47 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/12(金) 23:53:10.67 ID:wFNb6nG90 [3/4]
【SS】幸せの配布
「良かったら貰って下さい!」
桐乃が通りすがりの男ににっこりと笑いかけながらポストカードを差し出す。
ポストカードを差し出された男は、締りのない顔を見せポストカードを受け取った。
・・・・・・イライラする。
「ぜ、絶対に買いますから!」
男は一度桐乃に好色な視線を向けた後、早足でその場を去った。
・・・・・・イライラする。
「あー!くそっ!」
小さく悪態をつき、空を見上げた。
中天には燦々とお日様が輝いている。
俺がイラついているのは、きっと―いや、間違いなくこの暑さのせいだ。
コミケに行けないからでも、俺が似合わないスーツを着させられているからでも、桐乃が好色な視線で見られているからでも、
ましてや桐乃が露出の多いウェディングドレスを着ているからでもない。
絶対に違うはずだ。
「どうしてこうなった」
八月十二日は8(ハ)1(イ)2(フ)、配布の日である。
だからってわけじゃないんだろうが、俺と桐乃はこのクソ暑い中アキバでポストカード配りを行っていた。
事の発端は桐乃の所属している事務所の、某小説とのコラボだった。
某小説―『あたしの兄貴がこんなに格好いいはずがない』通称『あた兄』は現在8巻刊行中のアニメにもなった人気ラノベである
。
どうやらその主人公である霧乃という人物と、桐乃がそっくりらしくて、事務所にコラボの話が来たらしい。
普通ならそんな話は来ないし、来ても企画が通らないらしいんだが、加奈子の一件でオタク業界とのつながりが出来てその縁だと
か。
前から思ってたんだが、なんかあの事務所間違った方向に進み始めてねえか?
まあ、俺としては桐乃が嬉しそうだし、場合によってはオタク趣味を隠さなくても良くなるかもしれないからいいんだけどよ。
そんなわけで、コラボの一環として、『あた兄』九巻の発売記念のイベントが決まったわけだ。
それ自体は問題ないんだけどよ―
「ほら、あんたも声出しなさいよ」
桐乃が俺にポストカードを差し出してくる。
やけに露出の多い上に、スカートの裾が破けているウェディングドレス姿で。
俺は桐乃から差し出されたポストカードに眼を向ける。
そこには兄『恭介』にお姫様抱っこされ、顔を赤くしながら暴れている主人公『霧乃』が描かれており、
その隣には『あたしの兄貴がこんなに格好いいはずがない 第9巻』の文字が書かれている。
『恭介』は今の俺、『霧乃』は今の桐乃そっくりの姿だ。
名前だけじゃなくて、格好もそっくりだなんてすごい偶然だなー。
「偶然のわけねーだろ!」
「ひっ」
突然叫んだ俺に驚いたのか、桐乃は眼を白黒させて一歩下がった。
「なあ桐乃、一つ聞いていいか?」
「う、うん」
「なんで俺たちがこんなところで、こんな格好でポストカード配ってるんだ?」
「はあ?あんたなに言ってんの?
『あた兄』販促イベントの前準備じゃん」
そう。『あた兄』新刊の販促イベントとして、公式の『霧乃』レイヤーとなった桐乃がデビューするのだ。
それはまあいいんだが、なんでこんなところでポストカード配ってるんだ?
