685 名前:【SS】プライベート・ファッションショー 1/4[sage] 投稿日:2011/09/21(水) 15:39:23.69 ID:X+PQqFWx0 [10/19]
『カメラを持ってあたしの部屋に来ること!』
9月21日の夜、そんなメールを受け取った俺は、桐乃の部屋の前に立っていた。
「一体何の用なんだ?」
いつもならずかずかと俺の部屋に入ってきて、好き勝手に命令するだけだろうに。
しかもカメラって・・・・・・桐乃のコレクションの撮影でもさせる気か?
「まあ、考えても仕方ないか」
俺はカメラを持っていることを確認すると、桐乃の部屋の扉をノックした。
「桐乃、入っていいか?」
「う、うん!
入ってきていいよ」
どことなく緊張した桐乃の声が返ってきた。
不思議に思いつつも俺が扉を開けると、
部屋の中心に、浴衣姿の桐乃が立っていた。
「き、桐乃?」
わけがわからず、その言葉だけを搾り出す。
今日、これから花火大会とかあったっけ?
「今日はファッションショーの日なんだって。
だから、今日だけ特別に、あんたのためにファッションショーを開いてあげる」
浴衣を完璧に着こなす桐乃の顔は、どことなく赤い。
こいつ、照れてるのか?
「でも、なんでまた・・・・・・」
おまえ、俺のこと嫌いだろ?
ファッションショーの日だからって、俺のためにファッションショーを開いてくれるなんてにわかには信じられねえんだが。
「その・・・・・・あんたさ、あたしのワガママのせいでこれからもずっと彼女が作れないじゃん?
だからさ、一年に一回くらい、彼女の代わりにあたしの綺麗で可愛い姿を見せてあげないと可哀想かなって思ったの!
あんたシスコンだから嬉しいでしょ?」
「桐乃・・・・・・」
そんなことを考えていてくれたのか。
俺が彼女を作れないのは、そもそも俺が桐乃にワガママを言ったからだって言うのに、こいつはそれを気にしてたのか。
そしてせめて、少しくらいは彼女の代わりに俺を楽しませてくれようと頑張ってるんだな。
その心遣いが、とても嬉しい。
「・・・・・・その、嬉しくない?」
桐乃が不安そうに尋ねてくる。
「そんなハズねえだろうが!
これから毎年桐乃の個人ファッションショーが拝めるなら、一生彼女なんか要らないね!」
わりかし本気でそう言う。
「・・・・・・キモ」
桐乃がさらに顔を赤くし、そっぽを向いた。
むっ。さすがに引いちまったか?
「一生彼女が要らないなんて、こいつどれだけあたしのこと好きなのよ・・・・・・」
桐乃がポツリと何事か呟いたが、俺にはよく聞き取れなかった。
「なんか言ったか?」
「なんでもない!
今度せなちーのお兄さんに挑まれても勝てるように、あたしの可愛い姿、ちゃんといっぱい撮りなさいよね!」
こうして俺の夢のような時間が始まった。
浴衣。制服(夏)。制服(冬)。白いワンピース。
カジュアルな服から、パティードレスのようなきらびやかな服まで。
そして、ゴシックドレス、メイドさん、チャイナ服といったメジャーなコスプレ衣装。
極めつけはスクール水着。白のワンピース水着。赤いビキニ。競泳水着。そしてビキニエプロン。
その他もろもろ。
686 名前:【SS】プライベート・ファッションショー 2/4[sage] 投稿日:2011/09/21(水) 15:39:41.25 ID:X+PQqFWx0 [11/19]
「ふぅ」
さすがに疲れてきたので一息つく。
8時くらいに始まったファッションショーだったが、気がつけば2時を超えていた。
撮影枚数は数えるのが馬鹿らしくなるほど。
もしかして赤城の瀬菜コレよりも多いんじゃねえか?と思うほどに撮りまくった。
「これから毎年桐乃の個人ファッションショーが拝めるなら、マジで一生彼女なんか必要ないな」
今までの写真を確認しながら、ポツリと呟く。
くそっ!何で去年の俺たちは仲が悪かったんだ?
