839 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/11/20(日) 02:45:12.97 ID:2tMP6fLL0
タイトル:星に願いを・・・
「まったくレンタカーなんて・・・・・ほんと甲斐性なしなんだから・・・」
俺は桐乃の言葉にちょっとムッとなる。
俺たちは、今レンタカーに乗って深夜のドライブをしている。普段は親父の車を使って桐
乃とドライブとかに出かけているが、たまたま今日は親父が車を使っていて、それでレン
タカーになったわけだ。
「俺は大学生なんだから車なんて持てねーって」
「バイトやってんだったらさ、あたしが千葉マツダに口聞いてあげよっか?安くなるかも
よ」
「おまえ、さりげなく営業すんじゃねーよ。てか車買っても駐車場とか税金とかいろいろ
あんだから、社会人になるまでマイカーはお預けだ」
「ふん!そんじゃあんたが就職するまで我慢してあげる。まあレンタカーでもあんたのド
ライブには付き合ってあげるから、感謝しなさいよねっ」
桐乃は助手席で踏ん反り返りながらそんなことを言う。しかしその横顔には薄っすらと笑
みを浮かべていた。
「そういやさ、今日はどこ行くのよ?」
「ああ、今日は何か流星群が見られるらしいんで、山のほうに行って見てみようかなって
思ってよ」
俺がそう言うと、桐乃は俺のほうに顔を向けて突然ニヤついた笑みを浮かべる。
「そんなロマンチックなこと言っちゃってさ、ほんとキモいんだから」
「バカ、別にいいだろ・・・・・そうじゃないと誘う理由なんて思いつかなかったし」
「マジキモい、どんだけあたしをドライブに誘いたいわけ?このシスコン」
「おまえだって、買い物とか遊びとかで俺に付き合えって言うじゃねーかよ」
「うっさいな、あたしは妹だからいいのっ」
「なんだよそれ・・・・・」
俺は桐乃の科白に突っ込みを入れる。まあ本気で言ってるわけじゃない。あくまで目的地
に着くまでの暇つぶしだ。桐乃もそれはわかっているのだろう、ツンっとしてはいるが本
気で怒ってはいないようだ。
いろいろ遠回りしてきたが、今の俺たちはいつもべったり引っ付いているちょっと変な兄
妹って関係だ。べったりっていっても、こうやってドライブしたりとか、買い物行ったり
とか、まあその程度だけどな。
俺たちを知らないやつらが見たら、もしかしたら恋人同士に見えるかもしれない。しかし
俺たちは兄妹だ。
でもよ、兄妹と恋人の差って何なんだろうって俺は思うよ。
2時間くらい走ったであろうか、俺は街の明かりが遥か先に見える小高い山の山頂付近に
車を停める。そこは広い駐車場になっていて、周りを遮るものもあまりなく家とかの明か
りもない。だから普段見ることができない小さな星々まで見ることができる恰好のスポッ
トである。
「あんまり人いないな・・・」
「そうだね、こんな寒空に外出て星見ようなんて人もいないのかもね」
駐車場には数台の車が止まっている程度で閑散としている。車を止める場所もないかもと
心配していた俺であったが、この状況にちょっと拍子抜けしてしまう。
「どうする、俺たちも外出て見るか?」
「うーん、寒いから車の中でいいんじゃないの?」
「そっか、貸切とはいかねーがここでゆっくり眺めるか」
「そうだね」
俺は車のエンジンを切ると、少しシートを倒して寝転がりながら星空を眺める。それを見
た桐乃も同じようにシートを倒して星空を眺めている。
「桐乃、寒くないか?」
「うん、寒くない・・・」
「寒かったら言えよな。エンジンかけてやっからさ」
「なによ、あんたが暖めてくれんじゃないの?」
桐乃は俺のほうを向くと、ニヤニヤした顔でそんな冗談を言ってくる。俺はそんな桐乃に
ちょっと呆れたような顔をすると
「バーカ、そんなこと言うとほんとにやるぞ」
と切り返してやった。
「キモッ!なに本気にしてんのよ、このシスコン」
