sage] 投稿日:2007/04/23(月) 21:58:07 ID:qW0zynBz
「アキヒト。飲むぞぉ。」
「お姉ちゃん…お姉ちゃんには付き合えないって…二日酔いで何度死に掛けたか…。」
「生きてるから問題なし。よし、アキヒトのベッドの下に隠しておいた酒をもってこい。」
「…なんでそれを知ってるの?」
「何年アキヒトの姉ちゃんやってると思ってるの?」
「…持ってくるよ。」
心の中で泣く俺。
ベッドの下においてあるのは、愛してやまないターキー12年。
楽しみに少しずつ飲んでいたもので、まだ三分の二はゆうにある。
(さようなら俺のターキー…ありがとう俺のターキー…)
「…持ってきたよ。」
「うん。ありがと。グラスと氷は用意してあるから、飲もう。」
「あぁ…俺はズブロッカでいいや。ターキーはお姉ちゃんが飲んでくれ…。」
「いいの?高いお酒じゃないの?」
「それは勿論聞いてみただけだろ?前に飲んだときに、結局ボトル抱きしめて放さなかったくせに…。」
「流石に私の弟。よくわかっている。」

リアルで凹みつつ、ズブロッカをグラスに注ぐ。
俺は舐めるように飲んでいるのに、お姉ちゃんはハイペース。
ターキーをロックで、しかもあんなハイペースで飲む人はあんまりいない気がする。
見る間に減っていく、俺のターキー…。
そんなささやかな宴は過ぎていく…。
二時間もすると、二人とも出来上がっていた。
「アキヒトぉ…キスしよー。」
「わかったよ…ん…。」
いつもどおりのキス魔っぷり。そしてそれを嫌がらない俺。やっぱ酒って怖い。

192 名前:お姉ちゃんと明人 ◆YzvJ/ioMNk [sage] 投稿日:2007/04/23(月) 21:59:14 ID:qW0zynBz
とはいえ、俺らのキスはディープなもんじゃない…はずなのだが、その日は違った。
「アキヒト~こっち向け~…。」
「何だぁ…またかぁ…。」
目を閉じていると、温かい感触と…歯に当たる何か。
「ん?」
次の瞬間、俺の口の中に酒精の匂いが…。
「ぷは…。何やったんだ?お姉ちゃん…。」
「あははー。アキヒトの酒飲んじゃったからね~。少しおすそ分け。」
「…酔っ払い方が半端じゃないよ、お姉ちゃん。もう寝よう?」
「わかったよ~。お酒も切れたことだし。」
…ターキー。もっと味わう人に飲んでもらいたかっただろうに…。
俺はひたすらズブロッカで、実際のところはほとんど飲んでなかったからよかったが、
がっつり飲んだお姉ちゃんは、足元フラフラ。
「アキヒト~。抱っこ~。」
「…わかったよ。」
25の姉を、お姫様抱っこで抱える男はそうはいないんじゃないか、などと思う。
いつものディオールの匂いがやけに鼻をくすぐった。

次の朝、俺はいつも行く犬の散歩に出かけた。
変な姉だけど、そんな姉が嫌いじゃない俺もきっと変わり者なんだろうなぁ。

そして、いつもどおり。
「お姉ちゃん、起きなよ。朝だよ。」
「アキヒト…。姉ちゃん二日酔い…。」
「じゃ、もう少し寝てなよ。」
いつの間にか降っていた雨が水溜りを作っていて、真夏の蒼穹を写していた。

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最終更新:2007年11月01日 00:55
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