「イベントが突然決まったから事前告知できなかったんだって。
今日はコミケだから、今は人が少ないけど、夕方にはコミケ帰りで混雑するの。
イベントはその時やるんだけど、その前に知っておいて貰わないといけないから、あたしたちでポスカを配ってるんじゃん。
これ新刊の表紙なんだけど、今日が正式発表日なんだよね。
ほんと、マジで神表紙だよねー」
桐乃が嬉しそうに笑う。
この表紙は桐乃も昨日知ったらしいが、そのときのはしゃぎっぷりはすごかった。
なんせ隣から大音量で『神表紙KITAAAAAAAAA!なにこれ!最高じゃん!妹婚じゃん!』の叫び声が30分近く続いた
からな。
「あんた、あたしに感謝しなさいよね。
あたしの兄貴じゃなけりゃ『恭介』の正式レイヤーになれるはずなかったんだから」
そう。今回俺もポストカードを配ってるのは、なぜか俺もこのイベントに参加することが決まったからだ。
「あんたなんか『恭介』と比べて全然格好良くないんだから。
確かに見た目は、ちょっとは似てるけどね」
「うるせえ。確かに俺は格好良くないかも知れねえけどよ、死んだ魚のような目はしてねえぞ」
「その死んだ魚のような目がそっくりなんだけど。
でも『恭介』はそんな目でも、ちょっと地味でも、すっごい格好いいよ」
くう、これが『恭介』じゃなくて京介なら舞い踊りたくなるほどに嬉しいんだがな。
「けっ。おまえだって『霧乃』と比べて可愛くねえよな」
桐乃があんなに『兄貴のこと大好きだけど、素直になれなくてツンツンしちゃう』妹ならもっと可愛かっただろうな。
「む!まあ、『霧乃』ちゃんがすっごい可愛いのは認めるけどさ、あたしだって負けてないし」
桐乃は俺と距離をとって俺にその身体全体を魅せる。
アップにした髪を飾るコサージュ。
柔らかなラインを称える胸元。
滑らかなラインを描く腕を包むハンドドレス。
細い腰を強調するように咲いた薔薇。
破れてジャギーのようになったドレスの裾から、なまめかしいふとももがチラチラと覗いている。
そしてその足を色っぽく彩るストッキング。
今日何度も見てそろそろ慣れ始めたと思っていたのに、顔が一気に紅潮するのが自覚できた。
「どう?」
桐乃が腰に手を当て自信を持った表情で笑う。
見蕩れる俺の隣で、カメ子がシャッターを切る。
てめえ!桐乃の太ももを撮りやがって!それは俺のもんだ!
俺が睨みつけると、カメ子はダッシュで逃げ出した。
「・・・・・・可愛く、ない?」
一転し、視線を伏せ自信をなくしたような顔で桐乃が尋ねてきた。
「ちっ。おい桐乃、勘違いするな。
『霧乃』の方が可愛いっていうのは性格の面でだな」
「じゃあ、あたしと『霧乃』、どっちの見た目の方が可愛い?」
げ。なんて質問して来るんだよ。
どちらが魅力的かと聞かれたら、そりゃ考えるまでもなく答えは決まってるじゃねえか。
だがそんな事は言えるはずねえし―
「あー、なんだ。おまえのその格好はな、可愛いとかそういうんじゃなくてだな」
「じゃあなんなのよ」
「そりゃキレ―」
「おお、きりりん氏!京介氏!こんなところにおられましたか!」
俺がつい失言しかけたとき、後方から知った声がかけられた。
沙織か!助かったぜ!
俺が振り向いた先には、なぜかV字型のサングラスをかけた沙織が手を振っていた。
「あら、本当にウェディングドレス姿なのね」
その隣にはいつもより白の配色とフリルが多く、両肩を大胆に露出したゴシックドレス姿の黒猫がいる。
何で二人がここにいるのかも気になるが、その格好どこかどこかでみた事がある気がするんだよな。
「ちょっ!どうしてあんたたちがここにいんのよ!
今日はコミケじゃなかったの!?
それにその格好、何であんたたちもコスプレしてんのよ!」
コスプレ?