おかげでコレクションが一年分減っちまったじゃねえか。
桐乃と仲が悪くなる前から人生やり直したくなるが・・・・・・いや、今のこの状況はあの冷戦があったからこそ築けたんだよな。
「・・・・・・キモ」
桐乃が俺のほうを見ながらポツリと呟いた。
これで今日何度目の『キモ』だ?
まあ、そこまで俺を気持ち悪がってるわけじゃないみたいだから気にしないでおくか。
「・・・・・・ねえ、今言ったのって本心?」
桐乃がエプロンの裾をいじりながら聞いてくる。
ちなみに今の衣装はビキニエプロンだ。
マジ最高。このまま時が止まればいいのに。
「今言ったのって・・・・・・一生彼女なんかいらないって事か?」
「うん」
「そうだな・・・・・・
もし俺が彼女を作らないで、おまえも彼氏を作らないで、年に一度でいいからこうやって一緒に楽しめたら・・・・・・
それで十分かもしれないな」
桐乃に恋人ができて欲しくないから、俺も恋人は作らない。
だからこうやって、時々お互いに慰めあう。
今の俺にはこのままでいいんじゃないかと思えてしまう。
きっと、目先の答えでしかないんだろうけどな。
「ふ~ん。
・・・・・・それじゃあ、次で最後だから」
「おう」
次で最後か・・・・・・少し寂しいが、もう晩いし仕方がないだろう。
これから桐乃が部屋で着替えるため、俺は部屋の外に出た。
別に、俺的には部屋の中にいても問題ないんだがな。
今までの倍くらいの時間を外で待つ。
最後は何の衣装だ?
どんどん過激になっていってるから、最後はこの間俺がプレゼントしたアレでアレな下着かも知れん。
いや、そうに決まってる。だがそうなると、部屋に入ってから俺は何秒間意識を保てるだろうか。
せめて一枚写真を撮ってから気絶したいもんだぜ。
「・・・・・・いいよ」
部屋の中から桐乃の呼び声が聞こえた。
随分と慣れてきたと思ったが、今回の声は初めよりも緊張しているように感じる。
まさか、本当にあの下着姿なのかそうなのか!!!???
俺は期待に眼を輝かせ、ドアノブに手をかけ、扉を開けた。
部屋の中心には、花嫁衣裳の桐乃が立っていた。
687 名前:【SS】プライベート・ファッションショー 3/4[sage] 投稿日:2011/09/21(水) 15:40:05.42 ID:X+PQqFWx0 [12/19]
「・・・・・・」
思いがけない光景に、何の言葉も出ない。
本当に、たった一つの感想が頭に浮かぶだけだ。
「・・・・・・どう?」
桐乃の言葉に、浮かれた頭のまま答える。
「綺麗だ。
・・・・・・今までに見た、何よりも」
「え?」
俺の言葉に、桐乃の顔が真っ赤に染まっていく。
あの時は忙しくてちゃんと見てやることはできなかったが、こうやって改めて見ると、
ウェディングドレスを着た桐乃は、今まで見た誰よりも綺麗だった。
「おまえ、どうしたんだ、この衣装」
「これね、美咲さんが撮影が遅れちゃったお詫びにってプレゼントしてくれたの。
汚れたり、解れちゃったりしたところも修理してあるよ」
「そのくせスカートは破れたままなんだな」
「なんか、美咲さんがこのデザイン気に入っちゃったんだって。
今度このドレスとあの時の事をモデルにした新しい衣装を発表するみたいよ」
「そうか」
上の空の返事をする。
顔を赤らめながら俺を見つめる桐乃を見て、俺は改めて一つ決心した。
「絶対に、おまえを嫁になんか行かせねえからな。
おまえを誰かにやるくらいなら、俺が代わりに結婚してやんよ」
無意識のうちにそんな言葉がこぼれた。
「・・・・・・このシスコン」
俺の言葉に桐乃は俯いてしまい、その表情は伺えない。
「でも、ちょっとだけ嬉しかったから」
「え?」
ポツリと呟いた桐乃の声が聞き取れず、俺は聞き返した。
「なんでもない!
