601 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/09/15(木) 06:06:24.65 ID:bj07PGZL0 [1/3]
SS『あやせの簡単なお仕事』



お兄さん、お兄さん、お兄さん。

最近のわたしは、本当にどうしちゃったんでしょう?
寝ても覚めてもお兄さんの事ばかり考えてしまっています。
わたしは桐乃の事が大好き。女の子同士でも結婚したいくらい大好き!
そう。そうだったはずなのに。

今までなら、桐乃のおまけだったお兄さん。
でも、今は・・・どうなんだろう。



「おはよーあやせー」
「おはよう。桐乃」

わたしの親友の桐乃。
いつでも輝いていて、わたしの目標。わたしの憧れ。
そして、その桐乃のお兄さんが、わたしの心を揺さぶっています。

桐乃の事、必死で守ろうとしているお兄さんは、ほんの少しですけど確かに格好よかったです。
でも、本当はただのエッチで変態で、煩悩にまみれたお兄さん。

あんな人の事、なんで気になるんだろう・・

「ねえ、あやせ、最近元気なくない?」
「えっ・・・う、ううん?そんなこと、ないよ?」
「そうかなー?今だって、凄く悩んでるような顔してたよ?」
「ちょ、ちょっと・・・ね」

自分で言った言葉で思い出しましたけど、
そう言えば桐乃、つい最近まで調子悪そうにしてました。
それこそ、わたしが大丈夫?って聞いても、わたしと同じような返事しか・・・

「はは~ん。あやせってば、もしかして男の人のことで悩んでる~?」
「えっ、ええっ!?そっ、そんなことっ!」
「あ、やっぱり~♪」

う、うかつでした。
まさかこの手の話題に一番疎い桐乃に気づかれるなんて!
・・・それに、わたしはお兄さんの事、好きなわけがないですっ!

だって、わたしの大好きな桐乃は、お兄さんの事を大好きなんだもん。
わたし、桐乃に嫌われるのだけは絶対に嫌だから・・・

「それにしても、どうして分かったの?」
「なんかね、最近あたしも色々あったんだけどさ、
 そのときのあたしって、今のあやせみたいな感じだったんじゃないかなって♪」
「そ、そう・・・」

知らなかった・・・桐乃がいつの間にか恋をして、
それに、桐乃の声の調子からすると、その人とうまく行ってるなんて・・・

そんな大事な事を詳しく教えてもらえなかった悔しさで胸が張り裂けそうで・・・
でも、そんなに大事な人が出来たなら、桐乃と仲良くしながらお兄さんともっと近づけそうで・・・

ううん。お兄さんと近づきたいわけじゃないんです。
わたしはお兄さんの事、好きなわけが無いんですから。
ただ、もしかすると、近づく事があるのかなって・・・

少しくらい、少しくらいなら・・・聞いちゃっていいよね?

「ねえ、桐乃」
「うん」
「そう言えば、最近、お兄さん・・・どうしてる?」
「えっ?あ、兄貴?」

あっ、やっぱり失敗だったかな?
好きな人の話から、いきなりお兄さんの話に飛ぶなんて。

わたしは慌てて打ち消します。

「え、えとね?この間もお兄さんに回し蹴りを食らわせちゃって、大丈夫かなって」
「な、なあんだ。あたし、てっきり・・・」

とりあえず、話の矛先はそらせたかな?
やっぱり、好きな人が出来てもお兄さんって大事なんだね?
羨ましい・・・

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

普段なら、勘違いって分かれば、すぐにお喋りが始まるのに・・・
いつもなら楽しく過ぎてしまうはずの朝の時間。

時間の進みが遅い。

クラスメイトも、まばらな教室。
ホームルームまで、まだ30分・・・

「ね、あやせ」
「・・・」
「大事な話があるから、ちょっと来てくれる?」
「・・・うん」



桐乃に連れて来られたのは、人気の無い屋上。
わたしの心と同様に、残暑を感じさせる重たい空気が漂っています。

先に口を開いたのは桐乃でした。

「あのさ。もしかすると、あたしの勘違いかもしれないんだけど・・・
 あやせ、あいつの事、好きなの?」

あいつ・・・はっきりと誰の事か言わなくても、分かってます。
この一年。桐乃から繰り返し繰り返し話を聞いてきた『あいつ』の事なんて。

「もし、あいつの事好きじゃなくても・・・もし好きなら、なおさら。
 あたしは、あやせに伝えないといけない事がある」

桐乃は何を言い出したいんだろう?
お兄さんに近づかないでって言われるのかな?それとも、やめた方が良いって言われるのかな?
不安が胸を押しつぶしそうです。

「一回しか・・・一回しか言えないから、聞き逃さないで」
「・・・うん」

わたしの目の前の桐乃は、気の毒に思えるほど緊張してしまっていて、
まるでいつも見ている桐乃が偽者みたいに、弱々しく見えてしまいます。

「・・・・・・・・・」

そんな桐乃が、必死に伝えてくれる事・・・


「・・・あたし、ね。あたしの、兄貴の事、大好き。・・・愛してるの」


わたしの両耳は、間違いなく、一言も聞き漏らさず、
桐乃の言葉を聞き取りました。

普通なら、馬鹿なこととして一蹴出来るような桐乃の言葉・・・

でも、何故かわたしは、その言葉を一瞬も疑うことなく受け入れる事が出来ました。

「そっか・・・桐乃。おめでと!」
「えっ!?あ、ありがと・・・・・・・・・ごめん・・・」

多分。わたしは受け入れたくなかったんだと思います。
わたしがお兄さんの事を好き『だった』事。
桐乃がお兄さんの事、大好きな事。
お兄さんが、わたしの事、見てくれていない事。

でも、気づいていた。

桐乃がお兄さんのこと、毎日あんなにも嬉しそうに語る事。
わたしよりも誰よりも、お兄さんの事を信頼している事。

そして、そんな桐乃の事を、妬ましく思ってしまっていた事。

「ねえ・・・桐乃」
「う、うん・・・あやせ・・・」

目の前に居るはずの桐乃が見えなくて、
わたしは、そこに居るはずの誰かに声をかけます。

「もう、一度・・・お兄さんに・・・会わせて・・・」
「な、何言ってんの、あやせ!別にあたしは」
「もう一度だけで・・・いいから・・・」
「・・・分かった」

わたしは、せめて桐乃にだけは、嫌われたくないから。

「今日、放課後で、いい?」
「・・・うん」

最後に、もう一度だけ、お兄さんに『簡単なお仕事』をしてから。

それから、元のわたしに。
桐乃の事が大好きな『新垣あやせ』に、戻ろうと思います。



End.




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最終更新:2011年09月17日 00:51