399 名前:
龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/10(木) 11:50:12 ID:y3TlBdEU
白沢龍彦
理想の女性はどんな人?
この質問をされたときの僕の答えは決まっている。
義姉と。
神は決して公平ではなく一人に二物も三物も与えることを僕は知っている。
身近にいるからだ。
腰まで伸ばした最上級の漆のような艶やかな黒髪、冷たい知性を感じさせる美しい瞳。
そして、平均より多少劣る身長と胸…これは口に出すのは死を意味する…
を除いて完璧な体型。運動も学業も万能であり、家事も出来る。
それを鼻にかけるわけでもない穏やかな人格。冷たいような雰囲気があるけど本当に優しい人だ。
勿論、もてるようだが彼氏はいないらしい。
それが僕の義姉、みゃー姉こと黒崎美弥子(くろさきみやこ)だ。
僕の両親は9歳のときに強盗殺人事件に巻き込まれた。
学校行事で宿泊していたお陰で僕は助かった。
最高の両親だったと胸を張っていえるけど、親戚からは結婚を大反対されていたらしく僕を引き取ってくれる親戚はいなかった。
そこで唯一の父の味方かつ親友であり、母の兄だった俊之叔父さんと街叔母さんが半ば強引に僕を引き取ってくれた。
法律家である叔父さんは必要な処理を全てし、財産を管理してくれているだけでなく、実の息子のように良くしてくれている。
そして、連れられた家で出会ったのが義姉だ。おどおどしている気の弱い僕に顔を近づけて義姉は微笑んだ。
あのときに感じた眩しさは時が流れた今でも色あせることがない。
「よろしく。龍彦君。私のことは本当のお姉さんと思って頼ってくれていいからね。」
400 名前:龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/10(木) 11:52:09 ID:y3TlBdEU
黒崎美弥子
義弟の龍ちゃんこと白沢龍彦(しらさわたつひこ)は気が優しい。優しすぎる。
出会ってから数年がたった今、私は理解していた。
辛い思いを抱えた彼を支えるつもりだった私は今ではすっかり彼に甘えているように思える。
彼は幼いころから10年近く道場で武道を学んでいる。
師範によると、習っている年月に見合った強さはあるらしい。
才能がある上に努力家で後輩からの信望も厚いらしい。
だけど、そんなことを誰も知らない学校ではみんなの玩具扱いだ。
強いからこそ誰にも手をあげない。
殴られても蹴られてもからかわれても騙されても困ったように笑うだけ。
私はそんなゴミ共に殺意すら抱いているというのに…
そして、どれほど自分を邪険に扱った相手でも龍ちゃんは困っていたら自然に助ける。
どんな嫌な相手でもだ。
龍ちゃんの優しさをそんな奴らに見せる必要はないのに…
いつからだろうか、こんな風に考えてしまうようになったのは。
いつからだろうか、つい目で追ってしまうようになったのは。
いつからだろうか、彼を独り占めしたいと思うようになってしまったのは。
龍ちゃんは私を優しいという。
でもそれは違う。本当に優しいのは彼だ。
どれ程怯えても守ってくれる。どれ程悲しくても優しさを忘れない。家事をしていても勉強をしていてもこちらを向いてなくても気配りを忘れない。
そして、みんなに優しくあろうと努力している。
私は龍ちゃんの義姉。何故私は義姉になってしまったのだろう。
いつか彼に恋人が出来たとき、私は祝福できるのだろうか。
でも彼が本当に幸せになるなら認めてみせる。
そんな日は永遠に来なければいいのに…。
401 名前:龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/10(木) 11:54:43 ID:y3TlBdEU
相沢祥子
あたしは本当の彼の顔を知ってしまった。
高等部に進学して暫くたった5月のことだ。
彼…白沢龍彦は気弱そうでいつも何されてもへらへら
笑っているような男だった。
初等部からの腐れ縁で彼がクラスメイトに玩具にされたときに
あたしが怒鳴って助ける、というのがいつもの日常だった。
「本当にほんとーに白沢君はしょうがないんだから。」
「ありがとう。相沢さん。助かったよ。」
毎日のように繰り返されるやり取り。へらっとした笑顔。
いらいらもするけどなんだか落ち着く、そんな不思議な笑顔。
あたしは呆れた振りをして肩をすくめる。
彼はあたしがいないとだめなんだ。だからあたしが助けなきゃ。そんな風に思ってた。
祥子は世話女房だねっと冷やかされるのも正直いい気分で嬉しかった。
ある日、校舎裏で彼が三人の不良たちに殴られているのを見たあたしは
助けるために声をあげようとしていた。でも、今日は先客がいた。
「…おやめなさい。」
凛とした声、白沢君の前に立って三人の男を睨んでいるのは部活の憧れの人、黒崎先輩だ。
口論を暫くした後不良たちは先輩の顔をはたいて無理矢理どかせた。
「おいおい、俺たちのストレス発散の邪魔す…。」
最後まで言い終えることなく、黒崎先輩の顔をはたいた男は殴り倒されていた。
そこにはあたしの知らない白沢君がいた。
いつもの優しそうな顔じゃない大事な人を守るための顔。相手を射抜くような目。残る二人もあっさりと倒していく。
なに…あれ…
あたしだけのものと思っていたのに。
あんな必死な目みたことない…
黒崎先輩に向ける笑顔…あんな本当に労るような笑顔みたことないっ!