そうか、思い出した。
沙織のコスは『あた兄』に登場する超級オタ眼鏡『佐織・アズナブル』、黒猫のコスは電波系毒舌少女『灰猫』だ。
「あら、重要な用事が出来たからと私たちとコミケに行く約束をドタキャンしたあなたたちがアキバで面白いことをしているとい
う話をコミケ会場で聞いたから、
こうして早めに切り上げて見に来たんじゃない」
「そうですぞ。せっかく黒猫氏が二人を驚かせようと二人の分も新作コスを用意しておられたと言うのに・・・・・・」
「あたしたちの分も用意してくれてたんだ・・・・・・
ごめんね」
黒猫も沙織も、俺たちとコミケに行くのを楽しみにしていたんだな。
ろくに説明もせずに断っちまって、悪いことしちまったな。
沙織はサングラスを外して目元をハンカチで拭うと、
「それに、せっかく二人で式を挙げるというのに、拙者たちに声をかけて下さらぬとは、水臭いではござらんか」
そんな馬鹿なことを口にした。
「「はぁ!?」」
俺と桐乃の声がハモる。
「そうね。ねえ桐乃、たとえ誰が京介と結ばれることになっても、その時は私たちが仲人として祝福しようと決めていたじゃない
。
あの約束は嘘だったのかしら?」
黒猫も寂しそうに俺たちから視線をそらす。
「そんな約束してないし!
そうじゃなくて、ほらこれ!
このコスしてるだけだから!」
桐乃はそういうと二人にポストカードを差し出した。
二人は直前の寂しそうな姿はどこえやら、桐乃が差し出したポストカードを嬉しそうに受け取った。
「おお!これが例の!」
「『あた兄』9巻の妹婚疑惑の表紙ね」
「え?二人とも知ってるの?」
「ええ。私たちはコミケ会場で『あた兄』の次の巻の表紙と、その販促イベントをあなたたちが行っているという話を聞いてここ
に来たのだもの」
「もちろん二人のコスプレのことも存じ上げておりましたとも」
つまり、さっきのは二人にからかわれたわけだ。
「まったく、あんたたちは・・・・・・」
桐乃はあきらめたようにため息をついた。
「しかしきりりん氏、少し怒っていることは事実ですぞ」
「え?」
「そうね。
・・・・・・こんな面白そうなイベントに誘ってくれないんだもの」
「あんたたちにからかわれるのが嫌だったの!
それに突然だったからあんたたちに迷惑かけちゃうし・・・・・・」
「あら、あなたが私たちに迷惑をかけるのはいつものことじゃない。
それにお互い様でしょう?」
「う。でも、あんたたちはコミケを楽しみにしてたし・・・・・・」
「拙者たちはきりりん氏や京介氏と一緒に行くコミケを楽しみにしていたのです」
「それは、あたしも楽しみだったけど・・・・・・
でもこれは事務所にどうしてもって頼まれて断りきれなかったからで、
そもそも、あたしとしてはあんまり乗り気じゃなかったし」
そうか?
俺には昨日の夜からずっと楽しみにしていたように見えたんだが。
「あら、そうなの?
私はてっきりあなたの兄さんと一緒にお仕事をするために、力づくで仕事を引き受けたのかと思っていたわ」
「違うから!
あたしは兄妹いちゃいちゃ話を兄貴と演じたいなんて、これっぽっちも思ってないから!」
まあそうだよな。
実の兄妹で兄妹いちゃいちゃ話の役を演じたいとは、普通思わんよな。
「ですが、コミケ会場で貰ったこのイベントのチラシには、
『お兄ちゃん大好きっ娘で有名な読者モデルの高坂桐乃を『霧乃』役に迎え、
その実兄をであるシスコンマイスター高坂京介を『恭介』役としてキャスティングしました!』と書かれているのです
が・・・・・・」
「美咲さん!またあたしに隠れて!」
「って、今回一連の元凶はあの人かよ!」
まあ、言われてみれば納得だけどよ。
「とにかく、あたしは『あた兄』は好きだし、『恭介』と『霧乃』のカップリングは好きだし、妹婚しろ!って思ったりもするけ
ど、
あたしと京介を二人に重ねたり、今回のイベントであたしと京介がカップルとして扱われるようになればいいなって考えたり、
行く行くは実写ドラマ化して、キャストはもちろんあたしと京介で、いちゃいちゃシーンとかキスシーンとか、結婚シーンとか
があればいいな、
とかまったく思ってないから!」
おいおい桐乃、流石にそこまで否定しなくったって、誰もおまえがそう考えてるなんて思ねえって。
(・・・・・・ねえもしかして今のって)
(ええ。拙者たちが考えていた以上に重症ですな)
(原罪に穢れきっているわね。
・・・・・・まあ、そこが可愛いのだけれど)
(まったくですな)
黒猫と沙織がこちらに背を向けてひそひそと話している。
なにを喋ってるんだ?
