328 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/10/10(月) 00:05:15.17 ID:cYy5vdAA0 [1/14]
タイトル:体育祭
「あんたにさ・・・お願いがあるんだけど」
リビングでテレビを見ていた俺に桐乃が突然そんなことを言ってくる。
また面倒なことじゃないといいけどな。
「お願いってなんだよ・・・」
桐乃は少し言いにくそうな感じで
「あのさ・・・付き合ってほしいの」
と言った。
俺は一瞬聞き違いかと思い桐乃に聞き直してみる。
「付き合うって、俺とおまえがか?」
「そうだけど」
桐乃は平然とそんなことを言う。
やはり俺の聞き違いではないらしい・・・・
「いや、一応『兄妹』なんだし、いきなりそれは・・・」
「『兄妹』だからって関係ないじゃない」
「だから俺にも覚悟ってものが・・・」
痺れを切らした桐乃は、少し怒ったような顔をして
「あたしとだとそんなにいやなわけ?」
と言う。
俺はどもりながらも
「いやじゃないが、いきなりおまえの彼氏になるだなんて・・・」
と言った。
桐乃の顔がみるみる赤くなり最後には耳まで真っ赤になる。
「マジキモい、どうしてそんな話になるんよ」
「おまえ、今『付き合ってほしいの』って言ったじゃないか」
俺がそう言うと桐乃は考え込んでしまう。
そして自分の言葉を思い出したのか、酸素不足の金魚のように口をぱくぱくとさせている。
「おい、だいじょうぶか・・・」
「だ、だいじょうぶ」
そう言いながらソファーにへたり込んでしまう。
俺は桐乃が落ち着くまで待った。
「落ち着いたか」
「うん・・・・・」
「それじゃもう一度聞く、お願いって何だよ」
「今度の体育祭で、家族と出る種目があって・・・それに付き合ってほしいの」
「おまえ、要点端折りすぎだろ」
「うっさいな、勘違いするあんたがいけないんじゃない・・・」
「はいはい、俺がわるかったよ。どうせ俺はシスコンだからな」
「・・・キモい」
「てか、どうして俺なんだよ。親父やお袋じゃダメなのかよ」
「あたしは、あんたにお願いしてるの」
と真剣な目で俺を見つめる。
桐乃にこんな目でお願いされると、俺は『断る』という選択肢を選べなくなってしまう。
しかし、すぐに返事をするのも癪なので少し考える振りをする。
桐乃はそんな俺の顔を上目遣いで覗き込みながら「ね、お願い」と言ってくる。ここまで
されて断ると俺が俺でなくなるような気がする。
「わかった、それでその種目ってなんだよ」
「二人三脚」
体育祭当日、俺と桐乃は二人三脚参加者の待機場所で待ち合わせる。
「桐乃、ここで結べばいいか」
「そのへんで大丈夫」
俺は足を縛る位置を確認する。
「よし準備できたぞ。合図とかはどうする」
「それじゃ、『1』で結んでいる方の足を出して」
「よしわかった」
あとはスタートを待つだけだ。俺は桐乃の肩に手を置いた。すると桐乃の肩がピクンと跳
ねる。
「ん、どうした」
「あっ、いや、なんでもない・・・・・」
「そうか」
桐乃はそう言いながら俯いてしまった。
すると後ろから
「お兄さん、桐乃にいかがわしいことしたらブチ殺しますよ」
聞き慣れた声で、物騒な台詞が聞こえる。振り向くと予想通り、あやせが立っていた。
「物騒なこと言うなよ。俺がそんなことするわけないだろ」
「じゃあ何で、桐乃の肩に手を回してるんですか」
「二人三脚なんだから、これが普通だろ」
「嘘です、きっとそのまま桐乃を押し倒して・・・」
「真昼間の、それも人が見てる前でそんなことできるか」
「夜の暗がりで、誰も見ていないければするんですね、変態」
「おまえはどうしても俺を犯罪者にしたいらしいな」
「大丈夫だって、京介は加奈子に惚れてんだからさ」
「「えええっ!」」
あやせと手錠・・・いや、タオルで足を結ばれている加奈子が突然そんな爆弾発言をする。
それに、今まで俯いていた桐乃とあやせが反応する。
「「ちょっと待って、加奈子それどう言うこと?」」
二人はまったく同じ台詞で加奈子に詰め寄る。
おまえらほんとに仲いいよな。
「だってこいつ、あたしのファン第一号なんだぜ」
「そりゃ、おまえがアイドルの素質あるから、アイドルになったらファン一号になってや
るってことだよ」
俺の言葉を聞いて、なぜか桐乃とあやせがホッとしているようだ。
なんだよ二人して・・・・・
「ほんとかー?加奈子の虜になってるんじゃないのか」
「それはない、もっとナイスバディーになってからにしてくれ」
俺は加奈子の台詞に淡白なツッコミで返す。
「ケッ、見てろよ。今に吠え面かかせてやる」
加奈子は不貞腐れてしまう。そしてまたもや、なぜか桐乃とあやせは俺の顔を真剣なまな
ざしで見つめている。
俺なんでこいつらにこんな仕打ち受けないといけないの?
