189 名前:【SS】微睡み中で 1/3[sage] 投稿日:2011/11/02(水) 22:10:19.25 ID:TxglhPKm0 [5/7]
どうしよう……やっちゃった。
あたしともあろうものが寝過ごしちゃうなんて……
それも、京介のベッドの上でなんて、まったくどうかしちゃってる。
ことの始まりは今日の午後、学校から帰ってきたあたしは、週に一度の『京介のお宝本チェック』に勤しんでいた。
先週からのエッチな本の追加はなし。その代わり、あたしが載ってる雑誌が二冊増えている。
よし!問題なし!
相変わらず妹モノの本は増えないし、エロゲの攻略も進んでいないけど、眼鏡っ子本も増えてないし、大目に見てあげよう。
それにしても、あたしですら忘れてたような、こんな古くてローカルな雑誌、京介はどうやって手に入れたんだろう。
あたしがモデルデビューしたばかりの新人の頃のだから、改めて見ると恥ずかしいんだよね。
う~ん。恥ずかしいからもって帰りたいけど、流石に買ったばかりの雑誌が無くなってると気づいちゃうよね?
仕方がない。この雑誌は置いておいて、代わりにいつもの通り眼鏡っ子本を一冊没収しておこう。
あたしは地味子にそっくりな女の子が書かれている眼鏡っ子本を一冊徴収すると、自分の部屋に持って帰った。
う~ん。(元)京介の眼鏡っ子本もずいぶん溜まってきたね。
今度のゴミの日に纏めて出しておかないと。秘密スペースに本を隠しながらそんなことを考える。
このスペースもちょっと片付けないと新たな置き場が―
「あれ?あたしちゃんと片付けてきたっけ?」
京介のお宝本、秘密スペースから出したまんまだった気がする。
流石に出したままなのはヤバイよね。
あたしは秘密スペースを隠すと、慌てて京介の部屋に戻った。
やっぱり片付けてなかった。
あたしはいそいそと京介のお宝本を秘密スペースに戻していく。
京介のことだし、少しぐらい場所が変わってても気づかないだろうから、眼鏡っ子本を奥へ、あたしの雑誌を取り出しやすいように前へっ
と……
よし!これでOKっと。
京介が帰ってくるまで時間があるし、それじゃあ次は何しようかな……ゲームか、エロゲか、勉強の予習復習か、それとも―
「……ふわぁ」
なんだか眠い。
最近ゲームの発売ラッシュのせいで寝不足みたいだ。
「お昼寝にしよ」
10分のお昼寝は夜の数時間分の睡眠に相当するらしいし、ここは素直に寝て、睡眠不足を解消しておこう。
あたしは京介のベッドにモゾモゾともぐりこんだ。
あまりに眠くて自分の部屋に戻るのが面倒なのだから仕方がない。
部屋に戻るまでに眠気が消えちゃうのも本末転倒だしね。
京介は地味子と図書館で受験勉強するって言ってたし、あと夕飯直前まで戻らないはずだ。
10分だけ眠って、その後ちゃんとベッドメイクしておけばバレないよね。先月も何も言われなかったし。
あたしは枕に頭を乗せ、布団を身体に掛けると、京介に貸してあげた『アニくじ桐乃クッション』を抱きかかえた。
……暖かくて、いい、気持ち……京……介の匂いがして……優しく……抱き…………
190 名前:【SS】微睡み中で 2/3[sage] 投稿日:2011/11/02(水) 22:10:37.38 ID:TxglhPKm0 [6/7]
………………ん……
……あれ?どうしてあたし寝てるんだっけ?
……ああ、寝不足だからお昼寝してたんだ。
今の時間はあたしの体内時計だと……げっ。一時間くらいたっちゃってる。
京介はまだ帰ってこないと思うけど、早く起きないと……
……でも、あと5分だけ……
あたしがウトウトしながら寝返りを打つと、薄く開いた眼の先に京介が見えた。
はぁ!?
一瞬叫びそうになったが、何とかこらえる。
ちょっと待って。何で京介がいるの!?
あたしは京介に気づかれないように細心の注意を払いながら京介を観察する。
京介は自分の机の近くでなにやら本を鞄に詰めているようだ。
あいつ……勉強に使う参考書を家に忘れたな?
たぶんその事に気がついて、勉強を中断して家に参考書を取りに帰ってきたんだろう。
京介はいくつかの本を鞄から出し、いくつかの本を鞄にしまうと、その鞄を肩にかけた。
今からまた図書館に行くんだろう。京介が地味子と二人きりになるのはあんまり嬉しくないけど、今は早くこの部屋から出て行って欲しい
。
……もうバレちゃってるし手遅れなんだけど。
京介はあたしの方を窺いながらゆっくりと扉の方へと進み、一度ドアノブに手をかけたが、すぐに引き返してベッドの方へと近づいてきた
。
ええ!?なんでこっち来るの!?まさかあたしが起きてるのバレてる?
それとも、せっかくだからあたしと一緒に寝ようとか、寝てるあたしに悪戯しようとか考えちゃってるの!?
あたしは起きてるのバレたくないんだから、そんなことされても抵抗できないじゃん!
京介はあたしを起こさないようにするためかゆっくりと静かにあたしの方へと歩み寄ってくる。
ドキドキ。
果たして京介はベッドのすぐ隣まで来ると、ゆっくり腰を下ろし、あたしの顔を覗き込んで来た。
なに!?ま、まさかキスするの!?
寝てるあたしにキスなんて、そんなヒドいことしたら絶対忘れてなんかやらないし、あんたが参ったするまで何度だってやり返してやるん
だからね!