「あんたたちなに喋ってるの?」
「なんでもないわ。
ところで、このポストカードで一つ気になったことがあるのだけれど」
「ああ、拙者も気になりました」
「ポストカードの気になるところ?」
桐乃がポストカードを手に取り、ためつすがめつ確認する。
「ええ。このポストカードに重要な言葉が書かれておりませぬ」
「え?誤植があるの?
どうしよう。今から修正って間に合うのかな?」
「きりりん氏と京介氏が二人でポストカード一枚一枚に書き足せばよいのです」
「流石にそれはいい加減すぎると思うんだけど・・・・・・
なんて書けばいいの?」
桐乃の質問に黒猫と沙織は二人で顔を合わせ一つ頷くと、
「「『私たち結婚しました』」」
パシーンといい音がアキバに響き渡る。
「痛いわね」
「痛いでござる」
二人が涙目で頭を抑える。
「あんたたちが馬鹿なこと言うのが悪いんでしょ!」
黒猫は頭をさすりながら、
「別に馬鹿なことではないわ。
新郎新婦の姿の二人が、自分たちにそっくりな二人が書かれたポストカードに『私たち結婚しました』と書いて配る。
話題作りとしては最高じゃないかしら」
「そうでござる。
・ポストカードを受け取る人は新婚の二人を見て幸せな気持ちになれる。
・作品の知名度が上がる。
・話題となって作品が注目される。
・拙者たちは恥ずかしがっているお二人の姿が見られる。
いいこと尽くめではござらんか」
「結局あんたたちが楽しみたいだけじゃん!
兄貴は喜ぶかもしれないけど、あたしは恥ずかしいからダメ!」
「いや、俺も恥ずかしいんだが」
一応言っておく。
「あら、いつものあなたなら
『プロなら話題づくりにも全力を出すべき』
というのではないのかしら?」
黒猫がニヤニヤ笑いながら言う。
「う・・・・・・
で、でもそれはダメ!
だって、そういうのはちゃんと結婚してから書きたいし・・・・・・」
桐乃がもじもじしながら言う。
「ちゃんと結婚してから、ね。
ふふふ、その葉書が来るのを楽しみにしているわ」
黒猫が今度は慈しむ様な笑顔を見せた。
桐乃の『結婚しました』の葉書か。
けっ、そんなもん絶対に見たくないね。
「ところできりりん氏、京介氏にその格好の感想はいただけたのでござるか?」
沙織が口をωにして桐乃に話しかけた。
「・・・・・・特に何も言われてないケド?」
桐乃は横目で俺を睨みつける。
何だよその目は。
おまえだって俺の格好に何の感想も言ってないだろ?
「あら意外ね。一時間くらい褒めちぎられたかと思ったのだけれど。
まさか、何の感想もないのかしら?」
黒猫が俺に尋ねてくる。
「・・・・・・別に。
似合ってるんじゃないか?」
桐乃を横目で見ながら言う。
けっ、桐乃を直視しながら褒められるかってんだ。
「・・・・・・まあ、あんたよりは似合ってるのは当たり前だけどね」
桐乃も横目で俺を睨みつけてくる。
おまえのことは褒めただろうが。そんな顔するな。
「それでは京介氏、キリノの姿をどう思います?」
沙織が今度は俺に話しかけてきた。
きりりん氏じゃなくて桐乃?
