932 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 23:56:15.04 ID:+LP10sikP [6/6]
【SS】とある平行世界の夏の一夜 side S (Sister)

 キィ パタン

(ん・・・・・・また、来ちゃった)

 後ろ手にドアを閉めて、あたしは心の中でそう呟いた。


 あたしがいるのは、とある部屋。
 見渡す部屋は暗くて、暑い。エアコンの効いてるあたしの部屋とは大違い。
 窓は開いてるようだケド、風通しがいいわけじゃないみたいだ。
 よくもまあこんな部屋で毎日眠れるよね。あたしじゃ一週間もあれば根を上げちゃいそう。
 そんな部屋の壁に寄せられて置いてある一つのベッド。
 そのベッドに、足音を立てないようにそろそろと近付いていく。
 ベッドの傍まで辿り着き、そこに寝ている人物の顔を覗き込んだ。
 そこにはよく見知った、兄貴――京介の顔があった。

 そう、あたしが今いるこの部屋は、京介の部屋。
 こうして忍び込むのは何度目だろうか。
 ここのところは毎日だから数える気にもならないんだけど。

(相変わらずの間抜け面。暑いのかしんないけど、顔しかめちゃってさ。
 何やってんだか。こんなに汗もかいちゃってるし。
 そんなに暑いならあたしの部屋にくればいいのに。
 暑さであんたが倒れたらどうすんのよ。・・・・・・バカ)

 つい悪態をついてしまう。
 本当はこんなこと言いたくないケド、長年続けてきたこれはそう簡単に治りそうもない。
 でも、こうなったのもこの京介のせいなんだから、あたしから悪態をつかれるのは京介の自業自得だよね。
 あたしは何も悪くないもん。全部、あたしを放っておいた京介が悪いんだから。

 ・・・・・・心配、してるんだからね。

 少しだけ手で顔を仰いであげると、心なしかしかめていた眉が少しだけなだらかになった気がした。

(さて、と。それじゃあ・・・・・・今日も一緒に寝させてね。京介)

 ギシ、とベッドを軋ませて、あたしはベッドに膝をのせた。



 京介に寄り添って一緒に寝ること。それがあたしがこの部屋にきた目的だった。



 なんでそんなことをあたしがするようになったのか。それは少しだけ前に遡るんだケド・・・・・・




 いつからだったか、京介の態度が突然よそよそしくなった。
 少しの悪態では動じなかったはずの京介は、あたしといるのが気まずいようにちょっとしたことであたしから距離をとるように

なった。
 あたしが家でしているラフな格好にケチをつけることなんか今までなかったくせに、急に刺激が強いだのなんだのと言い出した


 ワケがわからなかった。
 まるで、一緒の家に住んでいる他人に接するような態度。
 そんな態度をとる京介に、すごくイラついた。
 イラついてムカついて、あたって、そのせいで京介は余計に離れていく。そんな悪循環。
 あたしが京介に人生相談をしてから縮まった距離。それがまた、広がってるような気がした。

 そんな日々が数日続いて、いい加減我慢ならなくなったあたしは京介を部屋に呼び出した。
 なんでそんなよそよそしい態度をとるのか。あたしを避けようとするのか。それを問い詰めるために。
 そこで聞いたのは、あたしと京介が本当の兄妹じゃないってこと。
 正確には京介があたしの従兄だと言うことだった。

 血の繋がりがない。それはなんとなくありえるかもって思ってた。
 お母さんに見せてもらった、今は大切なコレクションと一緒にしまわれてるアルバム。
 そこには京介の写真がなかったから。
 たったそれだけのことを根拠にするのもおかしな話だケド。
 今考えると、あたしもどんだけエロゲ脳になってるのよって話。
 もしかしたらどこかでそんな展開を望んでいた自分がいたのかもしれないケドさ。

 そんなことを思ってたあたしだけど、いざその話を現実として聞いたときは混乱した。
 あたしと京介が兄妹じゃない。
 その事実は、思った以上に衝撃的だったから。
 あたしと京介を繋いでいた大切な何かが、なくなっちゃった気がしたから。
 だからかな。あたしは、京介があたしのことを妹だって言いながら頭に伸ばしてきた手に驚きを隠せなかった。
 あんたはまだあたしを妹としてみてくれるの? って。
 それを京介はどう受け取ったかしらないけど、京介の手はあたしの頭に触れることなく引っ込められた。
 そのまま逃げるように部屋を出て行く京介を見送ったあたしは、誰ともなく呟いてた。「バカ」って。


