266 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/09/26(月) 15:50:07.84 ID:Dv+DbQFa0 [1/2]
SS彼女が髪を黒く染めたら2-SIDE桐乃
時間軸設定は原作6巻辺りのイメージでお楽しみください。
3本立てとなっていますが、
彼女が髪を黒く染めたら1-SIDE京介
彼女が髪を黒く染めたら2-SIDE桐乃
彼女が髪を黒く染めたら3-SIDE???
の順に読まれると面白いかと思います。
「いつもあやせにデレーっとしちゃってさ。キモいったらないっての!」
あたしはなんで怒ってるんだろう。あいつは単なる兄貴だし、別に怒る理由ないのにさ。
何故かあいつがあたしの友達を見たり仲よくしたりしてるとイライラするんだよね。
あいつだってあたしの事嫌ってるだろうし、お互い様だと思ってるんだけど、なんでだろう。
──大嫌いな癖してあたしのピンチには必ず助けてくれる。大嫌いなはずのあたしの兄貴。
たまに浮かび上がってくる感情の意味が分かんなくて、変な事言わせてくるバカ兄貴。
意味が分かんないよ、なんであたしはあんな事言っちゃうんだろう。
『あんたの事、好きかも』なんて絶対あたしが思ってるワケないじゃん!…ないはずじゃん。
『京介って、本当はあたしの事。どう思ってるんだろう』
分かってる癖に、と思いながらも考えてしまう。やっぱり今日のあたしは変だ。
気持ちを切り替える為に、あたしはタンスの上に置いてある香水の中から1つを取りだす。
どうせ言ってやっても気づかないだろうけど、なんて考えながら軽く首筋に振りかける
─少しは気分転換にはなったようだ、今までのモヤモヤしていた気分が少し晴れて来る。
気分が落ち着いたあたしは、タンスの上にあった1つの小瓶に目を留めた。
そう言えば前にこんなの貰ってたっけ。≪インスタントヘアカラー・ブラック≫と書かれた小瓶を手に取る。
その小瓶は某化粧品会社がスポンサーの仕事を受けた時に、担当者の人が『試供品なんだけど
面白いから試してみて!』と言ってたので受けとったものだ。
イベントパーティ向けグッズで簡単にヘアカラーを変えて楽しめるって言ってたっけ。
お風呂ですぐ落とせて、数時間立てば色も消えるお遊びアイテムらしい。
黒髪かあ。そう言えばあいつって黒髪がなんか好きっぽいんだよね。あやせの事気に入ってるし。
──ちょっとだけ試してみようかな。あいつの為とか、そんなんじゃないから!
□
『これがあたし…?』
鏡で自分の姿をみて、呆然とする。いつものライトブラウンの明るい髪ではなく、
黒く染まった髪を持つあたしがそこには映っていた。
前髪の癖っ毛を止めるヘアピンも外しているのでまるで別人みたいだ。
うーん。でもなんかあやせっぽくは無いんだよね。やっぱり雰囲気が違うのかな。
あやせってお嬢様だし、仕草とかもそれとなく上品ではあるんだよね。
髪の色変えただけじゃ、代わりになるのはムリはあるか──って何考えてるんだあたし!
…ゴトン。
あれ。いまベッドの方から音がしなかったっけ。それとも京介のやつが頭ぶつけたのかな。
え…ええ!あたし今『京介』なんて言わなかったっけ!?あたしがあいつを…!
ぶんぶんとかぶりを振って打ち消す。でも、なんの音だったんだろう。
ベッドの方をみてみるけど、特に変わった事は無い。やっぱ気のせいかな。
ヘアピンで髪の毛を整えながら、あたしは窓の外を見る。何も変化はない。
あたしがほっとしたと同時にコンコンと後ろから音がして、ドアを開ける音が聞こえた。
──そして誰かが入って来る気配を感じる。
「きり…の、って。おわ!? あ、あやせ……さん?」
入ってきた誰か─京介の最初の言葉はそれだった。
こいつ…パジャマで誰か分かるはずじゃん! あたしのパジャマ姿見てないっつーの?
急に入ってきた事に対する驚きより、あたしが感じたのはそれだった。
思わず肩を震わせ、あたしの中に何故かふつふつと怒りが湧きあがってくる。
あたしの事なんてこれっぽっちも見てないんだ─ってなんで怒ってるんだっての!
よく分からない怒りを抑えつつ、あたしは後ろを振り向く。
「…へ? まさか桐乃、お前…か?」
その時の京介の顔は、とても間抜けな表情だった。
つかなんであやせだって思ったんだろう…と自分でもバカな問いをかけ、すぐに思い当たる。
あああああ!今のあたしって黒髪じゃん!?
やばいやばいやばいやばい。こいつの事だからあたしの弱みを握ったとか思うはず。
「あ、ああああんた! なんであたしの部屋に来てんの!?」
ってかあたし同様しすぎだって!落ち着け落ち着け…なんて言ってもなかなか落ち着かない。
「いや、ええと…ってなんで俺が慌ててんだよ! お前が今日までにエロゲコンプしとけつってたから
さっきまでやってたんじゃねえか。んでついさっき終わったんで返しに来たんだよ。じゃねえ!
