630 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/09/24(土) 10:55:37.79 ID:6ONnwaxh0 [1/2]
修学旅行in京都


「ほう、ここが清水寺か。なんつかこの風情が今の俺に合うね」

俺は今、京都の清水寺って場所に来ている。清水の舞台から云々で有名な寺だ。
周りの自然や澄み切った空気が受験勉強で疲れた俺の心を癒してくれる。
一区切りついたら桐乃を連れてきてやってもいいかもな。ま、あいつの事だから
「何このダッサイ寺。あたしには似合わないっつーの!」とか言うだろうな。
俺は同じ日本のどこかにいるだろう─桐乃の事を考えてふと空を見上げる。
桐乃も今日から友達と旅行なんて言ってたっけな。
場所は教えて貰えなかったが、どこかで楽しくやってるんだろうさ。

門を抜けた俺は右手に沿って、ゆっくりと歩きながら辺りを見渡してみる。
少し離れた場所には、友達と楽しそうに話しながら写真を撮る幼馴染─麻奈実の姿が見えた。
麻奈実も結構楽しそうにしてんな。あいつは根がおばあちゃんだし、こういう所が性に合うんだろう。

「なんだ高坂、しけた面してんなあ」

さっきから妙にニヤニヤした顔で俺の横を歩いているのは赤城浩平。
俺の親友であり、ある意味心の戦友(とも)でもありライバルでもある男だ。

「うっせえ、俺は清水寺の神聖な雰囲気で心を洗われている最中なんだよ。てかなんでお前は
そんなに嬉しそうなんだ?どうみてもガチホモのお前には似合わない場所だろ」
「ガチホモじゃねぇ!だが、まさかあんな所に知った顔がいるなんて思わなかったぜ…」

こいつは妹に頼まれて、また深夜販売でガチホモゲー「ホモゲ部2」なるモノを買いに行った際に、
俺と会った時同様知った顔に出会ってしまったらしい。しかも今回は同じクラスの女子だったという。
どこまでもついてない奴…。残念なイケメンってのはまさにこいつの事だろう。
しかし同じクラスにホモ好きがいらっしゃるとは思わなかったぞ。まさか瀬菜が教祖じゃねーよな。

「だ、だがそのお陰で俺には女が寄ってこないってんで、瀬菜ちゃんには大喜びされたぞ」
「…お前言ってて悲しくないか?」
「フッ…俺は心の女神、瀬菜ちゃんさえいれば問題ない!」
「まあ良かったじゃねえか。兄妹そろってガチホモ認定されりゃ最高だろ」
「だからガチホモじゃねえ!?シスコンは認めるが俺はノンケだ!」

力いっぱい力説する赤城。だがお前がどんだけ叫んでもガチホモ扱いなのは残念ながら消えないからね!

「へいへい。んでなんでお前はさっきから嬉しそうなんだよ」

今日の赤城は、何故か知らんが妙に嬉しそうなんだよな。

「それは内緒だよ高坂君!今日の俺にはスペシャルサプライズが待っているのさ!」
「よく分からんがお前がおかしいのだけは分かった」

まあこいつはこいつでなんか嬉しい事でもあったんだろう。
しっかし幾ら由緒あるお寺つっても、みんな静かだよなあ。なんか1人くらいハメ外すって言うか
大声で叫ぶやつとかいてもおかしくないだろうにな。

「何このダッサイ寺。あたしには似合わないっつーの!」

そうそうそんな感じで叫ぶ──ってちょっと待てぇぃ!?

「なんでお前がここにいるんだよ!」
「はあ!?あんたこそなんでここにいんの」

俺と叫んでいた主──桐乃は同時に声をあげる。と言うのも仕方がないだろ。今の俺は修学旅行中なんだ。
─なのに何故か俺の前には桐乃がいる。

「俺は修学旅行だって言ったじゃねーか。行き先も言ってたはずだろ」
「そ、そうだったっけ?」

桐乃は俺の指摘に視線を彷徨わせる。いや、まさかさすがに着いてきたわけじゃねーよ…な?

