355 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/11/10(木) 00:25:48.71 ID:VXpo186s0
タイトル:季節外れのビーチクイーン
『妹で、そして恋人で・・・』続編その1
「じゃーん、おまたせ~♪」
桐乃は、雑誌から抜け出したようなポーズで俺に水着姿をアピールする。
ここは新しく臨海部に出来た総合レジャーランドである。宿泊施設と一体化された総合施
設で、冬でも遊べる大型の屋内レジャープールが目玉となっている。
俺と桐乃は恋人同士となった記念というか初デートとしてここを訪れた。もちろん俺から
誘ってみたんだけどな。
最初は水着姿を見せたくないとか駄々をこねてたが、来てみると結構乗り気である。
「おお・・・可愛いぞ」
桐乃が着ている水着は、ブルーとホワイトのグラデーションを基調としたシンプルなデザ
インのビキニで、胸元をヒモで結ぶようになっている。腰の両サイドもリボンのように結
ばれていて、全体的に少し大人びた感じがする。まあ桐乃が着ると、大人びたというより
は健康的な雰囲気だ。
「ふふーーん、なに惚れ直したのっ?」
水着姿に感動する俺を見て桐乃は、上機嫌な笑みを浮かべていた。
「おまえの水着姿って雑誌でしか見たことなかったけど、実物みるとやっぱ違うな」
しかし俺がそう言った瞬間、ちょっとムッとした表情に変わってしまう。
「ふん!雑誌のと一緒にしないでくれる!?」
「そうか?雑誌の水着姿だって結構可愛かったぞ?」
「バカ・・・あんたに見せる水着姿は特別だっつーのっ」
桐乃は聞き取れないような小さな声で何か言う。
「よく聞こえないけど、なんて言ったんだ?」
「うっさい、雑誌のは仕事で・・・その・・・余所行きなの・・・」
「よくわかんねーけど・・・」
「だから、あんたに・・・京介に見てもらうために、今日は特別・・・・・・・」
桐乃はそこまで言うと俯いてしまう。
以前の桐乃だったら、こんなことをまず言わなかっただろう。しかし恋人同士になったこ
とも手伝ってか、時折可愛いことを言ってくる。
まあ普段の口の悪さは相変わらずだけど・・・・・
俺はそんな桐乃が愛しくなり、優しく頭を撫でる。
「そっか、俺のためにがんばってくれたんだな」
「・・・マジキモい・・・わかればいいのよ」
桐乃は上目遣いで俺を見ながら、眉を吊り上げ少し怒った表情を覗かせている。しかしこ
いつなりの照れ隠しなのだろう頬は赤く染まっていた。
「よし、最初はどこに行こうか?」
「えっ、あ・・・・・・まずはあそこかな?」
桐乃が正面にあるウオータースライダーを指差す。
「それじゃ、行ってみるか」
俺は桐乃の手を握ろうとした。しかし桐乃は差し出した俺の腕に自分の腕を絡める。
「バカ・・・こっ、こうでしょ・・・」
「桐乃、おまえ・・・・・」
「べっ、別にいいじゃん。こっ、恋人同士なんだし・・・」
そう言って俺から視線を外す。俺たちはそのまま腕を組んでウオータースライダーに向か
った。
「おい、結構高いな」
桐乃が指差していたウォータースライダーは、3階建てぐらいはあろうかという本格的な
ものである。屋内施設と侮っていたが、上に昇るとその高さを実感できる。
「なに、あんたビビってんの?」
「別に怖くはないぞ、おまえこそ怖いんじゃないのか?」
俺は少し声を裏返らせながら、そう言う。しかし内心腰が引けていた。
桐乃はというと・・・結構平気そうにみえる。
「あたしは、全然っ平気」
「俺も平気だ・・・」
平気そうな桐乃を見て、弱気を見せられなくなった俺は見栄を張ってしまう。
「そう・・・なら行ってこい!」
そう言うと、桐乃は俺の背中を押した。俺はヨロヨロと転けそうになりながら何とかバラ
ンスをとろうとするが、結局頭からウォータースライダーへと飲み込まれていく。
『バシャーン!!』
そしてプールへとヘッドスライディングした。
「ゲホッ、ゲホゲホ・・・・・桐乃ッ、なにしやがる!?」
くそー、鼻に水入って頭痛いぞ---あとで覚えてろよ
俺は悪態をつきながら、スライダーに視線を移す。それと同時に歓喜の雄たけびをあげた
何者かが飛び出してくる。
「ヒャッホーーーーーーーーー!」
「桐乃!?」
桐乃はそのまま水面を滑り、俺にボディーアタックを食らわせる。俺は成す術もなくプー
ルに沈んだ。
「ちょっと京介、大丈夫?」
意識が遠のきそうになる中、そんな声が聞こえた。俺は必死に目の前にある何かにしがみ
つくと、水面から顔を上げる。
「------っ!」
「ゼェゼェ・・・・・死ぬかと思った・・・」
「あっ、あんたどこに・・・つかまってるのよ!?」
「・・・はっ?」
見上げると、怒りに打ち震える桐乃の顔がある。そして頬に感じる柔らかな感触が・・・
「-----っ!」
「変態!シスコン!死ねっ!シネッ!」
桐乃は俺の頭を両手で掴むと再びプールの底に沈めた。
「桐乃、俺を殺す気か・・・・・・」
