287 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/12/06(火) 00:04:38.42 ID:A0HkKx8Z0
タイトル:聖夜の予感
--今年もあと残りわずかとなった休日、俺は桐乃と二人で街に買い物に出かけていた。
もちろんお決まりの桐乃の荷物持ちだけどな。
最初のうちはいろんな店を回って服を見ていた桐乃はというと、自分の買い物がひと段落
して満足げな笑みを浮かべていたのだが・・・・・
「あんたさ・・・ちょっと地味すぎない?買い物付き合ってくれたお礼に、あたしが服を
選んであげる。感謝しなさいよね」
なんてことを突然言い出して、今度は俺の服を探すために店めぐりを始めてしまった。俺
の服なんてどうでもいいんだけどよ、こうなった桐乃は止められないからな・・・・・
「これなんかどうかな?」
桐乃が一着の服を持ってきて、俺の背中越しに胸元に当てる。
「ちょっと派手すぎないか」
「そうかな?あんたは普段来てる服が地味すぎっていうか、無難すぎるんだからこれくら
いがちょうどいいのよ」
「そうか・・・・・?」
鏡に映る俺は、何となく自分じゃないような感じがする。まあ似合わないってわけじゃね
えけどよ・・・・・なんか落ち着かない雰囲気なんだよな。
「・・・・・ほら、ぼーっとしてんじゃないわよっ!」
「ああぁ、わるい・・・ちと考えごとしてた」
「これとこれ・・・ちょっと試着してみてよ」
桐乃に急かされた俺は、渋々渡された服を試着してみる。
「どうだ、これ?」
「やっぱ、あたしって完璧じゃない。ちょー似合ってるって」
桐乃は得意げな顔をしながらそう言った。
「そうか?俺としちゃ、なんか落ち着かないんだけどな・・・・」
「慣れれば大丈夫だって・・・それにあたしの服とも雰囲気バッチリでしょ」
桐乃は俺を鏡に向かせると隣に並ぶ。確かに鏡に映る俺の姿は、隣に並ぶ桐乃の雰囲気に
馴染んで、あんまり違和感が感じられない。
「おまえと一緒なのが基準かよ」
「ハア?あたしとデ・・・・でかけるときの服なんだから別にいいでしょっ」
「別におまえとでかけるときくらい、何着たっていいじゃねえかよ」
「うっさいな、あたしが選んであげてるんだから文句言うんじゃないわよ。はい、次はこ
れ!」
桐乃はそう言って別の服を俺に渡すと、さっさと着替えろと言わんばかりの眼差しを俺に
向けた。
「おい、こんなに買ってもらっていいのかよ?」
「あんた、なに心配してんのよ。あたしが言ったんだから別にいいって」
あの後、何着かの服を試着させられ桐乃が気に入ったやつを買うことになった。
俺は
「桐乃が一番気に入ったやつでいい」
とは言ったのだが、
「いっつも同じ服ってわけいかないでしょ」
と言いガンとして聞かなかった。
「そう言ってもな・・・・・・って、あれ?」
桐乃に申し訳ないというか、俺の意地を通したいというか、半分でもいいから金を出させ
てもらおうと俺は考えていた。しかし当の説得中の桐乃からの返事がないのを不思議に思
い横を向くと、さっきまで一緒に歩いていた桐乃の姿が忽然と消えていた。
おい、どこいったんだよ・・・・・・
辺りを見回すと、さっき何気なく通り過ぎたショーウインドウの前に立ってぼーっと中を
眺めていた。
「おい、桐乃なにやってんだよ」
そう言いながら桐乃の隣に立ち、俺もショーウインドウを覗いてみる。
そこにはライトアップされた厳かな空間の中で幸せそうに見つめ合う二人のマネキンがい
た。一人は真っ白なタキシードを颯爽と着こなしている。そしてもう一人は、透き通った
レースに飾り付けられた純白のドレスを纏っている。頭にも透き通る白いヴェールが被せ
られて・・・・・
こいつ、これを見てたのか・・・・・
「なにあんたも見てんのよ・・・・・マジキモい」
