432 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 18:49:08.63 ID:A82Tl2VB0 [1/6]
タイトル:ハロウィンの悪戯

「んー、こんなもんかな?」

あたしは鏡を見ながら自分の格好をチェックする。
今日はハロウィン。今年こそはあいつとハロウィンを過ごすんだという意気込みで、前々
からいろいろと準備してきた。
今あたしが着ている衣装は、黒とオレンジを基調にしたエプロンドレスである。ダークア
リスとかいって、あたしはやったことがないけどなんかゲームのキャラクターらしい。不
思議の国のアリスを大人っぽくした感じで、胸元とかも大きめに開けてある。

「あとはこれを持って・・・・・」

あたしはオプションであるウサギのぬいぐるみを抱える。薄ら笑いを浮かべた口元、人を
バカにしたような目つき、可愛いあたしとは対照的に何とも可愛くないが存在感があるぬ
いぐるみだ。

こっちのほうが本体なんじゃないの?

何となくそう思えてしまう。

「京介のやつはまだリビングかな?」

いつもは自分の部屋で勉強している京介だが、今日はお父さんとお母さんが知り合いの法
事とかで出かけていて明日の夕方まで帰らないので、リビングで勉強している。
理由を聞いてみると

『ここだと飲み物取りに行くのも便利だし、テレビも見られるしな』

と何とも不精なことを言っていた。

ほんと、あいつは受験生としての自覚はあるんだろうか。

そんなことを考えながら、あたしはリビングの扉の前に立った。そして深呼吸をすると、
勢いよく扉を開ける。

「Trick or treat!」

しかし何の反応もない。リビングのソファーを見てみると、いるはずの京介がいない。

えっ?あいつどこ行ったのよ・・・

なんか出鼻を挫かれてしまい、さっきまでの緊張感がなくなってしまう。そして緊張感が
なくなった途端、空回りな自分に恥ずかしさを感じてしまう。

くっそー、京介のやつ、あたしに恥じかかせて!

あたしは、心の中で京介に八つ当たりをする。
するとあたしの後ろから

「Trick or treat!」

と京介の声が聞こえた。
あたしは『しまった、やられた!』と心の叫びをあげながら、後ろを振り返る。そこには
何ともおかしなカボチャのマスクを被った京介が立っていた。

「ハハハハ、あんたその格好なによ」

あたしは思わず笑い出してしまう。あたしが笑い出したのを見た京介は、マスクを脱いで
何ともバツが悪そうな顔をする。

「何だよ、ハロウィンだからおまえを驚かせようとしたのに笑うことはないだろ」
「いや、だって顔だけカボチャで服が普通だから、可笑しくて」
「うるさい!これでも恥ずかしいんだぞ」

京介は照れ隠しなのか頭を掻きながらあたしの横を通り抜けてリビングのソファーに座っ
た。あたしもその後に続いてソファーに腰を降ろす。

「ごめん、あんたがこういうイベントに積極的だからつい・・・」
「まあ、今年くらいはおまえを楽しませてやらねーとって思ってな」

京介はいきなり恥ずかしい科白を吐いた。

「・・・キモ、あたしを楽しませるだなんて、なに恥ずかしいこと言ってんのよ。このシ
スコン」
「そんな格好して、おまえだって人のこと言えるのかよ」

あたしの格好をまじまじと眺める京介がそんなことを言う。
それを聞いてあたしは、今まで忘れていた最初の目的と自分の格好を思い出してしまい、
恥ずかしさがこみ上げてくる。

「変態、あんたどこ見てんのよ」

あたしは大きく開いた胸元を隠す。

「べ、別に変な意味じゃないぞ・・・おまえが可愛いって思ってだな・・・」

あんた、なに次から次へとそんな恥ずかしい科白吐けるのよ!あたしを萌え殺す気!?