「えっと、今日は京都でメルルのイベントがあったの! んでここで暇つぶししてるワケ」

旅行ってそれかよ! まあ、イベントってんならいてもおかしくないか。

「なるほどな。んじゃ俺は旅行中なんでみんなの所に戻るわ。桐乃も気をつけろよな」
「なっ─ちょっと待ちなさいってば!」

そう言って俺は立ち去ろうとした。が、桐乃に呼び止められる。

「なんだよ」
「す、少しくらい一緒にいてあげてもいいって言ってんの」

一緒にって、俺は修学旅行中なんだぜ。しかもここにいるのは同じ学校のやつらが殆どだ。
さすがに一緒にいるのはマズイっつか、俺が旅行先でまたナンパしたとか思われるだろ。
いや、でも桐乃も1人でこんな場所に来てるんだし、放っておく訳にはいかないか。
見た目は人一倍美人で大人びてるが、まだ中学生なんだ。

「桐乃お前まさか…迷ったとかじゃないよな?」
「違うっつーの! イベント遅いからそれまで時間つぶすの手伝えって言ってんの」

なるほど、時間までの暇つぶしに付き合えって事か。まあ桐乃らしいっちゃらしい。

「そう言う事かよ。俺は構わねえけど」
「ふん。素直にそう言えばいいのよ。可愛いあたしと一緒に歩けるんだし、最高じゃん」
「自分で言うなっての。…まあ間違いじゃねーけどな」
「……キモ」

たしか夕方まで自由行動で、夜飯までに旅館に戻ればいいはずだよな。
仕方ねえ、赤城には悪いがここで別行動するか─っていねえし!
あいつどこ行きやがったんだ?

「あーー! 高坂センパイ!」

声がした方向に振り向くと──そこには赤城の妹、瀬菜がいた。
横には赤城が並んで歩いている。

「瀬菜? なんでお前がここにいるんだよ」

瀬菜はまだ1年だし、修学旅行についてこられる訳がない。ってまさか赤城の奴、
鞄に瀬菜詰め込んできてねーだろうな、などと少しアホな考えが浮かんでくる。

「えへへ。実はですね、今日こちらでガチホモの会と言うイベントがありまして」

すげーな。わざわざホモイベントの為に京都まで来やがったのかよ。腐女子根性半端ねえ。
しかしなんで赤城が嬉しそうだったのかわかったよ。瀬菜が京都に来てたんだな。
だけど京都ぱねえな。メルルイベントにホモイベントまであるのかよ。関西フリーダム過ぎるだろ。

「でもよかったあ。桐乃ちゃんも見つかって。さっさと行っちゃうから探したんですよ」
「あ、あははは。せなちーごめんね」
「ううん、いいんですよ。今日は桐乃ちゃんにもホモの素晴らしさをたっぷり教えてあげます!」
「ちょ…っ! いま言わなくても!」

…ん? 今何て言った? ホモの素晴らしさ──ってまさか桐乃!?

「き、桐乃! お、お前までまさか!?」
「ち、違うってば! せなちーが京都に行くって言うから、丁度いいかなってそれだけ!
断じてそういうのに目覚めてないし!」

『あんた、ちょっとお父さんに愛してるって言ってみて!』などと言いだす桐乃が頭に浮かぶ。
いくら俺が桐乃好k…いやいや妹が大好きで大切だからと言ってもその世界だけはさすがに勘弁願いたい。
まあメルルイベントがあったとは言え、さすがに1人だと心細かったんだろう。

「まあお互い好きなイベントがあったんだしな。桐乃もメルルであんまりはしゃぎすぎんなよ」
「う、うん。分かってるってば。つーかなんであんたニヤニヤしてんの」

いつものはしゃぎっぷりを思い出し、思わず笑みを浮かべてしまう。
なんだかんだと言いつつ、桐乃が喜んでるってのは俺も嬉しいから仕方ねえ。

「あれ。メルル…ですか? うーん、今日こっちでそんなイベントありませんよ」

俺の言葉に答えてくる瀬菜。…ん? 桐乃ってメルルイベントって言ったよな?

