885 名前:【SS】シスコン世界陸上[sage] 投稿日:2011/08/26(金) 03:27:51.59 ID:lmidAb5R0

『シスコン世界陸上』


今、俺は桐乃と一緒にテレビの中の激戦に釘付けになっている。
「あと少し!抜ける、抜ける!!……あー、くそっ!」
「半身の差、だったな……」
液晶の中で繰り広げられるのは、陸上競技。それも世界最高峰の選手ばかりが集まる、世界陸上の大会である。
日本国中が熱気にあてられるように、俺と桐乃も例に違わず、白熱したアスリートの祭典を応援しているのだ。
「でも、やっぱり世界は凄いなぁー。あの選手でも、予選で敗退しちゃうんだもん」
桐乃は、テレビのレースが終了すると同時に脱力し、ソファーに座りこんでそう呟いた。コイツ自身、陸上に心血を注いでいるだけに、この世界陸上の舞台で行われている競技、中でも短距離のレースには、熱い思いを抱いているようだ。
「アタシ、前に日本代表の練習を見た事があるんだけど、その時はとても敵わない!って、愕然としたのに……」
「世界は、それ以上だったってことか」
「あーもー!自信失くすって、こんなの……」
反則だよ。
桐乃は覇気無くそう嘆いた。それもそうだろう、陸上のみならずどんな世界でも、天井知らずな実力差を見せつけられたら嫌にもなるさ。
それでも、ここで「辞めちゃおう」という選択肢を出さないところが、桐乃の偉い所でもあるし、何かで成功できる人の必須条件なんだろうな。
平凡な俺は持ち合わせない、大した才能だよ。
テレビに目を向けると、褐色の肌の女性選手が、嬉しそうにコーチらしき人と抱き合っている。見ているこっちまで嬉しくなる、眩しい笑顔だ。
その光景を眺めていると、俺はふと、リアの顔が浮かんできた。
おそらく今までの人生で、桐乃を一番打ちのめしたであろう少女。そして同時に、天真爛漫で良く笑う女の子だった。
彼女が今、何をしているかは分からないが、世界最速の小学生とまで呼ばれた子だ、きっと元気に走り回っている事だろう。
やがてはリアも、この大舞台に立つ日が来る。
まだ先の話だが、恐らくそれは、間違いなく訪れる未来の出来事である。
「ねぇ、アンタ。今、何考えてんの?」
不意に桐乃が、俺に問いかけてきた。
「ちょっとな。アイツ……リアの事、思い出してたんだよ」
「なんだ、アンタもか」
「も」、って事は、桐乃も俺と同じ事を考えていたようである。
無理もない、テレビの中の女性はリアの雰囲気によく似ているし、何より俺と桐乃は兄妹だからな。思考もたまには似るってもんさ。
「あの子はさ、絶対この大会にも出てくるよ。そして、間違いなく注目を浴びる」
まるで自分の妹を自慢するように桐乃は言った。何の迷いもなく。
これまた大した自信だな。勿論、俺も同じ意見だけどよ。
「まっ、このアタシをさんざん負かしたんだし?それくらいは当然だけどね~」
桐乃は、嫌味とも称賛とも取れる言葉でリアを語る。
一度は自分が勝った相手、だからといって桐乃はリアを下に見るような事はしない。こいつなりのプライドなんだろう。
それでも、そんな相手に勝ったお前は、やっぱりすげぇよ、桐乃。
俺は口には出さなかったが、心で自分の妹を誇らしく思った。
「でもさ……アタシだって、諦めたワケじゃないよ」
そして桐乃は、声のトーンを少しだけ低くして、俺に言い聞かせるように続けた。
「今はまだ、全然先の見えない状態だけど、いつかはリアやこのテレビの中の選手達にも負けない、ううん、勝てるくらいの実力をつけて、一番になってやるんだから」
「出るだけじゃ、満足できないか?」
「当たり前じゃん?やるならキッチリやって、そして結果を残す。当然っしょ!」
「ハハッ、すげぇな」
ホント、お前らしいよ。どこまでも不遜で、でも妙に説得力のある言葉だ。
いつかこの最高の舞台で、桐乃とリアが並んで真剣勝負をする日が来るかもしれない。それは想像するだけでも、胸が熱くなる話だぜ。
「……アンタは、信じてくれるの?アタシの言葉」
「当たり前だろ?実際、お前は結果も残してるし、ちゃんと実力をつけ続ければ、夢物語でも何でもないだろ」
「現実は、言うよりももっと大変なんだよ?それでも、叶うと思ってんの?」
桐乃は少し語気を荒げ、必死な面持ちで俺に聞いてくる。
「大変なのは分かってるよ。でもな、俺はお前なら出来ると信じてる。他の誰が無理だって馬鹿にしても、俺はお前の目標を笑ったりはしねぇよ」
いつか桐乃の趣味を知った時のように、俺はそう桐乃に返した。一つ違う事があるとすれば、今回は本心からそう思って言った。
俺は、桐乃なら出来ると本気で思っているから。
「……ふーん。あっそ。マジになってさ、バカじゃん?」
悪態をつきながら、桐乃はそっぽ向いてしまう。
うーむ、真面目に答えすぎて、少し恥ずかしくなってきたぞ……。
「じゃあさ、もしね……」
すると桐乃は、顔を俺には向けずに、
「もし、アタシが本当に世界陸上に出て、そして一番になったらさ……」

