39 名前:【SS】大逆転[sage] 投稿日:2011/12/29(木) 01:22:02.84 ID:83avQkZz0
【SS】大逆転 (原作第9巻『俺の妹はこんなに可愛い』&『突撃・乙女ロード!』続き、桐乃視点) 



「ふーん。結構キレイな学校じゃん?」

フェンス越しに見える校舎にあたしは呟く。
校庭では野球部、サッカー部、陸上部などが練習をしていた。
ここは弁展高校。そう、黒猫やせなちー、京介の通う学校だ。
あたしがこんな所にいる理由、知りたい?別に黒いのとかせなちーに用があって来たわけじゃないよ?
……あっ、だからって京介に会いに来たんでもないんだかんね!
実は……今日せなちーのお兄さんに会いに来たんだ。なんでせなちーのお兄さんかって?
前にせなちーから聞いた「京介ホモ疑惑」あったじゃん?アレ、京介に問い詰めてみたんだケド…………



『あんた、せなちーのお兄さんと付き合ってんの?』
『何を突然意味のわからん事を……。』
『だ~か~ら、せなちーのお兄さんのこと好きなのかって聞いてんの。』
『んなわけねーだろ!!あいつか!?あの腐った眼鏡だな!?くそ!人様の妹になんて事吹き込んでくれる!
いいか桐乃、俺が赤城のこと好きとかありえねぇ!男同士だぞ!?常識で考えろ!!』



……って、否定してたケド、あんなにムキになられると逆にアヤシイって思っちゃうよね。
実際、ホントに京介がホモだとは思わないケド、
京介の親友でライバルで、シスコンでガチホモってどんだけだよ!?
そんなせなちーのお兄さんにちょっと興味が湧いたんで会ってみたいなって思ったワケ。
そんで、せなちーに…………



『せなちーのお兄さんに会わせてくんない?』
『ダメです。』
『なんで速答!?そういう時は理由とか聞くもんでしょ?』
『とにかくダメです。それにお兄ちゃん受験で忙しいですし。』
『そっか、京介と同じ三年生だもんね。じゃあやっぱ図書館とかで勉強してんの?』
『いえ、推薦で体育大に行くみたいなので、むしろ体力とか筋肉が衰えないよう
部活引退した今でも毎日学校でサッカー部に混ぜてもらってるみたいです。冬休み入ってるのにですよ?
やっぱり一人でトレーニングするより筋肉質の男達にまみれてヤった方がいいんですかね?デュフフ。』
『……ふーん。』
『もちろん勉強もしてますよ。でも図書館でするより瀬菜ちゃんがいる家で勉強した方がはかどる。
とか言うんですよ?気持ち悪いですよね?』
『…………ふーん。』



……てな感じで軽くイラっとしたケド、せなちーにしてみたら、あたしのこと見て一目惚れしちゃったら困るよね。
あたしもあやせ達が家に来た時、気が気じゃなかったもん。
優しそうなお兄さんだね。とか言われたときなんか、フラグ立たないようにするのに必死だったもんね。
…………ハッ!やだ何言ってんのあたし!?あわわわわ……。今のは忘れて!!
あたしがそんな事するワケないじゃん?あはっ、あはは!冗談だから!冗談……。
と、に、か、く!せなちーのお兄さん、冬休みだけど学校にいるって分かったんで来てみたってワケ!

……ふぅ。……さてと、どうしたものか……。
来てみたはいいケド、あたしせなちーのお兄さんの顔、例の携帯の写真でしか見たことないんだよね……。
しかもちょっと遠目だったし、なんか変な顔してたし……。
それに……、会ったところでなんて言えばいいんだろ?
『あなたはホモですか?』……………………無いな。
……う~ん……。
なんて切り出すか思案してたらフェンスの向こうから声をかけられた。

「あれ?桐乃…ちゃん?」
「ふぇ?」

あたしは声のする方へ振り返る。
ヤバ、いきなり声かけられたんで変な声出ちゃった……。てゆーかなんであたしのこと知ってんの?
……もしかしてこの人が…………。

「やっぱり桐乃ちゃんだ。」
「赤城……さん?」
「俺のこと知ってるんだ。」
「……えっと、京…兄の携帯で見たので……。」
「あっ!アレ見たんだ。くそ~高坂のヤツ、俺には見せてくれないし転送もしてくれないのに……。
あのさ、桐乃ちゃんからもお願いしてくれないかな?あの写真、俺に転送するようにって。」
「……はぁ……。」

あの写真、京介が撮ったんだ……。
転送してもらえないってだけでこの悔しがりよう。
さすが京介とシスコン頂上決戦するだけのことはあるね。
でも転送のお願いはしないケドね。むしろ京介GJって感じ?
なぜか心の中で京介に賛辞を送っていた。

「ところで、誰か待ってるの?もしかして瀬菜ちゃん?瀬菜ちゃんなら今日部活無いから家にいると思うよ。」
「はい。知ってます。」

京介も地味子と図書館行くらしいし、黒いのは冬コミの準備で忙しそうだし。
あたしの知り合いが今日この学校にいないことは調査済みだもんね。
知られると後々めんどいし?

