819 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/10/02(日) 21:14:21.49 ID:EdF6tdNU0 [11/14]
タイトル:『秋の祭典2011』に行こう
その夜、俺は自分の部屋で受験勉強をしていた。ベッドには桐乃がうつ伏せで寝転がり携
帯を弄っている。最近、俺のベッドは桐乃に領空侵犯・・・いや完全に威力占領されてい
る。
「ねぇ、あんたさ、明日暇だよね」
桐乃が突然そんなことを言い出す。
俺はシャーペンを置いて、桐乃のほうを向く。
「んっ?勉強はそこそこ順調だし、暇っちゃ暇だが・・・」
「そっか、そんじゃ明日はあたしに付き合いなさい」
「買い物か?」
「いやいや、そんなんじゃなくて、これ」
桐乃は弄っていた携帯の画面を俺に向ける。そこには・・・
『雷撃文庫秋の祭典2011』
と、どでかく書かれていた。
「何だ、これは・・・・・」
「はぁ?マジ信じらんない。あんたが前好きなラノベがあるって言ってたじゃん。これは、
その出版社がやる公式イベント」
そういや、前にそんなこと言った覚えがあるな・・・・・
「なるほど・・・てかラノベのイベントって、小説でどんなイベントやるんだ」
「んとね、これ見ると挿絵の展示とか作者のトークショーとか公式グッズの販売とかいろ
いろ・・・・・」
「面白そうではあるな・・・それじゃ付き合ってやるか、場所はどこだ」
「アキバ・・・てか付き合ってあげるのは、あたし。そこんとこ間違いないでよね」
「おい、言い出したのはおまえだろ」
「うっさい、明日は朝から行くからちゃんと起きなさいよね」
そう言うと、桐乃は布団をかぶった。
「待て、そこで寝る気か。俺のベッドだぞ」
「あんたの寝る場所は空けといてあげる。シスコンのあんたはこんな可愛い妹と添い寝で
きるんだから、感謝しなさいよね」
「おまえ、いつもそうやって・・・・・俺に襲われるかもとか考えないのかよ」
「変態、もし襲ったら、あんたは一生あたしの奴隷だかんね。それじゃおやすみ」
そう言い残すと、桐乃はそのまま寝てしまった。
翌朝、俺たちはアキバに行った。
「おい、何だこの人の数は・・・・・」
「はぁ?人気があるイベントなんだから当たり前でしょ。てかあんたがさっさと起きてれ
ば、もっと早く来れたのに」
「おまえが俺に抱きついてなかなか起きないのが、そもそもの原因だろ」
「うっさいな、あたしたちも並ぶよ」
「どこに並ぶんだよ」
「まずは物販からに決まってるじゃない。急がないとなくなっちゃうよ。ちゃんと付いて
来なさいよね」
そう言うと桐乃はさっさと物販列に向かって歩き始める。俺はそのあとを追った。
『雷撃SHOP本店最後尾、100分待ち』
物販列の最後尾に着くと、そんな看板が立っていた。
「おい桐乃、どうすんだよこれ」
「別にいいじゃん。昔の人も『何故、列に並ぶのか。そこに欲しいものがあるから』って
言ってるじゃん」
「おまえ、それ絶対違うから・・・・・」
「いいから、あんたも並べ」
そうして俺と桐乃は列に並んだ。
「あーもう、いつまで並べばいいのよ」
「おい、おまえさっきなんて言った。てかまだ30分経ってないぞ」
「いちいちうっさいな、てか喉渇いた、あんたジュース買ってきなさい」
「へいへい・・・・・」
逆らうと何されるかわからないので、俺は素直に従った。
「これでいいか」
「へへっ、サンキュ~」
桐乃はジュースを受け取って飲んだ。
このまま大人しくしてくれればいいんだけどな・・・・・
しかし、20分くらいすると桐乃はそわそわし始める。
「おい、また飽きてきたのか」
「バカ、そんなんじゃない。ちょっと、あんたこれ持ってて」
と言って俺に荷物を渡す。
