518 名前:【SS】酔いきりりん 1/3[sage] 投稿日:2011/08/24(水) 16:41:50.59 ID:payaCh/Z0 [3/10]
「きょーすけは、あたしのこと好き?」
顔を真っ赤に染めた桐乃が、そんなことを言いながら俺に迫ってきた。
「好きかって言われてもな?」
俺はにじり寄る桐乃から少しずつ距離をとっていく。
まずい。早く逃げないと。
「にーげーちゃ、ダメー」
桐乃が俺に飛び掛ってくる。
な、何でこんな事になっていやがるんだ!
・・・・・・まあ、理由はわかってるんだけどよ。
俺は桐乃を避けながら、その後ろに目を向けた。そこには黄色いアルミ缶が転がっている。
飲んだことはないが、TVなどでよく目にするデザイン。
ビールだ。
つまり、桐乃がビールを飲んで暴走したということらしい。
「まてー」
再度桐乃が飛び掛ってくる。
後ろは箪笥だ。
くっ、避けたら桐乃が箪笥に衝突してしまうかもしれない。
「わかった答える。答えるから、止まれ、桐乃!」
手を前面に出しそう言うと、桐乃がぴたりと止まった。
「じゃあ答えてー。
 きょーすけは、あたしのこと好き?」
顔をさらに赤くした桐乃が、首を傾げながら再度聞いてくる。
そ、そんな可愛らしく見えなくもない仕草されても、俺は騙されないからな!
まあそれはそれとして、俺は一体なんと答えるべきか。
相手は酔っ払ってるし、まともに取り合わず、適当に「大好きだよー」とでも答えりゃいいんだろうが―
「ねえ、どうなの?」
泥酔しているはずの桐乃の表情がとても真剣に見えて、お為ごかしを言う気にはなれなかった。

「―大嫌いだ」

素直な気持ちが口からこぼれた。
桐乃の反応が気になるが、照れくさくてその顔を見ることができず、視線を横にそらす。
「・・・・・・そう。
 そうだよね・・・・・・」
心なしか悲しそうに桐乃が言う。
ちっ。いくら酔ってるからって、そんな声を出すなよ。
それに、人の話は最後まで聞くもんだぜ。

「でも、それと同じくらい桐乃の事が好きだ。
 矛盾してるかも知れねえけどよ、それが俺からおまえへの気持ちだ」

519 名前:【SS】酔いきりりん 2/3[sage] 投稿日:2011/08/24(水) 16:42:19.06 ID:payaCh/Z0 [4/10]
「・・・・・・そっか」
俺の言葉をどう受け取ったのか、桐乃はそう言った。
ただ、その声からは、先ほどのような悲しみは感じられない。
「そういう桐乃はどうなんだよ」
俺だけ答えるのは不公平だぜ。
酔っているからまともな答えは期待しちゃあいねえが、それでも今の桐乃がどう感じているのか聞きたかった。
「あたし?
 ・・・・・・あたしも、京介の事が大嫌いだよ」
そうか・・・・・・
前にも聞いたし、それから関係が変わったわけじゃねえから今もそうだろうと思ってたが、それでも、何度聞いても気分のいいもんじゃねえな。

「でも、キスしてくれたら、ちょっとは好きになってあげてもいいカモ・・・・・・」

そんな爆弾発言に、そらしていた視線を桐乃に戻すと、耳や首どころか、ボタンが開けられ大きく開いた胸元まで、真っ赤に染まっている。
こいつ、ますます酔いが回りやがったか!
衝撃的展開に頭も身体もフリーズしていると、桐乃が

「キス、しないの?
 大好きな妹にキスできて、その上好きになってもらえるんだよ?」

瞳を潤ませ、熱い吐息を漏らしながらそう言った。

俺は桐乃が大切だ。
その大切な桐乃に頼まれたのだから、兄貴としてキスしてやらなくちゃいけないだろう。

酔った桐乃が近くにいるからだろうか。どうやら、俺の頭も酔っちまったらしい。
「そうか。
 じゃあ、キスしてやるよ」
桐乃の肩を掴み、目を閉じると、深い酩酊感に身を任せ、ゆっくりと顔を桐乃に近づけていく。
掴んだ肩から、桐乃の緊張が伝わってくる。
ゆっくりと、ゆっくりと俺たちの距離が近づいていき―

