785 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/09/17(土) 01:12:17.39 ID:hQ4c7JD60
SS妹のウエディングドレス-美咲サイド


バージンロードの上では1人のモデル-高坂桐乃がカメラマンの指示のもとでポーズをとっている。
ライトブラウンの髪に均整のとれた容姿。読者モデルとしてはかなり高い水準だろう。
だが彼女に最も魅力を感じるのはその表情やしぐさにあると私は考えている。





私-藤真美咲が彼女に興味を持ったのは去年の12月頃の事。
それまでにも彼女を何度か見たが、正直容姿がやや飛びぬけている程度でしかなかった。
それがいつしか-去年の7月辺りから、少しずつではあるが、確かに雰囲気が変わっていた。

-その原因、理由でもある人物を思い浮かべる。

「確か、あの時は赤城京介と名乗っていたかしらね」

赤城-高坂京介は当時、偽名を名乗って高坂桐乃の彼氏として現れた。
偽名であることは最初から分かっていた。と言うのも事前の身辺調査で高坂桐乃には彼氏どころか
男の影すらなく、同級生どころか男性モデル数名のアプローチすら断っている事を掴んでいた。
その上で彼女には『京介』という名の兄がいる事も調べていたからだ。
その『京介』の顔写真通りの人物がまさしく目の前にいた。

「ふふ…あの時の桐乃ちゃん、初々しいったらなかったわね」

『京介』は大げさな言葉やしぐさで私を騙そうと奮闘しているのをしり目に、高坂桐乃は
真っ赤になったり前後不覚になったりと今まで見たことのない表情を見せる。それがとても微笑ましい。
-なるほど…恋する相手は実のお兄さんだったって訳ね。
勿論それで諦める気はなかった。むしろ彼女に今まで以上の魅力を感じたからだ。

「トップモデルよりも実兄との恋をとる…か」

モデルから世界的ブランド≪エタナー≫の代表取締役となるまでに、私は何人もの男性と付き合った。
ただそれがモデルとしてプラスになったか…と言えば答えは「ノー」であると言えた。
恋は女を綺麗にする、だが恋人の存在はむしろマイナスであると考えていた。
私はその後も専属デザイナー兼モデルの御鏡光輝をけしかけ、2人を引き裂こうとした。
彼には特殊な趣味があり、高坂桐乃との関係も悪くないと知っていたからだ。
-それでも2人の、高坂兄妹の仲を裂く事は出来なかった。

「『僕の力では、2人の仲は引き裂けない』とか言ってたかしら」





辣腕を誇る、なんて言われていながら学生モデル1人スカウト出来ないなんてね。
1人苦笑して…現実に戻る。と、当の本人-高坂桐乃はチャペルでの撮影に入っていた。
今日の撮影も新郎役を伴わないことで了承させたものだが、彼女にとっても復帰のきっかけにはなっただろう。

「本当に一途ね…だからかしら」

彼女の表情は本当に美しいと思う。何人もの一流モデルをモノにしてきた自負はある。
それでも、本物の表情は作り出せない-か。

「お疲れ様でしたー」

滞りなく撮影が終わり、モデル達が談笑している。
教会でのウエディング撮影という事もあり、モデル達は楽しそうに見えた。
そろそろね…と1人のモデルに目配せをする。

「これからみんなで打ち上げに行かない?」

そう-今回の目的は高坂桐乃を本格的にスカウトし、海外へ連れていく事だったのだ。
その為に彼女が断りづらい人選もしっかり行なってある。

「桐乃ちゃんもどう?久しぶりだしさ、復帰祝って事で!」
「あー…あたしはいいです。家が厳しいので…」

彼女はやはり断ろうとしてきた…でもその程度は想定してあるわよ。

「えー!」「いいじゃーん!」「行こうよ!」「家に連絡すれば大丈夫だって!」
「んー」

あとひと押しね。ようやくかしら…ほんと手間をかけさせてくれたわ。

…と、その時だった。あの声が聞こえてきたのは。




「ふぅ…まさかここまで来るなんて、ほん…っとうに想定できないわ」

ホテルの教会前に現れたのは-高坂桐乃の兄『高坂京介』だった。

「というか…まさか桐乃ちゃんが助けに入るとわね」

彼女は仕事仲間に兄の事を知られたくないはずだった。それは調査で分かっている事だ。
だがあの場面で…スタッフに取り押さえられている『高坂京介』に助け舟を出した。
あのまま警備員に連れて行かせていれば、私の勝ちであるはずだった。

当の2人はと言うと、他のモデル達から離れて-ちょうど私がいるワゴンの前にいた。
-私が中にいることは知らないはずだけど。

ワゴンからそっと覗いてみる…妹のドレス姿に見惚れている風な兄が見える。
ふふ…あのドレスは桐乃ちゃんの為に仕上げた最高のモノだから当然ね。
目論見を崩されながらも初々しい2人に思わず綻んでしまう。
どうやら『高坂京介』はライブに妹-高坂桐乃を誘っていて連れ戻しにきたらしい。
会話の端々が聞こえてくる…その為にわざわざ自転車で…?
2人の横には一風変わったイラストの自転車が置かれている。
あれは…御鏡君の。なるほど…彼が早々にあがったのはそれね。御鏡光輝の趣味を思い出し納得する。
高坂桐乃は兄の出現と行動の理由を聞いて困惑しているのが表情で分かった。
だが彼女は迷っている…このまま放っておけば彼女が着いていくことはないだろう。
高坂桐乃とはそういう性格なのだ。-だけども。

「-そのまま行けば?」

私は思わず声をかけていた。-私の出現に驚く2人。
ありえない事だが、私は2人を送り出す手伝いを申し出ていたのだ。
心の中で舌打ちする…なんて私は馬鹿なんだろうか、と。…だが。
彼女の言葉をさえぎり…ドレスを頭に浮かぶデザインに任せて破る。

「きゃあああ!ちょ-えええ!?」
「はい、これで動きやすくなったでしょ。これでどう?」
「いやっ…コレでも十分恥ずかしいんですけど!」
「デザイン的には問題ないとおもうけど」
「そう言う意味じゃなくてですね…」

彼女は抗議の言葉を投げかけてくる…が、私はもうこの状況を楽しんでいた。
ふふふ。御鏡君の言葉がよくわかったわ…この2人の仲はきっと誰にも裂くことはできないんだと。
ならば私流の最高の送り方で、2人を送り出してやろう…と。

笑いを-この2人に感じる気持ちから、自然に溢れる笑いをこらえずに送り出す。

「あっはは、いってらっしゃい」

…もう1人で海外へ連れていくのは諦めてあげるから。
そう思いながら2人の後ろ姿を見送っていた…。




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最終更新:2011年09月17日 11:12