「……実は今日、せなちーのお兄さんに聞きたい事があって来ました。」
「えっ?俺?」
「はい……。えっと……、ですね…………、」

……ええい!グダグダ考えても仕方ない。ここは直球勝負で!

「あの!うちの兄貴と付き合ってるってホントですか?」
「……………………桐乃ちゃんの聞きたい事って……それ?」

あたしはコクリと頷く。するとせなちーのお兄さんは苦笑いをしながら否定した。

「そんなわけないでしょ。」

だよね。まぁ分かってた事だけど。
あたしが安堵の色を見せると、せなちーのお兄さんは急に微笑んで、とんでもない事を言い出した。

「そっか……。それでわざわざこんな所まで聞きに来たんだ……。
桐乃ちゃんてさ……、“お兄ちゃん”のこと大好きなんだね。」
「へ?そ、そ、そんなワケないじゃないですか!!
せなちーですね?こないだお兄ちゃんに言い付けてやるとか言ってたケド、
あの会話、どこをどうしたらそんな話になるワケ?意味わかんない!
いいですか赤城さん、あたしが京介のこと大好きとかありえないですし?兄妹ですよ?常識で考えてください!」
「……そっか。そうだよね。ごめんね変な事言っちゃって。」
「あっ……、すみません取り乱しちゃって……。でも……あいつには最近、
色々してもらってるというか……助けてもらってるというか……、感謝してるところはあるんです……。
それで……せなちーのお兄さんに聞きたい事があるんですケド……、」
「……あのさ桐乃ちゃん、ここじゃなんでしょ?俺、もう部活上がるから少し待っててもらえるかな?」
「……わかりました。でも……いいんですか?トレーニング中だったんじゃ……。」
「大丈夫、大丈夫。俺、もう引退してて遊びで参加させてもらってるだけだから。じゃあすぐに着替えてくるね。」

と、ダッシュで部室棟に向かって行った。
……あれがせなちーのお兄さんか……。
結構イケメンじゃん?京介を除けば、あたしの知ってる限りじゃ一番かもね。
でも……ホモなんだよね……?確かに筋肉質で背も高いし?ホモの素質は十分かも。
……って、最近せなちーのせいで、「筋肉=ホモ」みたいな思考になっちゃった。
ヤバいヤバい。気を付けよう。
なんて事を考えてるうちに、せなちーのお兄さんが戻ってきた。

「ごめんね。待たせちゃって。」
「いえ、あたしこそいきなり来ちゃってすみません。」
「いいって、いいって。気にしないでいいからね?」

あたし達は帰路を歩きながら話すことにした。



「……………………。」
「……………………。」

……ううっ、気まずい…………。
さっきいきなりあんな事言っちゃったし……、やっぱ失礼だったよね……?
それにあの質問、もう一回なんて聞けないよぅ。
でも先に沈黙を破ったのはせなちーのお兄さんの方だった。

「あのさ、いつも瀬菜ちゃんと遊んでくれてありがとね。
ところでさっきの……俺と高坂が付き合ってるとかって話なんだけど……、あれ瀬菜ちゃんから聞いたの?」
「……はい。」

せなちーのお兄さんは最初少し落ち込んだ様子だったケド、気持ちを切り替えて話し始めた。

「『してもらって嬉しかった事』って話だったよね?」
「はい……。あの……その前に、今日の事は兄には内緒にしてもらえますか?」
「いいよ。わかった。ん~そうだな……、してもらって嬉しかったって言うかさ、
もう瀬菜ちゃんの存在自体が嬉しいんだよね。俺の“妹”ってだけで十分なんだ。だから高坂も一緒だと思うよ。」