「どっか行くのか」
「いいから、すぐ戻ってくるから」
「あー、トイ・・・・・ぐふぉ」
俺の鳩尾に桐乃の拳がめり込む。
「変態、いちいちそんなこと口に出すな」
そう言い残して桐乃は列を離れた。
桐乃が戻ってきてから30分くらいすると、俺たちはやっと物販ブースに入ることができ
た。中にはラノベのオフィシャルグッズが並んでいる。
「結構、いろいろあるんだな・・・・・」
「どれを買おうかな、迷っちゃうな」
桐乃は既に羊小屋に放された狼のような目をしている。そして手当たり次第にグッズを物
色する。
「おいおい、そんなに買って持って帰れるのかよ」
「何言ってんの、あんた。あんたが持つに決まってるじゃない」
「やっぱりそうきたか・・・・・」
俺はもう諦めた。というか達観した。
俺は桐乃から荷物を受け取ると、二人で外に出る。出口の脇では、トークショーが行われ
ていた。
「あっ、くららちゃんがいる。ねぇねぇ、見ていこうよ」
「いいけど、立ち見になるぞ」
「別にいいよ、そんなの」
桐乃は俺の手を引いて立ち見席に行く・・・・・・・
「んー、楽しかった」
「おまえは、こういうイベント来るとほんと周りと変わんないよな」
「いいじゃん別に、周りと一緒に楽しまないとソンだよ」
「はいはい、次はどうする」
桐乃は会場で渡されたパンフレットを眺める。
「うんとね、別の会場でラノベの挿絵とかの展示してるみたい」
「それじゃ、そっちを見てみるか」
そう言って、俺たちは別の会場の地下にある展示会場へ行った。
「ラノベだと小さい挿絵だが、このサイズで見ると結構迫力あるな」
「そうだね・・・」
俺は入り口近くにあった、黒いドレスに蝶の羽を纏ったヒロインのイラストを見ながらそ
う言う。桐乃はその向かいにある一枚の絵をずっと眺めている。
それは、ウエディングドレスを着たヒロインが主人公にお姫様抱っこされているといった、
ちょっと恥ずかしい構図の絵であった。
「何だ、そんなに興味あるのか」
「えっ、いや少し憧れるというか・・・・・」
「お姫様抱っこされたいのか?」
「このシスコン、誰があんたなんかに・・・・」
「いや、俺がするって言ってないだろ」
「うっさい」
桐乃は少しむくれてしまった。会場を出てもずっとその調子である。
「おい、何怒ってるんだよ」
「しんない」
まったくこのお姫様は・・・・・
俺は何とか桐乃の機嫌を直そうと考える。
ふと見ると、会場の入り口のところに会場特製おみくじをやっているのが見えた。
「桐乃、おみくじ奢ってやるから機嫌直せ」
「・・・キモ、そんなんであたしの機嫌とれると思わないでよね」
「いいから、一回やってみろよ」
「あんたがそこまで言うんだったら、一回やってあげる」
桐乃はそう言って、おみくじ売り場でおみくじを引いた。
「わー、アリスちゃんだ可愛い~」
「よかったな、で何て書いてあるんだ」
桐乃はおみくじに目を通している。
「・・・・・」
「どうした、何て書いてあった」
「秘密」
桐乃はそう言って、バッグにおみくじをしまう。しかしその顔からはさっきの不機嫌な様
子は消えていた。
俺は『何だ、機嫌直ったじゃないか』と言いたかったが、混ぜっかいしてもしょうがない
ので言わなかった。
「一通り、見たけど後はどうする」
「ご飯食べて、アキバ見物しよう~」
桐乃の機嫌は、完全に直っていた。
「飯くらいは奢ってやるよ」
「あんたにしては、いいこと言うじゃん。しょうがない、この可愛いあたしがシスコンの
あんたにエスコートされてあげる」
と言いながら、満面の笑みを浮かべて俺の腕に抱きついてきた。
完
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最終更新:2011年10月03日 23:25