627 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/09/28(水) 00:19:49.12 ID:W+wlPiNZP [1/12]
とある日の夜。
俺は部屋で悩んでいた。
他人からすればくだらないかもしれない。
しかし俺にとってはどうしても譲れないもの。
その悩みが何かと言うと――
「くそっ、赤城のやろう。あんな写真があったんじゃ勝とうにも勝てねえ。
いや、桐乃の可愛さが負けてるなんて微塵も思っちゃいねえけど、
アレじゃあ勝ちだって言い切ることができねえじゃねえか」
――とまあそういうことである。
先日赤城と争った『どちらの妹が世界一可愛いか』対決。
最終的に俺の携帯に貼ってある『ラブラブツーショットプリクラ』で勝負がついたと思ったものの、
瀬菜の介入により『妹が兄のほっぺにちゅー』という、ある意味最終兵器の登場で勝負は半ば引き分けに終わったのだ。
せっかく桐乃からも超気合の入った写メまで送ってもらったと言うのに、勝てなかったのはマジで悔しい。
ちなみに、その時送ってもらった写メは現在俺の携帯の待ち受けになっている。
「ちっ、どうすっかな。
どうにかして赤城の野郎に俺の桐乃が世界一可愛いと認めさせてやりたいところだが、
あの写メがある以上赤城の野郎もそう簡単に負けを認めないだろうしな」
あの勝負のあと、あまりの悔しさに帰ってから桐乃に同じことしてくれねえかなあと視線を送ってみたが、
「し、しないかんね!」と突っぱねられてしまった。
まあ、当然と言えば当然か。
確かに前よりは仲良くなったという自信はあるが、まだまだ仲がいいとは言えない俺たちだ。
あの時のデートのように特殊な事情でもない限り、プリクラのような仲睦まじい姿をゲットすることは難しいと言わざるを得ない。
俺としてはもっともっと仲良くなりたいんだが。
やはりもっとスキンシップを取るべきなんだろうか。
最近はなんとなく桐乃の抵抗もよわってる気もするし、もう一息と言うような気もする。
――まあ今はそれはおいておこう。
今はどうやって赤城に負けを認めさせるかだ。
「う~~む」
とはいえ、そう簡単にいい案が浮かぶはずもなく、ただただ時間が過ぎていく。
ほっぺにちゅー、ほっぺにちゅー、ほっぺにちゅー・・・・・・
――――! わかったぞ! そうか、初めからこうしてればよかったんじゃねえか!
これなら完璧だ。そう思った俺は意気揚々と部屋を出た。
向かう先は桐乃の部屋。さっき思いついた案を実行に移すために桐乃の協力を得るためだ。
コンコン
「おーい桐乃。ちょっといいか?」
ガチャリ
「何?」
ひょこっっと扉の隙間から顔を出す桐乃。
風呂上りなのか、若干顔が上気してて色っぽい。
ついでにいい匂いも漂ってくる。
くんかくんか。ほほう、今日はお気に入りのやつか。
「こんな時間にすまねえな。今大丈夫か?」
「別に大丈夫だけど・・・・・・何?」
「ああ、ちょっと協力してもらいたいことがあるんだ」
「協力?」
「おう。赤城を打ち負かすためにな」
「赤城、ってせなちーのお兄さん・・・・・・?
打ち負かすって――!? ま、まさか!?
あ、あたしはしないかんねっていったじゃん!
い、いくら頼まれたってしないかんね! 変態! シスコン!」
「いや、ちょっと待て! お前は盛大な勘違いをしてるぞ!」
「勘違いって何? どうせあたしにほ、ほっぺにち、ちゅーしろとかいう気でしょ!?
直接いえばしてくれるなんて思ってんじゃないわよバカ!
こういうのはもっと雰囲気っていうか、お互いの気持ちっていうのが――」
「だから待てって! 協力しろとは言ったけど、お前は何もしなくていいから!」
「――大切で・・・って、はぁ? それどういうこと?」
「ふぅ、やっと落ち着いたか。まあ、とりあえず部屋に入れてくれよ。
こんな所で騒いでたら親父達がくるかもしれないだろ?」
「・・・・・・わかった。ちゃんと説明しなさいよ」
「お前が説明する前にかってに暴走したんだろうに」
「う、うっさい!」
部屋に入ると、机に勉強道具が広げられてるのが見えた。
どうやら勉強中だったらしい。
「・・・・・・勉強してたのか?」
「え? あ、うん。でも丁度きりのいいところまで進んでたし、休憩ついでだから気にしないで」
「そうか」
「うん」
なんとなくウソかなあなんて思ったが言わないでおくか。
もしそうだとしたら、せっかく気を使ってくれたのを台無しにしちまうかもしれねえしな。
桐乃は自分のベッドに座り、俺にクッションを放ってきた。
それを軽くキャッチし、床に置いて腰を下ろす。
いつもの位置関係の出来上がりである。
「それで?」
「ん?」
「だからぁ、協力って何すればいいわけ? あんたさっきは何もしなくていいって言ってたケド」
「おう。さっきも言った通り、お前は何もしなくていいよ。ただ写メを取らせてくれればいいから」
「何? あんたまた妹の写メがほしいっていうわけ?」
「ちょっと違うがおおむねそんなところだ。
