554 名前:553[sage] 投稿日:2011/10/24(月) 11:27:33.81 ID:xquuAsJm0 [2/2]
SSある朝の高坂家

 「ふわ……あ。お袋、朝飯は──っていねえし」

 今日はとある日曜日。早起きした俺は朝飯を食う為に下へ降りてきたんだが、リビングには
誰もいない。壁にかけてある時計を見ると7時半を指している。
 お袋も親父も起きて来てないなんて珍しい事があるもんだ。特にあの親父は極道ヅラの癖に
生活習慣には非常に厳しいんだよな。まあ、顔は関係ねえっちゃねえんだが。
 仕方ねえ、麦茶でも飲んで部屋に戻るか。昨日やってたエロゲもまだ途中だしな。ちなみに
今やってるエロゲは、桐乃に『これ超オススメ! しすしすを超える神ゲーかもしんない!』
とか言われて押しつけられたもんだ。実妹との結婚生活を楽しむと言う現実じゃありえねえ
シチュエーションなんだが……実の妹と結婚ってなんなんだよ!? …………まあ、悪く
ないんじゃねえか?
 俺はリビング左手にあるキッチンの奥へ進み冷蔵庫を開ける。
 ……って麦茶切れてんじゃねえか! お袋ズボラ過ぎんだろ。他には何か無いか──おっ、
オレンジジュースか。お袋こっちに変えたのかな。桐乃はいつも紅茶だから、あいつのじゃ
ないだろうしな。
 オレンジジュースの紙パックを手に取り、コップを探す。するとキッチンの上に置かれた
メモが目にとまった。
 なんだこりゃ。なになに──『今日は二人でデートしてきます。なのでご飯は適当に
食べてね。お金はメモの下に置いておきます』ってまたかよ……相変わらず仲がいいな。
 メモが置かれていた場所に目をやると五千円札が一枚畳んで置いてあった。
 しゃあねえ、桐乃が起きてきたら一緒に飯でも食いに行くか……と、メモの裏にもなんか
書いてあるな。えーっと『追伸──桐乃に変な事しちゃだめよ』ってするかゴルァ!?
て言うか俺ってどんだけお袋に信用されてないの!? こんな平凡で真面目で…………ふう。
 今までの俺の行動を思い出し、遠い目をする。
 ──お袋、あんたの目は節穴じゃねえよ。世間の一般常識的な目線で見た俺って相当ヤバイ
行動ばかりしてんもんな。親父に突っ込まれてないだけまだマシってもんだ。
 ……そういや俺何しに来たんだっけ? ああ、確かジュース飲もうと思ってたんだよな。
 コップを探すのも億劫になった俺は、紙パックの注ぎ口から直接飲む事にした。喉を潤した
俺は五千円札をズボンのポケットにねじ込みリビングを出る。
 桐乃はもう起きてんのかな。一応、声かけとくか……。
 二階へあがり、桐乃の部屋の前にきた俺はドアをノックしようとした。
 
「め~るめるめるめるめるめるめっ♪ ……ってなんか違うなあ」

 ──中から聞こえた声に思わずドアを開ける。

 「桐乃、何をやって──って!」

 そこで俺が見たものは──髪をツインテールにした桐乃の後ろ姿だった。何故か分からない
が、俺の視点では耳が4つ確認できる。頭の上に生えている耳が妙にキュートだ。

 「──えー……っと。桐乃、さん?」

 俺の声にビクンッ! と体を震わせ、そろりと振り返って来る桐乃。その顔は微妙に赤い。

 「うぇ!? な……あ……え……う」

 お前どんだけ驚いてんだよ! 全然言葉になってねえぞ。だけどこいつは……何と言うか。
 頭に気を取られていて気付かなかったが、スカートの辺りからもフワッとした細長い物体が
伸びて、左右に軽く揺れている。
 
 「おま……それって」

 何か言うべきなのは分かっているが、俺の方も上手い言葉が出てこない。
 ────だがしかしっ! 行うべき行動はっ! 分かっているっ!
 ササッ! ピロリン♪ カシャッ。
 至高のスマイルを浮かべて俺はポケットに携帯をしまう。
 ふっ……いい仕事を終えた気分だぜ。こいつは高坂京介の人生における最高傑作の一つだ。

 「ちょっ……あ、あんたあ!? そ、それ消せえ!?」
 「消せるかっての! こいつは俺の宝物にするんだ!」

 雄たけびを上げて迫って来る桐乃からブツを守るべく、階下のリビングへ逃げる事にする。
 こんな極上の写真を消すなんてとんでもねえ! みんなもそう思うだろ?