うわ……、しれっとそういう台詞よく言えるな……。こりゃ京介も苦戦する訳だ。

「……それは……そうなんですケド、そういう抽象的じゃなくて、なんてゆーかこう具体的に……えっと、
してあげて嬉しかった事とか、一緒にして楽しかった事とかでもいいです。」
「う~ん……、じゃあ一緒に買い物とか?」
「それはした事あります。そういう普通のじゃなくて、
もっとこう……兄のシスコンのライバルとして凄いヤツないですか?」
「ぐ……。じゃあコミケで荷物持ちさせられた事。兄妹でコミケとか中々ないでしょ?」
「それもあります。荷物持ちもさせましたし?」
「うぐ……。じゃあここからは本気でいくからね。えっと……瀬菜ちゃんにビンタしてもらった事!」
「それもあります。」
「マジで!?なんだよあのヤロ~、俺が得意げに自慢したのがバカみたいじゃんかよ……。」

へ~、ビンタされるって嬉しいもんなんだ……。
あの時の事、ちょっと引っ掛かってたんだよね。
そっか、嬉しかったんだ……。ふーん……。エヘヘ。

「他にはないですか?」
「瀬菜ちゃんに抱きつかれた事……。」
「あたしも……抱きついた事あります……。」
「……じゃ…じゃあ……………瀬菜ちゃんの……胸……触っちゃった……事……とか……?」
「それもあります。てゆーか妹押し倒して胸触るとかありえなくないですか?」
「ぐはっ!……高坂の野郎、うらやま……けしからん!」

あれも嬉しかったんだ……。ま、トーゼンだけどね。あたしの胸触って嬉しくないはずないし?
ホント男ってしょーもない生き物だよね。

「他には?」
「……じゃあ桐乃ちゃんも見たって言ってた、ほっぺにちゅーしてもらった事……。」

……やっぱきたか……。

「…………それは……してません……。」
「あっ、そうなんだ~。あれは最高だったよ!桐乃ちゃんもしてあげればきっと高坂も喜ぶと思うよ。」

ぐぬぬ……。なにそのドヤ顔……。

「で、できるワケないじゃないですか!……なんであたしが……。」
「高坂、最近ずっと元気ないんだよね。俺達『どっちの妹が世界一可愛いか勝負』したんだけど、
俺に負けたのが悔しかったんだと思うんだ。」

は?負けてないつーの。そもそもどっちが可愛いかでしょ?そんなのやる前からあたしの勝ちに決まってるし。

「俺、高坂が心配でしょうがないんだ!毎日高坂のことで頭がいっぱいなんだよ!
……だから……ほっぺにちゅーしてあげてくれないかな?引き分けになっても構わないからさ……。」

……なんか雲行きが怪しくなってきたな……。やっぱホモなんだ……。
……………………。
ほっぺにちゅー……か。
……………………。
無理!ムリムリムリ!!

「絶っ対しません!!……だってあんなヤツ……す…好きじゃ……ない……し……。」
「…………………じゃあさ……俺が……しても……いいかな?」
「へ?」
「本当は俺、高坂と付き合ってるんだ。」
「な、な、な、なに言ってんですか!?そんなワケない!
だって……あいつ……『あたしに彼氏できるまで彼女作らない』って言ったもん!」
「『彼女は』でしょ?彼氏作らないとは言ってないじゃない?」

ま、マジで!?ウソ!?そういう意味なの!?……そんなの―――

「ダメ!!!!やだ……やだ……やだよぅ…………。
京介を取らないで…………。うっ…うぅ……ぅぅ…………。
もっと優しくするから……、もうわがままとか言わないから……。素直になるから…………。
だから……だから…京介を…返…して…………。」

あたしは涙が溢れて止まらなかった。
もうあんな思いはしたくない。

「ご、ごめんね……。まさか泣いちゃうとは思わなかったんだ……。
だけど、高坂がうらやましいよ。そこまで想われてるなんてさ。
……やっぱり……桐乃ちゃんはそのままでいいと思うよ。高坂もさ、桐乃ちゃんの気持ち、きっと分かってる。」
「……でも……、二人は……付き合ってるんですよね……?」
「ごめん……あれ嘘なんだ……。瀬菜ちゃんに何て言われたか分からないけど、常識で考えたら……ないよね。」
「本当に……本当ですか?」
「もちろん!だって俺、瀬菜ちゃんが生まれた時からずっと瀬菜ちゃん一筋だからさ!」



せなちーのお兄さんと別れ、なんだか得体の知れない疲労感というか敗北感に襲われながら家路を辿る。
うー……さむっ。さすがに夕方になると冷え込むね。
まだ5時過ぎだというのに空は紅く染まっていた。

…………ほっぺにちゅー……か……。
してあげても……いいかな……?
な~んて考えながら歩いていたら、家の門の前でウロウロする怪しいシスコンの姿が見えた。

「あんた、なにやってんの?」
「おお!待ってたぜ!」

ま、待ってたって?ま、まさかここでちゅーしろとか?無理無理無理無理!!
こんな近所の人が見てるかもしれない場所で出来るワケないじゃん!?