別にポーズとかもとらなくてもいいぞ。ただ動かなければいいからよ」
「ふーん・・・・・・わかった。いいよ」
「おう。じゃあ早速」
俺はポケットから携帯を取り出し、立ち上がって桐乃に近寄っていった。
しかし桐乃は俺が近付いただけベッドの上を後ずさる。
さっき動くなっていったじゃねえか。何故逃げる。
「おい、何で逃げるんだよ」
「あ、あんたこそなんで近付いてくるわけ? 写メがほしいだけじゃないの?」
「そうだが?」
「じゃあどうしてあたしに近付く必要があるわけ!?」
「お前とツーショット撮るためだけど?」
「はあ!? それならそうと初めにいってよ!」
「・・・・・・言ってなかったか?」
「言ってないっての! ま、まったく。こっちだって心の準備がゴニョゴニョ・・・」
なにやら桐乃が言ってるがよく聞こえないな。
顔を真っ赤にしてるあたり相当ご立腹らしい。
でも参ったな。この様子じゃやっぱ無理だろうか。
イヤって言うのを無理矢理強制わけにもいかねえし。どうすっか。
「スー、ハー・・・・・・よし。京介、いいよ。準備できたから」
「え? いいのか?」
「うん。さっきはいきなりだったからちょっと焦っちゃっただけだし。
だから大丈夫。それよりさっさと終わらせてくんない? 勉強の続き、したいし」
「わかった」
あまり時間をかけるのも悪いか。
そう思いつつ改めて桐乃に近付いていく。
今度はさっきと違って桐乃は動かずにその場にいてくれるようだ。
しかしベッドの上にいる妹に近付いていくってのは、何やらいかがわしいことを迫ってるみたいだな。
・・・・・・しないからな?
「うし。じゃあ撮るぞ」
「ちょ、ちょっと、あんた近寄りすぎ!
肩! 肩当たってる! ドサクサにまぎれて変なことしないでしょうね!? このエロ!」
「このぐらい近付かねえとフレームにおさまらねえだろうが。
てか肩が当たるぐらい別にいいだろ。兄妹なんだから」
「あんた最近あたしにセクハラするのそれで誤魔化してない?」
「んなわけあるか。いいからホラ。動くんじゃねえぞ」
「んもう・・・わかったわよ」
よし、位置確保はオーケーだな。
カメラを準備してっと。
「うし。撮るから動くなよ桐乃」
「はいはい。わかったからさっさとして」
「なんだか投げやりだな」
どこかやけっぱちな桐乃が気になるが、今は気にしないでおくか。
相変わらず顔が真っ赤なところをみると爆発寸前かもしれん。下手につつかないほうがいいだろう。
携帯の画面を見ながら位置を調整する。
さっきよりも顔が近付いてるが、この後のことを考えれば好都合だ。
「んじゃ、撮るぞ?」
「どうぞ」
「よし、3、2、1・・・」
ちゅっ パシャッ
「・・・・・・へ?」
「うし! どれどれ・・・・・・おお、いい感じに写ってるな。これならばっちりだぜ!」
覗きこんだ携帯には、『俺が』桐乃のほっぺにちゅーしてる写真がきれいに写しだされていた。
「う、え、はえ?」
「桐乃、ありがとうな! おかげでいい写メが取れたぜ!」
「え? あ、うん」
「いそがしいところ悪かったな。俺は部屋に戻るわ」
「う、うん・・・?」
「じゃあ桐乃、おやすみ」
上々の戦果を手に入れた俺は、上機嫌のまま自分の部屋へと戻った。
ベッドに横になり、さっき撮った写メを見る。
真っ赤な顔をした桐乃のほっぺに自分がちゅーしている写メ。
驚いているのか、軽く目を見開いているのが新鮮で可愛い。
あとあと考えてみれば、これはまさに黒歴史とも言うべきものなのだが、このときの俺は全く気にならなかった。
それどころか、これを赤城に見せ付けて高笑いをする想像をしていたのである。
そうして俺は気分よく眠りについたのだった。
ただ、想像をしている途中、隣の部屋から何か倒れるような音がしたのはきっと気のせいだろう。
そしてその日、俺はいい夢を見た。
なんと桐乃が俺のほっぺにちゅーをしてくれたのだ。
恥ずかしそうに顔を赤らめる桐乃は超可愛かった。
その翌日。
俺は改めて赤城に勝負をいどんだのだが、何故か昨日の写メが携帯から消えていて、
引導を渡すつもりが、またも引き分けに終わると言う残念な結果になってしまったのだった。
くそ、何で昨日撮ったやつが消えちまってんだ? 昨日散々確認したのに。
帰り道のさなか、そんなことを考えていた俺の携帯がヴー、ヴーと震えた。
なんだ? と思って見てみると、それは桐乃からのメールだった。
桐乃から? 珍しいな。
メールを開いてでた文面は『これ誰かに見せたら殺すから』。
おいおいおい、なんつー物騒なメール送ってきやがる。
と、そこでそのメールに添付ファイルがあるのに気付いた。
ファイルを開くと、でてきたのは一枚の写真。
そこには、薄暗い部屋の中、顔を真っ赤にして、思いっきり目をつむりながら恥ずかしそうに、
寝ている俺のほっぺにちゅーをしている桐乃が姿が写しだされていたのだった。
END
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最終更新:2011年09月30日 01:37