270 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/09/07(水) 01:03:39.40 ID:s/mCYEpiP [1/6]

「はあ、どうしたもんかね」

 ある秋の夕暮れ。俺は一人頭を抱えながら帰り道を歩いていた。
 頭を抱えながらって言っても、頭が痛いとかそういうんじゃねえからな?
 あ、いや、ある意味それも間違っちゃいないかもしれえけど。
 俺が何で頭を抱えているかといえば、ある事情があるわけで。

 何でも今日、9月6日は妹の日なんだと。
 妹の成長を祝い祈願する日らしい。
 まあつまるところ、父の日や母の日の妹バージョンって考えるといいだろう。
 朝からやけにテンションの高い赤城からそんなことを聞いた。
 ちなみに、弟の日や姉の日、兄の日というものもあるらしい。

「ムフフ、今日は瀬菜ちゃんに目一杯構ってやるんだ。
 今日は妹の日だし、兄貴は何やっても問題ないしな!」

 なんてことも言ってたがそれなんかちがくね?
 妹に何してもいい日じゃなくて妹に何かしてあげる日なんじゃねえの?
 そう突っ込もうとしたところでチャイムがなり、結局突っ込むことが出来ずじまいだった。
 瀬菜も大変だな。あんな兄貴を持っちまってよ。・・・・・・なんて今更か。
 でもまあ、ある意味あそこまではっちゃけられる赤城を羨ましく思わないでもない。

「しかし、妹の日か・・・・・・」

 俺が妹といわれて真っ先に思い浮かぶのは、当然ウチの妹である桐乃のことだ。

「桐乃に何かをしてやる、ねぇ・・・・・・」

 ぶっちゃけ何も思い浮かばん。
 普段からやれアキバにつれてけだの買い物に付き合えだのエロゲ買ってきてだのとこき使われてる俺が、なんでそんな妹のために何かし

てやらくちゃならんのかと。
 むしろ俺をもっと労ってほしいぐらいなんだけど。
 ああ、でも最近は付き合わされた後に「今日はありがとね」とか、買い物ついでに何か買ってやったときに「これ、大事にするね」と薄

くはにかむ桐乃は可愛いと思わなくもないな。
 いっつもすぐに顔逸らしちまうけど。
 減るもんでもないだろうに、もっと見せてくれてもいいのによ。
 ふむ、そう考えると桐乃に何かやってあげようかという気分になるから不思議だな。
 ・・・・・・別に照れる桐乃を見たいとかそんなんじゃねえからな? 勘違いしないように。

「とはいえなあ・・・・・・あいつのしてほしいことって、何だ?」

 そう、それが冒頭で俺が頭を抱えていた原因であった。
 よくよく考えてみれば、俺はいつも桐乃にこうして欲しいああしてほしいって言うのを実行したことはあれど、自分から率先して桐乃が

やってほしいと思うようなことをしたことがない、と思う。
 あいつの趣味を守るために親父に殴られたり、あやせを説得したり御鏡にムチャクチャなことを言ったのは自分のためだから含まれない

だろうしな。

「俺が桐乃のためにできることか・・・・・・」

 一番手っ取り早いのはさっきも言った通り、桐乃に何をしてほしいか聞くことだろう。
 でもできればそれはしたくないってのがあるんだよな。
 だってそれだと俺は「あの夏」から何も進歩しないことになっちまうし。

「う~む・・・・・・何か贈り物って言うのは時間的に無理があるしな。今からアキバ行く時間なんてねえし。
 最近は特にこれって言うほどほしいって言ってたものもなかったしな。となると・・・・・・どうすりゃいいんだ?」

 まいった。いきなり躓いちまったぞ。これはマズイ。
 うむむむむ・・・・・・よし、考え方を変えよう。
 「俺が桐乃に対してできること」じゃなくて「俺が桐乃にしてやりたいこと」にしよう。
 これなら俺の意思だけで決定できるし、桐乃に文句言われてもしゃーないですむしな。

「我ながらいい考えだ。後は俺が桐乃に何をしてやりたいか、だけど・・・・・・」

 あーでもないこーでもないと考えながら、俺は家へと歩を進めていった。





 そんなこんなで夕飯も終わってフリータイム。
 今こそ考えていたことを実行に移す時!

 コンコン

「誰?」
「桐乃、俺だ」

 ガチャリと開いたドアの間から桐乃が顔を出した。
 以前までは、まるで俺を狙うかのように勢いよく飛んできたドアも今ではそんなことはほとんどない。
 桐乃の機嫌が悪い時はその限りじゃないが。

「なに?」
「すまん、ちょっとな。今時間いいか?」
「別にいいけど・・・・・・珍しいじゃん。あんたからあたしの部屋に来るなんて」
「まあな」
「なんのつもりか知らないけど、早くしてよね。あたしやりたいことあるし」
「エロゲか?」
「なんだっていいじゃん。とりあえず入ったら?」
「おお」

 桐乃に促されて部屋に入る。
 いつも通り明るい調子に整えられている部屋はきれいにまとまっていた。
 PCもついてないところを見ると、特にこれといったことをやってなかったのかもしれない。
 「はいこれ」と手渡されたクッションを敷いて床に座った。
 桐乃はベッド、俺は床。いつも通りのポジションである。

「で、何?」
「ん?」
「だから、あたしに用があってきたんでしょ? さっさと言いなさいよ」
「そうだな。別に隠すもんでもねえし。桐乃、お前今日が何の日か知ってるか?」
「妹の日に決まってんじゃん」