「親父とおふくろが今日帰り遅い事忘れてて、鍵持って出なかったんだ。」

なんだ。そゆこと。

「マヌケ。」
「うっせ。」
「で、どれくらい待ってたワケ?」
「んー、30分位か?」
「さ…30分って……、今日結構寒いのに風邪でも引いたらどうすんの!?」
「お?心配してくれんのか?」
「な!ば、バカじゃん!?あたしを待ってて風邪引いたとか、
あたし関係ないのにあたしのせいみたいじゃんって思っただけだっつーの。」
「へいへい。それより早く中入ろうぜ。寒くてかなわねーよ。」
「なにその態度?誰のおかげで家に入れると思ってんの?」
「桐乃様のおかげです!!」
「わかればよろしい。」

あたしは鍵を開け中に入る。続けて京介が入り、扉が閉まると京介に背中を向けたままこう言った。

「…………んとさ、こういう時は連絡くらいしなさいよね。
あたしだってあやせとかと出かけてたりしてたら、もっと遅くなる可能性だってあったワケだし……。」

うん。そう。優しくするって言っちゃったし、このくらい普通だよね?

「……桐乃……。なんかおまえ今日優しいな。どうしたんだ?」
「べっつに~。てゆーかあたしが優しくしちゃおかしいワケ?」
「あ、いや、おかしくねーよ。……なんつーか……ありがとな。」
「……うん……。」
「……………………。」
「……………………。」

や…やだ、なに?この雰囲気?やめてよもうっ!
シスコン極めたこいつの前でこんな空気かもしだしたら襲われかねないし!
ま、まだ心の準備が…………。

「…………桐乃。」

うぎゃー!!キタ!!どうしよう、ドウシヨウ……。

「……………………。」
「……………………。」

…………あれ?なにもしてこないな……。てゆーか……なんか背筋に悪寒が……。
あたしは恐る恐る後ろを振り返ると―――。

「……………………。」

やっぱり!またその目!?いい加減にしてよ!!

「だ~か~ら!し・ま・せ・ん!」

ハッキリ断言してやると京介は、この世の終わりを見た様な顔をしてガックリと肩を落とした。
つーか、ガッカリしすぎ!しないかんねっていつも言ってんじゃん……。
何回言わせるつもりなワケ?
してほしいなら口に出して言えっつーの!
…………とは言ったものの……今日はしてあげようって決めたんだったっけ……。
………………………………しゃーない。

「……あのさ、ちょっと目、つむって。」
「はい!!」
「……………………。」

キモ……。なにその嬉しそうな元気な返事と、少し突き出された左のほっぺは……。
誰もせなちーと同じ事してあげるなんて言ってないし……。
……なんかムカつく……。

ビシッ!

あたしはその固く閉じられたまぶたの少し上のおでこに、おもいっきりデコピンをかましてやった。

「イテっ!!なにしやがる!!」
「あんた、なに期待しちゃってるワケ?ほっぺにちゅーするとでも思った?」
「……だって……よ……。だ、だからってデコピンすることねーだろ!赤くなったらどーすんだ!」
「どれどれ……、あ、少し赤くなってるカモ。ちょっと見してみ?」

京介は涙目になったその顔をあたしに見せる。
すかさずあたしはもう一度デコピンの構えを目の前に突き付けた。
超ビビって目を閉じ、怯む京介。

……あたしはその唇に―――。

えいっ!

「……ん……っ。」

……1……2……はいっ、終わり!
…………あ~あ、顔真っ赤で口パクパクしちゃって、おまえは金魚かっつーの。
こんなアホ面いつまでも見てられないんで、シスコン金魚を玄関に残し、
あたしは階段を駆け上がり部屋へ戻った。



……えっと……勘違いして貰っちゃ困るんで一応言っておくケド、
これは……いわゆる……その……キ、キ…スなんかじゃ無いんだかんね!
日本には3秒ルールってのがあって、3秒以内ならセーフだし?
それに、あたしのファーストキスは、あい……手の方からして貰うって決まってんの!
でもまぁこれで京介も、せなちーのお兄さんには勝ったっしょ?
あんなバカ兄貴でも、あたし絡みでの勝負に負けるなんて、まるで自分がせなちーに負けたみたいで気分悪いしね。



「ふーっ。」

ボフッ

「……………………。」

あたしはベッドに倒れ込む。
そして勝利の余韻で熱くなった顔を枕にうずめた。

~終~




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最終更新:2012年01月01日 07:38