24スレ375

375 名無しさん@ピンキー sage 2009/11/01(日) 00:00:09 ID:K7eJj+jo


「Trick or treat」

珍しく俺の部屋のドアをノックしたと思ったら、マイシスター、絢音よ。
何だイキナリ。

「とりっくおあとりーと?」

「そうよ、Trick or treat」

妹の言葉に脳内検索をかける。
該当件数ゼロ。役に立たない検索エンジンだ。
と言うか、英語だよな? 俺、英語出来ないんだよ。

「えーと何だっけか、それ」
「知らないのかしら? それならヒント。今日は何月何日でしょう?」

妹のヒントにも全く反応しない、俺の脳。
はて、10月31日? 芳賀玲子の誕生日か?
いや、そんな事知らんか。いつのゲームだ。

そういや、なんでコイツ家の中なのに帽子被ってんだ。
中世の魔女みたいな。
それに黒いローブも。

厨二病なのは知っているが……。
アレかな、また何かのアニメにでも感化されちまったのかな。




376 名無しさん@ピンキー sage 2009/11/01(日) 00:02:42 ID:Bo1SqQz1
この前は、
『フン。私は悪魔《ディアブロ》の化身。この姿は仮の姿よ。
お前みたいな人間が話かけていい存在じゃないわ。わかるかしら?
まぁ、人間なんて下等生物にわかって貰おうなんて思ってないのだけれど』

なんて、言ってたし。
あんまりだったから、殴っといたけど。
最近の中学二年生ってこんなものなのかね。
俺が中二のときはもっと落ち着いていたけどなぁ。
こんなんで友達とかいんのかな。イジメられたりしてないのかな。
お兄ちゃんちょっと心配。

「何よ。答えなさいよ。せっかくこの絢音様がヒントを出してあげたと言うのに。
ハッ。まさか、答えられないの?
だとしたらとんだ低能ね。息をする価値もないわ」

前言撤回!
もう絶対コイツのことなんか心配しない。

と言うかなんで、答えられないぐらいでこんなに罵られなきゃならないんだ。




377 名無しさん@ピンキー sage 2009/11/01(日) 00:05:04 ID:Bo1SqQz1
「へーへー、スミマセンネ。絢音様。
ちょっと息止めてるんで部屋出てってくれませんかね」

「仕方ないわね。低能の貴方に教えてあげるわ。心優しい絢音様に泣いて跪いて感謝なさい」

「人の話は無視か」

「そして、『ハァハァ、あ、絢音さま、ぼ、ぼ僕を踏んづけてくだしゃい、もっと強く打ってくだしゃいおねがいしましゅ』って涙と鼻水で汚くなった顔で懇願でもすればいいじゃない」

「お前割りと濃い趣味してんのな……」

『ハァハァ、あ、絢音さま、ぼ、ぼ僕を踏んづけてくだしゃい、もっと強く打ってくだしゃいおねがいしましゅ』の部分なんて迫真の演技だったぞ。

「勘違いしないで。私の趣味じゃないわ」

「じゃあ誰のだよ」

「貴方の趣味でしょう? 本棚の裏の『セーラー女王様とM男』とか。マゾ系のシチュエーションが多かったわ」


「べ、別にたまたまだぞ! たまたま買ったのがそういう……って、何で隠し場所知ってんだよ!」

「フン。アレで隠したつもりかしら?
ミジンコでももっとまともな隠し場所見つけるわよ」

いやミジンコには負けねーよ。



378 名無しさん@ピンキー sage 2009/11/01(日) 00:08:31 ID:Bo1SqQz1
「いいか、絢音。いや、絢音さま。どうかこの事はご内密に」

言ってから気付いたが、コレじゃ俺がマゾみたいじゃないか。

マゾじゃねーよ俺。どっちかって言うとサドだよ? 本当に。いや、本当だよ?

「安心なさい。流石に私も身内が、女の子に踏まれて貶されて喜ぶような人間だなんて、喋るわけないわ。
うっかりネットに流出『させ』ちゃうだけよ」

「そっちの方が問題だろ!
と言うか、『させ』ちゃうって。
計画的犯行じゃないか!」

「何よ。言い間違えただけじゃない。
そんな所に目くじらたてるなんて、心の狭い人間ね。
これだから、『一之瀬さん家の絢音ちゃんは成績優秀で容姿端麗なのに、お兄さんの方は……。
聞く所によると、高校辞めて、刺身の上にタンポポを載せる仕事してるらしいわ、お兄さん』って噂されるのよ」

「誰だよ! そんな噂流したの。聞いたことないぞ!」

「当然じゃない。私が流してるんだから。
貴方の耳に入らないようにね」

「お前かー!」

言葉の暴力って残酷だと思うんだよね。
もう、そろそろ殴ってもいいんじゃないか? 俺結構耐えたよな?


379 名無しさん@ピンキー sage 2009/11/01(日) 00:12:49 ID:Bo1SqQz1
「それで、元の話に戻るのだけれど。
Trick or treat、わかったかしら」

「いや、わからないな。
それよりもさっきの件、ちゃんと守ってくれるんだよな?」

「10月31日は、Halloweenよ。聞いたことぐらいあるでしょう?」

「また無視かよ。もういいけど。
ハロウィン? えぇと、カボチャとか魔女とかの仮装して練り歩くんだっけか?」

あぁ、やっと合点がいった。
だから、絢音のやつこんな格好なんだな。

「そうよ。正しくはお化けや魔女なのだけど」

「それで、トリックオアトリーってのは?」

「仮装した子ども達が、一軒一軒家を訪ねて回るの。
そこで『Trick or treat』お菓子をくれなきゃイタズラするぞって唱えるのよ」

「へー。そんな風習があるのか」
「まぁ日本の場合はバレンタインデーしかりクリスマスしかり、企業の策略に乗せられてる感じが強いのだけれどね」

「いいじゃないか。皆で楽しめるんだ。悪いもんじゃないだろう?」

「えぇ、そうね。私もそう思うわ」

そう言って、にこりと笑顔になる絢音。
なかなかどうして、こういう顔をされるとドキッとしてしまう。
いやいや妹だぞ?
しかも厨二病。
その上、性格は傲岸不遜。


380 名無しさん@ピンキー sage 2009/11/01(日) 00:15:57 ID:Bo1SqQz1
顔の造作が、ちょっと、いや、かなり良いからって騙されちゃだめだ、俺。

「あぁ、そうだ。兄さん」

「ん?」

兄さん? コイツがそう呼ぶのなんて何年ぶりだよ。

「Trick or treat」

「え? あぁお菓子か。悪い、今手元にな―――」

『手元にない』そう紡ぐことはできなかった。

なぜなら俺の口が絢音の口で塞がれていたから。

そのまま口腔内を舌で蹂躙してくる絢音。

「ぷはっ! な、何してんだ! 絢音!」

「ちゃんと言ったじゃない。Trick or treat《お菓子をくれなきゃイタズラするぞ》って」

「それにしたって、イタズラの度が過ぎるだろ!」

「何言ってるのよ。 この程度のイタズラで、この絢音様が満足するとでも?」

「えっ?」

本当に間の抜けた声が出た。

「大丈夫よ。安心して。
貴方が泣いて跪いて感謝するまでイタズラし続けてあげるわ。
だってそれが貴方の趣味なんでしょう?
ねぇ、兄さん……」

そう言って笑う絢音の表情は、俺が見てきた中で一番美しいものだった。

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最終更新:2009年11月08日 18:30
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