566 名前:
龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/15(火) 16:28:36 ID:XBXgRYHh
相沢祥子
顔を合わせるべきじゃなかった。心底そう思う。
一緒に料理を楽しそうにしていた先輩に嫉妬し、敵意の視線を送っても
あの人は普段どおりを崩さず、あたしに気配りすらしたのだ。
そして…最後…
今は焦らずとも最後には自分のものにするといったのだ。
どうすれば…いいのかな。
それから、追い討ちのようにおかしな出来事が増えてきた。
龍彦君の下駄箱にラブレターが頻繁に入っている。
龍彦君の机と周りがゴミだらけになっている。
龍彦君の机にカッターの刃を折ったものが大量に入っている。
龍彦君の机に下品な落書きがされてある。
「なんでだろ、急にもてるようになったみたいだね。」
「おかしいね。不思議…。どうするの?」
「名前があるものは読んで断りの返事は書くよ。時間指定のものは行って
断らないとね…。一応の礼儀として。」
「えええー。ほっといたらいいじゃない!」
律儀にもほどがある…そこがいいんだけど、他の人に向けて欲しくはない。
何故、龍彦君にだけこんな嫌がらせが増えたのか理由がわからない。
もし、あの人の仕業なら…あたしを狙うはず。
「なんか…怖いね。」
「中学三年以来かな。昔はこういうことはよくあったし、気にしていないよ。」
そういわれても不安は消えない。
何か見落としている…そんな落ち着かない気持ち。
そして、もうひとつの不安。彼は絶対に夕方6時までには帰宅する。
家族の一員として、自分の仕事はきちんとするというのがその理由。
朝は毎朝先輩と登校…。
「それじゃ、明日、日曜日昼1時。楽しみにしてる。」
デートの約束をし、付き合いは順調。
幸せなはずなのに心は晴れない。
571 名前:龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/15(火) 16:34:44 ID:XBXgRYHh
黒崎美弥子
この先必要になるかもしれない手紙を書きながら考える。
部屋にペンがノートに当たるコツコツという音だけが響く。最近家にいるのが辛い。
夕食をとりながら龍ちゃんとしゃべるのは嬉しいのだけど、あの女の話題が良く
上がるのは涙がでそうなくらい悔しい。
きっとあの女の顔を滅茶苦茶にすれば楽しいに違いない。
血の華にしてしまうのもいいわね…。
私は早朝に学校へと向かっていた習慣をやめた。
龍ちゃんと並んで向かう学校は本当に新鮮で嫌なことを全部忘れられる。
これがなければ耐えられなかったかもしれない。
龍ちゃんは実はもてる。物腰の優しい態度に細やかな気遣い。外見も悪くなく、
特に歩き方は修練の年月を感じさせ美しい。それでいて年上の庇護欲を誘う。
なのに、今まで一枚もラブレターやチョコをもらえなかった理由…。
簡単だ。私が毎朝きちんとチェックして捨ててたのだ。勿論、龍ちゃんに気がある
雌猫の名前のチェックは忘れない。
どうやら、あの後輩も誰かに好かれているのかもしれない。いつ頃からか龍ちゃんの机に
いたずらがされているようになった。それまで、龍ちゃんの体操服のにおいを嗅いで
幸福に浸っていた時間は龍ちゃんが気持ちよく過ごせるように机を片付ける時間に
なってしまった。
初めは手紙になんの返事も返さない女の逆恨みかと思った。だけど、よく考えると
それなら狙うのは相手の女のような気がする。
龍ちゃんが理由もなしに他人から恨まれるとは思えない。今のようなごたごたが
なければとっくに犯人を特定して縊り殺しているのだが利用させてもらうとしよう。
しかし、まだ弱い。
あの女を崩壊させる決め手が…。
チャイムが鳴った。
「ただいまー。みゃー姉。明日さ…」
ふふふ…来たわね。大きなチャンスが。
私は携帯電話を取ると、私に忠実な少女に連絡をいれた。
567 名前:龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/15(火) 16:29:22 ID:XBXgRYHh