 即答だった。
 よくよく考えてみれば妹に眼がない桐乃が今日という日を知らないわけがない。
 どうしてその程度のことに頭がまわらなかったのか。自分が呪わしい。

「あ、何? もしかしてそれのためにあたしの部屋にまで来たわけ?」

 何が嬉しいのか(多分俺をからかうのがだろうが)実に愉快そうにニマニマとする桐乃。
 くっ、これはマズイ展開だ。このままでは桐乃に主導権を持っていかれてしまう。

「お、おう。そういうことだ」
「へぇ~。まさかあんたが知ってるなんて思わなかった。それで? 何かしてくれんの?
 ま、妹の日だし? こ~んな可愛い妹に何もしてあげないっていうのもありえない話だけどね~」

 相変わらず一々こっちを煽るような言い方をしやがって。
 可愛いのは認めてやるがあんまり調子にのるんじゃねえぞ。
 俺の反撃はここからなんだからな!

「そうだな。お前みたいに可愛い妹に何もしないってのも失礼な話だよな」
「え?」
「頭がよくって、運動神経抜群で、その上可愛い。
 けどその裏じゃスゴク頑張ってる妹に何もしてあげないっていうのは失礼だよな」
「・・・・・・・・・・・・」

 何だよその目は? まるで信じられないものでも見るような目をしやがって。
 俺がこんなこというのはそんなにおかしいかよ?

「こんな日だから素直にいうけどさ、俺はお前のこと凄く尊敬してるんだぜ? 
 何に対しても全力で取り組む姿勢。諦めない心。向上心。
 今でこそ俺も頑張ってるけど、それは全部お前から貰ったもんだ」

 なかなか素直にいえない本心。俺は今それをさらけ出してる。

「時々無茶のし過ぎで見てられないときもあるけどさ、それもお前の魅力だって思ってる」

 俺が桐乃にしてあげたいこと。
 それは自分の心のままどこまでも素直に桐乃を褒めてやりたいってことだった。

「い、いきなり何いいだすのあんた。キモいんですけど」
「それは流石にひどくないか」

 顔を赤くして睨むようにこちらを見る桐乃。
 俺が恥ずかしいのを我慢して言ってるのにこの仕打ち。いつも通り過ぎて涙が出てくるぜ。
 しかしここで止まるわけにもいかん。中途半端なところでやめれば余計に恥ずかしいからな!

「だ、だって」
「まあ聞けよ。
 俺のために自分の気持ちを殺して俺の背中を押してくれたこと。スッゲー嬉しかった。
 あの時自分のことムチャクチャバカだと思ったけど、桐乃の気持ちは本当にうれしかったんだ」

 それこそ泣いちまうぐらいにな。

「あの時もいったけどさ、もう一度言うな。ありがとう、桐乃。俺さ、お前が妹でよかったよ」
 
 
「俺、お前のこと大好きだわ」


 言った。言っちまったよ。
 なんかちょっと予定と違うこと言った気もするけど、問題ないよな?
 やべー。超恥ずかしい。多分俺顔真っ赤なんじゃね?
 そう思うぐらい顔が暑いんだけど。
 それはそうと、桐乃は・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・ばかじゃん」

 その言葉に恥ずかしさで逸らしていた顔を桐乃に向けてみれば、さっきよりももっと顔を赤くしてる桐乃がいた。

「別に、あんたのためだけにやってたことじゃないし・・・・・・
 あたしだって、あたしだって本当は・・・・・・」

 何かを言いたそうに、それでもいえない何かを我慢するように言いよどむ桐乃は、
 それから少しだけ間を空けて、意を決するように顔をあげた。

「あのさ、今日は妹の日じゃん?」
「おう」
「だったらさ、妹の言うことの一つぐらい聞いてくれるよね」
「まあ、それぐらいならな」
「あたしさ、あたしも、本当はもっと京介に言いたいことがあるの」
「そう、なのか?」
「うん」

 もっと言いたいことね。今まで散々いろんなこといわれてきたわけだが、それでも足りないというんだろうか。
 なんだか聞くのが怖いような怖くないような。

「だけど、ちょっと、今はまだ言えそうもないの」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから来年、もしかしたらもっと先になるかもしれないけど、
 その時にくる「兄の日」に聞いてほしいんだ。今、あんたが言ってくれたみたいにさ」
「・・・・・・わかった。その時は覚悟しとく」
「うん。期待してていいよ」

 よし。これで話も終わりだな。桐乃もやることがあるって言ってたし、そろそろ部屋に・・・・・・

「それでお願いなんだけど」
「は? さっきのがお願いじゃねえの?」
「さっきのは今度の話。今やってほしいことは別」

 そうならそうと先に言ってくれよ。まぎらわしいやつだな。

「わかったよ。んで? 俺は何をすればいいんだ?」
「うん。それはね・・・・・・・・・・・・」





 その後のことはあえて語るまい。
 あえて言うなら、俺は桐乃に「簡単なお仕事」を申し付けられたとだけ言っておこう。
 まったく桐乃も何考えてるんだか。簡単じゃねえから。あれ簡単じゃないからね。
 しかも妹の日に妹にお願いされたら断れるわけないし。
 まあ気持ちよかったりあったかかったりいい匂いしたりで色々あったわけだが。


 何だかんだと強烈な思い出を俺に刻んでくれた妹の日。
 そんな妹の日を上回る「兄の日」がこようことをこの時の俺は思いもしていなかったのだった。





-おわり-




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最終更新:2011年09月12日 08:40