331 某SF作品パロディ >>320続き sage 2010/02/14(日) 17:08:22 ID:J5t10cmV
「さて、ここでもう一度。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「欲しい。お前が欲しい。だから」
「今は35」
全身がムシに細胞の一つ一つをむしられる。木星の重力を全身に引き受けるような圧力で押しつぶされる。
いったいいつまで続けば許してくれるんだ…
そして手術台に突然戻される。いくら懇願すればいいのか分からず絶望のなかで途方にくれる。
「一つ聞くけど、ボクが兄さんをここまでして愛してもらおうとするのはなぜだか分かるかい?」
「俺のためだ、俺はお前と結ばれることで幸せになれると確信しているからだ」
これは
なんとなく分かる。樹里は昔からおせっかいなやつだった。俺のためと言いながら結局はありがた迷惑なこともあった。
今回も似たようなことなのだろう。
「30」
すり鉢で体をペーストにされた。脳髄を砕かれる感覚が仮想的に何十秒も継続する。
取調室に戻った俺は今まで以上に混乱した。
俺が半ば確信を持っていた答えが間違いだったとでもいうのか。それなら、いったい何のためにこんなことを。
「失望したよ兄さん。もちろん今まで同様に愛しているけれど、兄さんの理解力に失望したよ。
そんな軟弱で奇麗事で対外的な言い訳のような言葉を聴かされるとは思わなかった!
いいかい兄さん。人に愛してもらう理由なんかただ一つじゃないか。ボク自身のためだよ。
自分が幸せになるため。自分が満たされるため。自分のため。すべて自分のためだよ。」
そんな馬鹿な。樹里は、結局は俺の事なんか見ていないのか?
俺が困惑している間も樹里はよりいっそう興奮した声で浪々と演説する。
「相手の幸せなんてものはそれを達成するための二次的な目標ないし副産物に過ぎない。
ボクも兄さんが幸せならとっても幸せだ。だから自分のために兄さんを幸せにする。
相手のためを思ってなんてのも、究極的には自分のためなんだよ。
無論、自己利益追求を常に優先させては見苦しさを演出するから、長期的な目線に立って考えねばならないけど。
相手の幸せのために自分の幸せを逃してしまうような底抜けの愚か者は、ボクから言わせてもらえば素人さ。
手段であった奇麗事を目的化して道を誤った馬鹿など泥棒猫に寝取られて当然だ。」
樹里の言うことは俺にも理解できないわけじゃない。だが、人としてそれを認めるのはどうかと思う。
「でも安心して兄さん。ボクは人形と化した兄さんに愛されても喜び薄い。ちゃんと兄さんの人格がないとね。
だから、ちゃんと妹に関する倫理観だけピンポイントに変えてあげちゃうから安心して。」
この期に及んで何を言うのか。だが、たしかに俺はまだちゃんと俺のままでいるのは確かだ。
樹里が本気を出せば俺を物言わぬ廃人とすることも、操り人形のようになった俺にすることも可能だったろう。
少なくとも廃人にはされない、そのことだけが今の救いだった。
「さて、もう一度。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
もう笛のような音しかでない喉でかろうじて答える。
「もちろんだ」
だが、樹里は無慈悲にレバーを倒した。
「今度は32」
苦しみの中で樹里の声が反芻していた。
早く開放されたい。だが、まだこの狂乱は続きそうだった。