桐乃、お前その頭はなんだ? なんでその…黒い髪なんだよ」
そう言えばこいつに貸したエロゲって期限今日にしてたっけ。忘れていた事に心の中で舌打ちする。
と言うかどうやって誤魔化そう。『あんたの好みだって言うからやってただけだって』じゃないし!
そんなのあたしじゃない…えーっと、そうだ!
「こ、これは違うっての! 今度やるモデルの仕事で使うから試してただけ」
我ながらいい答えだと思った。こいつはあたしの仕事なんて知らないだろうしきっと大丈夫!
だけどその答えを聞いた京介は、苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
「モデルの仕事でって、わざわざ髪染めさせるってのか?」
…こいつってもしかして、あたしの心配してくれてるっての?
こいつの─京介の表情は髪を染めた事に対して何か、その怒っているような雰囲気を感じる。
たしかに今までのあたしなら、自慢の髪を染めるなんてしないし、やっぱり変だったかな。
「大丈夫だって。数時間で落ちるやつだし。それに髪傷めたりしないから」
「そうなのか?」
「うん。そんなキケンなのだったらあたしだってオッケーしないってば。水で洗うとすぐ落ちるし」
「ならいいけどよ。俺の妹にヘンなもん使わせてるんじゃねえかと焦ったぞ」
あたしの答えにほっとした表情をする京介。でも、『俺の妹』かあ。こいつにそんな事言われるなんて
今まであったっけ。なんかまるで普通の仲が良い兄妹みたいじゃん。
思わず表情が緩むのを感じる。やば、こんな顔見られたくないけど、嬉しいよ。
「へー。ふーん。あんたあたしの事がそんなに心配なんだ? チョー焦る位に」
そう言えばなんか超シスコンの気があるんだよね。心の底じゃもしかしてあたしが大好きだったりする?
…なワケないよね!お互い超大嫌いだし、絶対そんな事ない…はず。
「へっ! 心配なんてしてねーよ」
「はいはい。ま、あんたに心配なんてされてもキモいだけだし」
だよね。やっぱりこういう態度がこいつだし。あたしの勘違いだったんだって。
「それで一体どんな仕事なんだ? 桐乃がわざわざ髪を染めるほどってよっぽどなんだろ?」
こいつに聞かれて一番重大な事を思い出す。黒髪の事どう説明しよう。
じゃなくてどうやってこいつを追い出そうか。
「え…ええっと…その」
そうだ! いい事を思いついた。あたしの仕事って事にすれば大丈夫!
なんかさっきも同じコト思った気がするけどきっと気のせい。
「えっと──そう! 黒髪の妹が実の兄と見つめあってるシーンが撮りたいんだって!」
ちょっと待ったあ! 今何言った? あたし何言った?
妹が実の兄と見つめあってる…って。頭正常だよね…?
「ぶはっ! ちょ、ちょっと待て! なんでそこで実の兄なんだ!」
当然の反応を返してくる京介。てゆかなんかこういう場面どっかで見た気がする。
何だったっけ……そうだ! こいつに貸したエロゲじゃん!?
「そう言う設定なんだからしょうがないじゃん! あ、あたしだってキモすぎて止めてって感じだし。
でも、あんたがそう言うつもりならしょうがないかなって。あんたとんでもないシスコンだし」
「ちょっと待てい!? なんでそこで俺が入ってる! それってモデルの仕事じゃないのか?」
何かとんでもない事を口走ってる気がする。やばい、なんか動転してる…!?
くそ、いつもならここでこいつが助けに入ってくれるのに…って当人相手じゃムリだよね。
なんとか自分を落ち着かせようと頑張ってみるけど、何故か言う事を聞いてくれない。
うわ…これってマズイパターンじゃない。なんか分かんないけどこいつが絡むと
自分の意思が働かなくなる時があるんだよね…今もきっとそんな感じがする。
と、とりあえず話をなんとか進めないと!
「そ、そう仕事の話! そう言うシチュの子撮りたいって話」
「そう言うシチュって…黒髪だったらあやせとかいるだろ。髪染めさせてまで、なんで桐乃なんだ?」
「あやせは一人っ子だから、そう言う表情出すのって難しいみたいでさ。だからあたしがやんの」
「そう言う事かよ」
さすがは完璧なあたし。これで誤魔化せたはず。
──そう思ったあたしは、次の自分の言葉に本気で愕然とした。
「そう言うワケだから、あんた彼氏やって」
ちっがーうっての! あたし何言ってるんだ? なんでこいつに…しかも彼氏って!?
「無茶言うな! 俺が兄貴だからつってもモデル経験なんてねーぞ!」
分かってる。だから早く会話打ち切って帰って忘れて!
「違うっての。実際の仕事はあたしだけ、あんたは表情を作る手伝いしろって事」
…きっと今会話してるあたしは誰かに乗り移られてるんだ。きっとそうだって。
「兄妹設定だってのに、1人で撮るのか?」
「当たり前じゃん。相手役なんていたらあたしが受ける訳ないっての」
何言ってんのこいつ。なんであたしが他の誰かとカップルっぽい写真撮らなきゃなんないの。
この部分だけは超同意する。
「仕事じゃねえのか? なんで受けないんだよ」
「…うっさいバカ」
なんでこいつってこう鈍感なんだろう…って何に対して鈍感なんだろう。もうワケわかんないよ!
