266 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/09/26(月) 15:50:07.84 ID:Dv+DbQFa0 [1/2]
SS彼女が髪を黒く染めたら3-SIDE???
時間軸設定は原作6巻辺りのイメージでお楽しみください。
3本立てとなっていますが、
彼女が髪を黒く染めたら1-SIDE京介
彼女が髪を黒く染めたら2-SIDE桐乃
彼女が髪を黒く染めたら3-SIDE???
の順に読まれると面白いかと思います。
「いつもあやせにデレーっとしちゃってさ。キモいったらないっての!」
『………』
わたしの側から小声で愚痴る桐乃の声が聞こえてくる。
桐乃が愚痴っている相手を思い浮かべ、心の中で蹴りをお見舞いする。
桐乃は何かしら考えながら、部屋の中を歩き回っているようだ。
時折止まってはブツブツと言いながらあちこち動いている。
──と、その足がタンスの前で止まった。
暫くすると何かを振りかける音が聞こえる。たぶん香水だろう。
なんで深夜の部屋の中で、香水を…?思い至った考えに拳を握り締めてしまう。
ふと我に返ると桐乃は─たしか鏡があったはずの場所で何か支度をしている様だった。
ここからだと何をしているのか分からない。
…こんな時間から一体何を? は……まさか!?
あってはならない答えに行きついたわたしは、行動の正体を探るべく少し前に出る。
だが、その為に体の一部を壁に当ててしまい─ゴトン…と言う小さな音が聞こえた。
──しまった!
思わず唇をかむ。ここで気付かれてはならない。
桐乃の気配が近づいてくる…わたしは息を殺し、気配が止まるのを待つ。
その直後だった。
コンコンと扉から音がして、ドアがゆっくりと開くのが見える。
──そこには誰かが立っていた。
「きり…の、って。おわ!? あ、あやせ……さん?」
入ってきた誰か─は考えなくても分かった。
「…へ? まさか桐乃、お前…か?」
何故か不思議な問いかけをしている。桐乃に何かあったのだろうか。
「あ、ああああんた! なんであたしの部屋に来てんの!?」
当の桐乃も何か焦ったような答え方をしている。
まさか何かを隠そうとして…? でもなぜ最初にあのような事を言ったんだろう。
「いや、ええと…ってなんで俺が慌ててんだよ! お前が今日までにエロゲコンプしとけつってたから
さっきまでやってたんじゃねえか。んでついさっき終わったんで返しに来たんだよ。じゃねえ!
桐乃、お前その頭はなんだ? なんでその…黒い髪なんだよ」
桐乃が黒い髪…!? なぜそんな事をしているんだろう。
「こ、これは違うっての! 今度やるモデルの仕事で使うから試してただけ」
そう言う事だったのか。でも、たしかここ一カ月の仕事にそんな内容の物があったろうか。
わたしは桐乃の仕事なら全てを把握しているし、間違いなく無かったはず。
「モデルの仕事でって、わざわざ髪染めさせるってのか?」
まるで心配しているような雰囲気の声が聞こえる。
「大丈夫だって。数時間で落ちるやつだし。それに髪傷めたりしないから」
「そうなのか?」
「うん。そんなキケンなのだったらあたしだってオッケーしないってば。水で洗うとすぐ落ちるし」
「ならいいけどよ。俺の妹にヘンなもん使わせてるんじゃねえかと焦ったぞ」
わたしはその言葉から感じる気持ちに思わず笑みを浮かべていた。
この相手は桐乃をきっと本心で心配しているのだろう。その点については安心できる。
「へー。ふーん。あんたあたしの事がそんなに心配なんだ? チョー焦る位に」
何故か嬉しそうな雰囲気の桐乃に、わたしは動揺する。
「へっ! 心配なんてしてねーよ」
「はいはい。ま、あんたに心配なんてされてもキモいだけだし」
桐乃の言葉にはトゲがあったが、言葉から感じる雰囲気からはトゲが感じられない。
そんなに相手の事を信頼している…それとも。
「それで一体どんな仕事なんだ? 桐乃がわざわざ髪を染めるほどってよっぽどなんだろ?」
「え…ええっと…その」
何故か素直に答えない桐乃。そうだ、わたしもそれが気になる。
間違いなく仕事にそんなものは無かったはずだし、万が一妙なものがあれば、わたしの力で…。
「えっと──そう! 黒髪の妹が実の兄と見つめあってるシーンが撮りたいんだって!」
!! 桐乃はいま何て…!?
