29 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/09/19(月) 20:19:30.46 ID:zyJ1p6/k0 [2/2]
タイトル:ボイスクロック
「高坂さん、お届け物です」
「はーい」
リビングで雑誌を読んでいると、宅配業者がやってきた。どうせまた桐乃の荷物だろうとは思
ったが、出ないわけには行かない。返事をしてゆっくりと腰を上げる。
リビングの扉を開けると、そこにはすでに宅配業者に応対している俺の妹、桐乃の姿があった。
「ありがとうございます」
そういって宅配業者は玄関を閉めた。
「おまえ、今度は何買ったんだ」
俺は何気なく聞いてみた。
「これ、あんたの荷物。逆にあたしが何買ったのか聞きたいんですけど」
リビングに入ってきた桐乃が、そういうと、エロ本でも買ったんじゃないかとでも言いたげな目
を俺に向ける。
俺はそんなもの通販で買わんわというツッコミを心の中で入れる。
「誰から送られてきたんだ」
と言いながら荷物を受け取った。
送り主は”雷撃屋”。ライトノベルを扱っている雷撃文庫の通販サイトからだった。
そういえば先日、何気なく通販サイトを覗いていると、俺の好きなラノベのボイスクロックが残
り1個だったので衝動買いをしてしまったことを思い出した。
「で、何買ったの」
「送り主でもわかるだろ、おまえが考えているような変なものじゃない」
「はぁ?わけわかんない、別にあたしは変なものとか言ってないつーの」
「おまえの目が言っている」
「あっそう、変なものじゃないってなら見せてみなさいよ」
「いやそれは・・・・」
俺は桐乃にこれを見せることを戸惑った。なぜなら俺が好きなラノベのヒロインは普段は主人公
の兄を人とも思わない言動で罵倒する妹なのだ。普段の言動は、まさしく目の前にいる桐乃と酷
似している。
しかしこのヒロインは時折みせる照れ隠しな部分やこいつ実は兄貴が好きなんじゃねぇ?と言わ
んばかりの行動が何ともかわいい。目の前の桐乃にも最近そういった面があるのではと感じるよ
うになってきたが、現実と小説の中の人物に対してはやはり感じ方が違う。
今回買ったボイスクロックは、そんなヒロインが罵倒の中にも照れ隠しな部分を見せながら起こ
してくれるというもので、買おうかどうか迷っているうちに残り1個になってしまい思わず買っ
てしまったものだ。しかし実際に購入を決めた理由は、ヒロインの声がなぜか桐乃に似ていると
いうこともあった。
俺って桐乃に調教されてるのかな?とエロゲー的な思考が浮かんでしまう。まぁほんとうは現実
の桐乃に起こしてもらいたいんだが、こいつは頼んでもやってくれなさそうだし。
「なに、だまってんのよ。やっぱりエロいの頼んだんでしょう、この変態」
「そんなもんは頼んでない、いやちょっと恥ずかしいかもと・・・・」
「・・・マジキモイ、エロいのじゃないんだったら、あたしに見せてもいいよね。あんたの頼ん
だもんみて笑ってあげるから」
と言って、俺から荷物を奪い取った。そしてあっという間に荷物を開けてしまう。
「なにこれ?時計?」
と言いながら、何か面白いものというか俺の弱みでも見つけたかのような顔をする。
「へー、あんたがラノベのボイスクロックをねー」
「・・・別にいいだろ。そんな変なもんじゃないし・・・」
「いや、このラノベ、あたしも知ってるけど、主人公の兄貴を罵倒する性格とか何とかならないの
とか思うわけよ」
おまえがそれを言うのか。
「確かにぱっと見はそうだが、たまに行間に見せる『お兄ちゃん大好き』とかの仕草が何ともいえ
ないだろ」