桐乃はそう言ってツンっと口を尖らせると、星空に顔を向ける。
俺たちはそんな他愛もないやり取りをしながら星を眺める。もっと静かに見れないのかよ
って自分でも思うが、まあこれが俺たちなんだろうよ。
しばらくすると、何となく桐乃が寒がっているような気がした。
「おい、エンジンかけるか?」
すると桐乃は
「エンジンかけると、回りに迷惑だからさ・・・あんたがこっち来てよ」
と言いながら、座席の片側に身を寄せる。
「バカ、そんな冗談言うと本気にするぞって言っただろっ」
「うっさいな、あたしがいいって言ってんだから、こっち来なさいよね」
俺は桐乃に押し切られるまま、助手席に移った。シートは二人が並んで座れるような幅も
ないので、俺たちは体を少し横にして抱き合いながらシートに収まる。
顔を横にするとお互い見詰め合ってしまい恥ずかしくなるので、俺たちは星空に視線を向
ける。
「あんたの体ってさ、暖かいね」
「おまえも何かいい匂いするな」
俺は桐乃の温もりと匂いを感じながら、星空を眺める。桐乃も俺の体温を感じているのだ
ろう先ほどまで感じていた寒そうな雰囲気はなく、同じように無言で星空を眺めているよ
うだ。
すると、星空の一角から幾筋もの光が流れ始まる。まるで線香花火の光のように流れては
消え、消えてはまた流れる。
「ほら、流れ星!」
突然桐乃が星空を指差しながらそう言った。
「ああ、そうだな」
俺は静かに答える。
「願い事言った?」
不意に桐乃がそんなことを言う。
「えっ?まあな・・・・・・桐乃は何か言ったのか?」
俺は戸惑いながらそう答える。
「うん、言った。あんたのお願い当ててあげようかっ」
「俺もおまえのお願い当てられるような気がする」
「それじゃ一緒に言ってみる?」
「そうだな・・・」
俺の言葉を合図にお互いタイミングを合わせると
「「ずっと一緒にいられますようにっ!」」
俺たちはお互いの願い事を当て合った。桐乃が言った俺の願い事は当たっていた。俺が言
った桐乃の願い事もきっと当たっているだろう。俺たちは、お互いの願い事が同じであっ
たことに安心して微笑み合った。
「兄妹で、こんなお願いって何か変だな・・・・・」
「そう?あたしはいいと思うけどな」
「だってよ・・・・・恋人とかがお願いすることだろ?」
「あんたはさ、兄妹と恋人ってどこが違うと思う?」
桐乃はそう言うと、また星空に視線を向ける。
「兄妹と恋人の違いか・・・・・」
俺も星空に視線を向けながら、考えてみる。
桐乃のやつも同じこと考えてたんだな・・・
血が繋がってるから兄妹なのか?血が繋がっていない兄妹だっているしな・・・
キスとかしてるから恋人なのか?そんなのしないでも恋人同士っていえるやつらだってい
っぱいいるよ。
だから俺はよ・・・・・・・・
「どうわかった?」
「ああ、なんとなくな・・・」
自分なりの考えがまとまった俺は桐乃にそう答えた。それを聞いた桐乃は、こちらに顔を
向け
「そんじゃさ、聞かせて・・・」
と言った。俺も桐乃に顔を向けると
「兄妹と恋人の違いってよ、お互いがどう思ってるかの差くらいしかないんじゃないかと
思うよ」
と答えた。
「あたしも同じっ」
「・・・なんだよ、おまえもかよ」
桐乃は微笑みながらそう返してきた。それを聞いた俺は『まったく似たもの同士だな』と
思ってしまう。
しかしその後に続いた桐乃の言葉は俺の予想を超えていた。
「だからさ、あたしたちだって・・・・・キスとかしてもいいんだと思う・・・」
そう言って、桐乃は目を閉じた。
「-----っ!」
俺は突然の桐乃の行動に一瞬固まってしまう。しかし真っ直ぐと向けられた桐乃の顔に自
然と引き寄せられて・・・・・・・・
この夜、俺たちのちょっと変な兄妹って関係は、新たな一歩を踏み出したのであった。
Fin
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最終更新:2011年11月20日 07:26