 「うっさい! そんな事知るかあ! 消せったら消せええぇぇぇぇ!」

 必死の形相で追い掛けて来る桐乃(猫耳&尻尾付き)。
 ……つーか何やってんのかと思えば、黒猫のやつに頼んでたアレを試着してたんだな。
いきなり『め~るめる以下略』が聞こえてきた時はコスプレ大会にでも出るつもりかと
思ったんだがな。どっちにしろいいもん貰ったぜ。まあ、桐乃のやつが出たとしても入賞は
難しそうだが、別の意味で最高の特別賞を取ってきそうだから困る。

 「はあ……はあ……。この……っ! いつもはノロマな癖して、今日はなんで早いのよ」
 「……知ってるか? 人間ってのは窮地に追い込まれると限界を超えられるんだぜ」

 リビングの机を挟んで向かい合う俺と桐乃。今日の俺は絶好調かもしれん。

 「訳分かんない事言うなっつーの……はあ、無駄に走り回ったせいで喉が渇いたってば」
 「ああ、そういや冷蔵庫にオレンジジュースがあったぞ」

 桐乃は疲れた顔で冷蔵庫に向かい、オレンジジュースのパックを取り出す。

 「てゆーかさ、あんたはなんであたしの部屋に来てたワケ? ……まさかあたしを覗き
見してその、隠し撮りとかしてたんじゃないでしょうね。携帯のスタンバイ超早かったって」
 「んな訳ねーっての! お袋達が出かけてるから、飯どうするか聞きに行ったんだよ。
そうしたら……まさか部屋の中でコスプレしてるのはさすがに予想外だったぞ」

 エロゲーで壊れる桐乃はよく見るんだが、コスプレして吹っ飛んでたのは初めて見たぞ。

 「あ、あれは……違うんだってば! その、黒いのが作ってくれたから試着してただけ!
他意はないの! あんたが見たのは幻なの!」

 お前の言う幻ってのは写メに残るんだな。OK、幻なら俺が好きに使ってもいい訳だ。

 「それはとりあえず置いといて、桐乃は飯どうする? お袋が金置いててくれたからさ、
お前次第で外に食いに行くのもいいかと思ってるんだが」
 「オッケー。とりあえず一時休戦で食べにいこ? あたしも走り回ってお腹減っちゃった」

 言いながら桐乃はオレンジジュースのパックに口を付け──そのまま飲みだした。
 ん──ちょ、まてそれって!?

 「あれ? そう言えばなんであんた、オレンジジュースあるの知ってんの?」
 「へ? あ……い、いや、喉渇いてたんで、少し貰っちまったんだが、悪かったか?」
 「別にいいケド。昨日あたしが買って置いといたんだ。いつものお気に入りの紅茶が
無くってさ、少し甘いのが欲しかったからこれでいいかなって──つか、なんであんた
赤くなってんの?」
 「き、気にすんな。走り回って疲れてるだけだ」

 真顔で見つめられて顔が火照ってきたので、明後日の方を向いてしまう俺。
 ……さすがに口飲みしたなんて言えねえ。

 「き、桐乃。飲んだら飯食いに行くぞ。──ってどうかしたか?」
 「ん……んー、んー?」

 急に唸りながら周りを見渡す桐乃。一体どうしたってんだ?

 「なんだ? 腹でも壊したのか?」
 「……ねえ、その。コップ置いてないんだけど、あんたどうやって飲んだの」

 何かに気付いた桐乃が急に鋭い視線を向けてくる。
 なんでこんな時にカンが良いんだよ!? まるで二股に気付いたアレみてーじゃねえか。

 「……洗って直したんだよ」
 「あんたがそんな几帳面な訳ないじゃん。……まさか、そのまま飲んだ?」

 半眼で睨んでくる桐乃の背後には、鬼だの夜叉だのが浮かんで見える気がする。
 ──ヤバイ、目が怖ええ。こいつは素直に言うしかない、か。

 「悪い……コップ出すのがめんどくて、そのまま飲んじまった」
 「あっそ────っな!? あ、あああんたそれって、か、間接……っ!」

 俺の言葉で顔を真っ赤にさせて慌てだす桐乃。
 おい! そんなに真っ赤になられると意識しちまうだろ! てかその、可愛いじゃねえか。

 「だから言いたくなかったんだよ! 恥ずかしいじゃねえか」
 「は、恥ずかしいのはあたしの方だっての!? じ、実妹に欲情してキ、キス迫るとか
ありえないんですけどっ!」
 「迫ってねーし!? ……いつもの紅茶じゃないから気付かなかっただけだ」
 
  こいつテンパっちまってるのか、意味不明な事を言い出してやがる。さすがに面と
向かって『桐乃、愛してるぜ』なんて言いながらキスを迫る勇気はまだない。
 ……いや、まだって言うかやんないからな!?

