207 名前:【SS】左手のしりとり 1/3[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 21:45:21.53 ID:w9i6DogU0 [2/7]
『桐乃 好き』
そう書いた紙を桐乃に突きつけた。
桐乃はその文字に目を向けた後、手元の髪に新しく文字を書き、俺に見せてくる。
『京介 大好き』
くっ、俺の完敗だ。
正面を見ると、桐乃が勝ち誇ったように笑っている。
さて、ここで皆が誤解しないよう、今日の状況を確認しておこう。
今日は八月十三日。全世界的に左利きの日だ。
本当なら俺も桐乃も右利きなんで関係のない話なんだが、突然妹様が余計な提案をしてきたのだ。
「いざと言うときのために、名前くらい左手で書けた方がいいんじゃない?」
というわけで、俺と桐乃はリビングで向かい合いながら書き取りの練習を行っているわけだ。
ちなみに練習している文字は自分と周りの人の名前、それと好感情を示す言葉だ。
なんで好感情を示す言葉かって言うと、エロゲかなんかで、筆談でたどたどしく愛を告白するシーンが良かったからだとか。
まあ、左手で文字を書かなきゃいけないような状況なら、
ありがとうとか、感謝してるとか、大好きとか、そんな言葉を書く必要がありそうだよな。
桐乃が書いた文字に目を向ける。
『京介 いつもありがとう』
『京介 愛してる』
『京介 格好いい』
やっぱりこいつ、こういう時の学習能力は高いよな。
俺と一緒に始めたのに、大分上手くなっていやがる。
俺も負けじと文字を書いていく。
『桐乃 素敵だ』
『桐乃 可愛い』
『桐乃 ずっと側にいてくれ』
書いた文字を少し離れて見てみる。
駄目だ。下手すぎる。
一向に上達しねえ。
もしかしたら書く文字が悪いのかも知れん。
『あやせ ラブリーマイエンジェル』
『あやせ 俺 嫁』
『あやせ 京介 愛してる』
書いた文字を少し離れて見てみる。
うむ!大分上手く書けたな。
さて、桐乃はどうだ?
『あやせ 京介 嫌い』
『あやせ 京介 蹴る』
『あやせ 京介 埋める』
・・・・・・なんか筆跡から怒りのようなものが感じ取れるんだが。
おい桐乃、何で俺を睨んでるんだ?
あと、おまえが選んだ文字が悪感情を示すものに見えるのは俺の気のせいか?
まあいいか。他の字を書いていこう。
208 名前:【SS】左手のしりとり 2/3[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 21:46:11.03 ID:w9i6DogU0 [3/7]
『カレーライス』
この言葉は必要だよな。
桐乃のほうを見てみる
『すり抜け』
すり抜け?
何でそんな言葉を書くんだ?
不思議に思い桐乃のほうを見ると、桐乃は黙ってこちらを見ている。
どうやら俺の次の文字を待っているようだ。
・・・・・・なるほど。しりとりか。
『けん玉』
『待ちぼうけ』
『毛じらみ』
『御鏡攻め×浩平受け』
OKだ。
今度瀬菜に会った時はその乳を揉み解そう。
それはともかくとして、なんで『け』攻めなんだ?
・・・・・・『け』攻め?
ふと思い立ち、正面に座る桐乃に目を向けた。
桐乃は真剣な表情で俺を見ている。
・・・・・・気が乗らないが、付き合ってやるとするか。
前にちらりと見ただけだしちゃんとやれるかはわからないけどな。
俺は記憶から『あのしりとり』を引きずり出した。
『ケスラー・シンドローム』
ペンを握る桐乃の手がびくりと震えた。
その後、ゆっくりと慎重に文字を書いていく。
『無重量用軸受け』
やっぱりそうか。
なら続きはこれだ。
『ケレス』
『スピン抜け』
『計器飛行』
『ウインドウ開け』
予定調和の言葉を重ねていく。
さて、次はなんだったか―
『ケネディー宇宙センター』
『アナンケ』
『鍵盤ハーモニカ』
209 名前:【SS】左手のしりとり 3/3[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 21:46:36.83 ID:w9i6DogU0 [4/7]
俺が書いた文字に、桐乃が再度びくりと震えた。
そりゃそうだろう。
これは『王手』の状態だ。
ここで『あの文字』を書いちまったら『詰み』だからな。
さて、どうする?
俺が視線を向ける中、桐乃はゆっくりと丁寧にペンを走らせた。
『髪の毛』
―桐乃は間違えなかった。
だから、あと二つの言葉でこのしりとりは―『プラネテスしりとり』は終わりを迎える。
頭の中に、俺が書くべき最後の文字を思い浮かべる。
ふう。
一つ深呼吸して覚悟を決めると、俺は震える手を何とか落ち着かせ、
桐乃に勝利するための言葉を紙に刻んだ。
『結婚しよう』
これで終わりだ。
俺が目線を手元の紙から桐乃に移すと、桐乃は顔を真っ赤にしながら幸せそうに微笑んでいた。
桐乃の手が動く。
今度はリラックスした様子でやさしく文字を書いた。
『うん。
頼まれても、絶対に離れてあげないからね』
・・・・・・おい、それは卑怯だろう。
俺は憮然とした面持ちで桐乃を見ると、桐乃はすごく嬉しそうな顔でニヤニヤと俺を見つめてくる。
・・・・・・はぁ、仕方ねえか。
しりとりは終わらなかった。
なら、次は俺の番だ。
俺は先ほどとは違い、何も考えずに筆を走らせた。
『願ってもねえ言葉だぜ』
俺たちの、左手でのよるたどたどしい筆談は続いていく・・・・・・
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最終更新:2011年08月15日 23:00