794 名前:【SS】双子の卵[sage] 投稿日:2011/08/25(木) 15:40:52.98 ID:SCr4BCkB0 [9/13]
今日のお昼はお袋もいないし、チキンラーメンだ。
楽しみだぜ。
・・・・・・俺はあのモソモソ麺が楽しみなのであって、
桐乃が食べれる料理を俺に振舞ってくれるのが楽しみなわけじゃないからな。
最近桐乃はパニーニの日だとか、チキンラーメンの日だとか言って簡単な料理に手を出してるけど、
加奈子辺りに料理下手なことをからかわれたりしたんかね?
「あ」
台所から桐乃の声が聞こえた。
なんだ?包丁で指でも切ったか?でもそれにしては声に緊迫感がなかったな。
まあ大方隠し味に七味唐辛子でも入れようとして瓶の中身を全部ぶちまけたんだろうさ。
俺が台所を覗くと、桐乃が割れた卵を持って器を覗き込んでいた。
なるほど。卵のカラを盛大にぶちまけたか、あるいは卵の黄身をぐちゃぐちゃに潰してしまったか。
「あ、ほら、これ見て」
俺が来たことに気がつくと、桐乃は麺と卵が入った器を俺に差し出した。
「お、綺麗に割れてるな。
 ・・・・・・これって初めから二つ入ってたのか?」
麺の上に乗っている黄身は二つ。
どうやら双子だったらしい。
「うん。あたし初めて見た」
桐乃が嬉しそうに言う。
初めてか。まあそうだろうな。おまえはほとんど台所にたたねえし、お袋はあんまり目玉焼きを作らないしな。
「・・・・・・ねえ、この卵温めたら双子のひよこが孵ったのかな?」
寸前まで嬉しそうだった表情を一転して曇らせ桐乃が聞いてきた。
「どうだろうな」
この卵は確かお袋が今朝近所の人から貰ってきたばかりの産み立て卵だ。
ニワトリを飼ってる人がいるからその人に貰ったんだろうが、有精卵か夢精卵かはわからない。
「双子のひよこが見たかったのか?」
「そうじゃないんだけど・・・・・・
 どんなキョウダイになったのかなって」
兄弟か姉妹か兄妹か姉弟か。それはわからんが、同じ卵から生まれたら仲が良さそうだな。
でも一つ問題があってな、
「ニワトリの双子はほとんど生まれないぞ」
「そうなの?」
「ああ。卵だと哺乳類と違って適宜栄養を補給しないで、卵の中の栄養だけで孵化しないといけないだろ?
 そうなるとどうしても二羽育てるための栄養が足りなくなるんだよ。
 運よく孵っても栄養が足りてないから、すごい死にやすいらしいぜ」
「そういえばそうだね。
 まあこんなちっちゃな卵の中に二羽入るのも窮屈そうだし、仕方ないか」
元々生まれる筈のない命と知って安心したのか、ようやく桐乃から陰りが消える。
「双子の卵、か・・・・・・
 なあ桐乃、この黄身二人で分けるか?」
なんとなく思いついたので聞いてみた。
「・・・・・・うん。そうしよ」
桐乃は頷くと、四苦八苦しながら黄身をもう一つの器に移した。
綺麗な円だった黄身の形が崩れちまったが、仕方ないだろう。
桐乃は沸騰したお湯を黄身の上にかけると、すぐに器にフタをした。
これで3分後にはあのモソモソ麺が食べれるわけだ。

おかずのジューシーから揚げナンバーワンを暖めたり、麦茶を冷蔵庫から取り出したりしていると3分経った。
俺と桐乃はテーブルにつくと、器のふたを外した。
「あ、ハート型だ」
分ける時に黄身が崩れたからだろうか、程よく半熟に固まった黄身は、不恰好なハート型をしていた。
偶然にも、俺と桐乃の黄身は鏡写しの形にハートを形作っている。
「生まれなくても仲が良かったんだね」
桐乃が微笑みながらそう言った。
「・・・・・・そうだな」
俺たちはネギやチャーシューを乗せると、手を合わせた。

「「ただきます!」」



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最終更新:2011年08月26日 13:56