あたしは何も知らなかった。彼にはあたししかいないって自惚れてた。悔しかった。
あれはあたしのモノなのに…モノのはずなのに…
同時にどろどろと煮え滾るような想いが生まれたのを感じた。
その正体が何かは解らなかったがあたしはその想いを何とか抑えて、
二人に近づいていった。
402 名前:龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/10(木) 11:57:17 ID:y3TlBdEU
黒崎美弥子
「ご、ごめん。みゃー姉大丈夫?」
「こーらー?違うでしょ。学校じゃ美弥子先輩っ」
慌てて龍ちゃんが駆け寄ってきてくれた。他の人には絶対呼ばせない、二人だけの名前を呼ばれて内心、小躍りしたくなるくらい嬉しかったのだが頬を指で突っついて訂正する。
「白沢君、黒崎先輩っ!大丈夫ですか?」
部活の後輩の祥子ちゃんが駆け寄ってきた。ショートカット、勝気で活発そうな雰囲気の女の子。美人って言うよりはかわいい感じかな。胸は悔しいけど私より大きい。龍ちゃんのクラスメイト…クラスメイト…
「私は大丈夫。格好悪いところ見せちゃったわね。」
心配してくれた後輩に微笑んだとき、彼女の目を見て私は驚いた。視線が龍ちゃんに固定されている。
そこにあるのは…怒り?嫉妬?独占欲?
表面上はいたずらっぽく笑っているけど…。
「相沢さん。心配してくれてありがとう。」
「白沢君があんなに強かったなんて思わなかったよ。」
「暴力は嫌い。でも、美弥子先輩叩かれたら自分を見失ってね。情けないよ。」
「どうする?この人たち。今のうちに埋める?」
「ちょ、ちょっとそれはやりすぎだよ。」
彼女は龍ちゃんと楽しそうに話している。ようにみえる。
でも、私は確信した。
この後輩は…違う。大嫌いな親戚と同じ目。人を人と思わない目。
幸せにするんじゃないのに私から龍ちゃんを奪おうとしている。敵だ。
こんな女には絶対に渡さない。認めない。
「それじゃ、そろそろ帰りましょうか。龍彦君。」
「わかりました。今日はありがとうございます。美弥子先輩。」
「く、黒崎先輩。どうして白沢君と名前で呼び合ってるんですかっ」
私達が名前で呼び合っているのを聞いて、嫉妬が強くなっているのを感じる。
「えーと。それはね。むぐっ」
いらないことを話そうとした龍ちゃんの口を塞いでいたずらっぽく笑い、
「祥子ちゃんのご想像にお任せします。
屋上でいつも一緒にお弁当食べてるからよかったらいらしてね。」
「ちょ、ちょっと美弥子先輩っ?ご、誤解が!あああ、引っ張らないで!服が伸びる!」
敵とはいえ、かわいい後輩。穏便に済むに越したことはない。
これで諦めてくれればいいのだけど。
念のために龍ちゃんとはどんな関係なのか探って作戦を立てないと。
敵を知り、己を知ればってね。
最終更新:2007年11月01日 01:10