「・・・このシスコン、マジひくわ。あんた、妹もののエロゲーやりすぎて脳みそ汚染されてんじ
ゃないの」
「だれがやらせてるんだ」
「・・・キモ、否定しないんだ」
「いいから返せ」
俺は桐乃の腕をつかんでボイスクロックを奪い返そうとする。桐乃も負けじと踏ん張り奪い返され
ないようにする。細身の体からよくこんな力が出るんだと言わんばかりにお互い拮抗する。そして
桐乃は俺から逃げようと俺の膝を何度も蹴ってくる。「痛っ!」そう叫んだ俺は、膝をずらして桐
乃の足蹴りをかわす。桐乃の蹴りが宙を切ると、俺たちはもつれ合ったままリビングのじゅうたん
の上に倒れこんだ。
「危ない」とっさに叫んだ俺は、桐乃の腕を掴んでいる手を離して桐乃の頭の後ろに回した。そし
てもう片方の腕を床につけて衝撃を和らげた。
一瞬視界が真っ白になったがすぐに視界は回復した。目の前を見ると、目を閉じた桐乃の顔がある。
そして俺たちはちょうど俺が桐乃を押し倒したような形で抱き合っていた。すぐに退こうと思った
が目の前の桐乃に目を奪われて動くことができない。
こいつ、マジかわいい。
少し間をおいて桐乃が目を開けた。
「桐乃、どこかぶつけなかったか」
「・・・んー、・・・背中が床に当たってちょっと息が詰まっただけ」
「そうか、よかった」
俺がほっとしていると、桐乃が持っているボイスクロックから突然音声が流れた。
『あたしも……あ……兄貴のことね…………好き……かも』
俺は一瞬はっとした。今目の前で抱き合っている桐乃にそっくりな声でこんな台詞が聞こえてくる。
桐乃もそれに気づいたのか、頬を昂揚させ目を逸らしてくる。その仕草と桐乃が持つ独特の魅力に
惹きつけられキスをしたい衝動に駆られた。桐乃がゆっくりと目を閉じた。俺の今感じていること
を察したのだろうか。”かわいいやつめ”そう感じていると、
『なぁんて言うと思ったァ?なに慌てちゃってんの?キモいんだよ、シスコン。』
ボイスクロックは間をあけてそんな言葉を放った。
それを聞いて我に返る桐乃と俺。桐乃の顔は赤くなっているが怒っているのか恥ずかしいのかよくわ
からない表情をしている。
「どけ、このシスコン」
そう言い放つと俺の股間に膝蹴りを入れた・・・・・・・
激痛のあまり倒れこんだ俺を退かすと、桐乃立ち上がり乱れた衣服を整えた。
「あんた、何あたしにキスしようとしてるわけ?信じらんない」
「・・・いや、あれはだな、おまえを見ていたら何かかわいく見えてきて・・・」
「はぁ?そんだけの理由であたしにキスしようとしたわけ?変態」
「時計からの声がおまえの声のように聞こえてだな・・・・」
「・・・キモ、そんな妹に欲情するようなやつだからボイスクロックなんて買って慰めようとしてるわ
け?・・・マジひく」
「いや、そんなことはない。どうせならおまえに起こしてもらったほうが・・・・・」
「うっさい、はいこれ返す。あんたは二次元ボイスでも聞いてハァハァしてれば」
そういうと、桐乃はリビングを出て自分の部屋に戻っていった。
翌朝、俺はボイスクロックの音声で起こされた。
『朝よ、起きて』
「んー、もう朝か・・・」
『早く起きないと、遅刻するよ』
「罵倒だけかと、思ったらこんな音声も入ってるのか」
「・・・キモ、罵倒されて起こされたいわけ?マジひく」
俺はその声を聞いてはっと目を開けた。目の前には桐乃の顔があった。そしてその顔に満面の笑みを浮か
べながら
「おはよう、京介、本物のほうがぜんぜんいいでしょ」
とささやいた。
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最終更新:2011年09月19日 21:02