395 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/09/23(金) 20:55:36.30 ID:zo01xAUN0 [24/26]
タイトル:アルバム
あたしは、宝物がしまってある押入れの奥からアルバムを取り出した。
このアルバムは、宝物がここに仕舞われるずっと前からここにあるあたしとあいつの思い
出。そしてあたしと京介を繋いでいたもう一人の思い出。
「桐乃、この子が今日からおまえのお兄ちゃんになる京介くんだ」
お父さんがそう言う。目の前にはTシャツに半ズボン、鼻の頭に絆創膏を貼った京介がい
た。あのときのあたしがどう思っていたかもう思い出せないけど、今考えてみると田舎の
ガキ大将にしか見えない。
「俺は京介だ、よろしくな」
「あたしは桐乃、よろしくお兄ちゃん」
あのときの京介は、まったく臆することもしないで、あたしにそう言ってきた。あたしも
あまり人見知りはしないほうだったから、ちゃんと返事ができた。
まぁそれ以上に、お兄ちゃんが・・・兄貴ができたことがうれしかったんだけど・・・
すぐに打ち解けたあたしたちは、二人でよく外に遊びに行った。運動は得意じゃなかった
から、先に走っていくあいつの後ろを一生懸命追っかけてた。そんなあたしをみると兄貴
はゆっくりとあたしの隣を走ってくれた。いつもの遊び場に行くと地味子・・・ううん、
まなちゃんとかもいて一緒に遊んでた。
鬼ごっこをやってるときにあたしが鬼になると、兄貴はあたしに合わせてゆっくり逃げて
くれたりしてたな。まぁそれでよくまなちゃんに
「きょうちゃん、桐乃ちゃんだけひいきしちゃダメだよ」
って怒られてた。
そんなある日、お母さんから
「桐乃ちゃん、もうすぐお姉さんになるのよ」
と言われた。
自分では何のことか最初はわからなかったけれど、お父さんが兄貴とわたしを連れて病院
に行って、あの子に会わせてくれたとき初めて『あたしに妹ができた』ということがわか
った。
---とてもうれしかった。今度は三人で遊べるって・・・
妹の”みやび”は、あたし以上に活発で兄貴とあたしと一緒によく外に遊びに行った。か
けっこになると、みやびはどんどん先に行ってしまう。兄貴は『危ないな』と言いながら、
そんなみやびにくっ付いていく。運動が苦手なあたしは、そんな二人の背中を見ながら走
っていた。いつも隣を走ってくれた兄貴の背中を見ながら・・・
なんか大好きな兄貴がとられたようで、そのころのあたしは少し嫉妬していたんだと思う。
でも兄貴はあたしとみやびがいじめられてたりすると体を張って守ってくれたし、かけっ
こ以外ではちゃんとあたしを見ててくれた。だからあたしは、兄貴とみやびとなら仲のい
い兄妹を続けられると思っていた。
しかし、あの日を境にあたしたちの関係は一変してしまった。そう、みやびがいなくなっ
たあの日を境に・・・・・
あたしは一日中泣いていた。そしてあいつも同じように泣いていた。
毎日のようにまなちゃんがきて、あたしと兄貴を慰めてくれた。
あたしも悲しかったけど、ずっと泣いている兄貴を見ているのもイヤだった。
あたしとみやびをずっと見守っていてくれた頼もしい兄貴が・・・
だからあたしは泣くのを我慢して、兄貴をまた外に連れ出そうとした。外で遊べば悲しい
のを我慢できると思って・・・でも兄貴はそれに答えてくれない。
今思えば、あのときのあいつは魂の半分を失ったかのような顔をしていた。
そんなあたしと兄貴を見てまなちゃんは、
「きょうちゃんは桐乃ちゃんみたいに強い子じゃないんだから!」
と言っていた。
あたしは子供ながらに「そんなことない!兄貴はあたしたちをずっと守ってくれてた『か
っこいい兄貴』なんだから!」と反論し、
---あんたに何がわかるのよ。邪魔しないでよ!
と心の中でムカついていた。
でもあたしの想いと言葉は兄貴には届かなかった。
どうすれば兄貴は昔の兄貴に戻ってくれるんだろう。
---みやびのようにかけっこで兄貴と走れるようになればいいのかな
---まなちゃんみたいにお勉強ができるようになればいいのかな
---そうすれば、兄貴はあたしを見てくれてあたしの話を聞いてくれるのかな
子供心に考えた。
そうしてあたしは兄貴に耳を傾けてもらえるような存在になるためにいっぱいがんばった。
勉強に、かけっこに・・・・・
それでも兄貴はあたしを見てくれない。ずっと魂が半分抜けたような顔をしている。
もう少しがんばればきっと・・・
今思えば、『あたしががんばる』という選択は間違っていたようだ。
あたしががんばればがんばるほど、あいつとの距離が開いていくような感じだった。
そしてあいつが中学、高校と進んで行くうちに、あいつとの距離はより遠くなり、あたし
は半分諦めていた。
そうあの事件がおきるまでは・・・・・
あたしは『昔のあたしを守ってくれるかっこいい兄貴』が戻ってきてくれたのかと思って
うれしくなった。
・・・・・でも実際は違っていた。
ずっと無視しあっていている間に、血が繋がらないあいつを一人の男性として見るように
なっていたようだ。
もしかしたらみやびに嫉妬していた頃からそう見ていたのかもしれない。
あたしは、『違う!そんなことはない!』と心の中で否定し続けた。でもロスであいつの
言葉を聞いたとき、はっきりと自覚した。
---あたしは京介のことを『好き』なんだと
黒猫とのときにあたしの想いが京介にバレて、京介はどう思っているのだろう。
あたしを『女性』として見てくれているのだろうか。
まだ『妹』なのだろうか。
---でもあたしは、もうみやびと三人で遊んでいた頃に戻る勇気はない。
---あのころの関係に戻ってしまえば、いつか京介はいなくなってしまう。
---みやびだけでなく京介も失えば、あたしの心は空っぽになってしまうだろう。
---京介は、みやびが抜けた心の穴を埋められたんだろうか。
---もし埋まっていないならあたしがそれを埋めてあげよう。
---だから京介もあたしの心の穴を埋めて欲しい。
完
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最終更新:2011年09月26日 07:19