ああ、『霧乃』のことか。
・・・・・・別に桐乃のことじゃないし、素直に感想を言っても問題ないだろう。
「そうだな」
手元のポストカードへと視線を向けるが、このシーンからでは詳しい情報は読み取れない。
仕方がない、桐乃が同じ格好をしてることだし、桐乃を参考にしよう。
俺は桐乃へと視線を向けた。
桐乃は俺の視線を感じたのか、一度びくりと身体を震わせた後、緊張した面持ちで俺の様子を伺う。
「・・・・・・」
これで桐乃のウェディングドレス姿を正面から見るのは何度目か。
その度に心臓が高鳴っちまうのが分かる。
この姿がどうかって?
そんなの聞かなくても分かるだろう?
だがあえて言葉にするなら、そうだな―
「すごい、綺麗だ」
自然とその言葉が口から漏れた。
「~~~!」
桐乃の体がビクンと震える。
「『霧乃』はカラフルなイメージが強いけどよ、その薄いピンク色の無垢な衣装もスゲー似合ってる。
服の至る所にあるバラの衣装も、『霧乃』の繊細な美しさと、内面の刺々しさを表しててイメージにぴったりだ。
髪をアップに纏めてるから、そのおかげで見えるようになったうなじがスゲーセクシーだし、
『霧乃』の輝きが、バラの派手なイメージに負けずに、それどころかそのコサージュでいっそう引き立ってる。
腰のバラの蔦を思わせるような帯も、それを飾るバラも、『霧乃』の女らしいラインを強調してるし、
その下、ドレスのスカートが引き裂かれてジャギー状になっちまってるけど、
『霧乃』の活発さが感じ取れて元からそういうデザインなんじゃないかって思っちまう」
思いつくままに言葉を並べていく。
「桐乃がとても綺麗で、素敵で、魅力的で、
ギュッて抱きしめて、匂いを嗅いで、暖かさを感じて、柔らかさを楽しみたくなってくる」
「このまま、結婚しちまいたくなるくらいだ」
「~~~!~~~!~~~!
キモ!キモ!キモ!
あんた、二次元の女の子になに言っちゃってんの!?」
桐乃が顔を赤くして自分の身体を抱きしめる。
「な、何って・・・
『霧乃』の感想を言えっていわれたから、素直に言っただけだろ!?」
本当にそう感じちまったんだから仕方ないだろ!?
「第一『霧乃』ちゃんにはすでに『恭介』っていう相手がいるから。
絶対に『霧乃』ちゃんと京介が結婚することなんて認めないから」
「結婚したくなるっていうのは例えの話だ!
現実の話と一緒にするんじゃねえ!」
「ふん、どうだか。
あんた、外で『霧乃』は俺の嫁、とか言ってないでしょうね」
「言わねえよ!」
まったくこいつは・・・・・・
これだから褒めたくねえんだよな。
「まあまあ、言い合いはそれくらいにして・・・・・・
それではきりりん氏、きりりんは『恭介』のことをどう思いますかな?」
続いて割って入った沙織が桐乃に質問する。
「『恭介』?
うーん、そうだね」
桐乃が腰に手を当てて俺を睨みつけてくる。
げっ。今度は俺―じゃなくて『恭介』の品評かよ。
「格好いいと思うよ」
少し頬を赤く染め、桐乃が言う。
「『恭介』はいつもパッとしない服装だけどさ、こんな風にスーツをびしっと決めれらると目が奪われちゃう。
グレーのシャツと黒いスーツって言うのはちょっとフォーマルすぎるけど、
いつもちょっと子供っぽいから、そのギャップがすごい良い。
オールバックの髪型もすっごい似合ってるし、いつもは死んだ魚みたいな目だって思ってるその目も、
なんか深い感じがしてきてとても素敵」
言葉を発するたびに桐乃の顔が赤くなっていく。
な、なんだ?
