某SF作品パロディ 中編

330 某SF作品パロディ >>320続き sage 2010/02/14(日) 17:07:36 ID:J5t10cmV
あれからどれだけの時間がたったのだろうか。数百年にも感じるし一時間足らずにも感じる。
樹里は演説の合間に拷問を続けている。何度も地獄と劇場を行き来して気が狂いそうだ。
形容しがたい苦しみで自らの思考を放棄させられ、その直後に我がシスターが暗示のように語りかける。
コレで正気を保ち続けるのは無理だ……
普通の外的な痛みなら多少は慣れてしまうことが出来る。だが、脳に苦痛の状態を直接作り出されてはどうしようもない。
意識が朦朧としつつあるある俺に再び言葉が降りかかる。
「そもそも妹としてというのはどういうことだい?それも兄妹とはかくあるべきという固定観念の産物だよ。
昔は女性が非常に軽視されていた時代があった。その時代に同じような価値観が普遍的だったと思うのかい?
ボクは似たような話をさっきから何度もしているじゃないか?どうしてそんな考えを捨てられない?」
もうすでに内容はうっすらとしか把握できていない。ただ束の間の安静で息を吹き返し次の地獄に備えるだけだ。
「ボクと結ばれることで幸福が得られるだろうことは兄さん自信も認めていることじゃないか。
料理だって出来るし、家事もそつなくこなす。頭もいいし、兄さんが困らないだけのお金だって用意できるよ。
それに、いくらだって抱かせてあげよう。知ってるんだよ?ボクの下着やらなにからチラチラ普段から見ているのは。
足腰も鍛えているから締まりも悪くないと思う。
兄さんのICBMをボクの硬化サイロ内で射出してかまわない。もちろんホットローンチだ。」
だが、この意識が朦朧とした状態で語りかけられるのが一番の曲者ではなかろうか。
表面の意識が飛ばされている分、自分の深層心理に直接的に書き込まれえていきそうな錯覚がする。
というよりもう限界だ。この苦しみから早く逃れたい。早く外界に戻してほしい。
「さて、もう一度。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「…………わかった、そうする。そうするから早く」
喉はすでに枯れはて、壊れた低音の金管楽器のような声しかでなかった。
「今回は70」
.
.
.
.
すべてが無と化すような苦痛だった。それが苦痛であったことすら後から認識される。
ここまでの苦痛を与えられたことはこの拷問の間ですらなかったことだ。
どのようにもがいたのか分からないがよほど暴れたのだろう。手足の枷と擦れて血が流れていた。
今まで以上に変な汗が全身から滝のように流れ出し、心臓がかつてないほど激しい鼓動を刻んでいる。
なぜだ!俺は認めただろう!わからない、何が何だか分からない。
「違うんだよ兄さん。今のは真にボクを愛する意思が出来ての言葉じゃない。
ただ、この苦しみをどうにか終わらせてほしいだけの言葉だ。それくらいは分かるよ。
ボクが求めている言葉はそんなものじゃない。ボクが欲しくて欲しくてたまらなくて自分だけのものにしたくて何千回でも何万回でも抱きたくて
…ちょうど、ボクが兄さんを求めるように…そんな言葉を欲しているんだ」
樹里はさっきから上気した声で演説を続けているが、声がさらに艶っぽさを増してきた。
無茶苦茶だ。もし俺が心からそんな言葉を発したとして、どうやって見分けるというんだ……
いや、コイツなら可能なのかもしれない。コイツは本気だ。本気で俺の精神を根本から覆そうとしている。
その狂気に改めて戦慄した。人間を人形か何かだと思っているのだろうか。
「……俺を洗脳して、こんな方法で洗脳して得た愛なんかに価値があると思っているのか」
「あるよ。これ以上はない価値がある。
そもそもね、恋をさせるってのは相手の精神を大なり小なり変革させることに他ならないだろう?
容姿で、言葉で、仕草で、その他あらゆる方法で意中の相手を射止めようとする行為はすべてそれだ。
そして恋をした側も相手の何かに心を奪われた……つまり相手が無意識的に変革してしまったんだ。
翻ってボクたちを見ると、同じことじゃないか。ただ人とは手段が違うというだけで。」
樹里の目がいくらか温かみが増したように感じた。
だが、今の俺には悪魔の目としか見ることが出来ない。いったいどうしてこんなことになったのだろうか。
本当は俺が異常で、実は樹里のほうが正しいのだろうか。いや、そんなはずはない。
だんだんと思考が犯されているのがわかる。


