909 名前:ローカルルール追記議論中@自治スレ[sage] 投稿日:2011/12/11(日) 11:12:02.68 ID:bt11xx9k0 [2/5]
12月24日、高校生活最後のクリスマスイブ。
恋人たちが愛をささやき合う聖夜に俺は……一人で机に向かっていた。

運命の受験日は、来月に迫っている。
試験自体には余裕があったが、さすがに遊び呆けているわけにはいかなかった。

親父とお袋は出かけちまって、家には俺と桐乃しかいない。
俺は一日中机に向かいっ放しだし、桐乃も何故か外出せずにいそいそと部屋に篭っている。

なんとも味気のないクリスマスイブ。
でもまぁ、これはこれでいい。

クリスマスは何回でもやってくるが、この時間は二度と帰ってこない。
ここで手を抜けば、あいつらや、桐乃に顔向けできなくなる。

そんな強い信念が、今の俺を突き動かしていた。



部屋のドアがノックされたのは、しばらく経ってからのこと。

「……あたし。入るよ」

手を止めて振り返ると、カップを持った桐乃が部屋に入ってきた。

「何か用か?」
「ん……ココア淹れてきた」

え?

状況を整理するまで、少し時間がかかった。
桐乃がココアを……俺に?

唖然としている俺を見て、桐乃はニヤニヤと笑みを浮かべている。

「なーにぃ?あんた、妹にココア淹れてもらって、そんなに嬉しいワケぇ?」

い、いや、確かにそれは否定しないけれども……
……なんでココアが泡立ってんだ?

「へへへ……あんたに力が付くように色々入れてきてあげたから、感謝しなさいよね」

ちょ……一体何を入れたらそうなるんだよ!
見るからに体に悪そうだよそれ!漂ってくる匂いもなんか変だし!


……と、そこで俺は、桐乃の様子がどこかぎこちないのに気づく。

「ん?お前、後ろで何隠してんだ?」
「え!?あっ、こ、これは…………きゃっ」

俺の指摘に慌てた桐乃は……床のバッグにつっかかって盛大にコケた。

「お、おい!大丈夫か!?」
「あっ……ご、ごめん!ヤケドしなかった!?」
「俺は大丈夫だよ」
「で、でも服が……」

桐乃のココアを一身に浴びて、俺の服はグショグショになっていた。

「これくらい洗えば落ちるさ。それに、あんな所にバッグ置いてた俺も悪いんだ」
「うっ……」

桐乃は小さく呻き、そのまま俯いてしまう。
俺は努めて明るい声を出した。

「ちょうどいいから風呂入ってくるわ。もういいから気にすんな」
「あ……」

何かを言いかけて、桐乃は口をつぐんだ。
それから目を伏せて、小さな声をしぼり出す。

「……本当にごめんなさい」

俺は桐乃の頭をくしゃくしゃと撫でて、部屋を出て行った。



「ふぅ……」

熱い湯に肩まで浸かって、俺は大きく息を吐いた。

……お気に入りの服だったんだがなぁ。
あんな顔されたら、怒るに怒れないじゃねぇか。

俺はそのまま鼻まで潜り、ぶくぶくと泡を立てる。

それにしても……桐乃があんなに素直に謝るとは。
普段は威勢を張っているだけに、あんな表情を見るのはかなり新鮮だった。

……あいつも変わったもんだ。

浴槽に身をゆだねると、自然と笑みがこぼれてきた。

そういえば去年の今頃は、桐乃と渋谷に行ってたっけ。
二人でアクセサリ買いに行ったり、服見に行ったり、ライブに行ったり……
……兄妹で行ってはいけない所にも行った気がしたが、それはまぁ、いいだろう。

ゆったりと湯に浸かりながら、1年前の思い出をたどっていく。
……こういうクリスマスも悪くないかもしれない。



風呂から上がって脱衣所に行くと、着替えが用意してあった。
この間買ったばかりのパジャマが、きれいに折りたたまれてカゴに入っている。

……あいつが用意してくれたのか。

俺はバスタオルで体を拭き、衣類に袖を通していく。
最後に上着をカゴから取り出すと、その下に見慣れないものが置いてあった。

色鮮やかな包装紙に、真っ赤なリボンが飾られている。

「これってまさか……」

サンタクロースを信じていた子供のころ。
枕元にプレゼントが置いてあったときの、あの高揚感が蘇ってくる。

思わず手に取ると、包装紙の隙間から小さなカードがひらひらと落ちた。


『メリークリスマス!     可愛い妹より』


あいつ……
俺は胸の鼓動を抑えながら、丁寧に包装紙をはがしていく。

出てきたのは毛糸のマフラーだった。
でかでかと刺繍された文字を見て、俺は思わず噴き出してしまう。


『がんばれシスコン』


桐乃のやつ……どこでこんなマフラー見つけてきたんだよ。
こそばゆい気持ちになりながらも、さっそくマフラーを首に巻きつけてみる。

「あったけぇ」

巻きつけたマフラーからは、桐乃の匂いがした。
口に当てて息を吸い込むと、まるで桐乃に抱きしめられているような気分になる。


『あたしは、あんたの味方だから』


……ありがとよ、桐乃。

暖かい気持ちに包まれながら、そのまま脱衣所から廊下に出る。
冷え冷えとした廊下も、この時はなんとも思わなかった。

……試験会場には、このマフラーをしていこう。

ささやかな決意を胸に秘めながら、俺は階段をあがっていった。




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最終更新:2011年12月12日 22:45