375 名前:【SS】デートの真相 1/4[sage] 投稿日:2011/09/07(水) 21:25:38.95 ID:OMFOVRcM0 [2/8]
よく晴れた休日の昼下がり。この日高坂家には,珍しい客が来ることになっていた。

「ちーっす。おじゃましまーす」

む,このアホ丸出しの声は……やっと来たな。
リビングから玄関に出ると,そこには桐乃の同級生――加奈子の姿があった。
もっとも,加奈子自体はよく遊びに来るので,別に珍しくもなんともない。
珍しい客というのは加奈子ではなく……

「きゃーー-っ!ブリジットちゃーん!久しぶりぃぃぃぃ!!」

今にも来客に飛びつきそうな妹を,慌てて後ろから羽交い締めにする。

「ちょっ……離せ!この変態!」
「オメーにだけは言われたくねえ!もっと礼儀をわきまえろ!」

そう,珍しい客というのは,加奈子のモデル仲間のブリジットのことである。
こうして四人が顔を合わせたのは,桐乃とのデート以来だった。
そんなブリジットは,いがみ合う俺たちを見て何故かもじもじとしている。

「なんだよブリジット,おしっこ我慢してんのかヨ?」
「ち,違……も,もぅ!」

ぽかぽかと加奈子を叩くブリジット。非常にかわいらしい光景である。
なんとか気を取り直したブリジットは,こちらに向き直ってとんでもない発言をした。

「あの……お二人はついに結婚して,同じ家に住み始めたんですねっ」
「「なっ……」」

そ,そうか……!ブリジットは俺たちが恋人同士だって誤解したままなんだっけ……
どうしたものかと考えていると,横から加奈子が口をはさんだ。

「あー,ちげーって。その冴えないビミョーな奴は,桐乃の兄貴」
「えっ……そうなんですか。全然似てない……」

 まじまじと俺を見つめていたブリジットは,はっと我に返って加奈子に向き直る。

「か,かなかなちゃん……何もそこまで言わなくても」

うん,もう遅いよブリジットちゃん。お兄さん泣きそう。

「……ちょっと!いつまで妹を羽交い締めにしてんのよ!」

ぶんっ,と体をふって桐乃は俺の拘束から逃れた。そして叩き付けるように俺に怒号を浴びせる。

「お菓子とお茶,あたしの部屋まで持ってきて。ほらさっさと!」

おー怒ってる怒ってる。妙な誤解を受けたのがよっぽど癪に障ったんだな。
とはいえ,この程度の罵倒はもはや慣れっこである。俺は妹に素直に従うことにした。

「へいへい」

ったく,人使いの荒い妹様だぜ。


376 名前:【SS】デートの真相 2/4[sage] 投稿日:2011/09/07(水) 21:26:01.35 ID:OMFOVRcM0 [3/8]
言いつけ通りにお菓子とお茶を用意して,部屋の扉をノックする。

「入るぞー」

ドアを空けると,桐乃は何故か顔を真っ赤にして俯いていた。
その前に座る加奈子はいたずらっぽい笑みを浮かべ,隣のブリジットはあわあわと慌てふためいている。

「お,ちょうどいいところに来たじゃーん。じゃあ『お兄さん』に聞いてみよーっと」

部屋に入るなり,ぷくく,と笑みを浮かべながら加奈子が近付いてきた。嫌な予感しかしない。

「たんとーちょくにゅーに聞くけどぉ,な~んで夏休みに『お兄さん』は『妹』 とデートしてたわけぇ?」
「なっ……!」

こ,こいつ! 思わずお盆を落としちまうところだったぜ……

「あ,あれはデートじゃなくて,兄妹で外食してたんだよ」
「えー,でもぉ,あの時確かに桐乃のカレシって言ってたじゃん? なぁ,ブリジット」
「う,うん」

ブリジットもじっとこちらを見つめてくる。
参ったな……一応あのデートは偽物で,背景には複雑な事情があるんだが,それをこのアホが理解できるかどうか……
しかし,ここで下手に誤魔化すと,かえってややこしい事になりそうである。
仕方なく,俺はアホな頭にも分かるように事実を説明することにした。



377 名前:【SS】デートの真相 3/4[sage] 投稿日:2011/09/07(水) 21:26:19.16 ID:OMFOVRcM0 [4/8]
「……というわけなんだ」
「ふむふむ,なるほどねー」

うんうんと頷く加奈子。やっとこのアホも理解できたか……そう胸をなで下ろした俺であったが,
そこで加奈子はより凶悪な笑みを浮かべてこう言ってきた。

「でもさー,あやせに聞いた話だとぉ,美咲さんはその日ファッションショーに付きっきりでぇ,
 美咲さん本人もデートを付け回したりはしてないって言ってたらしいんだけどぉ,それはどういうことなのかなァ?」

こ,このクソガキ……! 分かって言ってやがるな! というかあやせ!お前こっそり調査してやがったのか!
 
……あれ?でも待てよ?もし今の話が本当なら,俺と桐乃のデートは一体何だったんだ?
どういうことなのか,むしろこっちが聞きたいんだが……
そういえば,黒猫もそんなことを言っていたような気がする。あの時はそれどころじゃなくて,うやむやになっちまったけど。
ちら,と桐乃の方に目を向ける。桐乃は口をぱくぱくさせて,助けを請うような目でこちらを見つめてくる。
……ちっ,しょうがねーな。助けてやるか。

「実はな,桐乃が俺の同級生と付き合うことになって,あの時はその予行練習をしてたんだ」

うむ,我ながら上手い言い訳である。

「え……そうなん?」
「ああ。こいつ,俺の年代の男子にはどう接したらいいか分からないって言うから,仕方なく俺が付き合ってやったのさ。予行演習なんて

恥ずかしいから,堅く口止めされてたんだ」

俺の言葉を聞いた加奈子はしばらく考え込んでいたが,やがてニヒヒ,と笑みを浮かべて言った。

「な~んだそういう事かぁ。桐乃も可愛いトコあるじゃんかヨ~」

このこの,と桐乃を肘で小突く加奈子。よしよし,今度は上手く騙せたみたいだな,アホめ。
一方,ブリジットも俺の話に納得したようだったが,何故かその顔は残念そうだった。


378 名前:【SS】デートの真相 4/4[sage] 投稿日:2011/09/07(水) 21:26:34.29 ID:OMFOVRcM0 [5/8]
その後俺たちはワイワイと楽しく遊び,夕暮れ前に二人は帰っていった。
夕日に染まる玄関先で二人を見送った後,俺は思い切って桐乃に聞いてみることにした。

「なあ,桐乃……」
「うん?」
「結局あのデートって……何だったんだ?」

俺の質問に不意をつかれたのか,桐乃は再び真っ赤に茹で上がり,口をぱくぱくし始めた。
……こいつのこの様子から見て,つまりそういう事なんだろうな。

「あーあーわかった。なるほどね」

からかうように言いながら,俺は家に戻っていく。

「ちょっ……まだ何も言ってないでしょ!」

言わなくてもわかるさ。なんせ俺は,宇宙一のシスコンだからな。




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最終更新:2011年09月12日 08:41