でもあたしの本音ってなんだろう。あたしはこいつが嫌いでこいつもあたしが嫌いで─それって
本当にあたし達の関係なんだろうか。なんかあたしは根本的に何か勘違いしてるんじゃないのかな。
実はこいつはあたしの事が大好きで、あたしもこいつが大好き─なんてある訳ない!
……でも、やっぱり知りたいのかな。こいつの気持ち。そしてあたしの気持ちも。
もうここまで訳分かんないコト言っちゃったし、これ以上何言っても仕方ないかんね!
今のあたしはあたしじゃない! だから何言ってもあたしじゃないんだから…。
「んで、俺はどうすればいいんだ?」
あたしは今思っている素直な気持ちを言葉に出す。
「あんた、あたしに愛をささやいてみて」
あたしの言葉に盛大に吹く京介。うっさい!もうあたしは吹っ切れてるんだから。
「ま、待て! さすがにそれはマズイだろ!? 俺たちは兄妹だぞ?」
「か、勘違いすんなっての! あんたの言葉であ、あたしが表情イメージしなきゃなんないの!」
ハズカシイのは分かってるっつーの!
つかあたしがここまで言ってやってんだから、ちゃんと言いなさいよ!
「じゃ、じゃ行くぞ?」
「かかってこいっての!」
ふん!何言われても動揺なんてしないかんね。
「桐乃……お前が好きだ」
「ふぇ!? あ、ああああのそそその」
こ、この…! 超動揺してるあたし。こいつやっぱりあたしが大好きなんじゃ?
ううん違う。これはあたしに言われてやった事だし本音じゃないハズ。
でもやばい。顔がきっと超真っ赤だ。なんかメチャクチャ顔が熱い。
「今のじゃ駄目か?」
「ま、まだなんか足りない」
きっと今のは本音じゃないしっ!まだ心がこもってない。だから本音じゃない…と思う。
やっぱり好きなんて事ある訳ないよね。あたしの思い過ごしだって。
「俺の瞳には、お前しか映ってないんだぜ?」
「…あんたそれ、今返してくれたエロゲのセリフまんまでしょ」
ありがとう。あんたのお陰でちょっと冷静になれた。
じゃなくてエロゲのセリフ転用するなっつーのこのバカ。だからモテないんだって。
そりゃあのセリフも好きだけど、もっとさあ、うっとりするシチュで言えばいいのに
─またあたし違う世界に飛びそうになってるし。そんなシチュでも心が動くハズないってば…。
「桐乃…」
京介はあたしの両肩を手で掴んできた。な…こんどは何するつもり!?
言葉でダメならセクハラって魂胆じゃないよね?でも、イヤラシくない…。
けどこいつの事だから超可愛いあたしを押し倒して…じゃない何考えてんの!?
「あ、あんた何を…」
京介に押し倒されてもおかしくない雰囲気の中、あたしはそれでも動けないでいた。
まさか…あたしが望んで…? ありえない! こいつとなんて─ありえないはず。
数瞬──数分にも感じる時間の間、あたしは京介と見つめあう。
そしてあたしはあの時の、モヤモヤしていた心の答えに──たどり着いてしまった。
『あたしは京介が好きなんだ』
まるであたしの心を見透かしたかのように、京介は──あたしにささやいた。
「お前を……誰よりも愛している」
「……!?」ガタンッ!
そうなんだ…あたしはずっと──何年も前から京介の事が好きだったんだ。
だから京介が誰かとイチャつくのが凄く嫌だったんだ。
まるで大切な何かを見つめているかのような表情であたしを見つめる京介。
だめだ…もうあたしも我慢できないよ。あたしの事が嫌いでも構わない。
──それでも
「あ、あたしもあんたの事………し、てるから」
あたしはこう返すのが精いっぱいだった。
心がいっぱいいっぱいになって、それ以上何も言えなかったから…。
──暫くして京介は無言のまま部屋に帰って言った。
でも、扉を閉める際に見えた横顔は、あたしを否定していなかった様に見えた。
あたし凄い事言っちゃったかな。でもあいつもあんな事言ったワケだしお互い様だよね。
ふう。なんだか思いっきり疲れちゃった気がする。
とりあえず寝ちゃおう。明日からはまた同じかもしれない。また喧嘩の毎日かもしれない。
でもあたしにとって、一番大切な気持ちが分かったから…。
─いつかこの気持ちを伝える時が来るんだろうか。その時あいつは─京介はどう応えるんだろうか。
願わくば…ううん、今からそんなの悩んでも仕方ないか。あたしはあたし、京介は京介なんだから。
それでもあたしは…どんな時でも京介の事が好きでいてやるんだから!
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…う……ん。なんだろう、あたしのベッドに誰かいる…?
まさか京介…?でもなんか…。
…まいっか、きっと夢だから…。
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最終更新:2011年09月26日 22:00