その顔を見せられると、ますますドキドキしてきちまうんだが。
「京介がとっても格好良くて、素敵で、魅力的で、
ギュッて抱きしめて、頭をなでて、キスして欲しくなっちゃう」
「こんな兄貴なら、このまま結婚しちゃいたい、カモ・・・・・・」
「~~~!~~~!~~~!
そんなの俺がゆるさねえからな!
たとえ二次元相手でも、桐乃は嫁にやらねえ!」
さっきの表情、あれは恋する乙女の顔ってヤツか!?
「確かに『恭介』は格好いいけどな、
さっきおまえが言ったように『恭介』には『霧乃』がいるんだよ!
俺も『恭介』と『霧乃』のカップリングには賛成だ。
だから桐乃の相手に『恭介』は認めねえ!」
「はぁ?あたしは『恭介』の感想を言っただけじゃん。
実際には兄貴なんかじゃない『恭介』と結婚したいとは言ってないし。
大体、兄貴面して『恭介』との結婚は認めないとか言われるとマジむかつくんですけど。
それともなに?
もしかして嫉妬してくれたの?」
「し、嫉妬なんかじゃねえ!
それに、おまえだって『霧乃』との結婚は認めないっていったじゃねえか。
おまえこそ嫉妬したんじゃねえのか?」
「~~~!」
「~~~!」
ついつい言い合いを始めてしまう。
まあ、最近随分仲良くなったって言っても、俺たちは結局喧嘩続きでまだまだ仲が悪いのさ。
「・・・・・・黒猫氏」
「・・・・・・なにかしら?」
「先ほどの感想、お二人ともマジでしたな」
「ええ。
本気の顔だったわ」
「まったく、二人とも素直なのか、素直じゃないかよくわかりませんわ」
「同感ね。
それにしても―」
黒猫はバッグからカメラを取り出すと、ファインダーを二人に向けシャッターを押した。
カシャリと撮影された音が鳴り、黒猫と沙織が撮影されたばかりの画像を確認する。
そこに移されている二人の表情は―
「本当にそっくりね」
黒猫は液晶に映された二人とポストカードの二人と見比べ、クスリと笑った。
後日、黒猫からあの日の写真が送られてきた。
喧嘩して言い合いをしている俺と桐乃。
黒猫に頼まれて撮られた、俺と桐乃のツーショット。
さらに、恥ずかしそうに腕を絡める俺と桐乃。
まさにキス直前のように見つめあう俺と桐乃。
そして、あのポストカードのように桐乃をお姫様抱っこする俺と、それを嫌がり暴れる桐乃。
「くくく」
携帯の待ち受け画像を確認し、俺は自分でも気づかないうちに笑っていた。
今度の画像はもちろんアレだ。
「キモ。なに携帯の待ち受け見てニヤついてるの?」
ベッドの上でくつろいでいた桐乃が、俺の様子を見ていった。
「うるせえ。
おまえだってこの間携帯をいじってニヤついてたじゃねえか」
ちゃんと見てたんだぞ。
「べ、別にニヤついてなんかいないし」
桐乃はそう言うと、手元にあった携帯を開き、待ち受けを確認する。
・・・・・・やっぱりニヤニヤしてるじゃねえか。
ま、俺と違って桐乃の待ち受けはお気に入りらしい『あた兄』9巻の表紙だろうけどな。
「妹婚、か」
もう一度携帯に目を落とす。
顔を赤くし、嫌がって暴れる桐乃と、それを抱きかかえる俺。
いつの日か桐乃が結婚するとして、そのときの桐乃はどんな笑顔を見せてくれるのだろうか。
「ま、例え相手が『恭介』でも、桐乃との結婚は認めてやらねえけどよ」
-Have a Happy Wedding!-
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最終更新:2011年08月15日 23:00