320 某SF作品パロディ sage 2010/02/13(土) 14:37:54 ID:zEvbMuEG
…ここは、どこだ?
暗い部屋の中で目が覚めた俺は現状を理解できず混乱した。
なお悪いことに、いくらもがいても起き上がれない。手足が縛られているようだ。
そして頭に何か帽子のように何かが固定されているのも感じる。
しばらくもがいていると、突然に輝きが暗さに慣れていた俺の目を焼いた。
眩しさに思わず目をつぶるが、強い光が薄いまぶたでは遮りきらず頭が視界と共に
真っ白になる。
いったい何がおきたって言うんだ、こらえきれず呻き声をあげてしまう。
10秒ほど焼かれた後だろうか、光量が下がり明るさに慣れようとしていた目では視界がかすむ。
ようやくマトモに目を開けられるようになると今まで不明だった周囲の状況が多少わかった。
薄暗いながらも目の前には電気スタンドがある。さっき俺の目を焼いていた犯人だろう。
横を見ると病院のベッドのような飾り気が無いシーツと机、そしてコンクリ打ちっぱなしの殺風景な壁が見える。
ここがどこだかわからないが、そんなことはどうでもいい。問題はそこに立ってる女だ。
その女は机の上に備えられたコンピュータとレバーのような機械を操作して俺の目をまっすぐに見つめていた。
黒髪で、背が高くて、年齢の割りに貧相な俺の妹。名前は樹里。
十数年俺と共に育って、俺を愛していて、そして俺が昨日……拒絶した女だった。
その女が俺に語りかけてくる。
「起きてくれたようだね、兄さん」
「どういうつもりだ樹里」
こうは答えたがだいたい事情は把握している。状況から判断して俺を拘束した犯人は樹里だ。
おそらく、昨日の件が関連しているのだろう。強硬手段にでたのだろう。
「どうって、決まっているじゃないか。兄さんにボクの気持ちを受け入れてもらうためだよ」
「こんなことしたって、人間の気持ちをそう変えられるものか」
どうやら樹里は俺が思っていた以上に愚かだったようだ。
体を拘束して、犯したといってそれで心まで支配できるとでも思っているのだろうか?
「昨日の問いをもう一度するね。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「樹里、オマエは妹だ。それ以外の何者でもない。あきらめてくれ。」
俺は昨日の言葉をもう一度繰り返す。昨日はそのあと口論になり、なきながら樹里が部屋に戻り終わったはずだ。
こんな問いをしても結果などわかりきっているはずなのに。
「兄さん、それなら仕方が無いね」
そういうと樹里は握っていたレバーをすばやく斜めに傾けた。
その直後、俺の脳が弾けた。臓器が焼ける。 眼球が取り出される。
突如、俺の考えうる限りのあらゆる苦痛が再現された。何も考えられない。ただただ、苦痛から逃れたくて叫び声をあげ泣き叫ぶだけ。
無限にも思える時間が経過し、ようやく苦痛が引いていく。
脈は上がり心臓が弾けそうだ。喉は枯れ、顔は涙でぬれている。考えたくないが、失禁までしている。
樹里を見ると液酸のように冷たい目で俺をじっと見つめていた。
無様な姿をさらす俺をこの目で見ていたのだろうか。そう思うと言いようの無い恐怖が湧き出した。
そうだ、どうやってかわからないが樹里こそがこの地獄の苦痛を与えた犯人に違いない。
「どうしてこんなことが……」
枯れた喉でどうにかそれだけ捻り出すことに成功する。
「兄さんの脳に電気信号で直に苦痛を送り込んでるんだ。だから、この世ではありえない苦痛も再現できる」
そんな馬鹿な……だが、俺の体に傷があるようには見えない。本当に脳だけに苦痛を与えていたのだろう。原理はわからないが。
「ちなみに、ボクが今回しかけた苦痛は最大出力の三割だね」
三割、あのショック死しても不自然ではなさそうな苦痛が三割だというのか。戦慄している俺に樹里が問いかける。
「なぜ受け入れてもらえないんだい?ボクはこんなにも愛しているというのに」
「兄妹だろうが……結ばれることが出来ると思っているのか!」
「そんなこと誰が決めたっていうんだい?世間が?」
321 某SF作品パロディ sage 2010/02/13(土) 14:39:10 ID:zEvbMuEG
「常識で考えて結ばれられるわけないだろう」
「兄さんが言うような常識なんて多数派が形成する意見というだけに過ぎない。ただの固定観念じゃないか」
昨日も同じような問答が行われた。違うのは樹里がいつでも俺を苦しめることが出来るということだけ。
「だとしても、俺はいまさらお前を女として見ることは出来ない」
「女としてみるよう努力することも?」
「…………できるわけないだろう」
「……もう一度いうよ、兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
俺は言葉に詰まった。おそらく否定すれば先ほどの苦痛が再びもたらされるのだろう。
だが、ここで認めてしまうわけにはいかない。俺は覚悟を決めて答えを紡いだ。
「何度でもいう、無理だ」
「今度は35」
そして俺の体はミキサーにかけられ挽肉になった。無数の刃に全身をばらばらにされてなお意識が保たれる。
脳髄が苦しみ以外のあらゆるものを認識できなくなる。自分が存在しているのか把握できない。
そして時間と共に悪魔が体から離れる。
意識が朦朧として今の状況を忘れそうだ。
樹里が真上から俺の目をまっすぐ見つめているのが再び目に入る。
俺の意識がはっきりしてきたのを見計らったのか、電気スタンドのスイッチに手を伸ばした。
再び光が目を焼くが、あの地獄の苦しみに比べればどうということはない。だが、それでも俺の集中力を奪うには十分だった。
「兄さん、ボクはね男としても家族としても愛すことができるよ」
「樹里、お前はどちらかを混同しているだけだ。あきらめろ」
樹里がまた俺に話しかける。俺を痛めつけながらどの口でそんなことをいうのだろうか。
「話は固定観念の話に戻るけどね、中世では天動説が信じられていたじゃないか。それが常識で誰も疑うことなんてなかった。
たとえ真実でなくても事実として受け入れられていたじゃないか。少なくともヨーロッパ世界の中では。
そんな例なんてボクは古今東西でいくらだって挙げることが出来るよ。
しかもね、こっちは科学的事実の話じゃなくて人間の価値判断の話じゃないか。
それに確固たる真実なんて原理的に存在し得ない。にもかかわらず兄さんはそんなことにこだわる?」
「たとえそれがあいまいなものでも現時点ではそれが常識だ。そして、俺もその考えを持った多数派の一員だ」
樹里の言うことは
なんとなく理解できる。だが、俺もその価値判断をもった人間の一人だ。それは樹里がなんと言おうが事実だ。
「そんな固定観念なんて捨てれば良いじゃないか。
でも、難しいのはわかるよ。ボクだってお星様が上空1キロの空に浮かぶ火の粒で簡単に消せるなんて考えになることは難しい
心に硬く息づいた考えを変えるのは非常に困難だ。でも大丈夫、ボクが矯正してあげるから」
樹里は普段のおとなしい口調とは打って変わって熱を帯びた声で演劇のように演説する。
「さて、もう一度聞くよ。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「あきらめてくれ」
俺はいつまで耐えられるのだろうか…
最終更新:2010年03月07日 20:37