 「ったく。このシスコンは……っ! そう言うのは──ストレートに迫ってこいっての」
 「……いまなんか言ったか?」
 「──っ!? ぜんっぜん! 何にも言ってないから!」

 それにしても家の中だってのに、100メートルダッシュを数本やった位は疲れちまったな。

 「と、とりあえずだ。休戦で飯食いに行くぞ。それから考えよう、な?」
 「……あたしも賛成。なんだか何に怒ってたのか分かんなくなってきた」
 「────それは良いんだが、頭とケツのやつは外してから出かけるぞ」

 そのまま玄関で靴を履きかけていた桐乃へ一声かける。
 桐乃のやつ、どんだけ前後不覚になってやがんだ。

 「あ、やば。汗かいてて化粧落ちちゃってる。ちょっと直して来るから待ってて」
 「そっちかよ!?」
 「分かってるっつーの。さすがにこのまま出てったら、あたしの品性疑われるって」

 そのまま出て行こうとしてた事をとっくに忘れてやがんな。
 二階へ上がる桐乃を見送った俺は、携帯を取り出しさっき手に入れたお宝画像を表示させる。
 化粧で時間かかるだろうし、目の保養でもしておくか。しかし……こいつはマジでやばいな。
猫耳としっぽの破壊力も凄いが、いつも強気な桐乃が顔を赤らめてる感じがたまらねえ。

 「──何見てニヤついてんの、この変態シスコン!」
 「うおわっ!? 下りてきたなら声くらいかけてくれ!」

 聞こえる声に驚き振り向く──そこには桐乃が呆れ顔で立っていた。

 「エロ本見つかった訳じゃないし、驚きすぎじゃん」

 そう言われてもな。こいつはある意味でエロ本なんて比較にならねえアイテムだ──が。

 「おい、髪型戻すの忘れてねーか?」

 顔には化粧をしてきたのが見られるし、服も外出用に変わっている。が、桐乃の髪型は
さっきのツインテールのままだ。

 「ん。今日はこのまま出かけようかなってさ」
 「──そ、そうか。まあいいんじゃねえの?」

 俺としてはこの髪型も実はかなり可愛いと思う。
 兄貴の沽券にかかわっちまうから、絶対に口には出せないけどな。

 「ふふん。どっかの誰かさんが嬉しそうだったからね。たまにはイメチェンもいいかも
しんないし」

 言っておくが、俺は絶対に口には出してないからな!

 「あんたの表情が物語ってるの」
 「ちょま!? お前って──超能力者だったのか?」
 「頭悪い事言ってないで、ほら! 食べにいくよ」

 桐乃はそう言うと、俺に腕を絡めてくる。

 「まて! さすがにそれは恥ずかしいぞ!? 一応、俺たちは兄妹なんだからな」
 「きょ、今日はイメチェンだって言ったじゃん! そ、それにあたしたちは兄妹だから
この程度なんともないっての! あたしの知ってるシスコン兄貴の常とう手段じゃん。
つかあんたさ──そんなに嬉しそうな顔しながら言う台詞じゃないとおもうんだケド?」

 思わず空いた手で顔を探るが、分かるのは手に伝わってくる顔の熱さだけだ。
 ――やべ、そんなに嬉しそうだったか俺。って言うか、なんだかいつもと正反対だな。

 「……まあいいか。とりあえず飯だ飯。桐乃はどこに行きたい?」
 「あたしとしては、甘いものがいいかなあ」
 「それはデザートであって飯じゃねーからな」
 「女の子ってのはご飯とデザートは一緒なの。別々に食べたら太っちゃうじゃん」

 ──傍から見たら、並んで歩いている俺たちってどういう風に見えるんだろうな。
 何気にそんな事が頭に浮かんできたが……正直どうでもいい事だ。
 俺にとって桐乃は可愛い妹で、一番大切な存在で、誰より傍にいて欲しい人なんだ。
 その想いさえ俺が理解していれば構わないんだろう、さ。

 「……あんた、今なんか言った?」
 「何も言ってねえよ! マジでお前って……変な能力に目覚めてないよな?」
 「まあ、兄妹だから。表情見れば──何となく分かる様にはなったかな」

 こいつ──こんな顔も出来るんだな。
 今の桐乃の表情は、まるで春先に吹く爽やかな風の様にも思える。

 「心配しなくても……あたしは、もう急に消えたりしないから」

 桐乃俺に優しく笑いかけながら、望んでいた言葉を紡ぎ出す。

 「……そっか。じゃ、暫くは人生相談が続きそうだな」
 「そう言う事──その代わり、あたしから目を離したら許さないかんね!」

 ふと気付くと、絡めている腕に僅かに力が込められているのを感じる。
 お前の意思は受けとったよ。心配すんな、俺だって絶対──桐乃の傍を離れねえ。
 誰に何と言われようとも、何が立ちはだかろうとも──な。



 「──んで、飯つったのに…………なんでクソでけぇパフェ食ってんだ俺たちは!?」
 「し、仕方ないじゃん! 『スペシャルジャンボパフェ』完食のカップルに、特別限定
ペアマグカップ(メルル仕様)進呈ってあれば挑戦するしかないっしょ」
 「なんか色々間違ってる気がするぞ!? それにカップルなのにでか過ぎるパフェとか
なんでメルルが絡んでるのか意味不明過ぎてツッコみがしきれねえ」
 「そこはきっと、あんたの為に用意されたモノなんだって」
 「よく分からんぞオイ!? ……しかし、まさかパフェなんてのが立ちはだかってくる
ってのは想定外って言うか、予想外って言うか」
 「喋って無いでさっさと食べる! もうマグカップの置き場所だって決めてんだから」
 「はえーよ! まだ半分は残ってんぞ。まあ、しかし──これが俺達らしいのかも、な」 




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最終更新:2011年10月25日 21:31