139 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/10/04(火) 15:27:16.55 ID:u6FXKqcm0 [2/4]
「王様ゲーム?」
「そっ!ちょっと付き合えヨ〜」
にひひ,と加奈子が笑みを浮かべる。
今日は久しぶりに,高坂家にあやせと加奈子が遊びに来ていた。
桐乃の部屋に呼ばれた俺は,いきなり王様ゲームに誘われたのだ。
「王様ゲームって……王様の言うことは絶対!っていうあれか?」
「それそれぇ〜。人数多い方楽しいから,京介もやろうぜぇ〜」
こんなふうに誘われるとは思わなかったが……
ふむ,確かに息抜きにはいいかもしれん。
「よし,やるか」
俺は加奈子の誘いにのることにした。
ここでふと,桐乃とあやせに目をやると,二人は何故か顔を真っ赤にして俯いている。
「なんだお前ら,熱でもあんのか?」
「なっ,なんでもありません!」
「ばばばばっかじゃないの!?」
うおっ!なんで切れ気味なんだよ……
ため息まじりに頭を掻いていると,加奈子が裾をくいくいっと引っぱってきた。
「ほら,さっさと引けヨ」
そう言って,人数分のくじを差し出してくる。
あれ?なんかこいつも……気のせいか?
最初に王様を引き当てたのは,加奈子だった。
「加奈子が王様かぁ〜,ど,どうしよっかなァ?」
うっとり頬を染める加奈子。
よりによってこいつかよ……一体どんな無理難題を言ってくるつもりだ。
……どうか俺じゃありませんように!
「んー,そうだなァ」
加奈子王はしばし逡巡し──命令を下した。
「じゃあ1番のヤツは,加奈子の背中掛けヨ」
あれ,意外と普通だな。
まあでも,こういうのがこいつらしいのかも……
俺は心の中で苦笑する。さーて,1番のやつは……って俺じゃねーか!
「ほら1番,さっさとする!」
まぁ背中掻く程度ならいいか……
俺は観念して,うつぶせになった加奈子の背中を掻きはじめた。
「うひっ,くすぐったい!」
「こ,こら!変な声出すな!」
まるでいつかのようなやりとりをする俺たち。
妙な懐かしさを覚えながらも,俺は背中を掻き続けた。
「ん〜〜そこそこぉ……超きもちいぃ……」
……背後から感じる殺気は気のせいだと思いたい。
もうそろそろいいだろ……そう言おうとしたとき,加奈子はとんでもないことを口にした。
「次,おしり」
ちょっ,さすがにそれはヤバいって!
「いいじゃんかヨ〜。いつもみたいにさ,お願いっ♡」
「人聞き悪いこと言ってんじゃねぇ!しり掻いてやったのは一回だけだろが!」
ぎゃあああ!背後からの殺気が一気に増したぞ!どうすんだコレ!
「……加奈子,王様の命令は一つだけだよ?」
──あやせ様,瞳の光彩を完全に無くしておられる……
さすがの加奈子も恐れをなしたのか,ゆっくりと起き上がった。
「ちぇ,いいところだったのに……」
ふぅ……正直助かったぜ。
「どうやら,わたしが王様みたいですね」
次に王様を引き当てたのは,あやせだった。
──というかさっきからこいつ,顔が真っ赤なんだが……本当に大丈夫か?
「おい,やっぱり熱あるんじゃねーか?病院行った方が……」
「ななな,なんでもないって言ってるじゃないですか!ほっといてください!」
し,しかしですね,あやせさん……目が逝っちゃってますよ?
「ほんとに大丈夫ですから……じゃあ命令言いますよ」
すーっ,はーっ……深呼吸をしたあやせ王は,驚くべき命令を下した。
「1番の人は……わ,わたしにセクハラをしてくださいっ!」
ぶーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
な,何言っちゃってんのこの人!?
「ちょっとあやせ!?」
「べ,別にいいでしょ桐乃……わたしが王様なんだから」
「そうだけどさ……」
むーっ,とあやせを睨みつける桐乃。
よりにもよって,なんて命令を下してんだあやせは……しかも1番って俺だし。
「ほ,ほら,1番の人,誰ですか!」
「……俺だ」
観念した俺は,あやせの前で正座した。
「ふ,ふん!お兄さんでしたか。じゃあ,いつもみたいにさっさとやってください」
んなこと言われてもなぁ。
それに,いつもみたいにって……お前にセクハラをした覚えなんてないぞ?
あやせはきつく口を結んで,俺のセクハラをじっと待っている。
ふむ……要するに,こいつへの今まで言動の中で,最も嫌がられたやつをやればいいのか?
だとしたらもう,これしかないな。
「あやせ」
「は,はいっ」
俺は大きく息をついて──かつての台詞を口にした。
「結婚してくれ」
それを聞いたあやせは,これ以上ないほど茹で上がり──
「し,死ねェェェェェェェェェェェェェェ!!!」
これ以上ないほどの張り手を俺に浴びせた。
「おー,いてててて……」
俺は打たれた頬をさすりながら,あやせに批難の目を向けた。
「おい,痛かったぞ」
「痛かったぞ,じゃありません! よ,よりにもよって何ですかアレは!」
お前がセクハラしろって言ったんじゃねえか……
「ふん,あんなこと言ったお兄さんが悪いんですからね」
ぷいっとそっぽを向くあやせ。
そんなあやせを,桐乃はジト目で睨みつける。
「……それにしてはあやせ,なんか満ち足りた顔してない?」
「え……き,気のせいじゃない?」
「……ふん,まあいいケド。次はあたしね」
どうやら今度は,桐乃が王様くじを引いたらしい。
桐乃が王様か……一体どんな命令を言ってくるんだ?
「ん〜どうしよっかな〜?フヒヒ」
桐乃は真っ赤になった頬に手を当て──しかしそこで,何かに気付いたように微笑んだ。
「──決めた。あたしの命令」
ふふふっ,と艶妖な笑みを浮かべて,桐乃王は命令を下す。
「1番を引いた人は全員──」
「これからもずっと,あたしの大切な人でいてください」
すうっと,俺は自分の引いたくじに目を落とす。
そこに書かれていた数字は──『1』だった。
やれやれ,どうやらこいつとは,こういう巡り合わせらしいな。
言われずとも,そのつもりだよ。
何故かバツが悪そうにしている二人を尻目に,俺は決意を新たにするのだった。
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最終更新:2011年10月04日 22:34