「ぶはっ! ちょ、ちょっと待て! なんでそこで実の兄なんだ!」
「そう言う設定なんだからしょうがないじゃん! あ、あたしだってキモすぎて止めてって感じだし。
でも、あんたがそう言うつもりならしょうがないかなって。あんたとんでもないシスコンだし」
「ちょっと待てい!? なんでそこで俺が入ってる! それってモデルの仕事じゃないのか?」
そんな仕事なんて絶対にない! そうだ、誰かがきっと桐乃を陥れようとしているんだ。
根拠は無いけど、ううんきっとそのはず。
「そ、そう仕事の話! そう言うシチュの子撮りたいって話」
「そう言うシチュって…黒髪だったらあやせとかいるだろ。髪染めさせてまで、なんで桐乃なんだ?」
「あやせは一人っ子だから、そう言う表情出すのって難しいみたいでさ。だからあたしがやんの」
「そう言う事かよ」
『……………』
「そう言うワケだから、あんた彼氏やって」
「無茶言うな! 俺が兄貴だからつってもモデル経験なんてねーぞ!」
いまこの場で出ていくことが出来れば…と今の自分の状況を呪う。
「違うっての。実際の仕事はあたしだけ、あんたは表情を作る手伝いしろって事」
「兄妹設定だってのに、1人で撮るのか?」
「当たり前じゃん。相手役なんていたらあたしが受ける訳ないっての」
そう言えば…と桐乃の事に着いてふと考えてみる。なぜか桐乃は男性モデルとのツーショットや
男性が絡む仕事を受けたがらないのだ。これはモデルの契約を行った際に必ず守ると言う事で
仕事を続けていると聞いている。何人もの男性モデルが桐乃と仕事をしたがっている…つまり
もっと親密になりたがっているというのはよく耳にするが、桐乃は断固として断っている。
「仕事じゃねえのか? なんで受けないんだよ」
「…うっさいバカ」
2人はベッドに並んで座ったらしい。足の位置からそう特定できる。
「んで、俺はどうすればいいんだ?」
「あんた、あたしに愛をささやいてみて」
…!? わたしの側ではむせるような声が聞こえる。
許せない…こんな事が許されるはずがない。
「ま、待て! さすがにそれはマズイだろ!? 俺たちは兄妹だぞ?」
「か、勘違いすんなっての! あんたの言葉であ、あたしが表情イメージしなきゃなんないの!」
今出ていくことが出来れば、その言葉をささやけるのはわたしのはず!
頭の中から呪いの言葉が相手に向かって流れていくが、さすがに効果は無い。
「じゃ、じゃ行くぞ?」
「かかってこいっての!」
『…………』
「桐乃……お前が好きだ」
「ふぇ!? あ、ああああのそそその」
『…………!』
「今のじゃ駄目か?」
「ま、まだなんか足りない」
『…………』
「俺の瞳には、お前しか映ってないんだぜ?」
「…あんたそれ、今返してくれたエロゲのセリフまんまでしょ」
心の中でガッツポーズを決めるわたし。
「桐乃…」
「あ、あんた何を…」
ベッドの上から衣擦れの音が聞こえてくる。
な…! まさかこんな所で…。ダメ、それは絶対に許せない。
例えばれてしまっても、それだけは絶対に阻止しなければ…!
「お前を……誰よりも愛している」
「……!?」ガタンッ!
その言葉に動揺し、思わず手をぶつけてしまう。…さすがにばれたはず。
──だが2人がこちらを探っている気配は感じられない。
一体どうなっているの!?
「あ、あたしもあんたの事………し、てるから」
『…………!?』
その言葉は…凄く小さいけれどもわたしにははっきりと聞こえてしまった。
そしてこの2人の想いをわたしは知ってしまった。
桐乃と相手の心は…奥底ではきっと繋がっているのだと。
その答えはハッキリ口にされた訳ではない。今のも微かで相手に届いたのか怪しい位だ。
だがそれでも桐乃の気持ちを知ってしまったわたしは、その場で─心で泣くしかなかった。
□
「…う……ん。なんだろう、あたしのベッドに誰かいる…?」
『ごめんね桐乃。わたしはこういう事でしか気持ちを伝える事が出来ない』
「まさか京介…?でもなんか…」
『桐乃の隣は今は…今だけは私のモノなんだから』
「…まいっか、きっと夢だから…」
『いつか桐乃の本当の気持ちを知った時には、覚悟してて下さいね──お兄さん』
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最終更新:2011年09月26日 22:00