295 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/18(木) 15:39:40.79 ID:gdkRLnSv0 [1/4]
SS『ヘアピン』



今日は、桐乃のはじめてのおつかいだ。
桐乃ももう少しで小学生だし、お父さんがやっと許してくれたんだ。

でも、桐乃ひとりじゃしんぱいだからって、ぼくがついていくことになった。
ぼくにだって、ようじがあるんだけどなー。
だけど、桐乃とはじめてふたりっきりで買い物だし、
ほんとはちょっぴりうれしい気もする。

桐乃にはぜったいナイショだぜ?

とおくの駅まではまだダメって言われたから、
近くのコンビニまで、パンと牛乳を買いにいくことになっている。
せっかくだし、ぼくもドラゴンボールのガチャポンを買うことにしよう。

「それじゃあ、桐乃、お願いね」
「うんっ!おかあさんっ、行ってきまーす!」
「京介も、ちゃんと桐乃を見てるのよ?」
「わかってるよ。それじゃ、行ってきます」
「お金があまったら、お菓子を買っていいからねー!」
「「はーい!」」

げんかんを出ると、ものすごくあつい。
さっきまで元気だった桐乃も、いまはちょっとつらそう。

「あついな」
「うん、あつすぎだよ」

ぼくは、桐乃のよこに立って、桐乃がぼくのかげになるようにしてやる。
お兄ちゃんだもんな。しょうがない。

「んー、ちょっとすずしくなったよ」
「そっか、よかった」

それでも、やっぱりあつい。
桐乃とぼくは、ほとんどしゃべらないまま、コンビニにとうちゃくした。

「あとちょっとだな。中に入ったらすずしいぞ~」
「うんっ、がんばるっ!」

おっと、忘れるところだった。

「桐乃。ぼく、ちょっとだけようじがあるから、先に中に入ってて」
「う、うんっ・・・」

桐乃はちょっとだけさびしそうな声を出したけど
あついのが、がまんできなかったのかな?お店の中に入っていった。

そうそう、ドラゴンボールのガチャポンだったな。
・・・あ、あれっ!?

お店の前にならんでいるガチャポンのコーナーには、
おとといまであったハズのドラゴンボールがなくなって、
代わりに、女の子向けのアクセサリーガチャポンがおかれていた。

「せっかく、おこづかいもってきたのになぁ・・・」

でも、ないものはしょうがない。
それに、桐乃もまってるしな。

あきらめて、お店の中に入る。
桐乃、桐乃は?・・・っと

桐乃は食パンと牛乳が入ったかいものカゴをじめんにおいて
おもちゃコーナーのまえでにらめっこをしていた。

「桐乃、どうした?」
「お兄ちゃん?これ、かえる?」

桐乃のみているのは、女の子の見るアニメのキャラクターの絵がかかれたはこだった。
友だちのあいだで、はやっているのかな?

買ってあげたいんだけど・・・

ねだんを見ると、315円。
パンが178円。牛乳が253円。お母さんからもらったのが500円だから・・・
ダメだ。ぜんぜんたりないや。

「桐乃、ごめん、高くてかえないや」
「う、うん・・・そ、それじゃ、これはっ!?」

今度は動物(?)みたいな絵のかかれたはこをわたしてくる。
これは210円?・・・でも、やっぱり足りない・・・

「ごめんな、桐乃。いま、けいさんしたけど、ちっちゃいガムかチョコしか、かえないんだ」
「・・・うん。わかった、お兄ちゃん」

ごめんな、桐乃。あとでお母さんに文句言ってやるからな。

桐乃は小さなガムを2個だけかうことにしたのだけど、
そのかおは、とってもさびしそうでかなしそうだ。
かなしそうな桐乃のかおを見てると、なんだかぼくもかなしくなってしまう。

「こちら、レシートと49円のお返しです」

おみせのおねえちゃんからおつりをもらって、あとはかえるだけ。
桐乃は、さっきからひとこともしゃべらない。

ほんとうは泣き虫な桐乃。
いまだって、ぜったい泣きたいはずなんだよな。
でも、ぼくしかいないから、ぼくをこまらせないようにって、とってもがまんしてる。

桐乃を少しでもよろこばせてあげられたら・・・

そうだ!

「桐乃っ!ちょっとまってろ!」
「お、お兄ちゃん、どうしたの?」
「じゅうびょうでもどるから!」

桐乃をお店の中にのこして、そとのガチャポンコーナーへはしる。
ほんとうは、ぼくのおこづかい。
ドラゴンボールのためにのこしていた100円玉。

ぼくはまようことなく、そのきかいにお金を入れて
レバーをぐるりとまわした。

「桐乃っ!おまたせっ!」
「お兄ちゃん。じゅうびょうすぎちゃってるよ」
「ごめんごめん」

じゅ、じゅうびょうはむりだったかな?

「でも、桐乃におみやげだ」
「えっ?」

さっきまでくらかった桐乃のかおがぱっと明るくなる。

「ほんとうは、桐乃のほしがってたもの買いたかったんだけど」

ガチャポンを桐乃に手渡す。
中には、みずいろの、きれいなヘアピンがある。

「うわぁ・・・」
「ぼくもあんまりお金をもってなかったから・・・」

桐乃に・・・いや。
だれかに、はじめて、じぶんのきもちから渡す、プレゼント。

「お兄ちゃんっ!大好きっ!」
「う、うわっ、だきつくなよっ」

でも、良かった。
桐乃がこんなによろこんでくれるなんて。

ぼくと桐乃は、きたときよりもずっとかるいあしどりで
手をつなぎながら、家へとかえった。



End.


----------

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年08月19日 00:18