「ふん!、なに当たり前のこと言ってんのよ、ほんとキモいんだから」
「おいおい、褒めてんのにそんなこと言うなよな」

あたしは京介の言葉に対して素直に反応することができない。あたしってば、ほんと不器
用なんだな。でもこのまま京介のターンを続けさせると、精神的にもちそうもないから、
何とか話題を変えないと・・・

「てか、あんた何であたしが来ることわかったのよ?」
「ん?ああ、参考書取りに部屋戻ったらさ、おまえの声が聞こえてきてな」
「なっ、あたしそんな大きな声出してたの?」

あたしと京介の部屋を仕切る壁は、すごく薄いのでちょっと大きな声を出すと隣に聞こえ
てしまう。だからあたしは、エロゲーとかするときはヘッドフォンをしてやっている。

「なに言ってるかはわかんなかったけど、結構自分で自分に気合入れてさ・・・」
「ーーーーーっ!」

ここまで気合入れてやったのに、なにやてるんだろう・・・・・

あたしは自己嫌悪で落ち込んでしまう。
京介はそんなあたしの頭にポンっと手を置いて

「落ちはあれだけどさ、準備とかいろいろ楽しかったんだろ?それでいいんじゃないか」

と優しく語りかけた。

ほんと、こいつはどこまで優しいんだろか・・・・・

「で・・・・・あたしお菓子持ってないけどどうすんのよ・・・」
「なんのことだ?」
「あんた、『Trick or treat!』の意味知ってんでしょ?」
「そういうことか・・・別にいいんじゃないか?」
「なに言ってんのよ、そんじゃあたしの気持ちがすまないつーのっ」
「それなら、おまえもそんな気合が入った格好して『Trick or treat!』って言ったんだ
から、俺もおまえにお菓子渡さないといけないじゃないか」
「なら、お菓子ちょうだいよ」
「もってねーよ」

お互いハロウィンの格好までは気が回ったようだが、お菓子にまでは気が回らなかったら
しい。ほんと似たもの『兄妹』だよね。

「そ、それじゃあんたがイタズラしないってなら、あたしはするから」
「おまえ、それはないんじゃないか?」
「うっさい、あたしは決めたの。悔しかったらあんたもあたしにイタズラすればいいじゃ
ない」

あたしはそう言うと、リビングを後にした。

翌朝、あたしは少し早めに起きるとお弁当を作り始める。お母さんが留守なこともあるけ
ど、京介へのイタズラを実行に移すためだ。さすがに料理は苦手なので、ご飯とコンビニ
の惣菜を詰めて何とか体裁を整える。
そして、いつもの時間になると京介が起きてきた。

チッ!起こしに行こうと思ってたのに・・・・・

あたしは、自分の手際が悪いせいで京介を起こせなかったことを悔やんだ。

「おはよう・・・って桐乃、なにやってんだよ」
「あっ、おはよう。ん?お弁当作ってるの・・・・・」
「おまえ、チャレンジャーだな。犠牲者は出すなよ」

京介はあたしの料理の腕をネタにからかってくる。

「うっさい、今日は大丈夫、自分で味見してオーケーだったから」
「まあそれならいいけど、俺はコンビニで何か買うか・・・」

京介は自分のお昼のことを心配しているようだ。

「大丈夫、あんたの分も用意したから」
「待て桐乃、まさか不出来なのを俺のほうに詰めてないよな?」
「はあ?あたしがそんなことするわけないでしょ。あんたのお弁当が不出来だったらあた
しが恥ずかしいんだからね」
「ん、そうか。疑ってすまない。でもどういう風の吹き回しだよ・・・」
「昨日、あんたにイタズラするとか言って、怒っちゃったお詫び・・・感謝して食べなさ
いよね!」

あたしは恥ずかしくなって、京介から視線を外して横を向いてしまう。京介はそんなあた
しの頭を撫でながら

「おまえががんばったってなら、感謝しながら食べるよ」

と言った。

「・・・キモ、あんたどんだけシスコンなのよ。そ、それじゃあたしはもう行くから」
「そうか、いってらっしゃい」
「・・・・・いってきます」

あたしは京介にお弁当を渡すと、学校に向かった。学校に行く途中、あたしのお弁当に感
謝していた京介の顔が浮かぶ。

悪いことしちゃったかな・・・・・

あたしが悩んでるというか悔やんでることは2つ。
ひとつは、手料理で京介のお弁当を作ってあげられなかったこと。あんなに喜んでくれる
なら、ちゃんとお料理の勉強をしておけばよかった。
そしてもうひとつは、京介のお弁当にイタズラをしたこと。別に毒入れたり、唐辛子を振
りかけたりなんてことはしてない。そんなことは食べ物に失礼だ。

「でもなー、ご飯にふりかけで『I(ハート)K.K』って書いたのはまずかったかな」

あたしはそんな独り言を言いながら、校門をくぐった。

Fin.




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最終更新:2011年10月30日 12:51