450 名前:【SS】ハートとルージュ 1/2[sage] 投稿日:2011/08/10(水) 16:55:50.82 ID:pWa40HLn0 [7/12]
『桐乃、なにしてるんだ?』
『おけしょうー』
『うわ!桐乃、口が真っ赤だぞ!』
『キレイでしょー?』
『キレイじゃなくて変だって。ほら、顔ふけよ』
『そのまえに、おにいちゃーん!』

むにゅ

違和感を覚え夢から覚めると、枕元に桐乃がいた。
・・・・・・なんか違和感がある。
「あ。やっと起きた」
寝ぼけ眼をこすり隣を見ると、桐乃がなにやら手元をごそごそしていた。
・・・・・・いやな予感がする。
「おまえ、俺の顔に落書きとかしてないよな」
「え?落書きなんてしてないよ?」
「本当か?額に『妹専用』とか書いてないだろうな」
「書いてないって。
 第一、マーキングするまでもなく、あんたがあたし専用だってみんな知ってるし」
何でみんな知ってるの!?
俺がシスコンだという事を、妹を一番大切にする事をカミングアウトしたのって最近だろ?
「ほら、早く起きて洗面所行って来なよ。
 ご飯だよ」
桐乃は立ち上がると、そのまま部屋から出て行った。
結局何しにきたんだ?
俺はちゃっちゃと着替えを済ますと、洗面所に向かった。
顔を洗おうと思い、そのまえに備え付けの鏡を覗くと―

「なんじゃこりゃー!」

「あ、おはよう兄貴」
顔も洗わずリビングへと向かうと、お袋と桐乃がすでに食べ始めていた。
待ってくれなかったのか。薄情だな。
「おい桐乃、なんだこのほっぺに書かれてるのは」
俺は洗面所で見た、右の頬に書かれた落書きを指す。
「ハートマーク」
そう。俺の頬には赤くて大きいハートマークが書かれていた。
「落書きしてないって言っただろうが」
「うん、落書きじゃないよ。それファッションだから」
ファッションなのか?
むう、俺はファッションの事について詳しくしらんし、対して桐乃はそれの専門家だ。
「わかった。百歩ゆずってファッションだとしよう。
 だが何でハートマークなんだ」
「今日は八月十日―ハチとトオでハートの日なんだって」
つまり、ハートの日だから俺にハートマークのプリントをしたと。
「せっかくあたしが書いてあげたんだから、今日一日は消しちゃダメだからね」
おいおい、マジかよ。
「さすがにそれはきついだろ。
 お袋からもなんか言ってくれよ」
「あら、いいんじゃない?可愛いし」
しまった!いつだってお袋は桐乃の味方だ!
「ちっ、しょうがねえな。
 今日一日だけ我慢してやるよ」
今日は麻奈実との勉強会もない。外出しなけりゃ問題ないだろ。

451 名前:【SS】ハートとルージュ 2/2[sage] 投稿日:2011/08/10(水) 16:56:20.26 ID:pWa40HLn0 [8/12]
「今日は八月十日でハットの日、つまり帽子の日でもあるの。だから、今から買い物行くから」
時々鏡を見つつ一人で勉強してると、桐乃が部屋に入ってきてそう言った。
「そうか。気をつけろよ」
このハートマークがなけりゃ俺が付いて行ってやってもいいんだがな。
「は?あんたも来るんだけど」
「勝手に決めんな!大体俺はこのマークのせいで外に出れないだろうが」
「いいじゃん、ハートマーク。可愛いし、見せ付けるようにしてもいいと思うよ。
 まあ、皆あんたの事なんか気にしないだろうから、関係ないんじゃん?」
可愛いとかが問題じゃなくてだな、妹に書かれたハートアークを見られるのは恥ずかしいだろうが。
それに俺が地味なのは認めるけどよ、おまえの隣にいたらイヤでも目立つだろうが。
「それともなに?
 あ、あたしにもおそろいのハートマークを書けって言うの?」
想像してみる。
お互いのほっぺにハートマークを書いて仲良く買い物をする男女。
・・・・・・ラブラブだ!
「さすがにこれはないわ」
「うん、恥ずかしすぎるよね・・・・・・」
腕を組んでデートしたり、ラブラブツーショットプリクラなら兄妹として普通だけどよ、さすがにこれはないんじゃないか?
「でも、京介がどうしてもしたいなら、あたしのほっぺにハートを書かせてあげてもいいかも・・・・・・」
桐乃がどこからか口紅を取り出し、フタをはずすと俺に渡してきた。
なんだ?もしかして書けって言ってるのか?
ラブラブカップルはまずいだろう。いや、たしかにもうちょっと桐乃と仲良くなりたい俺としては、
周りに仲がいいのを知ってもらうためにちょうどいいというか―
そう考えたときに、ふと気がついた。
「そういえば、今日のおまえの唇、いつもより色が濃いな」
いつもの透明感あふれるローズピンクの唇より少し赤い、ローズレッドといった感じだ。
朝起きたときに覚えた違和感の正体はこれか。
「え?」
「いつもはリップクリームをつけてるだけみたいだけどよ、今日は口紅をつけてるのか?」
それにしてもこの色、どこかで見たような―
「ああ、この口紅と同じ色で、俺のほっぺのハートと同じ色なのか」
なるほど。すぐに口紅を取り出せたのは、朝に俺のほっぺに落書きした後、ずっとこの口紅を持ってたからか。
「~~~!あ、あんた、ほっぺに間接キッスとか考えてるんじゃないでしょうね!」
桐乃が顔を赤く染めながら俺に詰め寄る。
「そんなこと考えてねーよ!」
どうせ新品の口紅を買ったから、遊びに俺のほっぺに落書きしただけだろ?
使った後に俺のほっぺに落書きするわけないもんな。
「とにかく、『間接キス』なんかじゃないから」
そんなに強調しなくったって考えねえよ。
「ふん。なんだか白けちゃった。
 もうあたしのほっぺにハートマーク書かせてあげない」
桐乃はそう言うと、俺から口紅を取り上げた。
少し残念な気もするが、これでよかったんだよな。
「あとムカついたから、今日は帽子だけじゃなくて色々見て回るからね」
買い物に付き合うのは決定事項か。まあ、ほっぺのハートは恥ずかしいが、桐乃と一緒にいるための料金だと思えば安いか。
「それじゃあ行くよ」
桐乃は俺の手を取り立ち上がらせる。
「はいはい」
俺は机の上においてある財布を手に取り、最後に一度だけ鏡に視線を向けた。

―遠い昔、こんな風にほっぺを赤くした事があったような―

「なにしてるの?早く行くよ」
桐乃に促され、俺は郷愁感を残し部屋を出た。


『なにをするんだよ、桐乃!』
『えへへ~
 これでおにいちゃんは、きりのせんようだからね!』



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最終更新:2011年08月12日 04:00