481 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/07(日) 02:54:53.11 ID:VKtCDyft0 [1/6]
SS『あの日見たウェディングドレス』
※微せつな系



「桐乃~っ♪」
「あっ、あやせ、おはよ」
「お~っす」
「加奈子もおはよー」

週の始まり。
いつものメンバーで、いつものあいさつ。

「つぅかぁ、あやせぇ」
「なに?どうしたの加奈子?」
「昨日ぉ~、加奈子が電話してもぜんぜん出ないじゃねーかよぉ?」
「ごめんね!ちょっと昨日は親戚の家に行ってて、手が離せなかったの。
 それに、加奈子にメールも送ったでしょ?」
「マジぃ?ゼンゼン見てなかったぜぇ?」

陸上の朝練が終わったあとはいつもこんな感じ。
あたしの机のまわりにみんなが集まってくる。
気楽な気分で話していられる大切な時間だ。

「いとこの結婚式だっけ?」
「うんっ!やっぱりいいよね~憧れるよね~♪」
「えェ~?あやせみたいなブスなんか、結婚できるワケねェだろ~?」
「あっ、あやせはどこが良いと思った?」

も、もうっ、加奈子ったらすぐにあやせを挑発するんだから!

「一番よかったのは、やっぱり、あの純白のウェディングドレスだよね~♪
 桐乃、聞いて!ほんとに凄いんだよ?
 白って言ってもね、紙みたいな白じゃなくって、すっごい透明。透明な白って言うの?
 生地もサラサラで気持ちいいし、まるでお姫様って感じでほんと綺麗なの!」
「つーかぁ、あやせには一番にあわねー色じゃん?」
「・・・・・・・・・か、な、こ?」

また加奈子、余計なことしゃべってるみたい。
前みたいにひどい目にあわなきゃいいけど・・・

でも、あたしの視界からは、あやせも加奈子も急速に遠ざかっていく。
朝練で疲れてしまったのだろうか?
いいえ、そういうわけじゃない。

あたしの心の目は、何かを・・・誰かを探している・・・




ここは・・・夢の中?
あたしはいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
もうすぐに授業が始まってしまう。はやく起きないと・・・

でも、あたしは目の前の光景を見て、動けなくなってしまっていた。
どこかで見たことのある光景だ・・・
夢でも、夢から覚めたくない・・・

あたしの目の前には、ショーケースの中で純白に輝くウェディングドレスがあった。
そして、その前は幼い二人の兄妹がいる。

「お兄ちゃんっ、ほんときれいだね~」
「う~ん。でもかっこよくないぞ?」
「え~~~?とってもきれいなのに~。ふんっだ、お兄ちゃんのバーカっ!」

黒髪のきれいな女の子は、目をきらきらと輝かせてショーウィンドウに張り付いている。
少し・・・ほんの少しだけどハンサムな、女の子のお兄ちゃんは、あんまり興味がなさそうに少し離れた位置に。
でも、女の子の事をすごく大切そうに見守っている。

「だ、だって、白いだけだろ?」
「もうお兄ちゃんにはおはなししないもんっ!」
「こ、困ったなぁ」

女の子がむくれちゃって、男の子は大慌て。
見てて笑いがこみ上げてくるくらい焦ってるのが手に取るようにわかる。
でも、大丈夫。女の子が本当にお話したくないわけがないでしょ?

「そ、そうだっ!お、おまえが大きくなってこれ着たらぜったいにあうって!」
「んー・・・ほんと?お兄ちゃん?」
「ほんと、ほんと!おまえってもとから可愛いし、こんなきれいなドレスを着たらぜったいにあうって!」
「んふ~~~♪」

さっきまでむくれていた女の子の顔は、見違えるようにぱっと明るくなる。
やっぱりお兄ちゃんが大好きだよね、この子は。

「え、えとね、お兄ちゃん」
「ど、どうした?」
「わたしのおねがい、一つきいてくれる?」
「あ、ああ!なんでも聞いてやるぞ!」

また安請け合いばっかり・・・
ねぇ、女の子の表情、ちゃんと見なさいよね?
簡単な『お願い』じゃなくて真剣な『気持ち』でしょ?

「わたし、大きくなったら、お兄ちゃんとならんでこのドレスをきたいな」
「ん?そんな簡単な事でいいのか?」
「う、うんっ!」
「それじゃあ、俺が大きくなったら、ぜったいにこのドレスを買って、おまえに着せてやるからな」
「うんっ♪」

本当にうれしそうな表情の女の子。
頬を紅潮させ、興奮しているのがよくわかる。

・・・胸が・・・痛い・・・

あたしに、この先の記憶は無い。
たぶん、ここで満足して帰ってしまったんだろうな・・・



「ねっ、お兄ちゃん。しってる?」
「ん?」

えっ?
あたしに、この先の記憶は無いはずなのに、目の前の光景はまだ続いてる。
忘れてしまってただけ?それとも、ただの願望なの?

「ウェディングドレスをきた女の子といっしょにならぶと、けっこんすることになるんだよ?」
「えっ?それじゃあ俺は、おまえとけっこんすることになるのか~?」

そっか、多分、あたしは兄貴に否定されて・・・

「おにいちゃん、わたしとけっこんしてくれますか?」

どこでそんな言葉を覚えたのか、女の子はプロポーズの言葉を口にしている。
幼いけど、『女の子』の目をして、期待に胸を膨らませて。

嫌だよ・・・そんな結末・・・見たくないよ・・・



「ああ、けっこんしよう!きりの」



うそ・・・

「おまえは本当にかわいいもんな!おまえだったら、けっこんしたっていいぜ」
「う、うんっ!」

あたしの顔が、みるみるゆがんで・・・

「お兄ちゃん、大好きっ!」
『お兄ちゃん、大好きっ!』





「きっ、桐乃さん?」
「えっ!?」

ふと気がつくと、あたしは教室の中にいる。
まわりでは、クスクスと笑う声が飛び交ってる。

「お仕事大変なのはわかるわ。それに、お兄さんと仲が良いのも良いことです。
 でも、今は勉強をする時間です。ちゃんと起きていなさいね!」
「は、はい。すみません・・・」

あたしは慌てて授業に身を入れる。
恥ずかしくって、情けなくって・・・。
こんな事になったのも全部あいつのせいだ。
あいつが夢の中にまで出てくるからっ!!!

でも・・・あれは・・・本当にだたの夢?
幼い日のあたしと兄貴の記憶?
どちらが正しいのか、全然わからない。

でも、一つだけ。
はっきりと分かっている事がある。



あたしは、お兄ちゃんの・・・
兄貴の事が・・・京介の事が大好きっ!

あの日見たウェディングドレスに身を包み
京介とバージンロードを歩きたい!



って。



End.




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最終更新:2011年08月08日 21:18