桐乃の攻撃から何とか逃げ延びた俺は、ダウン寸前の状態でプールからあがる。プールサ
イドには休憩用のテーブルが用意されていて、そこで体力の回復を図ることにした。
「うっさい!あたしの胸に顔押し付けるなんて・・・どんな変態よ!?」
「俺だって必死だったんだよ・・・それで掴んだのが、たまたま・・・だいたいおまえが
突っ込んでこなければだな・・・」
「はあ?あたしが悪いっての?」
桐乃はジロリとこちらを睨んでくる。そんな桐乃の視線にビビり気味なった俺は、最大限
の譲歩を提示してみる。
「まあ、避けなかった俺も悪いか・・・お互いさまってことでどうだ?」
「ふん!あんたがそう言うんなら、そういうことにしといてあげる!」
桐乃も自分に非があるのがわかっているのかそう呟くと、ムスっとした顔で椅子から立ち
上がる。
「おい、どこ行くんだ?」
「なんかムカつくから、飲み物買ってくる。あんたはそこで休んでなさい」
そして売店のほうへ歩いていった。
「おまえ、それ一人で飲む気か?」
売店から戻ってきた桐乃の手には、ドデカいグラスが抱えられている。飲み物っていうよ
りは何かフルーツの盛り合わせにも見える。
「はあ?何言ってのよ。あんたも飲むに決まってんでしょ」
そう言うと、グラスをテーブルに置いて椅子に腰を降ろす。テーブルに置かれたグラスに
は、ストローが二本刺さっていた。
「おまえ、それカップル用!?」
「そう、なんかムカついたからこれにした」
「言ってること無茶苦茶だぞ」
「うっさいな、恋人同士なんだから問題ないでしょ?」
「そりゃそうだけど・・・・・」
「なんか文句あんの?」
そう言って桐乃は、『あたしが買ってきたんだからおとなしく飲め!』と言いたそうな顔
でこちらを見つめる。
「・・・・・おまえが恥ずかしくないってなら、俺はいいぞ」
「キモッ!あたしは恥ずかしくないわよ・・・あんたこそ恥ずかしいんじゃないの?」
「俺は・・・恥ずかしくないぞ」
そう言うと、証拠を見せてやるとばかりにストローを咥える。それを見た桐乃も、もう片
方のストローを咥える。
二本のストローで同じグラスの飲み物を飲む俺たち。すぐ目の前にある相手の顔が気にな
ってしまい、お互いに視線を交わす。
俺の視線が気になるのか桐乃は、少し頬が赤く染まり恥ずかしいそうな顔をしていて、も
う先ほどまでの怒りの表情は窺い知れない。
そして飲み物がなくなると、お互いにストローを離す。しかしストローから口を離しても
お互いの顔からは目を離すことはできない。そんな俺たちの間にわずかばかりの沈黙が流
れるが、すぐに桐乃は笑い出してしまう。
「プッ、ハハハハ・・・・・なにやってんだろうね、あたしたち」
「なんだよ急に笑い出して・・・」
俺は急に笑い始めた桐乃を不思議に思い、そんなことを言った。しかし桐乃は大きく背伸び
をすると
「でも、やりたかったことが出来て満足っ」
と言った。
「やりたかったことって、これがか?」
「そう、前から京介とこういうのやってみたかったの」
「そうか・・・・・他にもあるのか?」
「そりゃ、たくさんあるけど・・・少しずつやってかないとね。つまんないし」
「まあそうだな、先は長いし・・・・・」
そして今度はお互いに見つめると、どちらともなく笑い合った。
夕方まで遊んだ俺たちは帰路に着く。駅から家までの道のりを桐乃と手を繋いで歩いてい
る。腕を組んでるとまたなんか言われそうだけど、手を繋ぐくらいなら大丈夫だろう。
「桐乃、楽しかったか?」
「うん、楽しかった」
その言葉を聞いて、俺は桐乃に満足してもらえてよかったと安心した。
「そうか、よかった」
しかし桐乃は、何でそんなこと聞くのかと言わんばかりに不思議そうな顔をする。
「あんた、なに心配してんのよ?」
「そりゃ初デートだし・・・おまえに楽しんでもらえたか心配でな」
俺がそう言った途端、桐乃は歩みを止めて真剣な顔で真っ直ぐと俺を見つめる。
「あんたさ、バカじゃないの?」
「バカって言うなよ、俺は真剣なんだから」
桐乃の言葉にちょっとムッとする。
「あのね・・・あんたもさ、今日楽しかったんでしょ?何で楽しかったの?」
しかし桐乃も俺の言葉にムカついたのか眉をキュッと吊り上げた表情で捲くし立てる。
「もちろん、俺も楽しかったさ。何で楽しかったって言われりゃ・・・そりゃ、おまえと
遊べてつーか・・・一緒にいられたからな」
そんな真剣な表情の桐乃に俺はたじろいでしまい、多少口篭りながらもその問いに答えて
いく。それを聞くと桐乃は表情を穏やかにして
「あたしも同じ・・・京介と一緒にいられたから楽しかった・・・そんだけ」
と言葉を紡いだ。そして辺りの様子を窺うと俺の肩に手を当て爪先立ちになり、唇を重ね
てきた。
「今日のお礼、また連れてってね♪」
そう言うと、桐乃は満面の笑みを浮かべるのであった。
Fin
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最終更新:2011年11月10日 03:19