31 名前:【SS】初めて会った時 1/2[sage] 投稿日:2011/08/17(水) 19:01:11.22 ID:7rR6+S2m0 [2/7]
実でも義理でもいい。
俺はこんな展開が見たい。
「ねえ、あんたさ、どうしてあたしのためにあんなに頑張ってくれたの?」
月が照らす夜道を歩いているとき、隣の桐乃がそんな事を尋ねてきた。
「前に黒猫に聞かれた時にも言っただろ。
俺たちが兄妹だからだよ。
お前だってそう答えただろ?」
俺が黒猫に振られ、二人で追いかけた時に、黒猫の問いに対して確か桐乃もそう答えたはずだ。
「そうだけどさ・・・・・・」
どうやら桐乃はこの答えだけでは納得いかないらしい。
「・・・・・・今だから言うけどさ」
桐乃は立ち止まり、真摯な声でそう言った。
俺も立ち止まり、正面から桐乃を見つめる。
「あの時頑張ったのは兄妹だからっていうのもあるけどさ、
それ以外に、京介にしてもらった事をやり返したいって想いもあったんだ」
俺にしてもらった事をやり返す?
「人生相談を通じてあんたに色々助けてもらってすっごい嬉しかった。
大人になっても忘れたりなんかしないって思った。
絶対に何時かやり返してやろうって思ってた」
桐乃のヤツ、そんなことを考えてたのか・・・・・・
俺が桐乃のためにやってきた事は、何一つとして無駄じゃなかったんだな・・・・・・
「ずっとずっと無視しあってた時、あんたはあたしのことなんかどうでもよくて、
あたしのことなんか要らないだって、必要ないんだって考えてると思ってた。
でも実際にはそうじゃなくて、あんたはあたしを必要としてくれてて、あたしのためにすっごい頑張ってくれて、
それがどうしようもないくらい嬉しかった」
「だからあたしはあんたのために頑張ろうって思ったんだよ」
穏やかな月夜の下で桐乃が俺に笑いかける。
この言葉、この笑顔だけで、俺が今まで桐乃のために頑張ってきたすべてが報われた気がした。
でもな、桐乃。本当はそうじゃないんだよ。
「桐乃、俺がおまえのために頑張った理由だけどな」
桐乃は俺に自分の心を吐露してくれた。
なら、俺も答えないと。
「う、うん」
桐乃の顔に緊張が走る。
「お前が今言った想いを、おまえが俺にくれたからなんだ」
「え?」
桐乃が呆けた様な顔をする。
「あれは俺が初めておまえに会った時だ」
そう。初めて桐乃を『見た』時と同じで、絶対に俺の記憶から消えない思い出。
32 名前:【SS】初めて会った時 2/2[sage] 投稿日:2011/08/17(水) 19:01:40.34 ID:7rR6+S2m0 [3/7]
桐乃を抱きかかえるお袋。
小さな桐乃は円らな瞳で俺をじっと見ている。
『ほら桐乃、お兄ちゃんですよー』
俺は桐乃へと恐る恐る手を近づけた。
『だぁ!』
近づいた手の指を、桐乃が掴む。
『きゃは!きゃは!』
桐乃は嬉しそうに俺の指を上下に振る。
『ふふ・・・・・・
よろしく、お兄ちゃん、だって』
桐乃とお袋が俺に笑いかける。
『京介はお兄ちゃんなんだから、これから桐乃のことをずっと助けるのよ?』
『おにいちゃん・・・・・・』
少し怖くなり桐乃に掴まれた指を引いてみるが、掴む力は思いの他強く離れない。
そのことが、桐乃が
『離れないで、ずっと守ってね』
そう言っているように思えた。
『よろしくね、きりの。
おにいちゃんが、ずっとまもってあげるからな』
「生まれて初めて、誰かに必要とされた気がしたんだ。
俺はな、桐乃」
「おまえに必要とされて嬉しかったから、おまえのために頑張ろうって決めたんだ」
初めて必要とされた気がして嬉しかった。
それはただの勘違いかもしれないが、それでもずっと俺の心に残り続けた。
だから、桐乃が俺を必要としてくれるなら、ずっと桐乃のために頑張り続けようと思った。
「初めておまえに会ったときから、俺はシスコンだったんだな」
三つ子の魂百まで。
これじゃあ、妹にシスコンと馬鹿にされるのも仕方がない。
「それじゃあ、あたしも初めて兄貴に会った時から、ずっとブラコンだったんだね」
桐乃が俺の腕にしがみついてきた。
「えへへー」
桐乃が俺の腕に頬を摺り寄せ、嬉しそうに笑う。
・・・・・・俺はこれから、何度桐乃のこんな顔を見るんだろうか。
「あたしは、これからもずっとあんたが必要だからね」
しがみつく腕に力を込め、桐乃が言う。
「ああ。俺にもおまえが必要だ」
俺は桐乃に笑いかける。
「だからずっと守ってね」
「だからずっと守ってくれよ」
月夜に照らされ帰途につく中、桐乃が俺の指をきゅっと握った。
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最終更新:2011年08月19日 00:17