とにかく、あたしが彼氏を作れないのはあんたのせいなんだから―
あたしが大人になった時に結婚してなかったら、ちゃんと責任とってよね!」
そう言って顔を上げた桐乃の顔は綺麗というよりも―
いや、感想を言うのはそれこそ野暮ってもんだろう?
689 名前:【SS】プライベート・ファッションショー 4/4[sage] 投稿日:2011/09/21(水) 15:40:27.27 ID:X+PQqFWx0 [13/19]
この後のことはよく覚えていない。
残っているのは脳裏に刻まれた桐乃の眩い姿と、百枚以上の桐乃の魅力的な写真、
そして最後のこのイベントだけだ。
「ねえ、最後に一つだけ、絶対にせなちーに勝てる写真を撮らせてあげる」
「なに!?
キ、キスしてくれるの?」
「し、しないから!
そうじゃなくてね・・・・・・」
「おい赤城、やっぱり俺の妹の方が数兆倍可愛いわ」
昼休み、俺は赤城に声をかけた。
「ハッ!高坂、おまえまだそんな世迷言を言ってるのか?
おまえだって見ただろ?
瀬菜ちゃんのほっぺにちゅー。
あれに勝とうと思ったら、おまえのラブラブツーショットプリクラの三倍は持って来い」
「ほっぺにちゅー、か。
それはこれだな?」
俺はあの時の写メを赤城に突きつける。
「そうだった、高坂!
それを俺の携帯に送りやがれ!」
赤城が俺に詰め寄ってくる。
「いいぜ。ただし、俺との勝負が終わったらな」
「面白い。高坂、瀬菜ちゃんにあって、おまえの妹にはない決定的な差、ブラコン力を教えてやるぜ!」
「ブラコン力、か。
くくく・・・・・・」
俺はこれから赤城に見せる写真を思い浮かべ、不適な笑みを浮かべた。
「高坂、何が可笑しい!」
「いや、ひとつ間違いがあったな。
これは勝負ではなく、俺が徹底的におまえを蹂躙し尽くすだけだった」
「なん・・・・・・だと・・・・・・?
何を隠している、高坂!」
「ククク・・・・・・フフフ・・・・・・フハハハハハハハ!
俺の新デッキ『プライベート・ファッションショー』の魅力を思い知るがいい!
俺の先行!俺は手札からこのカードを使用するぜ!」
俺は携帯を操作すると、待ち受け画面を赤城に突きつけた。
「こ、これは―!
ぐわぁぁぁぁぁ!!!」
赤城が断末魔の叫び声を上げ、後ろに倒れる。
うむ。相変わらずノリのいいヤツだ。
「そ、そんな馬鹿な・・・・・・」
赤城のうめき声が聞こえる。
「ククク・・・・・・さすが女神に祝福されし力・・・・・・
赤城程度では一撃か・・・・・・」
俺が赤城を睥睨すると、赤城はスクリと立ち上がり、
「せ、瀬菜ちゃーん!!」
と叫ぶと走り去っていった。
まったく、妹に泣きつこうとは相変わらず重度のシスコンだな。
恐れ入るぜ。
「ね、ねぇきょうちゃん、今度はどんな写真を見せたの?」
近くで俺たちの決闘を見ていた麻奈実が、恐る恐るといった様子で尋ねてきた。
「あー、ちょっとした『兄妹写真』だ」
俺は先ほど赤城に突きつけた携帯のディスプレイを確認する。
そこには緊張した面持ちで硬くなっているスーツ姿の俺と、
俺の腕に自分の腕を絡めしなだれかかり、幸せそうに微笑む花嫁姿の桐乃が写っていた。
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最終更新:2011年09月23日 07:58