――何でも一つだけ、お願い、きいてくれる?――

なんて事を言ってきやがった。
おいおい、まさかとは思うが。
「……それってもしかして、その時にしか言えない、『人生相談』……とか?」
「まぁ、そんなとこ……かな」
桐乃は限定せずに、はぐらかすだけだった。
はぁー。
いくら大きくなっても、俺は桐乃のお願いからは解放されないんだな。
人生相談なんて、もう聞かなくなると思ってたのに。
桐乃の中には、いつまでも俺に言いたい事があるみたいだ。
……まぁ、それもいいか。
人生相談、そういって頼られるのも、悪くねぇ。
「いいぜ、じゃあそん時は聞いてやるよ」
「……どんな内容でも、だかんね?」
「当たり前だ。今更だろ、そんなのはよ」
「そうかもしんないけど……」
桐乃は、不安の消えない表情でいた。
大丈夫、たとえどんな無茶難題を押し付けてきたとしても、叶えてやるよ。
桐乃がそこまで成功した時の話だろ?
それなら俺だって、全力で答えてやるぜ。
だって俺は、コイツのたった一人の兄貴だからなっ!




そして、数年後――。
桐乃は、あっさりとその目標を達成させやがった。
実におそろしい妹様である。不可能なんて言葉、コイツの辞書には無いのかもしれない。
俺も兄として、鼻が高いぜッ!

……とまぁ、そんな輝かしい未来があったわけだが。
問題は、桐乃の新たな人生相談である。
俺はてっきり、「アキバの妹モノのエロゲ、全部買い占めてきて」とか、「妹空のメディアミックス化を手伝え」とか、そんな話だと思っていたんだが。
実際には、

『アタシの旦那様になって』

ときたもんだ。
あぁ、正直メチャクチャ驚いたよ。聞いた瞬間は、目の前が真っ白になった。
でもよ、それを告げる桐乃が震えていたり、今にも逃げ出しそうな表情をしてたのに気付いたら、言えないよな。
無理だなんて。
今の時代、当然ながら兄妹の結婚なんて認められない。当たり前の事だ。
後ろ指差される日常を、覚悟しなくちゃいけないだろう。

だが桐乃は、不可能だと思われた事を、自分の力で可能にした。
それなら、俺も逃げずに立ち向かおうと思う。
……もし実現できる日が来たら、桐乃は喜ぶかな?
陸上で一番をとった時より、もっと嬉しそうに笑ってくれるかな?
そう思うと、不思議と俺も、やる気がみなぎってくるんだよ。

よし、じゃあ絶対に勝ち取ってみせるぜ!
ウェディングドレスを着た桐乃を、お姫様抱っこしながら、
シスコンの金メダルをなっ!!



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最終更新:2011年08月26日 14:03