場の雰囲気に耐え切れなくなった俺は、話題を変えようとする。
「そういや、あやせはなんで加奈子と組んでんだよ」
「うちは、両親が忙しいので・・・・・」
「そうか・・・すまない」
話がしんみりした方向に流れてしまう。
「そんじゃ加奈子は?」
「うちもさ、姉貴が仕事で忙しくてさ・・・」
「そうか・・・・・」
俺、地雷ばっか踏んでるな・・・
俺はどう話を続けていいかわからなくなり黙ってしまう。
すると場の雰囲気を読んだあやせが
「お兄さん、別にこの種目は友達と一緒でもいいので、わたしが加奈子を誘ってみたんで
すよ」
と話を繋いでくれた。
「なるほど、でもあやせなら桐乃を真っ先に誘うかと思ったけどな」
「もちろん最初は、桐乃を誘いました・・・でも・・・・・」
突然、あやせの瞳から虹彩が消える。
待てこの展開はなんだ?また踏んだのか俺は・・・・・
俺は恐る恐る聞いてみる。
「・・・でも、なんだ?」
「でも桐乃を誘ったら、『兄貴のやつったらさ、どうしてもあたしと二人三脚に出たいっ
て泣いて土下座するから、オッケーしちゃった。ごめんね』って言われたんです」
元凶はおまえか!
俺は桐乃のほうを振り向くと、桐乃は慌てて俺から視線を逸らす。
あやせはあやせで、俺の返答を待っている。ここで混ぜっかいしてもしょうがないので
「すまなかったな、せっかく『兄妹』で出られる種目があったんで、俺がお願いしちまっ
てさ」
「そうですか・・・それならしょうがないです」
あやせは、俺の返答に不服そうではあったが、その場は何とか納めてくれた。
『まもなく、二人三脚のスタートです。出場者はスタート位置にお集まりください』
そんなアナウンスが流れた。
俺たちはスタート位置に移動する。
「おい、さっきので貸し一つな」
「・・・うっさい、こんな可愛い妹と二人三脚できるんだから、貸し借りはナシ」
「おまえな・・・」
「それより、もし負けたら貸し一つだかんね」
「そうか・・・なら勝ったら俺のお願い聞いてもらおうか」
「お願いってなによ」
「さあな、何かいいこと考えておいてやるよ」
「なっ、この変態、あたしにいやらしいことしようってんじゃないでしょうね」
いつものようにぐだぐだ言い合っていると
『バァン!』
とスタートのピストルが鳴り響く。それを聞いた俺たちは我に返る。
ドドドドッと周囲の選手たちが走り出していく。俺たちは完全に出遅れた。
「あーー、あんたが変なこと言うから出遅れちゃったじゃないの」
「俺のせいにするなよ、というか俺たちも行くぞ」
「わかった、1,2・・・・・・・」
桐乃の掛け声とともに俺たちもスタートする。
「おい、もっとスピード出していいぞ」
「あんたは大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ」
「わかった、それじゃ行くよ」
桐乃がギヤをチェンジする。俺も桐乃のスピードに合わせて足を動かす。
みるみるうちに他の選手との差が縮まり、そして追い抜いていく。
抜かれた選手たちは、何に抜かれたのか理解できないような顔をしている。
「結構調子いいじゃないか」
「ふん、これがあたしの実力よ。じ・つ・りょ・く」
と桐乃は自慢げに言う。
「俺たちの相性がいいからじゃないか?」
「マジキモい、このシスコン」
桐乃は顔を真っ赤にして、プイとすねたように横を向いてしまう。
その反応が何とも可愛く見えて、俺はこみ上げてくる笑いを必死に堪える。
「調子に乗るのもいいけど、転ぶなよ」
「うっさいな、あんたこそ転ぶんじゃないわよ」
「はいはい、まあ転んだら俺が抱きとめてやるよ」
「こ、このシスコン、だ、抱きしめるって何考えてんのよ」
「別に転びそうになったときくらい問題ないだろ」
「問題ないって・・・・こっちのもその・・・・・準備が・・・・」
「何の準備だよ」
「う、うっさい、こっちのこと」
俺も調子に乗ってきてしまったのか、走りながらぐだぐだと文句を言い合う。
・・・・しかしそれがいけなかった。
最後のストレートに入ったところで俺と桐乃はバランスを崩してしまう。
何とか転ばないように反応したが、その結果俺が桐乃を抱きしめるような姿勢になってし
まう。
俺の耳元では桐乃の息づかいが聞こえ、髪からはシャンプーだろうか甘い香りがする。そ
してシャツ越しに感じる桐乃の温かさがなんとも心地よい。
抱きしめられている桐乃も、耳まで真っ赤にしながら俺の背中に腕を回してくる。
俺たちは互いにその体勢のまま動けなくなってしまう。
「この変態、死ねえええええぇぇぇぇぇ」
振り返ると俺たちの後ろから土煙とともに、あやせが迫ってくる。
おまえ、加奈子どうしたんだよ!
よく見ると、あやせの後ろにはボロ雑巾と化した加奈子が引きずられている。
恐怖を感じた俺は、桐乃を立ち上がらせようとする。
「桐乃、大丈夫か」
「ダメかも・・・」
「ダメって、どっか怪我したのか?」
「いや、ダメじゃない、だいじょうぶ・・・・・・」
どっちだよ・・・
桐乃はまったく立ち上がろうとしない。それどころか俺の背中から腕を離そうとしない。
「おい桐乃、よくわからんが正気にもどれ」
「・・・・・もう少し」
そうしている間にも鬼と化したあやせが迫ってくる。
最後の手段と覚悟を決めた俺は、桐乃を抱きかかえると一目散のゴール方向へ逃げるので
あった。
Fin
-------------
最終更新:2011年10月11日 22:47