41 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/12/20(火) 10:06:47.26 ID:sG0WOrXQ0 [1/2]
SSほんの少し先の未来



車の外はあいにくの雨。なのにあたしの心はほんのりと暖かい。
理由はきっと、あたしの隣のあいつのせい。

――ったく、間が悪いよな。折角の日が雨なんてついてねえ。

サイドガラスに流れる雨を横目で見ながらつぶやく京介。
その表情はあたしに済まない、と語りかけている。

そんなこと無いってば。あんたは最初の日にあたしを選んでくれたんだよね。
それだけであたしは超嬉しいんだよ?

京介はあたしの答えにぎこちなく笑いかけ、再び正面に向き直る。
その手に握られているのは、傷ひとつないまっさらなハンドル。
真っ白に包まれた車は始まったばかりのあたし達の関係みたい。

――初運転だと緊張しちまうな。

額の汗を拭いながら運転する京介。
時折あたしに視線を投げかけてくるのは、あたしを心配しての事だろう。

もう、心配しなくても、あたしはずっとあんたを見てるっての。
てゆか、そんなにあたしばっか見てたら危ないじゃん! あんたが怪我したらどうすんの。

信号待ちの僅かな間にあたしはハンカチで京介の汗を拭ってやる。
その幸せそうな表情を見てるだけであたしまで嬉しくなってくる。

――サンキュ、桐乃。このハンカチ、いい匂いがするぜ。まるでお前みたいだ。

何カッコつけてんの、このバカ。あたしの事なんてなんでも知ってるくせに。
京介らしくない乙女心をくすぐる言葉。だけどキュンとしてしまうあたし。

ねえ、向こうに着いたら思いっきり泳ごうね。もちろん、二人きりで。
あたしの水着姿を傍で見ていいのは、あんただけなんだから。
耳元で囁くように言葉を放つと、真っ赤な顔でちらりと視線だけ投げかけてくる。

――おまっ、突然何言い出すんだ!? つか向こうについても雨が降ってるかもしれねえぞ。
それでも……泳ぐのかよ。

至極当然の答えを返してくる京介。だけどその目はあたしの胸元を彷徨わせている。
そんな目であたしを見ておいて、何言ってんのっ。
あたしは、京介さえいればいいの。雨が降ってようが嵐が吹いてようがあたしにとって些細な
問題なんだから。

――そうだよな。俺もおまえがいれば他には何もいらないぜ。

車を止めた京介は、何かを求めるような表情であたしをじっと見つめている。
そんな顔されたら拒めないってば……。しょうがない、連れてきてくれたご褒美あげないとね。
あたしは京介にそっと顔を近づけていく。どんどん近くなる京介の顔。

――桐乃、愛して――。

京介の言葉をさえぎるように唇を重ねるあたし。

言われなくたって、あんたの気持ちはわかってるっての。あたしの行動が、その答えだから。
数瞬の後、あたしは京介から少しだけ距離を取る。視線の先には名残惜しそうな京介の顔。
そんな顔しないでってば……向こうに着いたら好きなだけ――ね。

あたしの答えに京介は前へと向き直る。

――約束だぜ桐乃。今日こそはお前と一つになるんだからな。

ば、ばかっ。言わなくても…………超恥ずかしいじゃん。
あたしの反応を満足げに見た京介は、前へと向き直る。その表情は少しだけ意地悪そうだ。
だけどその瞳はとても優しげな光を湛えながら、あたしを見ているのは雰囲気で分かる。

相変わらず変な所は意地悪なんだよね。あたしを好き過ぎて、あたしの事ばっか考えてる癖に。
あたしは軽く京介を睨み――左わき腹を抓ってやる。

――痛え! この……俺がいつもやられっ放しだと思うんじゃ――ねえよ!

言いながら京介はあたしを左腕で強引に抱き寄せる。京介のなすがままに胸元へと引き寄せら
れるあたし。
きゃっ! もう、京介ってば、いきなりなにすん――っ!?

――――――ふう。さっきのお返しだからな。

そう言い放つと京介はあたしをそっと席へ戻しながら、シートベルトを締めてくれた。
そして自分のシートベルトを締めると、ゆっくり車を走り出させる。
京介のやつ、いつの間にこんなに強引な性格になったんだろう。――でも。
あたしはまだ感触の残る唇を指先でなぞりながら、京介の横顔を見る。

やっと……一緒になれたんだから、今回は特別に許してあげるかんね――。

                   ◇

ガッタンゴットン……ガッタンゴットン……!

「しっかし桐乃のやつ、すっげぇアホ顔してんな。一体どんな夢見てんだ? ヒヒ」
「ま、まあいい夢見てんじゃねえのか? 長年抱えてた問題もほぼ解決しちまったし、卒業
してようやく桐乃のスタートラインに立てた感じだろうしな」
「桐乃の……ねえ。へー。桐乃専属のセクハラマネージャーは関係ねえのかヨ」
「あー……ま、まあ少しは関係あるかもな」
「……お兄さん、後で――分かってますよね?」
「ちょ! まてあやせ。お前は何か勘違いをしていると思うぞ!?」
「そうかあ? さっきからさあ、たまに『京介ェ』とか『愛し――』とか聞こえて来るんだけ
どヨ。――あやせ、どう思う?」
「ぶち殺します。――――幾ら認めたとは言え、時と場所を選んでくれなきゃ……ブツブツ」
「待てっ! なんで折角みんなで旅行に行く途中だってのに殺されなきゃなんねーんだ!? 
ていうか桐乃のあれは寝言じゃねえか!」
「桐乃が寝言を言うくらい如何わしい事をしているって事ですよね!」
「えへへ。楽しそうだね~」
「麻奈実! そこで煎餅なんて食ってねえで助けろ!」
「これ美味しいよ~。きょうちゃんも食べる?」
「違げぇ!! ――ったく桐乃のやつが変な夢みてるお陰で……ま、いいけどな」
「……相変わらず、この色ボケ兄妹は所構わず盛っているわね」
「黒猫、寝てたんじゃねえのかよ」
「お盛んなどこぞの兄妹(兄)の大声が聞こえたものだから」
「その人様に勘違いされそうな表現は止めろっつーの!」
「良いではござらんか。愛する二人と言うものには、周りは見えないのでござるよ」
「くっ畜生! やっぱり奮発して個室にしとくんだったぜ……」
「……ん……きょうす、け?」
「ほっ……桐乃。起きたか?」
「――――大好きっ! ……すぅ」
「お……おまっ」
「この兄妹は――」

「「「「「末永く爆発しナ!」しなさい!」するといいよ~」すればいいわ」するでござる」




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最終更新:2011年12月22日 21:19