648 まだ間違いなんてなかったはず、きっとそうだ。 sage 2009/11/24(火) 10:58:08 ID:hd1MWx2z
「お兄ちゃん、邪魔。どいて。」
『あぁ、ごめん……。』
「…………。」
これが俺と妹のとある一日の中での唯一の会話。妹は俺の事が嫌いだ。何故こんな冷めた関係になったのか。全く分からない……訳でもない……。
『はぁ、明日も大学かぁ。めんどくせ。一限、大したことないからサボるかな……。』
俺はベッドにねっころがり天井を見上げる。なんだか眠たくなってきた……。最近バイトやり過ぎてたからかなぁ。少し寝よ。
「お・兄・ちゃ・ん。お兄ちゃんも今から部活だったの?言ってくれれば一緒の電車乗れたのに~。」
コトン
『ん?あぁ美月か。そうだな、ごめん。』
俺しかいないバス停でバスを待っていると聞き慣れた妹の声が。俺に呼びかけてくると同時に自分の小さな頭を俺の背中に預
けてくる。俺と妹の通う高校へは家から電車とバスを併用しなくてはならない。だからうまい時間に電車に乗らないとバス停
でかなり待たされる場合がある。今だってそうだ。おそらく妹は俺の乗ってきた電車の二本後のやつだろう。そんな事を考え
ていると、妹が後ろから俺の腰に手を回してきた。
『お、おい。止めろよ。……誰かに見られるだろ。』
「うふふ。大丈夫だよ~。今、私達しか並んでないし~。それに傍から見ればイチャイチャしてる恋人達にしか見えないんじ
ゃない?」
確かに今バス停には俺達しかいない。このバス停に休日の昼過ぎに並んでいるのは学生くらいだろう。しかも部活がある生徒
くらいしか並ばないだろうから、今は俺達しかいないんだろう。近くを通り過ぎる人も疎らなので気にしすぎる必要もないの
かもしれない。しかし問題はそんな事ではない。妹である美月が兄である俺に対してまるで恋人に対するかのような接し方だという事だ。
『そういう問題じゃねえよ。ほらべたべたすんな、離れろよ。』
「んもう!お兄ちゃん恥ずかしがり屋さんだなぁ。はいはい離れますよ。ギュッ」
離れたと思ったら今度は妹が俺の手を握ってきた。
『はぁ……。わあったわあった。手ぐらいなら繋いでやるよ……。』
649 まだ間違いなんてなかったはず、きっとそうだ。 sage 2009/11/24(火) 10:59:00 ID:hd1MWx2z
「お兄ちゃん優しい~。うふふ。ラブラブぅ~。」
とか言いながら握り方を指と指が交差しあう恋人結びに切り替えてきたし……。
まだ小さかった頃、妹は割と引っ込み思案な子だった。何をするにもどこに行くにも俺の後に付いてきて俺の陰に隠れるよう
にしていた。そんな引っ込み思案な妹ではあったが、俺にとってはかわいい妹だった。そうでない時もあったが……。妹も、
とても素直で兄である俺の言う事ならなんでも聞いた。そんな風だから俺もすっかり妹の事を甘やかしていたと思う。その成
れの果てが今の美月だ。
「あっ、バス来たよ。乗ろ?お兄ちゃん。」
俺は妹に手を引かれて、バスの一番後ろに乗る。最近寒くなってきたのもあって、座席の足元から流れてくる暖房の生暖かい
風が心地好い眠気を運んでくる。
『ふぁあ~あ~、眠いなぁ……。』
思わず欠伸が出てしまった。普段のバスの中ではこんな大きな欠伸はかけない。今日は俺達以外には老人2、3人くらいしか
いないから大欠伸もできる。
「私もなんだか眠いぃ~。んにゃ~。」
妹が俺の右腕に自分の両腕を絡め、身体を預ける様に寄り掛かってくる。
『おい、止めろって……。』
「んふ、いいじゃ~ん。すりすりぃ~」
妹が歳にしては少々主張気味の胸を俺の右腕に押し付けてくる。それと同時に自分の太ももで俺の右手を挟み込んできた。制
服のスカート特有のサラサラとした生地の感触が俺のやり場に困った右手の甲に触れる。
『何してんだよ……。止めろって。おい!』
ガッチリとホールドされていた右腕を妹から離し、妹から20cm程離れる。
『お前、冗談も程々にしとけよ……。そんなんじゃ彼氏の一人もできないぞ……。』
「ふんっ。お兄ちゃん、こんなので恥ずかしがっちゃうの?情けな~い。それに彼氏なんていらないから!私にはお兄ちゃん
がいるし。だから、ね?ムギュ」
懲りない妹はまた俺の右腕を手足でホールドしてくる。そう言って一度座り直す様に腰を上げた時に、少し自分のスカートを
上げていたのに俺は気付いた。さっきまでより短くなったスカートのせいで手に妹の太ももが直に触れる。あまり直視したく
はないのだが、妹の太ももは程よい張りと艶があり若さに満ち溢れている。キメも細かくシルクのような肌触り。色も透明感
に満ちた白桃色で、歳相応以上の色香をも感じさせるものだ。同年代の男ならもうクラっとするレベルだろうが、俺はこいつ
の兄だ。身体付きが良いとはいえ妹の身体に欲情などできない。あるのは気まずさと恥ずかしさだけだ。
650 まだ間違いなんてなかったはず、きっとそうだ。 sage 2009/11/24(火) 10:59:40 ID:hd1MWx2z
『あ、おい。次だぞ。ボタン押せないから、な?美月、離してくれ。』