桐乃は隣でショーウィンドウを眺める俺に気づき、こちらに顔を向けた。
「桐乃も着てみたいのか?」
「そんなの当たり前じゃん!あたしだって女の子なんだし・・・・・」
「そういってもよ、おまえ仕事とかでたまに着たりすんじゃねーのか?」
「バカ、仕事とプライベートは別だってのっ」
桐乃はそう言うと、寂しそうな顔で俯いてしまった。
おいおい、そんな顔すんなよ・・・俺が悪いこと言っちまったみたいじゃないか。
まあ確かにプライベートと仕事は違うけどよ・・・・
俺は桐乃の反応に少し戸惑い、何とか機嫌を直せないかとあれこれ考えてみる。
するとすぐ脇にある入り口の看板が目に留まった。
へー、ここってそういう店なのか・・・
まてよ・・・これなら機嫌直してもらうついでに服の礼もできるかもな・・・
俺は看板にざっと目を通すと、とあることを思いついた。
「おい桐乃、こういうの着てみたいんだよな?」
「さっきからそう言ってんじゃん。もちろん仕事以外でだけど・・・」
桐乃は顔を上げるとそう答えた。
「よし、俺が着せてやるよ」
俺は感謝と詫びの気持ちを込めてそう言った。すると桐乃は耳まで真っ赤にして、酸素不
足の金魚のように口をパクパクさせる。
「あっあんたが着せてくれるって・・・・・プププロ-----っ!」
そしてなにを言おうとしたかわからないまま、固まってしまった。
「おまえ、どうしたんだよ?まあいいや、行くぞ」
俺は固まったままの桐乃の手を握ると、引きずるようにしてショーウインドウのある建物
に入っていった。
「それではこちらでお待ちください」
係りの人に案内された俺は、広めの待合室のような部屋に通される。
「なんで俺まで着替えねーといけないんだよ・・・」
ソファーに腰を降ろしながら独り言を呟く。ほんとは桐乃だけのつもりだったんだが
「一人だと・・・・・あれじゃん、だから・・・あんたも付き合いなさいよね」
との桐乃の一言で、俺まで着替えることになってしまった。
ちなみに今の俺の格好はというと、白のタキシードにオールバックと新郎役というよりは
マネージャーの色違いと言えなくもない。桐乃はというと、さすがにあれだけの衣装を着
るのには時間が掛かるのだろう、まだ姿を現さない。
「お待たせいたしました」
しばらくすると、待合室の扉が開いて先ほどの係りの人が入ってきた。そしてその後ろに
桐乃が続く。
「-----っ!」
桐乃の姿を見た俺は、その姿に言葉を失ってしまう。
桐乃は、透き通るレースに彩られた純白のドレスを纏っている。そう先ほど、ショーウィ
ンドウに飾られていたあの衣装である。無機質なマネキンが纏っていても厳かで清楚な雰
囲気を醸し出していたそれは、桐乃が着ることでより艶やかさを増している。
こいつのこんな格好は一度みているが、あれはあくまで仕事である。今は俺以外見るやつ
はいない。
「だっ、黙ってないで、何とか言いなさいよっ」
桐乃も俺に見られるのが恥ずかしいのか、頬を赤らめながら俯いている。
「わりい・・・あんまり綺麗なんで見とれてた・・・」
桐乃に感想を急かされた俺であったが、突然のことで気の利いた言葉を口にすることがで
きなかった。
「バカ、あたしはなに着たって似合うんだっつーの」
と素っ気ない返事を返す桐乃であったが、頬を染め恥ずかしそうな表情を浮かべる。
「それではこちらにどうぞ」
俺たちのやり取りがなかったかのように係りの人は淡々と自分の仕事をこなしていく。文
句を言ってもしょうがないので、俺は桐乃を連れて後をついて行く。
すると小さなチャペルのようなセットが置かれたスタジオに案内された。
「お待ちしていました、こちらへどうぞ」
スタジオには、落ち着いた物腰の老紳士が立っていて穏やかな笑みを浮かべている。俺た
ちは老紳士にセットの前へ案内され、撮影の説明を受ける。