白沢龍彦
今日は生まれて初めてのデートだ。そう思うと緊張して、準備に手間取ってしまった。
手には二人分のお弁当と映画の券。待ち合わせ場所には30分前に到着。
つきあうようになってから昔みたいな気軽な関係じゃなくなってぎこちなくなってる
し、今日は何とか楽しんでもらいたい。
「おまたせー。龍彦君。」
「祥子さん、こんにちは。今日の服装すごく似合ってるよ。」
「またまたー。おだてちゃって。でもありがとっ!じゃお弁当食べに公園にいこっ!」
祥子さんが15分前に来た。今日はどうやらご機嫌のようだ。
うちの近所にある公園はジョギングコースなどもある本格的な綺麗な公園で
散歩を楽しんでいる人、僕たちみたいなカップル、運動をする人など様々な人が
利用している。
「……………えっ」
「どうかした?祥子さんさっきからぼーっとして。」
「ううん。な、なんでもないの。」
食事が終わり、散歩を始めたころからまた祥子さんの様子がおかしくなり始めた。
街でのショッピング、喫茶店での軽い食事…会話がぎこちなく、気が僕にむかってない
ような雰囲気を感じる。体調が良くないのかもしれない。
「祥子さん疲れてるんじゃない?今日はゆっくりしたほうがいいよ。」
「えっ大丈夫だよ!」
「風邪は引き始めが大事なんだから。ほら、送っていくから。」
「うん…あたしから誘ってるのにごめんね。」
「仕方ないよ。また今度日を改めて遊ぼう。」
うーん、上手く行かない。僕が悪いんだろう。
どうすれば楽しんでもらえるんだろうか。そんなことを考えながら帰宅した。
「あれ。早いね。映画どうだったの?あれ私も興味あるから聞きたいな。」
「うん…祥子さんの気分がよくなかったみたいで、行かずに切り上げてきたんだ。」
「じゃあ、券もったいないね。うーん、折角だし一緒に行こうか。
たまには外食もいいでしょ。顔色良くないし…愚痴くらい聞いてあげる。」
悩んでいるのがばれたらしい。僕はそれほど顔に出安いのか。
姉との映画と外食は楽しく、憂鬱な気分が晴れたのは恋人のいる男としては
どうなのだろうか。僕は不実な人間なのかもしれない。
568 名前:龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/15(火) 16:30:15 ID:XBXgRYHh
相沢祥子
判らない…理解できない…何もしてこない。ただ、微笑んで見てるだけ…
判りやすく嫌われているほうがまし!
「なんなのあれ…」
付けていたわけでは無さそう。後ろは結構気にしてたし、あの人は
美人だから目立つ。時間や待ち合わせ場所は龍彦君から聞いていたのかも
しれない。だけど…
何故行く先々で<前から>現れるのか。
公園でもそう。ショッピングに入った店でもそう。喫茶店も…
そして、何をするでも監視するでもなく私にだけ微笑んで去っていく。
どうやって正確に先回りしているのか判らない。店まで正確に。
結局、龍彦君に心配をかけてしまった。あの人の思い通りに。
きっと彼は気にしているはずだ。優しいから自分のせいだと考えて。
暗い部屋で私はひざを抱えて呟く。
「どうすればいいんだろう…。」
楽しいデートのはずだったのに残ったのは、邪魔された怒りじゃなく恐怖だけ。
このままじゃだめ!こんな調子じゃ折角恋人になれたのに…あたしは
絶対彼を放したくない。彼とちゃんと付き合える方法を考えなきゃ。
そう決意を新たにしたとき写真添付メールが届いた。写真には腕を組んでいる
龍彦君と先輩が写っていた。
From 黒崎美弥子
To 相沢祥子
こんばんは。途中で体調崩しちゃったんだってね。
映画の券を龍彦君用意してたみたいだけど、勿体無いからこれから二人で
楽しんでくるわ。風邪か何かわからないけど体には気をつけて。
あたしは本当に怒るということがどんなものなのか初めて知った。
569 名前:龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/15(火) 16:31:34 ID:XBXgRYHh