そう言ってなんとか妹に離してもらえた。バスに乗ってから15分くらい、ずっと妹に捕まっていたのだ。下手に手を動かせ
ば妹の秘所に触れてしまう事さえできそうな状態にあったため、緊張していた右手が痺れていた。まぁしばらくほっとけば治るからいいが。
俺達はバスを降りた。バス停のすぐ向かいが俺達の高校だ。俺と妹の通う高校は都内の私立ではそこそこの進学校だ。とは言ってもうちの高校は難関都立の
併願校という立ち位置で、もちろん第一志望で入ってくる生徒もいるがおそらく入学者の30%くらいは難関都立に落ちて仕方な
く入ってきた連中だろう。そういう俺も都立に落ち、名前しか知らない併願校のここに入って来た訳だ。しかし妹は違う。俺
の妹は頭も良く、勉強もできる。しきりに担任からは有名都立の進学校や、難関私立のお嬢様学校などを受験する様、言われ
ていたみたいだが、その妹の担任曰く、
「自分の第一志望は兄と一緒の高校だけです。それ以外は受験しません。」
との一点張りだったそうだ。当然頭の良い妹の事だから、俺の通う高校に受かった。しかも特待生扱いになる上位3名のうち
に。因みに順位は一位であった。兄としては妹に早々に追い抜かされた気分であまり純粋に喜べなかったのだが、妹は
「お兄ちゃん、また一緒に学校行けるね?うふふ。嬉しいなぁ~」
と喜んでいたので、嫌な顔もできなかった。入学式の新入生代表挨拶では当然、成績一位で受かった妹がした。妹の俺に対す
る日頃の態度から入学式の代表挨拶でとんでもない事でも言うんじゃないかと心配していたのだが、単に俺の自惚れで済んだ
ので安堵した記憶がある。しかし翌日からクラスの男友達や、そうでもない連中、果ては他学年の生徒までもが、前日の入学式
の代表挨拶をした妹の虜になり、その兄である俺の所にも、仲を取り持ってくれだの、紹介してくれだのうるさく付き纏って
きたのであった。妹は顔立ちも良く、小さな顔にくりくりとして可愛らしい瞳をもち、ふっくらとした薄ピンクの唇は男達を
虜にするには充分過ぎる。さらには先に言ったように、胸も大きく、制服の上からもその大きさを見てとれる。すらっと延び
た足にも関わらず、どこかあどけなさを演出するスカートから覗く太もも。きゅっとくびれた腰。極めつけは背中まで伸ばし
たサラサラの黒髪。常に淡いシャンプーの香を漂わせるそれは、すれ違う者達を必ず振り返らせる。
651 まだ間違いなんてなかったはず、きっとそうだ。 sage 2009/11/24(火) 11:00:31 ID:hd1MWx2z
そんな完璧美少女の妹に
当然ながら有象無象は注目する。昔からそうだ、美少女で頭も良い妹は皆から可愛がられていた。小さい頃の俺はといえば、
そんな妹に子供なりの嫉妬心を抱き、一時、妹に対し辛く当たったり無視していた時があった。そんな事をしても自分が評価
されるという事は皆無と、当時の俺にもわかっていたはずだ。しかしともかく妹が妬ましかった。……あれはまだ年明け前だった
か。そんなあるとき、夜中、妹が俺の部屋にやってきて
「おにいちゃん……いっしょにねてもいい……?きょう、さむいでしょ?だからね……わたしがおにいちゃんのこと……あた
ためてあげたいの。だからいっしょにねても……いい……?」
辛く当たっていた妹が、暗くて見えなかったが、おそらく眼に涙を蓄えて精一杯の勇気を振り絞ったのだろう、俺に話し掛け
てきた。しかしその時俺は、
『ふざけんな、お前なんかと一緒に寝るわけないだろ。お前なんか廊下で寝ろよ。』
と、辛い言葉を浴びせてしまった。
「……ごめんなさい。おにいちゃん、ごめんね……。わたしなんかいらないよね……おにいちゃんのきもちもかんがえられな
いわるい
いもうとなんて、いらないよね……。ごめんね。」
そう言って、トボトボと部屋から出ていった妹。内心、俺はその時、少し言い過ぎたかと思ったが、つまらない意地のせいで
そのまま妹を放っておいた。二、三時間くらいだろうか、眠りが覚めてしまい水でも飲みに行こうとベッドから出て、部屋の
ドアを開けると、廊下のすぐそこにパジャマ姿の妹が寝ていた。目には泣き腫らしたような跡があり、身体は寒さで震えていた。
あぁ、とんでもない事をしてしまったとその時初めて気付いた俺は、妹を起こした。
『おい、起きろよ……。お兄ちゃんが悪かったよ……ごめんな。ほら一緒に寝ような?』
妹はすくっと立ち上がり、俺の後に付いてベッドに入った。その時、妹が言った言葉は忘れられない。
「おにい……ちゃん……?ほら、わたしがあたためてあげるからね……?あ……だめだね、わたしこんなにつめたいもんね?
……だいすきな……おにいちゃんにかぜひかせちゃうかもしれない……。ごめんね……ごめんね……おにいちゃん。」
どうしようもなく妹がかわいそうになり、自分が情けなくなり、冷えきった妹を抱きしめた。
『ごめん……グスッ……ごめん……。』
ただただ妹にごめん、としか言えなかった。その一件以来、俺は妹をもう、決して悲しませないと、そう誓った。
最終更新:2009年12月15日 14:08