196 名前:スイートなひとときを 前編【SS】[sage] 投稿日:2011/10/15(土) 04:04:17.75 ID:8SheOZvDO [3/9]
それにしても美咲さんのやること為すことは相変わらずだ。まあ話を聞いてくれ。
俺と桐乃は朝の4時半に迎えに来たハイヤーで羽田空港に行き、早朝の便で新千歳空港に着いた。
そして迎えの車で札幌近郊を回って撮影をこなした。ここまでは、まあ分からなくもないんだが、
「…それではお疲れさまでした。千葉まで気をつけてお帰りくださいね」
と札幌駅まで送られてきたのが午後4時ちょっと前。
えっ、もう帰れと言うんですか? せっかく北海道まで来たというのに……
「でもその代わり、お詫びのしるしってことでいいものを貰ってるんだけどね。ほら入って来た」
桐乃の指差す方を見ると、エンジンの音を響かせながら列車が近づいてきた。
「帰りはこれに乗るんだから。豪華寝台特急『カシオペア』にね!」
カシオペアは全車両個室になっていて、しかも俺達の個室は、先頭車両の一番豪華な『カシオペアスイート』という部屋だった。
「美咲さん凄すぎるだろ。いくらするんだ料金?」
「ざっと二人で9万円以上するらしいね」
ウェルカムドリンクを飲みながら俺はただただ驚くばかりだった。
この部屋にはツインベッドにソファー、シャワーにトイレ、クローゼットと、ホテルそのものの設備が揃ってる。
そして大きな窓からは北海道の雄大な景色が見えるわけだ。これならいい思いをさせてもらったって、言えるのかもしれないな。
チャイムが鳴ってドアを開けると係の人が夕食を持ってきてくれた。懐石料理とのことだ。
「食堂車に行かなくてもよかったのか?」
「ここで食べるほうが落ち着くし、それに、あれを飲みたいし」
「あれって、おい!」
この個室はウィスキーやワインがサービスで用意されている。利用者が未成年だからといって出さないってことはないみたいだ。
「ちょっとだけ、飲んでみたい、ダメ?」
「駄目だって言ってもどうせ聞かないんだろ。じゃあちょっとだけな」
グラスにワインを注ぐと何故だろうか、変に胸が高鳴るのを感じた。
「それじゃあ」
「何か気の利いた乾杯の文句を考えなさいよ」
「いきなり言われてもなあ……よし、これでいこう」
「じゃあ言ってみて、京介」
「二人だけのスイートなひとときに、乾杯」
「ぷぷっっ(´ψψ`)」
「何だよ、せっかく考えたのにさあ」
「ごめんごめん、ちょっと落ち着くまで待って」
「ちぇっ」
「では改めて、二人だけのスイートな」ひとときに」
「「乾杯!!」」
その後、桐乃の顔色がなんだかすぐれない。
「うん…ちょっと疲れが回ってきたみたい」
「ムリすんなよ。薬貰ってきてやる」
「……ありがとね」
車掌さんから貰った薬を飲んで、桐乃は少しは落ち着いたみたいだ。
列車は函館駅に着いた。すると、これまで目の前の視界をふさいでいた機関車が離れていく。
ここで一旦列車の向きが変わり、函館から青森までの間は、この個室が最後尾になるらしい。
と、ベッドに横になっていた桐乃が起きてきた。
「大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。せっかく眺めがよくなったんだから、ちょっとは楽しまないとね。一緒に座って」
真正面を向いたソファーに俺は桐乃と一緒に腰掛ける。ワインのせいかどうか、何だかやけにドキドキする。
180度に視界が広がる窓の外には、闇の中に綺麗な星空が広がる
「こうして並んで座ってると、昔のこと思い出すね。小さい時、家族で山小屋に行ったときに、星を二人して見たでしょ」
「ああ、あったな」
197 名前:スイートなひとときを 後編【SS】[sage] 投稿日:2011/10/15(土) 04:09:19.88 ID:8SheOZvDO [4/9]
あれは確か長野の山の中のペンションだかコテージだった。それはそれは綺麗な星空を俺達は飽きることなくずっとずっと眺めていた……
「流れ星が見えたよね」
「見えた見えた。確か一個、すごい光輝くのがあったな」
「あの時あたし流れ星にお願いしたんだよね。『お兄ちゃんと、いつまでもいつまでもなかよしでいられますように』って」
「…そうだったのか」
「あれからいろいろあって、すっごく仲が悪くなったときもあったけど、こうしてまた仲良くなれて、よかったと思ってる」
「そうだな」
「だからもう一度、願い事を言うね。『京介と、いつまでも仲良く一緒に暮らせますように』って」
「……俺も約束するぜ。『桐乃と、いつまでも仲良く一緒に暮らせますように』ってな」
「小さいときは、指切りげんまんだったけど、今度は大人の約束で」
「大人のって……もしかしてキスだったりするか?」
「よく言った。褒美にきりりんにキスする権利をあげましょう♪」
なんじゃそりゃ、酔ってるのか? と思ったが、桐乃が俺に向ける眼差しが真剣なのに気付いた時に、
俺の中でもそれまでの、止められていた想いが一度に込み上げてきた。
「本当にいいんだな」
「うん」
「……こんなに可愛い妹を持てて、俺は世界一幸せな兄貴なんだろうな」
「うん! あたしも、世界一幸せな妹だよ」
「桐乃」「京介」
俺達はいつまでも、いつまでも唇を重ねあった。抑えきれない大好きな気持ち……
※※※
「お客様、終点 うへぇ! …失礼しました 上野です。
てかコラ、いつまでイチャコラしてんだおめーら、もう終点だっつーの」
「加奈子! なんだその格好は」
「見りゃわかるだろー。カシオペアの車掌に決まってんじゃんかぁ。てか、おめーらこそなんてカッコーしてんだよ」
「その通りですよお兄さん!!」
「あやせまで。……一応聞くけど、それ何の格好?」
「警察の制服に決まってるじゃありませんか! 妹をレ○○した変態を逮捕しに来たんですよ」
「待てあやせ、これは合意の上だ。愛し合ってる二人は法律だろうと条例だろうと邪魔できないんだ!」
「言い訳は首吊り台にぶら下げる前に好きなだけ喋らせてあげますから、こっちへ来てください!」
「てか、裁判なしに死刑確定かよ!」
「汚物は消毒です♪」
そう言ってあやせは手錠を差し出してくる。
「うわあ!!!」
※※※
気が付くと、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。何事もなかったかのように走り続ける列車。
「夢に決まってるよな、阿呆らしい」
「どうしたの?」
「何でもない。加奈子とあやせが漫才してる夢を見たんだ」
「何それ、変なの」
「それはそうと、風邪ひかないか、そんな格好で」
「それはお互い様じゃん」「だな、でも、桐乃が暖めてくれてたからな」
「あたしは兄貴のせいで熱いくらいだった」
「じゃあ着替えて食堂車に朝飯食いに行くか」
「うん」
「…なあ桐乃。今すぐは無理だけどさ、今度は俺の稼いだ金で、一緒にカシオペアスイートに乗ってくれないか」
「えっ?」
「今度は、北海道に……新婚旅行で行こうぜ」
「嬉しい。でもこの流れって『耳をすませば』のパクリだよね」
「……バレたか」
「まあ許してあげる。だから最後までやって」
「わかった……桐乃 大好きだ!!」
そう叫んで、俺はこんなに可愛い妹を抱きしめた……
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最終更新:2011年10月15日 19:59