 京介が出ていってから、あたしの頭は京介のことだけで一杯だった。
 京介は自分がお父さんやお母さんの本当の子供じゃないって知ってどうするだろう。
 もしかして、本当のお父さんやお母さんを探しに行くんじゃないか。
 この家を出て行ってしまうんじゃないか。
 そんな不安がどんどん胸に広がっていく。
 京介がいなくなる。
 京介が、あたしの手の届かないどこかへ行ってしまう。

 そんなの――絶対にイヤ。

 そう思ったらいてもたってもいられなかった。
 気がつけばあたしは、京介の部屋の前に立ってドアをノックしていた。

 そこからはもう勢いだったって言ってもいいかもしれない。
 京介がどこかに行くかもしれないっていう不安と心配をぶちまけた。
 どこにも行ってほしくない。
 ずっと傍にいてほしい。
 そんな気持ちをこめて、あたしは京介にまた無茶を言った。

 本当にどこにも行かないなら、今晩だけ一緒に寝てほしいって。

 恥ずかしかったし、ちょっと怖かったけど、その時はそうしてくれるのが一番いいと思った。
 きっとそれが、その時一番安心できる方法だと思ったから。


 そしてその晩、あたしは京介にぎゅっと抱きしめられながら一緒のベッドで寝た。




 そんなことがあって、その時の安心感。ぬくもり。京介が傍にいるって言う実感。
 それが忘れることが出来なかったあたしは、京介が寝るのを見計らってベッドに忍び込むようになってしまっていた。
 そうして今に至る、というわけ。

(京介って一度寝るとなかなか起きないよね。そのほうがあたしにとっては好都合なんだケド)

 そのおかげで京介にはあたしが一緒に寝ていることはばれていない。
 だって京介が起きる前にベッドから抜け出せばいいわけだしね。それぐらいならあたしには簡単だし。
 陸上の朝練やランニングのための早起きの習慣が、ここでも役に立っていた。

 あたしはそんな京介の体をまたぐように膝をついてベッドにのっかった。
 京介の右腕を壁にぶつからないように肘を曲げて横に伸ばす。
 京介と壁の間にスペースがあるのを確認して、そこに寄り添うように体を横たわらせた。
 丁度頭の辺りにくる京介の腕。そこにコテンと頭を乗せて、きゅっと京介の服を掴んだ。

(やっぱりちょっと・・・というか暑い。でも――別にいっか。京介のそばなら、眠れるし)

 ツンとした汗の匂いがあたしの鼻を刺激した。
 トクン、とあたしの胸が震える。
 汗の匂いに混じる、不思議な安心感を与えてくれる匂いがあたしの中を満たしていく。

(京介の・・・匂いがする)

 クラクラしそうなその匂いに包まれながら、あたしは目をつむった。
 こうしていると、今までずっと隠してきていた気持ちがどんどん膨らんでくるのがわかる。

 京介が好き

 ずっと、ずっと隠し続けていた気持ち。
 あたしの趣味を受け入れてくれた。大切なものを守ってくれた。アメリカまで迎えに来てくれた。
 その度に胸の奥で大きくなり続けていた気持ち。
 兄妹だからという理由で歯止めがかかってたその気持ちは、もう止められなくなってる。
 あたし達が、本当の兄妹じゃないから。
 そんな状態でこんなことを続けていれば、近いうちにきっと我慢できなくなる。
 この気持ちを伝えずにいられなくなる。
 その時がきてしまったら、京介はどんな風に思うだろうか。

(京介はあたしを受け入れてくれるかな)

 できるなら、あたしを受け止めてほしい。
 京介ならきっと、受け止めてくれるよね。
 そんな希望を胸に抱えて、明るい未来に思いを馳せる。
 うっすらと開いた目に見えた頬に、溢れる思いを乗せて唇を寄せた。

(大好きだよ、京介。おやすみなさい)

 今日もいい夢、見られますように。






-END-




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最終更新:2011年09月05日 23:08