331 某SF作品パロディ >>320続き sage 2010/02/14(日) 17:08:22 ID:J5t10cmV
「さて、ここでもう一度。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「欲しい。お前が欲しい。だから」
「今は35」
全身がムシに細胞の一つ一つをむしられる。木星の重力を全身に引き受けるような圧力で押しつぶされる。
いったいいつまで続けば許してくれるんだ…
そして手術台に突然戻される。いくら懇願すればいいのか分からず絶望のなかで途方にくれる。
「一つ聞くけど、ボクが兄さんをここまでして愛してもらおうとするのはなぜだか分かるかい?」
「俺のためだ、俺はお前と結ばれることで幸せになれると確信しているからだ」
これはなんとなく分かる。樹里は昔からおせっかいなやつだった。俺のためと言いながら結局はありがた迷惑なこともあった。
今回も似たようなことなのだろう。
「30」
すり鉢で体をペーストにされた。脳髄を砕かれる感覚が仮想的に何十秒も継続する。
取調室に戻った俺は今まで以上に混乱した。
俺が半ば確信を持っていた答えが間違いだったとでもいうのか。それなら、いったい何のためにこんなことを。
「失望したよ兄さん。もちろん今まで同様に愛しているけれど、兄さんの理解力に失望したよ。
そんな軟弱で奇麗事で対外的な言い訳のような言葉を聴かされるとは思わなかった!
いいかい兄さん。人に愛してもらう理由なんかただ一つじゃないか。ボク自身のためだよ。
自分が幸せになるため。自分が満たされるため。自分のため。すべて自分のためだよ。」
そんな馬鹿な。樹里は、結局は俺の事なんか見ていないのか?
俺が困惑している間も樹里はよりいっそう興奮した声で浪々と演説する。
「相手の幸せなんてものはそれを達成するための二次的な目標ないし副産物に過ぎない。
ボクも兄さんが幸せならとっても幸せだ。だから自分のために兄さんを幸せにする。
相手のためを思ってなんてのも、究極的には自分のためなんだよ。
無論、自己利益追求を常に優先させては見苦しさを演出するから、長期的な目線に立って考えねばならないけど。
相手の幸せのために自分の幸せを逃してしまうような底抜けの愚か者は、ボクから言わせてもらえば素人さ。
手段であった奇麗事を目的化して道を誤った馬鹿など泥棒猫に寝取られて当然だ。」
樹里の言うことは俺にも理解できないわけじゃない。だが、人としてそれを認めるのはどうかと思う。
「でも安心して兄さん。ボクは人形と化した兄さんに愛されても喜び薄い。ちゃんと兄さんの人格がないとね。
だから、ちゃんと妹に関する倫理観だけピンポイントに変えてあげちゃうから安心して。」
この期に及んで何を言うのか。だが、たしかに俺はまだちゃんと俺のままでいるのは確かだ。
樹里が本気を出せば俺を物言わぬ廃人とすることも、操り人形のようになった俺にすることも可能だったろう。
少なくとも廃人にはされない、そのことだけが今の救いだった。
「さて、もう一度。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
もう笛のような音しかでない喉でかろうじて答える。
「もちろんだ」
だが、樹里は無慈悲にレバーを倒した。
「今度は32」
苦しみの中で樹里の声が反芻していた。
早く開放されたい。だが、まだこの狂乱は続きそうだった。

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最終更新:2010年03月07日 20:37
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