「酔った妹にキスしようとすんな!
 このHENTAI!」

「そげぶっ!」
思い切り頬を叩かれ、後ろに倒れる。
なに今の!なんかすごい理不尽に叩かれた気がするんだけど!
「初めてのキスは、ちゃんと相手が素面の時にしなくちゃダメでしょ!?
 キスするなら、今度ムードを盛り上げてからにして!」
桐乃が真っ赤な顔で怒る。もう顔が赤いのが、酔っているからなのか、怒っているからなのか判別がつかん。
その姿に『確かにそうかも知れんが、今のは桐乃からキスしてってせがんできたよね!?』と言おうとしたが、そこは自重する。
むしろ、桐乃に正気に戻してもらって感謝したいくらいだからな。
・・・・・・本当に、今のは危なかった。
桐乃は『今度ムードを盛り上げてからにして』と言ったが、そんなムードの時にさっきの言葉を言われたら、また我を失ってしまうかも知れん。
俺がほっとしつつ、この酔いどれ魔妹をどうしようかと思案していると、
「・・・・・・なんか疲れた」
桐乃はポツリとそう言うと、ノロノロと立ち上がり、俺のベッドの歩み寄るとそこにダイブした。

520 名前:【SS】酔いきりりん 3/3[sage] 投稿日:2011/08/24(水) 16:42:42.98 ID:payaCh/Z0 [5/10]
「おやすみ~」
こいつ、このまま俺の部屋で眠るつもりか!?
「おい桐乃、寝るならお前の部屋に行けよ」
何とか桐乃を部屋から追い出そうと桐乃の肩を掴んでゆするが、桐乃はその手をパシリと払い、
「やだ。ここは京介の匂いがするから、ここで寝る」
なんだその理由は。
「あんたもあたしを気にしないでここで寝ていいよ。
 あたしは優しいから許可してあげる」
桐乃はごろりと寝返りをうって奥に詰めると、開いたスペースをポンポンと叩いた。
人間て酔うとわけのわからない行動をするって言うけどよ、本当だったんだな。
何時にも増して妹様の行動理由がわけわからん。
「京介はあたしのことが好きなんだから一緒に寝るでしょ?」
桐乃はそう言うと大きく伸びをして力を抜くと、ゆったりとリラックスし始めた。
怒りが収まったからか、先ほどと比べ少し赤みが薄れているが、それでもまだ顔は赤い。
「ほら、早く来なさい。

あたしのこと好きって言ってくれたし、
む、胸とか、お尻とか少しだけ触ってもいいから」

「仕方ないな。今日はもう遅いし、俺も寝るよ」
まったく酔っ払いってのは扱いがよくわからんし、このままさっさと眠ってもらおう。そうしよう。
・・・・・・別に桐乃の身体に触りたいわけじゃないぜ?
俺は電気を消すと、桐乃の待つベッドに潜り込んだ。
もちろん俺は紳士だからして、いきなり桐乃に抱きつく事などせず、桐乃に背中を向けて寝転がった。
どうせ触れようとしたところで、
『エロゲは済ませた?メルルにお祈りは?部屋のスミでガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?』
と言われるのが関の山だからな。
さっさと眠ってこんな悪夢のことは忘れようと思い目を瞑っていると、ふと背中に温かさを感じた。
桐乃が俺に寄り添ってるのか?
背中から伝わる温かさと、なんともいえない良い匂いが俺を夢の世界へと誘う。
この匂いは桐乃か?
あんなに酔ってるのに、酒臭くねえ・・・ん・・・だな・・・・・・

『いくじなし・・・・・・』

朝起きると、隣で寝ていたはずの桐乃は姿を消していた。
おそらく明け方にでも目が覚めて、そのまま部屋に帰ったんだろう。
俺はやけに調子の良い体を動かしながら、部屋に置きっぱなしだった、事の元凶となったビール缶を拾い上げた。
「・・・・・・ん?これって・・・・・・」

あとで親父に聞いたんだが、あの日は愛酒の日らしくて、桐乃にねだられた親父は、つい桐乃にあげてしまったのだそうだ。

未成年である桐乃でも飲める、ノンアルコールビールを。

まったく、アルコールが入っていないってのに顔を真っ赤にして酔っちまうなんて、桐乃は本当に酒に弱いんだな。



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最終更新:2011年08月26日 13:32