「桐乃。お前瀬菜には話してねーのか?」

桐乃の方を振り向くと、何故かあたふたと挙動不審な動きを見せている。

「あ、ああその。えっとね、イベントだと思ったら間違いだったの!そう、きっとそう!
だからあんた、あたしに付き合いなさい!」

ポカーンとしている赤城兄妹をよそに、桐乃は俺の腕を掴んで強引に引きずっていく。
いや、その。俺も訳がわかんねーんだが。

桐乃に引きずられるまま着いていく俺。傍から見るとなんか情けない気がするぞ。
周りでは「また高坂くんナンパしてる」だの「懲りない土下座男」だの耳に入って来る。
ちらっと見えた視線の先では麻奈実の驚く表情が目に入った。まあそうだわな。
もう学校の評判なんてどうでもいいが、大学受験の評価を下げられるのだけは無いと思いたい。
ただ今回は「なんであいつにあんな可愛い子が」とか「相手の女の子美少女過ぎるだろ!」
なんて声も入って来る。そっちの評価に関してはお前ら正しいよと言ってやりたい。

「ほお。これが清水の舞台ってやつか。こりゃすげーな!」

桐乃に連れられて向かった先は、本堂の前に広がるかの有名な─『清水の舞台』だった。
本物を見るのは初めてだが、さすがに凄いな。ここから飛び降りたら助からねえぞ。

「あんたここから飛び降りなさいよ」
「なんでだよ!?傷心旅行とか世間に嫌気がさして1人旅じゃねえし! 修学旅行に来て
なんで未来へ向かって人生閉じなきゃなんねーの!」

いきなりとんでもない事を言い出す桐乃。さすがにこの高さは冗談じゃ済まねえって。

「心配しなくてもあたしも着いてったげるから」
「そう言う意味じゃねえ! ってなんでお前も着いてくるんだよ」

なんか今日の桐乃はおかしいぞ。
いつもの冗談かと思ったが、桐乃の表情は妙に思い詰めているし。
冗談じゃ、ない…のか? だとしたら逆に怖いって。

「つかなんでそんな事言い出すんだよ」
「だって、ここってその…そう言う御利益あるんでしょ」

ああ、そういう事か。清水の舞台から飛び降りると、って例のあれの事か。
ふう。しかし桐乃ってなんて言うか分かるような分からんような。

「死んで一緒になっても意味ねーだろ。一緒にいて楽しんで苦しんで─それでこそって思わないか?」
「…そうだけど。でも、色々考えたらやっぱり怖くなって…寂しくなって」

心細げな表情を見せる桐乃。全く、俺ってやつはいつまで心配させちまうんだろうな。
──仕方ねえ。まだ先まで黙っておくつもりだったが、丁度いいか。

「桐乃、行くぞ」
「…うん」

黙りこくった桐乃を連れて、俺はとある場所へ向かった。
そこで俺はあるものを買う。

「京介、それって」

何か言いたそうな桐乃。俺は無言のまま自分の頭へ手をやり──「痛っ!」髪を1本抜いた。

「あんた何やってんの。って何するつもり!?」
「いいから。少し我慢してろよ」

俺は桐乃の頭に手をやり、髪を1本抜く。そして2本の髪を絡めて結い合わせ、1つの円にする。
その髪をさっき買った御守り──『縁結び』の御守りの中へ大切にしまった。

「これやるわ。それで俺の気持ち分かったよな?」
「……京介」

泣きだしそうな表情で御守りを受けとる桐乃。普段は大人っぽい癖に妙な所は子供なんだよな。
さっきまでの突拍子もない言動を思い出し、心で苦笑いをする。

「きゃー!! 愛の告白よ!」「きょうちゃん、だいた~ん!」
「高坂お前、そんな関係が!つか羨まグホァ!」「お兄ちゃんは黙ってて!」

なんか外野から聞こえるが、今の俺は恥ずかしすぎてどうにもならねえ。
だけど、目の前の─大切な人の表情を見る限り、間違ってなかったって事だけは分かる。

「まだ時間あるし、どこか見て回るか?」
「うん!あんたの気持ち、しっかり受けとったから」

外野のヤジから逃げるように、俺は桐乃の手を取り走り出す。
全く─俺もまだまだ子供なんだろう。でもこの手だけは絶対に離さないからな。

──繋いだ手を、桐乃の手を強く握りしめ俺は誰よりも強く、そう誓った。




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最終更新:2011年09月26日 07:20