231 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/09/16(金) 10:23:22.84 ID:pJAqbDnx0 [2/12]
過ちのダークエンジェル~妹のウエディングドレス間の京介サイド補完SS

SS行け行け!『しゅーてぃんぐすたー号』


「-いってらっしゃい、お兄さん」

あやせ、加奈子すまねぇ。また埋め合わせはするからよ。
控室から飛び出した俺は携帯を取り出し地図を表示させる。
ここからだとかなり遠いな。タクシーをつかまえるか…。

会場の外はまだライブ中ということもあり人はまばらだった。
周りを見渡すと客待ちしているタクシーの列が目に入る。
よし!なんとかいけそうだな。

「えっと、ここまで行きたいんすけど」

携帯の地図を見せながらタクシーに乗り込む。

「んん?今結構混んでるから時間かかるよ。それでもいいなら乗ってきな」
「な…マジすか!?こっちは急いでるんすよ!何とか午後六時までには着きたいんすけど」

時計を見る。今は午後五時十五分過ぎか。

「今からだと早くて午後七時は過ぎるねぇ。車よりバイクや自転車のほうが早いんじゃないかね」

くそ…!よりによって混んでる時間帯かよ。…なにか方法ないのかよ!
俺は内心かなり焦っていた。

『今日のライブ、行けそうにない』-桐乃からのメールはそのたった一文だけだった。
だが俺はそのメールに何か言いようのない気持ちを感じたんだ。…だから。

-今回は絶対に間違うわけにはいかねえんだよ!

ふとあの時の事が頭に浮かぶ。
俺の前から急にいなくなった桐乃。半年後に送られてきた一通のメール。
大切にしてた宝物をすべて捨ててほしい…と。
違和感を感じて向かった留学先で見た桐乃の苦しむ姿。
あんな姿に桐乃を二度とさせない…見たくない…そう誓ったんだよ!
何か…くそっ…!せめてチャリでもあれば…!

「京介君?」
「御鏡…か?」

振り向いた先には見知った顔があった。

「よかったぁ。髪型が違うからヤクザかと思ったよ」
「ああ!髪型変えただけでヤクザ扱いかよ」
「いやぁ。君ほど死んだ目つきをした人はいないから」
「お前さわやかに俺の存在完全否定してきたね!」

こんなことしてる場合じゃねえ。殴りたくなる衝動を抑える。

「しかしお前何してたんだよ。もうメルフェス始まってんだろ」
「仕事が長引いちゃってね。これでも必死で『しゅーてぃんぐすたー号』で走ってきたんだよ」
「『しゅーてぃんぐすたー号』?なんだその新手の痛車みてーなのは」
「痛車とは酷い言い方だね。これは僕が作り上げた愛の最高傑作だよ!」

御鏡が指さす方向には…ああ…痛車なんて言って悪かったよ…。
ありゃ痛車なんてチャチいもんじゃねぇ…もっと恐ろしい痛チャリだよ。
ホイールに全裸の幼女が描かれている…あれで走ってきたのかよ。御鏡さんぱねぇ。
…って感心してる場合じゃねぇ!コイツはまさしく天の助けだぜ。

「悪い御鏡。そいつ借りるぜ」
「かまわないよ。ただし僕の宝物なんで大切に頼むよ。ちなみにどこに行くつもりなんだい?」
「囚われのお姫様を助けに…じゃ悪いかよ」
「あはは。なるほど教会で待つお姫様…っといった感じかい」
「そういやお前もモデルやってたんだったな。まあそういう所だ」

御鏡に礼をいいつつ『しゅーてぃんぐすたー号』を勢いよく走らせた。
時計を見ると午後五時三十分。あと三十分あればいけるか?
赤信号待ちの間に手早く携帯の地図で道を確認する。
車だとかなり遠回りだが、御鏡に聞いた裏道だとほぼ真っすぐ目的に向かえるらしい。

「…ねーねー何あの自転車」「やばーい♪きもーい♪」
「見ちゃダメ。あれはきっと違う国の人なのよ」

御鏡…お前よくこの痛チャリで走ってこれたな。
赤信号で止まる度にヤバイモノを見る視線にさらされる。

「そういえばさっきすっごく!カッコイイ人がこんなのに乗ってたよねー」
「見た見た!やっぱりイケメンだと何でも絵になるよねー!」

…ああそうですか、イケメンじゃなくて悪かったな!世間ってのはイケメン以外に厳しすぎるよ!

半ば周りの視線にキレつつも俺はとにかく早く目的地に着くべく地図を見る。
目的地まではもうかなり近づいているようだ。

このペースなら十分間に合うな…ただ…。
…はぁ…はぁ…さすがに全力疾走だときついな…。

-と、一瞬意識がそれた瞬間の事だった。

まがった先に止まっていた車に気付くのが遅れ、強引に避けようとして体勢を思いっきり崩しこけてしまった。

「く…そ…!」

…かなり派手にこけちまったな。『しゅーてぃんぐすたー号』は……大丈夫そうだ。
痛チャリは運よくぶつからずに道の真ん中に倒れるだけで済んでいたらしい。
口の中に土と血が混ざったような味が広がる。起き上がろうとすると体の節々が痛む。
ずっと前の俺ならここで「やってられるかよ!」と諦めてたかもしれない。

「…ここで諦めて、桐乃がいなくなるなんてのはもうコリゴリだからな」

思っていた気持ちを口に出すと、痛みが急に引いていく。
実際にはありえない話だが、今の俺にはすでに痛みの感覚は一切感じられなかった。
『しゅーてぃんぐすたー号』にまたがり一息いれた俺は再び全力でこぎ始める。
まだ間に合う…いや、絶対に間に合わせる!

-教会が見えた。

「てかなんじゃこりゃああああ!?」

…マジかよ。最後の最後にとんでもねえラスボス様が待ち構えていたってか?
教会まで続く道は一本道なのだが、教会はかなり上に見える。
つまり教会までの道は急な上り坂になっていたって事だ。
ここまで全力で走ってきただけに急に疲労感が襲いかかってくる。

「こりゃ帰りの体力がどうとか言ってられねーな!」

『しゅーてぃんぐすたー号』と共に気合いを入れる。…そして。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

俺は全力で坂を駆け上がった。…この先にいる一番大切な存在に向かって。




-------------

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年09月17日 11:10