342 名前:【SS】夏の終わり 1/3[sage] 投稿日:2011/08/23(火) 19:35:17.57 ID:9B3u2Hnv0 [4/11]
「今日は一時くらいに寝るから。
 一緒に寝たかったらそれくらいに来てね。
 ノックするのは忘れないように!」
十時ごろ、夕飯を終えて受験勉強をしていた俺の元に現れた桐乃は、何時ものようにそう言った。
「おう、わかった」
桐乃の方を見ず、勉強を続けながら答える。
キョドらずドモらず答えられるとは、我ながら慣れたもんだ。

・・・・・・勘違いしているやつがいるだろうから説明しておこう。
俺は別に好きで桐乃の部屋で毎晩寝てるわけじゃないんだぜ。
ことの始まりは今年の夏の始まり、あの酷暑が続いた夜のことだ。
あまりの暑さにぶっ倒れた親父に恐怖した桐乃は、お優しい事に俺がクーラーの効く桐乃の部屋で寝ることを許可してくれたのだ。
もっとも、俺が寝るのは桐乃の寝るベッドの上ではなく、床なんだがな。

そんなわけで一ヶ月以上の間、ほぼ毎日桐乃の部屋で眠ってるんだが、最近一つ疑問が浮かんでいてな。
いい機会だし、今から桐乃にそのことを質問しておくか。
「なあ、桐乃」
振り返ると、桐乃は自分の部屋には戻らず、俺のベッドの上でくつろぎ始めていた。
「なに?」
『数学探偵 コナンジェント』を読みながら桐乃が答える。
「俺っていつまでおまえの部屋で寝ていいの?」
桐乃は漫画に向けていた目線を俺に代え、
「夏が終わるまでじゃないの?」
まあそうだよな。
もともと暑いから桐乃の部屋に避難してたんだしよ。
「それとも、何?
 夏が終わった後もずっとあたしの部屋で寝起きしたいの?」
桐乃は漫画を横に置き、俺の枕を抱きしめると上目遣いにそう言った。
バカ野郎。そんな表情されると、
『あたしの部屋の方が快適なんだからあたしの部屋で寝たいんでしょ?』
じゃなくて、
『ずっとあたしといたくて、それどころかあたしと一緒に寝たいんだ・・・・・・』
って言ってるように聞こえちまうじゃねえか。
「そうじゃなくてよ、俺が桐乃の部屋で寝てるのは避暑のためだろ?」
「うん。そうだったよね」
「ならさ、昨日とか一昨日とか、暑くなかったし桐乃の部屋に行く必要はなかったって思ってな」
「あ」

343 名前:【SS】夏の終わり 2/3[sage] 投稿日:2011/08/23(火) 19:35:43.54 ID:9B3u2Hnv0 [5/11]
昨日の夜も一昨日の夜も暑くなかった。むしろ寒かった。
しかし桐乃の部屋で眠るのに慣れちまった俺は、特に疑問も持たずに桐乃の部屋に行って眠っちまったんだよな。
「でも、あたしの部屋で寝たおかげで暖かく寝れたじゃん。
 その・・・・・・二人で抱き合ったおかげで、さ。
 一人だと寒かったと思うよ?」
俺が桐乃の部屋で寝ていると、いつの間にか桐乃が俺の布団に潜り込んでいる事がある。
初めは目を覚ました桐乃に『なんであんたが隣で寝てるの!?』とボコスカ殴られていたんだが、しばらくしたら桐乃も慣れたのか、
俺も桐乃もほとんど慌てなくなっていた。
まあ、相変わらず俺の隣で寝た日の翌日は、顔を真っ赤にしてチラチラと俺の方を恥ずかしそうに見るんだがな。
最近だと電気を消してすぐに『寒い』とか言って潜り込んできて、俺を抱き枕か湯たんぽの変わりにするまでにずうずうしくなりやがった。
まあ、おかげで俺も桐乃の温かさを堪能できて、ぐっすり眠れるからいいんだけどよ。
だから桐乃のセリフも確かに一理ある。確かに一理あるんだが・・・・・・
「布団を重ねればよかっただけだよな」
「・・・・・・あ」
そう。冬の雪山というわけじゃないんだし、何も抱き合って眠る必要はなかったんだよな。
もっとも、俺が気がついたのも今日の朝だったんだけどよ。
桐乃は自分が恥ずかしい事をしていた事に気がついたからか、顔をゆでだこの様に真っ赤に染めている。
「だからよ、涼しい夜にはおまえの部屋に行かない方がいいか?
 桐乃も俺がお前の部屋で寝るのは嫌だろ?」
桐乃は俺のことを嫌いだと言っていた。
桐乃が受験生の俺に気を利かせてくれただけで、本来なら俺と一緒の部屋で寝るのは嫌なはずだ。
「なにそれ。
 ・・・・・・あんたはあたしと一緒にいたくないんだ」
桐乃がさっきとはうって変わって不機嫌そうに言う。
「そういうわけじゃねえよ。
 でもお前の部屋で寝る必要がねえなら、行かない方がいいだろ?」
俺だって桐乃の部屋で寝るのが嫌なわけじゃねえけどよ、桐乃が嫌がるならしかたねえだろうが。
俺は桐乃を自分より大事にしてるんだからよ。
そう考えた時、目の前に枕が飛んできた。
バシーンと枕が俺の顔に命中する。
「ちょ、桐乃!?
 何しやがる!」
痛いわけじゃないが、びっくりしたぞ。
俺が枕をどけて桐乃を見ると、桐乃は不機嫌そうに俺を睨みつけていた。
「ふん。
 来たくないなら来なくていいよ」
桐乃はそれだけ言うと、さっさと俺の部屋から出て行ってしまった。
「なんなんだよ、一体・・・・・・」
俺はおまえの事を思って言っただけじゃねえか。
桐乃の匂いが残る枕を抱きしめながら、俺は桐乃が怒った理由について考え始めた。