「それでは、この位置で撮りますから自然に・・・そう寄り添うようにして・・・」
老紳士・・・いやカメラマンがアドバイスをする。桐乃はそれを聞くと真剣な顔になり、
自然な感じで俺の腰に腕を回してくる。俺はというと、ぎこちない手つきで桐乃の肩に腕
を回した。
「ほら、ちゃんと背を伸ばして・・・胸張って!」
しかし桐乃は、そんな俺を見ると眉をつり上げてダメ出しをしてくる。
「別にいいだろ、俺はオマケみたいなもんだから・・・」
「うっさい、一緒に写るあたしが恥ずかしいってーの!」
俺は桐乃にバシッと背中を叩かれて背筋を伸ばす。
「準備ができたようですね・・・それでは撮ります」
俺たちのやり取りを笑みを浮かべながら眺めていたカメラマンがそう言った。俺もカメラ
マンの言葉を聞いて、なるべく不自然にならないように笑顔を作る。すると
『パシャッ!』
目映いフラッシュとともにシャッターが切られる。
「はい、次はこちらに立ってください」
写真は1枚だけかと思っていたが、カメラマンは別な場所に俺たちを誘導すると再びカメ
ラをかまえる。俺はその度に桐乃にダメだしされて、何とかポーズを作ると桐乃と一緒に
写真に納まっていったのであった。
ゆっくりと夕日に染まりつつある街並みは、ぽつぽつと明かりが灯り始めている。昼間は
気づかなかったが、すでにクリスマスの飾り付けがされていて、煌びやかな様相を呈して
いる。
「ふふふっ・・・・・」
「おまえ、いつまでそれ眺めてニヤついてんだよ・・・」
桐乃は受付で受け取ったアルバムを眺めながら、ニヤニヤと笑みを零している。もちろん
アルバムにはさっきの写真が収められている。
「だってさー、あたしってちょー可愛いじゃない」
桐乃はそう言いながら、アルバムを俺の目の前で広げる。
確かに写真の中の桐乃は、純白のウエディングドレスを纏い穏やかな笑みを浮かべている。
しかも俺と一緒に写ってだぞ。こいつのこんな表情は、雑誌の写真でも見たことのないす
ごく生き生きとしたものである。
「まあ、おまえが満足してくれてよかったよ」
写真を見る桐乃、そして写真の中の桐乃、どちらも満足そうな笑顔を見せてくれて俺も、
誘った甲斐があったと思った。
「キモッ、まあ・・・あんたとしちゃ、めずしくマトモな選択だったかも・・・」
桐乃は、俺から視線を外すと頬を染めている。
まったく、褒めるんならちゃんと褒めろよな・・・
そんなことを考えながら、二人並んで師走の街をゆっくりと歩んでいく。
「ほら、ここだよ」
「結構でかいんだな・・・」
桐乃が見てみたいと言っていたツリーは、色鮮やかなイルミネーションを灯し夕闇の中に
目映い姿を映している。
「あんたさ・・・今年もクリスマスは暇だよね?」
ツリーを眺めていた桐乃が、くるりと振り返るとそんなことを言ってくる。
「おまえ、ムカつくこと言うな・・・・・まあ、確かに暇だけどよ・・・」
「そんじゃさ、あんたのクリスマスはあたしが予約しとくから」
クリスマスに予定がないのを指摘されてちょっとムカついた俺だが、突然の桐乃の言葉に
不覚にも動揺してしまう。
「おっ、おまえ、クリスマスの予約って・・・俺と!?」
「キモッ!かっ勘違いしないでよね・・・あんたが一人ぼっちだと可哀想だから、あたし
が一緒にいてあげるって言ってんの!感謝しなさいよねっ」
桐乃はそう言うと、プイッっと回れ右をして再びツリーに顔を向けた。
まったく、今年も桐乃とクリスマスかよ・・・・・まあ、一人でいるよりはマシだけどさ
それによ・・・おまえと一緒にいるのってそんなに悪くないぞ
そんなことを考えながら俺も桐乃の横に並び、一緒にクリスマスツリーを見上げるのであ
った。
Fin
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最終更新:2011年12月08日 23:46