ドキドキドキドキ。
あたしは完全に目を瞑り、眠ったフリを続けながら、京介の行動を待つ。
しかし待てど暮らせど唇にはなんの感触も来ない。
なに?まさか寸前になってヘタレたの?
あたしがそう疑いかけた時、優しく、温かい感触が頭の上から伝わってきた。
「よく眠っていやがるな」
あたし、京介に撫でられてる?
「こうやって黙って寝てたら本当に天使なんだけどな」
黙って寝てたらってどういうこと!?
京介に問い詰めたいが、あたしは寝てることになってるんだから動くわけにはいかない。
―そもそも、頭を撫でる手が気持ちよくて、天使といわれたことが嬉しくて、体からどんどん力が抜けていく。
「やりたいことが山ほどあるのはわかるんだけどよ、おまえ頑張りすぎだぜ。
だからこうして睡眠不足になるんじゃねえか」
うるさい。
あたしだって分かってるから、こうやって月に一度くらいあんたのベッドでお昼寝してるんじゃん。
「それにしても、時々お袋にしてはベッドメイクがキチンとなってたり、クッションからおまえの匂いがしてたのは、
こうやっておまえが寝てたからなんだな」
げっ。京介のクセに気がついてた。それじゃあまさか―
「そんなに俺の布団が好きなら、言ってくれりゃ取り替えてやるのによ」
……しょせん京介か。
気づいていなくてホッとしたような、残念なような……
「…………」
喋りたいことは喋り終わったのか、京介は静かにただただあたしの頭を撫でる。
寝顔を見られるのだけでもイヤなのに、頭なんか撫でられたらせっかくセットしておいた髪が崩れちゃうじゃん。
やっぱり文句が言いたくなるケド、頭を撫でられるたびに力が抜けていくため、もう瞼を開けることすら難しい。
……ねえ……京介……
「……こうやって頭を撫でてると、桐乃のことが―」
……気持ち……もっと……撫で…………ありがと…………
191 名前:【SS】微睡み中で 3/3[sage] 投稿日:2011/11/02(水) 22:10:57.36 ID:TxglhPKm0 [7/7]
………………ん……
……あれ?どうしてあたし寝てるんだっけ?
……ああ、寝不足だからお昼寝してたんだ。
今の時間はあたしの体内時計だと……げっ。二時間くらいたっちゃってる。
「ん……!」
あたしは状態を起こすと軽く伸びをした。久し振りによく寝たなー。
体がすごい軽い。今なら三徹くらい簡単にできそう。リアとかけっこしても絶対に負けない自信がある。
あたしはもぞもぞとベッドから出ると、軽くストレッチをしながら、今さっき見た夢を思い出す。
あたしが寝てる間に京介が帰ってきちゃって、あたしは京介に頭を撫でられながらもう一度寝ちゃう夢。
今思い出しても顔が赤くなるような恥ずかしい夢だ。
あたしのことが大嫌いなあいつがあたしを起こしもせずに優しく頭を撫でるなんてありえないし、
あたしがあいつに甘えて、撫でられるままになるなんてもっとありえない。
……でも、すごくいい夢だった。
あたしは緩みそうになる頬に活を入れると、京介のベッドを整える。
ちょっときっちり仕上げすぎた気もするけど、京介のことだし気づかないだろう。
それに『帰るときにはより綺麗に』はマナーだしね。
ふと思い立ってクッションに顔を近づけてみる。
あたしの匂い、しないよね?
特別嗅覚がいいわけじゃない限り、絶対に気がつかないだろう。
去り際になんとなく部屋の鏡を覗くと、髪が少し乱れているようだ。もともとハネやすい髪だし、二時間も寝てたら乱れもする。
部屋に戻って髪を整えないと。京介はまだ帰ってきてないみたいだけど、このまま顔を合わすわけにはいかない。
あたしは部屋に戻ると鏡台の前に座り、髪を整える。
頭には心地いい温かみが残っているため名残惜しいが、このままにしておくわけにはいかないので櫛で梳く。
「~♪~♪~♪」
なんとなく機嫌がいいので鼻歌を歌う。
「ただいまー」
髪を梳き終わるころ、京介が図書館から帰ってきた。
今は機嫌がいいから京介にあたしの顔を見せてやろう。
あいつはシスコンだから、それだけできっと喜ぶはずだ。
「おかえり」
京介が部屋の前を通るのを見計らって扉を開ける。
京介は部屋の前で立ち止まり、あたしの方をじっと見つめる。
「……なに?」
「……なんでもねえよ」
京介の返事に少し違和感を覚えたが、ぶっきらぼうなのはいつものことだ。気にしなくていいだろう。
あたしはふと思い立ち、右手を大きく伸ばすと京介の頭の上に置いた。
「な、なんだ!?」
慌てる京介を気にせず、あたしは京介の頭を撫でる。
「……どう?」
「どうって言われてもな……」
感想を聞くが、あんまり色のいい返事じゃない。
「イヤ?」
撫で続けながら続けて聞く。
「……たまにはこういうのもいいかもな」
「そう」
ふ~ん。こいつ、頭撫でられるの嫌いじゃないんだ。
これからも、何度か撫でてみよっと。
「ねえ、今日の勉強のノルマ、もう達成したんだよね?」
「ああ。結構捗ったからな」
やっぱり地味子と一緒だと勉強が捗るのかな?
「それじゃあ、夕食後はフリーなんだね?」
「そうだな、予定はねえよ」
「それじゃあ今日は寝るまで付き合ってよ」
「いいぜ」
心なしか、京介が笑みを浮かべた気がした。
あたしもそれに釣られるように、満面の笑みを京介に向ける。
「今日は体調がいいから、オールも覚悟しててよね!」
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最終更新:2011年11月03日 08:00