344 名前:【SS】夏の終わり 3/3[sage] 投稿日:2011/08/23(火) 19:36:08.03 ID:9B3u2Hnv0 [6/11]
午前一時。
そろそろ桐乃が寝る時刻だ。
今日はクーラーが必要なほど暑いわけではないから、桐乃の部屋で眠らなければいけない理由はない。
だが、なぜか俺は桐乃の部屋の前で思案を続けていた。
結局、何故桐乃が怒ったのかはわからなかった。
でもよ、桐乃を怒らせたのは俺なんだから、俺が責任を取って何とかしなきゃいけないだろう。
昔みたいに冷戦に突入するとは思えないが、二度と桐乃の部屋で寝れなくなるのも嫌だしな。
桐乃を宥めるためのいい考えは浮かばんが・・・・・・こうなったら出たとこ勝負だ。
俺は一つ息を大きく吸い、桐乃の部屋の扉を叩いた。
「・・・・・・なに?」
不機嫌そうな声が返ってくる。
「一緒に寝てもいいか?」
「・・・・・・今日は暑くないし、自分の部屋で寝れば?あたしの部屋もクーラーつけてないし」
まあそうなんだけどよ。
さて、なんて言おうかと考えた時、扉の向こうから声をかけられた。
「・・・・・・心配しなくても、暑い日にはちゃんと部屋に入れてあげるからさ。
 それなら問題ないでしょ?」
桐乃はいまだに不機嫌なようだが、どうやらもう怒ってはいないようだった。
暑い日は一緒の部屋で寝てもいい、か。
確かにそれなら問題ない。
けどよ、それだけじゃあなんか納得いかないんだよ。
「今日一緒に寝るのはダメなのか?」
だから俺はそう尋ねてみた。
扉の向こうから、息を呑む気配が伝わる。
俺は続ける言葉を見つけられずにそのままでいると、桐乃から問いかけがあった。
「・・・・・・なんで?
 あたしの部屋で寝たい理由を言って」
理由か・・・・・・
理由ならいくつも思いつく。
「お前の部屋だとな、よく眠れるんだよ。疲れも良く取れるし、いい夢だってたくさん見る。
 でもな、そんなのとは関係なくて―
 
 おまえと一緒に寝たいんだよ。
 それじゃあ駄目か?」

言った直後に自分の言葉を反芻してみて、顔が赤くなったのがわかる。
なんか、今、とてつもなく不味い事を言った気がする。
今のセリフをどう言い繕うかと考えていると、扉が開いた。
「・・・・・・バカじゃん」
顔を半分だけ覗かせながら、桐乃が言う。その顔は俺に負けず劣らず真っ赤だ。
『バカじゃん』ってことは、駄目ってことなのか?
俺は一瞬そう考えたが、
「なにボーっと突っ立ってんの?入ったら?」
「あ、ああ」
入りなれた部屋のはずなのに一歩を踏み出せずにいると、桐乃が俺の手をとって中に招き入れてくれた。
「・・・・・・あんたもさ、あたしにしてほしい事があったら遠慮なく言って。
 なるべく考慮してあげるから」
俺の手を握ったまま一緒にベッドに座ると、桐乃はそっぽを向いて、恥ずかしそうにそう言った。
「そ、そうか」
つまり、今日は一緒の部屋で寝てもいい、一緒の部屋で寝たかったら、遠慮せずに言って、という事だろう。
「じゃあ、俺は布団を持ってくるから」
そう言い立ち上がろうとすると、桐乃が掴んだままの手を引いてそれを止めた。

「今日は特別に一緒のベッドで寝てもいいよ。
 でも、枕は一つしかないから、あたしにはあんたの腕枕を貸してね?」

身体が一気に熱くなる。
これじゃあ、今日もクーラーが必要だ。



----------

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年08月26日 13:13