黒崎美弥子
龍ちゃんから色々相談を受けた。義姉としては誠実に答えたと思う。例え相手に
塩を送ることになろうとも、私は彼を裏切らない。自分の気持ちに対しては誠実
とはとてもいえないだろう。
だけど、それも今日までだ。もう後戻りできないところまで足を踏み込んだ。
一気に決着を…つける。そう決意し、彼の部屋へと入った。
「龍ちゃん。夕食のとき、悩んでるなら断っても理由は聞かなきゃいけない。
相手のこと本当に理解するなら悪い部分も分かってあげないといけない…
っていったけど、龍ちゃんは私のことは分かってくれてる?」
今日も恥ずかしいのかベッドで背中を向けている彼に話しかける。
彼は少し悩んでから答えた。
「強くて賢くて綺麗で優しくて時には厳しい…自慢の姉だよ。」
「そう思われるように努力してきたし、それを後悔はしてないわ。
ね…大事な話だからこちらを向いてくれないかしら。」
そういうとこちらに顔を向けてくれた。間近で見た彼の顔は昔のまるで
少女のような面影はなく、男らしい精悍な顔つきになっている。それを見るだけで
顔が火照るのを感じる。
「本当の私を知ると貴方は私を嫌うかもしれない。それでも聞いてほしいの。いいかな?」
彼の瞳を見つめる。正直に怖い。私は怯えている。
「どんなことがあっても僕がみゃー姉を嫌うことはないよ。むしろ嬉しい。」
その言葉が続ける勇気をくれる。
「私は優しい人じゃないの。目的のためなら手段を選ばない。大切な人を守るためなら
それ以外の人は不幸にすることも厭わない残酷な女。」
「そう…。でも、僕は何度も助けてもらった。」
「父さんも母さんも優秀で優しい人。だけど、家にいないことが多くて寂しかった。
だから、龍ちゃんが着てくれて嬉しかったし助けられた。家族になりたいと思った。
年上の私は義姉として貴方を守ることを決意した。」
心底感じている本心。彼も真剣に聞いてくれている。
この先を言えば今までが全部無くなるかもしれない。でもいい。例えなくなったとしても
一から作り直せばいいのだから。私はもう恐れない。右手を彼の頬に伸ばして続ける。
570 名前:龍とみゃー姉 ◆x/Dvsm4nBI [sage] 投稿日:2007/05/15(火) 16:32:51 ID:XBXgRYHh
「でもね…。いつからか貴方を一人の男として見るようになってしまった。」
龍ちゃんは驚いてるみたいだ。当然…。
「みゃー姉…」
「だめなお姉ちゃんだよね。女としての私は嫉妬深くて独占欲が強くて…自分でも思う
醜い人間なの。だけど、嫌われるのが怖くて。関係がなくなるのが怖くて…臆病なの。
おかしくなってたのは相沢さんだけじゃない。私も内心は狂いそうだった。
でも、恋人ができても貴方の姉であろうと頑張ってた。けれど辛いの。
そしていまさらこんな風に縋って…ごめんね。」
「謝らなくていいよ。気づかない僕が馬鹿なんだ。弱いところを見せてくれて嬉しい。」
「ね…相沢さんに好きっていったことはある?」
彼は暫く考えてから答えた。
「言ったことはない…な。」
「よかった。じゃあまだ大丈夫ね。はっきりいうわ。私は姉としてだけじゃなく、
一人の女として貴方が好き。愛してる。」
言ってしまった。胸がどきどきしてとまらない。明るいところで見れば顔はもう
真っ赤だろう。それでもしっかり、相手の目を見つめている。
「…僕は…まだわからない。でもありがとうみゃー…いや、美弥子。」
「ふふ…。初めて呼び捨てにしてくれたね。嬉しい。
返事は急がなくていい。でも、ちゃんと最後には決めてね。その前に…
私がどれくらい本気なのか証明してあげる…。嫌なら力で引き離しなさい。」
私は彼の上に体を乗せ、頭を抱え込むように抱きしめてキスをした。
そのまま舌を差し込む。
「…ん…ちゅ……ん……ぁ…」
寝巻きの上は背を向いているときに脱いでいる。
裸の胸を押し付け、抱きしめ、ずっと求めていた唇を貪り続ける。
私の覚悟は既に決まっている。今日だけは弟の気持ちさえも利用する。
絶対に逃がさない。
最終更新:2010年06月06日 20:37